東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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Vivid BAD SQUAD編はこれにて一旦終了です。


第12話

「さっきも言ったけど、そもそもなんで4人で構成されているこのセカイにいられるのか、見当ついてる?」

 

コーヒーを飲んでいる初音ミクに横目でそう問いかけられた私は、思わず黙ってしまう。

 

頭によぎったことがないと言えば嘘になるが、そのことについて深く考えたことはなかった。

そもそもセカイと言うものが私からしてみれば不思議現象だ。その不思議現象のルールなんて知ったこっちゃないし、比較対象は私のセカイだけだ。

 

改めて考えてみると、確かに違和感は感じる。

 

横でコーヒーを飲んでいる初音ミクの言う通り、このセカイは4人の想いで出来ている。

『Untitled』が4人の想いによって変化を見せることから、そのことは確定事項だ。

だが、そこに異物でしかない私が入りこめている理由。

 

「...多分だけど、1つだけ」

 

「ん?」

 

頭に浮かぶのは、私のセカイの空。

全部で20個浮かんでいるその星たちは、彰人や杏たちの変化に合わせて輝きも変わっていた。

今見に行ったら、それはもうピカピカ輝いているだろう。

 

「私のセカイに、星が浮かんでる。彰人たち4人に変化があれば、星にも変化が出た。多分そういうことなんだと思う。それと関係してそう」

 

「大体正解、かな」

 

久しぶりに長文を喋った私の予想は的外れではない様で、ひとまず安心だ。

労力が無駄にならなかったことが嬉しい。

 

私の予想がそう遠くなかったことが嬉しかったのか、初音ミクは笑顔を浮かべて私の方を向いた。

 

「キミが特異点と呼ばれている理由も、そこにある」

 

「...気になってた単語」

 

このセカイに杏たちと初めて来たときも出てきた単語、『特異点』。

私がこのセカイに入り込める理由も、そこに集約していそうだ。

 

...あぁ、何となく理解したかもしれない。

今思い出したが、目の前の初音ミクに行ってこいと命令されていたような気がする。

初音ミクたちが望んでいる正しい未来に、私が関わることで軌道修正している、というのは少しぶっ飛んだ予想だろうか。

 

「まぁ、そのうちわかるよ。キミはこれからもセカイを飛び歩くんだから」

 

「えぇ...」

 

それはあれだろうか。

この杏たち4人で構成されたセカイと、私自身のセカイ。その他にも何個かセカイがあって、それにも関与しなければならないということだろうか。

まぁ星の数からこれで終わりじゃないことは察してはいたけれど、こうして改めて言われると来るものがあるなぁ。

 

家で寝ていたい。

 

「いつか、キミの想いが歌になった時。聞かせてね」

 

「...気が向いたら」

 

雰囲気的に話はこれで終わりだというのを感じ取った私は、スマホを取り出して楽曲を止めた。

視界が白く染まっていく。

その中で、初音ミクの顔がどこか不安げな、自身の子どもを初めてのお使いにでも出すときの表情をしていたのが、気になった。

 

...なんだその顔。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

「あれっ、戻ってきてたんだ」

 

目を開けてみると、そこは杏の店の中で、既に片づけを終えていたところだった。

どうやら私はたまたまおろしてあった椅子に座っているようだ。

 

声のする方を向いてみると、モップをかけている杏が驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「随分遅かったね。なんの話してたの?」

 

「ん...世間話」

 

「へぇ~。意外と世間知らずなのかな、ミクたちって」

 

咄嗟に嘘を吐いたが、杏は疑うこともせずにそのまま信じてしまった。

もしかしたらこの話がこはねに通って、女子2人で初音ミクたちに世間一般の常識を教えに行くかもしれないけど、私は悪くない。

 

と、責任転嫁をしている私の横に椅子を並べて、杏が座った。

 

「実はさ、ちょっと考えてることがあって」

 

「?」

 

「私たち『Vivids』と、『BAD DOGS』。向いてる方向は一緒だし、あのセカイで一緒に歌った時、今までにないくらいすっごい気持ちよかった。だから、4人で組んでイベントに出たいなって、思うんだけど...どうかな?」

 

なるほど。

それを私に聞かれても、と思うものの、逆にその4人の中に入っていなくて、なおかつある程度事情を知っている人間に聞くのも仕方の無いことだとも思う。

 

まぁ、答えは一つだ。

 

「いいと思う」

 

「ほんと!? だよね、私もそう思ってた! 早速明日3人にも提案してみよっ!」

 

少し昔に、『4人で歌うかも』なんて予想していたが、まさか現実になるとは。

私予言師の才能があるんじゃないだろうか。

 

最早明日が待ちきれない、と言わんばかりの杏は、その勢いのまま私を抱きしめてぐるぐる回りだした。

 

「よ~しっ、気合入ってきた~!」

 

「うぁ、なにを、きあい?」

 

「そ! 別にイベントが近いわけでもないけど、テンション上がってきた!」

 

「やめ、やめて」

 

周りを見ても客がいないのは、まぁ恥にならずにすんだが、それはそれとして私の三半規管が悲鳴を上げている。

早くこの回転を止めてくれ。

 

と、回る視界の中、男の声が置くから響いてきた。

 

「何やってんだ、こんな夜遅くに」

 

「父さん! 今日、私の友達泊めるから!」

 

「はっ?」

 

は?

 

「今日は徹夜で話し合おう! チーム名も決めないと!」

 

「私の意志...」

 

ようやく回転が収まったかと思うと、杏は私のスマホを取り出して、私の顔でロックを解除。

そのまま彰人へと電話をかけ始めた。

 

「あ、もしもし? 瀬名、今日私の家に泊めるから! じゃ!」

 

『あ? おいちょっと待て、絵名の相手は誰がすんd』

 

あぁ、切られた。

 

私の意志をフル無視して進めていく杏は、用事が済んだのか私のスマホを返してきた。

 

「はい、ありがと!」

 

「...うん」

 

ありがとうも何も、勝手に使ったと思うのは私だけだろうか。

というか、お父さんこと謙さんは許可するだろうか。

 

一縷の望みをかけて謙さんの方を向くと、まるで仕方ないな、とでも言わんばかりに後頭部をかいて苦笑いをした。

 

「仕方ない。悪いんだけど、杏に付き合ってやってくれ」

 

「くぇ」

 

「コーヒーかジュースなら出すからさ」

 

「いくらでも付き合う」

 

仕方がない。今日はもう腹をくくって、杏に付き合うとしよう。

私が家に帰るとしても、この元気いっぱいの杏を何とかしなければ帰れないだろう。

 

「じゃあ、一緒に片付けしながら考えよっか!」

 

「...うん」

 

早速肉体労働ですか...。

 

結局私は、この日はしたくもない肉体労働をしながら、杏と会話もするという、頭も体も疲れるという夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

翌日。

持ち前の運動能力の高さのおかげなのか、筋肉痛にはならずにすんだ私は、店の中で彰人と冬弥に、杏と一緒にセカイについて説明をしていた。

とはいえ、答えられることは少ない。あのセカイは4人の想いで出来たものだ、とか。

私は特例で、理由は不明、だとか。

 

「そういや、絵名から電話来てなかったか? すっげぇ朝ピリピリしてたんだが...」

 

「...うるさいから電源消した」

 

「その場しのぎなだけじゃねぇか、それ...」

 

店に来た時の彰人の顔はすごい疲れた顔だったが、たぶんスマホの電源をつけていたら、私の顔もそんな感じだっただろう。

 

と、そこにこはねが合流した。

 

「こんにちは! あ、青柳くん、東雲くん、瀬名ちゃん! 4人で話してたの?」

 

「ああ。...あのセカイという場所がなんなのか、白石に聞いていた。とても興味深い話だったな」

 

「『想い』なんてもんがあんな場所になるなんてな。実際に見てもまだ信じられねぇよ」

 

「あるものはあるんだから、信じるしかないでしょ?」

 

未だに信じられないというような事を言う彰人だが、ただ口に出しているだけだろう。

顔はどこかにやついている。大方、誰にも邪魔されない練習場所が確保できたとか思ってるんだろう。

 

そんな中で、杏が声を張り上げた。

 

「ところで、なんだけどさ。ちょっといいアイディアがあるんだけど、3人とも聞いてくれる?」

 

「なあに?」

 

「私たち、4人で組んでイベントやらない?」

 

既に私と計画していた通りに、みんなに提案する杏。

こはねと冬弥は驚いていたものの、彰人は驚いた様子はなかった。

 

「セカイで一緒にやった時、悔しいけど、すごく楽しかったんだ。それに、最高にいい音出せたなって思うの!」

 

4人とも目指す想いは同じみたいだし、と続けた杏は、自信満々の表情で彰人を見ていた。

 

「すごくいいと思う! 私も、東雲くんと青柳くんと一緒にやりたい!あわよくば瀬名ちゃんも...

 

喜色満面で杏に賛同するこはね。

だが、小さく何かを呟いたのまでは聞こえなかった。

何を言ったんだろう。

 

杏の視線を真正面から返している彰人。

隣にいる冬弥から、どうする、と問いかけられて、にやりと口を歪めた。

 

「あの時、俺もそう思った。...俺たちが組めば、敵なしだな」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

杏も彰人が同じような事を考えていることが既に分かっていたのだろう、予想通りと言ったような顔で頷いた。

 

これで4人のチームが完成か。

なんだかすごい時間がかかったような、あっという間だったような...そんな気分だ。

 

「じゃあ早速、私たちの名前を決めようよ!」

 

これについては、私たち2人で睡眠時間に支障が出るほどに考え抜いたものがある。

まぁ、最初に出した案が強すぎて、ただ雑談をしているだけになったのだが。

 

「『Vivids』はビビッドストリートからとってきたから、そっちのとくっつけて『Vivid BAD』ってどう?」

 

そう杏が提案すると、彰人が難色を示した。

 

「さすがにまんますぎじゃねぇか...?」

 

「えー! そういうんならアイディア出してよね! 私たちの考えた時間が無駄になっちゃうじゃない、ねー瀬名」

 

「私に振らないで」

 

「2人で考えたのかよ...くそ、なんかあるか...?」

 

確かにまんま過ぎるかもしれないが、既に疲労困憊の私にはあれぐらいしか考えられるものはなかったんだ。

それ以上のものを求めるのは昨日の私に酷だろう。

 

杏に自分で案を出せと言われ、うーんうーんと唸りだした彰人を置いといて、冬弥が挙手して案を出した。

 

「せっかくみんなでやるのなら、『Crew』や『TEAM』をつけるのはいいかもしれない」

 

おぉ、難しい単語を出すものだな、冬弥も。

『TEAM』は簡単だが、『Crew』は日常的には出てこないだろう。

所謂、客を除いた船の中の、全乗組員だとか、そういう船仲間を示すのに使われる単語だ。

 

まぁ、ただ単に仲間として使われる場合もある単語でもあるが、この場でパッと出せるのは相当頭のいい証拠だ。

 

私? 隠れてスマホで検索している。

そんな頭のいい単語は進んで覚えないと身につかないだろう。教科書にも載っていないし。

 

その冬弥の提案に、杏も乗っていく。

 

「あ、確かにそれはいいかも! え~と、まだ4人だから『Forth』とか?」

 

「ああ、それもいいな。あとは...」

 

誰も『まだ』という部分に突っ込まないまま、冬弥が他の単語を出そうとしている中で、こはねが手をあげた。

 

「『SQUAD』はどうかな? 確か、団とか小隊って意味と、それから...」

 

「『イカした連中』って意味もあるな」

 

こはねの続きを先程まで唸っていた彰人が繋げていく。

もう考えるのはやめたのだろうか。

 

「『Vivid BAD SQUAD』か。いい名前だ」

 

「さすがはこはね! 私の頼れるパートナー♪」

 

「た、頼れるなんて...私はいつも頼ってばっかりだよ」

 

冬弥が頷き、杏がこはねに抱き着いて褒める。

こうして頼れると褒められるのは慣れていないのか、赤面してもじもじしている。

こはねのような小動物感あふれるかわいい女の子がそうしていると、破壊力抜群だな。

 

「でも、私もみんなに頼ってもらえるよう、もっともっとがんばるね!!」

 

そう言って決意をあらわにし、胸の前で拳を握るこはね。

その姿に感動したのか、杏がまた強く抱き着いた。

 

「...こはね~!! いつでも私に頼っていいんだからね! 大好き!」

 

「わわっ、苦しいよ、杏ちゃん...」

 

これが百合か。

 

「はぁ...。のんきな連中だな」

 

「だが、素直に気持ちを伝えあうのはいいことだ」

 

後ろを振り向けば、呆れた顔をした彰人と、純粋な笑顔を見せている冬弥がいた。

冬弥の言うことは、きっと冬弥が一番理解しているだろう。

 

そうしてワイワイしていると、奥から謙さんが顔を出した。

 

「まったく、この街の連中は昔っから変わらねぇな」

 

昨晩は大変お世話になりました。

 

「気にすんな、店のことも手伝ってもらったしな。...お前らは、歌って、ケンカして、また歌って...ま、そうやって仲間になっていくんだよな。俺たちは」

 

そう謙さんは笑い、再び店の中へと戻っていった。

 

「期待してるぜ?」

 

それだけ言い残して。

 

謙さんにそう言われテンションが上がったのか、杏と彰人が座っていた椅子から立ち上がった。

 

「よし、早速練習しようぜ」

 

「場所はセカイでいいの?」

 

溢れる気持ちを抑えられないとばかりに話し合う2人と、それを微笑ましく眺めつつ、参加する2人。

何はともあれ、これでようやくある程度のことは丸く収まっただろうか。

 

目を閉じてため息を吐き出し、目を開くと、私の視界には4人が話し合う光景ではなく、いつもの私の家のリビングが映っていた。

 

「...?」

 

この一瞬でここまで場面が転換するのは、夢でも見ていないとおかしい。

そう思い自分の身を見下ろすと、制服を着ていた。

 

「そろそろ家出ないと遅刻すんじゃねーのか」

 

「...ありがと」

 

「おう、気にすんな」

 

後ろからかけられた声に振り向きながらそう答えると、声の主、彰人は薄く微笑んで玄関へと向かっていった。

 

1つのセカイの想いが形になった今、再び新たなセカイが動き出そうとしていた。




次回から25時、ナイトコードで。編に入ります。


やっと一区切りついたあああああ
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