眩しさで閉じた目を開けると、そこは少し異質なセカイの中だった。
周りにあるものは、地面にぶっ刺さってる鉄骨ぐらいで、その他には何もない。
セカイの色は大体灰色に統一されている。...ビビバスのセカイとは比べ物にならないぐらい異質だ。
「なに、ここ」
「私もここに来たのはつい最近で...ただ、ミクが瀬名の方を見て、ここに来てほしいって言ってたから、来ただけなんだけど」
「...」
とりあえず私は、セカイを初めて見たかのように演技する。
こんな光景、落ち着き払っていたら疑われそうだ。
いや、奏は曲作り以外はあんまり注意力なさそうだし、大丈夫そうではあるが。
「いらっしゃい...」
「あ、ミク」
「...お邪魔します」
いつの間にかそばに来ていた白色の初音ミクを見て、私は会釈する。
すると、それを見た初音ミクは不思議そうに首をかしげて、私のマネをして頭を下げた。
「...それで、私に何か用?」
「特異点。お願い」
「...また、それ」
流石に2回目ならすぐに察せることが出来る。
これが何回目なのかはわからないが、私はこの『25時、ナイトコードで。』というグループを正しい方向に導かなければいけないのだろう。
何が正しいのかは分からないが...まぁ、なるようになるだろう。
というか、セーブ機能が欲しいのだが。
同じ過ちを繰り返さない保証がどこにもないのだが。
「...何の話?」
「こっちの話。それにもう終わった」
一瞬で置いてけぼりにされた奏が私の方を見て首をかしげるが、話せることはない。
私の事情を話しても、とは思うが、それをすると何となくダメな気がする。
このダメな予感を大事にしなければいけない気がするのだ。
「じゃあ、また」
「うん」
なんだか庇護欲を駆られる初音ミクに別れを告げ、私と奏はセカイから出た。
〈♪〉
あのセカイでのやり取りはひとまず置いといた私たちは、今日は一旦解散と言うことで玄関先で奏に別れを告げ、岐路についていた。
その最中で、奏から言われたことを思い出していた。
『もし時間があったら、OWNっていう人...調べてみて。その人も曲を作ってるんだけど、なんていうか...とにかく、聴いてみて。感想を聞きたいとかじゃないから』
OWN。
聞いたことのないアーティストだ。
だが、奏がわざわざ口に出すぐらいだ、これからの活動のことを考えるのならば、聴いていた方がいいということなのだろう。
早速とばかりにスマホにイヤホンをつなぎ、動画投稿サイトで名前を検索し、1番上に出てきた動画を再生する。
「...これは、何というか」
ひたすらに冷たい。
こうして聴いていると、あんまり聴きたくないと思うような曲だ。
この曲を一言で表現するとしたら、他人への拒絶が激しい曲というか。
「ついこの前投稿されてる」
投稿日はまだ新しい。
昔のアーティストではなく、まだ活動しているアーティストのようだ。
曲を停止し、スマホをポケットにしまい込む。
明日は流石に登校しなければいけない。
流石にテストは受ける。馬鹿だとは思われたくないのだ。
目的地までワープできる特殊能力とか欲しいなぁと思いつつ、私は家へと歩いていく。
歩くこと数十分。
ようやく家へとたどり着いた私は、静かに玄関を開けて靴を脱ぐ。
太陽が沈んで久しく思えるほどに夜遅いのだ。絵名は帰ってきているようだが部屋にこもっているからさほど警戒しなくてもいい。
だが問題は彰人だ。
彰人がこの時間に家にいるかどうかは、その日のイベントの有無に左右される。
「靴...ない!」
これで警戒すべきことはなくなった。
私は意気揚々と部屋へと向かい、部屋着に着替える。
身長が伸びない割には、ちょっとずつ胸は大きくなっている。
そのせいでたまに服が着れなくなるということになるのだが...まだこの服は着れそうだ。
基本的に私の服を買うのは彰人か絵名なのだが、『胸がきついから服買ってきて』と彰人に言った時のあの微妙な表情が面白い。
あと女物の服を見ている時に知り合いに見られた時が1番面白い。
まぁ今回は彰人にかまけている暇はなさそうなので、それを見て楽しむことはなさそうだが。
棚からカップ麺を1つ取り出し、給湯器のスイッチを入れる。
私の部屋には常にある程度のカップ麺とミネラルウォーターが常備されている。
停電になっても...給湯器は電気で動いてるな...。
「いただきます」
ぽけーっとカップ麺が出来るのを待ち、出来次第すぐに口に運ぶ。
普段はちゃんとした夜ご飯を食べるが...今日は良いだろう。
たまに夜ご飯を食べに下に降りない日もあるし、絵名も不思議には思わないはず。
呑気に麺を啜っていると、扉がノックされた。
「瀬名ー、今日パスタだけど食べないの~?」
「そうだった」
私は食べかけのカップ麺に蓋をして、すぐに扉を開ける。
扉を開けて出てきた私を笑顔で迎えた絵名だが、すぐに眉を寄せて私の肩を掴んだ。
「瀬名...もしかして、カップ麺食べてた?」
「タベテナイ」
「瀬名が食べたいって言ったからパスタ用意したのに、カップ麺食べたんだ?」
そうだった。
絵名が作ったパスタを食べてみたいと思って軽い気持ちでお願いしたのを忘れていた。
こればっかりは私が10割悪いので、すぐに謝る。
「ごめんなさい」
「...もう。お腹いっぱいになっちゃった?」
「大丈夫、食べられる」
「そう。...次から気をつけなさいよね」
素直に謝ると、絵名は私の頭を一撫でしてリビングへと向かった。
絵名は相変わらず優しい。
大抵何かをやらかすのは私なのだが...まぁその度に素直に謝れば許してくれる。
だからと言って調子に乗っているというわけではない。
なんというか...罪悪感がすごいのだ。
「パスタ...楽しみ」
リビングへと向かうと、既に絵名が用意していて、椅子に座っていた。
「あ、来た。さ、食べちゃお。私この後用事あるからあんまりのんびりしてらんないのよね」
「用事?」
椅子に座って箸を取ると、絵名がどこか恍惚とした顔でそう言う。
なんだその顔は。なんというか、恋をしているような...。
「そ。ちょっとね~」
それだけ言うと、絵名はパスタを食べながら「ちょっと塩が足りないかな」とか呟きながらパスタを食べていった。
私もパスタを食べるとしよう。
「いただきます」
今回絵名に頼み込んで作ってもらったのは、鮭とほうれん草のパスタ。
鮭...というか、魚全般が好みな私だが、中でも鮭が好きだ。
どこがどう好きなのかと言われると難しいが...回転寿司に行けば必ず最初に食べるのはサーモン。それぐらい好きだ。
適当に具材を絡ませながら、麺を口に入れる。
うん、美味しい。絵名は塩が足りないなんて言ってたけど、別に気にならないぐらいだ。
というか、これ以上入れたらしょっぱくなってしまう気がするのだが。
美味しくて普段の2倍ぐらいのスピードで食べ終わった私は、少し絵名と雑談をした後、部屋へと戻ってきていた。
スマホを見ると、ポコポコと通知が鳴っている。
「誰から...奏?」
スマホのロックを解除して通知欄を見ると、奏からのメッセージが来ていた。
『K:今日瀬名の事を紹介したいんだけど、大丈夫かな?』
奏とのやり取りをしているアプリはナイトコードと言い、そのアプリで25時に集まることからグループ名が決まったらしい。
なんとも安直だが、分かりやすくて私は好きだ。
いや、今はそんなことはどうでもよくて。
今日参加してくれないかっていう話があったばかりなのに、もうメンバーに話がいってるのか。
行動力の化身みたいだな、奏は。
『瀬名:大丈夫』
集まるのは25時から...とはいえ、その前にいる人はいると予想できる。
今のうちに自己紹介を考えよう...と思っていると、再び奏からメッセージが来た。
『K:よかった。言い忘れてたけど、ハンドルネームにしておいてね』
ハンドルネーム。
なるほど、私の名前をそのまま入れていたが、それだとよくないのか。
何がどうよくないのかはいまいちピンとこないが、まぁ奏はこのアプリを扱う上での先輩だ。従っておくにこしたことはないだろう。
しかし、何がいいだろう。
奏は、Kというネームはどう決めたんだろう。
『瀬名:どうやってKにしたの』
『K:私は、イニシャルで』
イニシャルか。考えるのめんどくさいからそれで行こう。
東雲にしろ、瀬名にしろ、Sになるから、私のハンドルネームはSで。
『S:決まった』
『K:うん。じゃあ時間になったら招待するから』
ああ、そういうタイプか。
なら招待されるのは25時過ぎになりそうだな。
それまで何をしていようか...少し音楽の勉強でもしようか。
ネットでもそれなりの知名度を有する彼女のグループに参加することになった以上、下手なことはできない。
参加するといった以上、足手まといにはなりたくないのだ。
「『作曲 コツ』で検索...」
誰か簡単に記事とかにまとめていないだろうか。
次回、ようやくニーゴメンバーと合流。