番外編で彰人の誕生日編を書こうと思いましたがやめました。
ついに、一言も会話が無く銀髪少女の家へとついてしまった私たち。
私としてはただ手伝っただけだから、それが終われば私の目的を果たすつもりだったのだが、物を運んだ礼をしたい、との事で、家へとあがることに。
「お邪魔します」
「どうぞ。...ちょっとちらかってるけど気にしないで」
「...ちょっと?」
玄関はまだ普通だ。
ただ、そこから彼女の部屋と思わしき部屋に入ると、ゴミが散らかっていた。
いや、まだ踏み場はある。
汚部屋とまではいかないが、それでも散らかっている。
「...定期的に誰か掃除しに来てる?」
「うん。望月さんって人が来てくれてる」
積み上げられている本。床に散らばっている紙。
どれを見ても、音楽関係のものばかり。それも作曲のもの。
試しに一冊手に取って読んでみたが、小難しいことばかり書いてあってちょっと頭が痛い。
出てくる単語も理解できないし。
「曲、作ってるの?」
「うん。お父さんが作曲家で。...そうだ、折角だし、まだ作ってる途中だけど、聞いてもらえないかな? お礼はするから」
「わかった」
私が承諾すると、銀髪少女は安心したように頷いてPCの前の椅子に座った。
PC付近にはキーボードやらなにやら機材が沢山あり、そのあたりだけ異様にきれいだ。
...そういえば、まだ自己紹介をしていなかった。
「私、東雲瀬名」
「あ、そういえばまだ名前言ってなかったっけ。宵埼奏。...じゃあ、このヘッドホンを付けて。合図してくれたら流すから」
奏から手渡された銀色のヘッドホンを装着し、奏にアイコンタクトを送る。
それを見た奏はうなずき、エンターキーを押した。
曲が流れ始める。
まだ簡素な音だ。基本のメロディーだけができていて、肉付けされていない、と言うべきか。
ただ、それでも多少は伝わるものがある。
「...とりあえず、ここまでなんだけど。...どう、かな」
「いいと思う」
忌々しいのは私のこの口か。
長文を喋ると疲れるからこの口調になったが、今では感想を述べるのに邪魔すぎる。
...少し頑張ろうか。
「まだ骨しかないから分からないことも多いけど、それでも奏が誰かの事を考えて曲を作ってるのが分かった。...多分この後はこんな感じ? ~♪」
「....!!」
とりあえず思ったことをそのまま言おうか。
それと、曲が終わった後にでも、私の頭の中を流れているこのメロディーも鼻歌で表現する。
一通り私の鼻歌が終わると、突然奏が私の肩を掴んだ。
「曲作りに、興味ある?」
「え」
「実は、私たち...あ、曲は4人で作ってるんだけど、それらの進行を管理できる人がいたらいいのかなって思ってたんだ。瀬名は曲作りにかなり詳しそうだし、やってくれたら...もちろんお礼はする。曲を公開した後に発生する金銭は瀬名にも渡す」
「う、うん?」
「ほんと? よかった。じゃあ、このアプリをインストールして。そのあと私のアカウントとフレンドになって、グループに招待するから」
しまった。
お腹が空きすぎて奏の言うことをあまり理解せずに相槌を打っていたし、しかもその相槌が了承と取られてしまった。
事態を把握しよう。
私は奏から新曲を作成中だと言われ、それを聞いた。
その感想を述べていたら、一緒に曲を作らないかと誘われた。
相槌を打っていたらそれが了承したと思われ、アプリやらなにやら説明を受けている。←いまここ
ええい。全ては空腹のせいではないか。
とはいえ、決まってしまったものはしょうがない。
元はと言えば私が話を聞いてなかったのが悪いんだ。引き受けた以上はそれなりに頑張るとしよう。
まぁ、今更撤回するのもめんどくさいというのもあるのだが。
「他のメンバーには私から説明しておくから。全員集まるのは基本的には25時からだけど、他の時間もボイスチャンネルは使ってても大丈夫。...瀬名は、25時って大丈夫?」
おお、奏ってこんなに喋る人だったんだな。
まぁ、話を聞いてる限り奏がリーダーっぽいし、喋れないとそれなりに不便か。
「大丈夫。寝落ちするかもしれないけど」
「あはは...まぁ、寝落ちは他の人もするから大丈夫。他には...まぁ、説明は後でしようか。とりあえず、荷物を持ってきてもらったお礼をするね」
そういって奏が取り出したのは、先ほど私が持ってきていた袋の中のカップ麺。
「お昼にしよっか」
「...うん」
まじですか。
〈♪〉
3分たった後にずるずると麺をすする私たち。
その最中も私は説明を受けていた。
「基本的に私が作曲を担当してて、後の3人がそれぞれ作詞、イラスト、MVの作成をしてる。瀬名には基本的に、それぞれの進行度合いを見てもらいつつ、必要に応じて私の家に来て作曲を手伝ってもらいたいんだけど...どうかな?」
「大丈夫」
なるほど、奏を含めて今まで4人で活動していたようだ。
加入した後の私の仕事は、それぞれの進行度の把握と、たまに奏の家に来て作曲の手伝い。
...うーむ、改めて考えるとめんどくさいかもしれない。
いや、私は一度口にしたことは曲げない主義。
言ったことはやり遂げる。...たまに曲げることもあるけれど。
というか、今だに説明を受けていないのだが、グループ名は何なのだろうか。
「あ、そうだ。まだグループ名言ってなかったね。『25時、ナイトコードで。』っていうグループなんだけど、聞いたことないかな」
「...ある」
おお、タイムリーなことで。
ちょうど今日、すれ違った女子2人組がその話をしていたのを聞いたばかりだ。
曲自体を私が聞いたことがあるわけじゃないけど。
「そっか。それならちょうどよかった。私たちが作ってる曲の方向性は基本的にはあんな感じだから、それを参考にしてもらえたら嬉しい」
「わかった」
...家に帰ったら曲を聴いて、ある程度まとめなければ。
おかしい。どんどんやることが増えていく。
これが働くということなのだろうか。
いやだなぁ、社会人。
絵名か彰人に養ってもらえないかな。家事はやるから。
「...ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。...説明はこんな所かな。何か聞きたいこととか、ある?」
「その時に聞く。今はない」
「そっか、わかった。今日はこの後はどうする? 私は作曲の続きをするつもりだけど、一緒に見てても大丈夫だし、やることがあるなら帰っても大丈夫だけど」
「...せっかくだし、ちょっと見てから帰る」
奏の提案に、折角だからと私は奏の作曲風景を見てから帰ることに。
カップ麺をゴミ袋に入れた後、1秒でも時間を無駄にしたくないとでも言うかのようにすぐさまマウスを握りしめて作曲に取り掛かる奏。
途中途中でキーボードを使い、メロディーを作成していく。
その様子を、私はちらちらと見ながら部屋の掃除をしていた。
「これは...こっち。これはこっち」
掃除と言っても、本をカテゴリーごとに分けているだけ。
ただこれだけでも、この後の掃除が楽になるのだ。
そうしていること約1時間。
奏に背を向けていると、何やら異常に部屋が明るくなったことに気が付いた。
「...?」
「ミク?」
振り返ってみれば、そこには白髪でオッドアイの謎の美少女が、PCのモニターにドアップで映っていた。
というか、今奏がミクって言ったか。
「...来て」
モニターのミク(?)がそれだけ言うと、奏がスマホを片手に私の手を掴んだ。
何をしようとしているのかを聞く間もなく、私の視界は白く染まっていった。
どうやら今回のセカイを見つけたようだ。