東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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まふゆに監禁されてるせいで、ビビバスに比べて話数が少なくなりそう。


第7話

「色、もう少し明るくする?」

 

「...このままで」

 

「わかった」

 

奏たち3人を拒絶してセカイから追い出したあの日から、私はまふゆと共に楽曲制作を行っていた。

 

3人の前で宣言した通り私と曲を作ると言い出したまふゆから、急ピッチで技術を叩き込まれている。

文字通り曲作りのきの字も知らない私なのだが、今ではある程度なら打ち込みで即興で作れるほどまで成長した。

絵もデジタルなら描けるし、MVに関してもイラストを置いて歌詞を表示させるだけで、あとは多少のエフェクトを付ける程度。

 

歌詞はまふゆが書いたものに私が感想を述べる程度。

元から完成されているまふゆの歌詞に私が介入する余地などなかったのだが、私が感想を述べる度に修正を入れている。何が引っかかっているのかはわからないが、まぁ力になれているのなら何よりだ。

 

というか、まふゆの教え方が上手なのか、案外すらすらと頭の中に教えられたことが入ってきて驚いている。

ネットで見るのと、こうして教え方が上手な人に教わるのとでは天と地ほどの差があることを身をもって知った。

 

楽曲制作はいたって順調。

では今度は私たちの関係性についてだ。

 

まず私がどこにいるのかというと、基本的にはまふゆの部屋にいる。

まふゆの両親が部屋に来る気配を感じたら、即座にセカイに逃げ込む、という手筈だ。

ただ1度、セカイに逃げずに、毛布の影に隠れてまふゆと母親のやり取りを見ていた時がある。

 

まぁなんというか。ひどく歪んだ考えを持っているのだなと思った。

これが、液晶の中で行われている育成ゲームなのであれば、少しは納得できたかもしれない。

 

『自分が育てている娘の周りに、馬鹿がいる。それでは娘に悪影響しかないだろう。

それだったら頭のいい子を置いて、お互いに切磋琢磨できる環境にしよう』

 

みたいな。

 

だがこれは現実だ。

ゲームの中では馬鹿から学ぶことはないかもしれないが、現実ならそうとも言えない。

学ぶこともある場合があるし、本人の成長に繋がる場面もあるだろう。

 

ただ、私がセカイに行かずに盗み聞きをしていることはまふゆにすぐにばれ、『仕方ないな』とでも言うかのようにため息を吐いてPCの画面を指した。

 

「投稿するよ」

 

「わかった」

 

まふゆのその問いかけに私が頷くと、すぐさまエンターキーが押され、モニターにはアップロードが開始されたことが分かる画面になっていた。

 

ようやく終わったと思い、私はベッドに座る。

結局、スマホに絵名や彰人からの連絡は来なかったなと、画面を点ける。

通知は何もない。

2人とも一言も連絡をくれないというのは...少し、来るものがある。

 

もしかしたら、絵名は私のことを諦めたのかもしれない。

まふゆにあれだけ言われて、セカイから強制的に出されて。

彰人も、奔放な私に嫌気がさして見放したのかも。

 

ついに私はそこまで堕ちてしまったのか...。

謝ったら許してくれないかなぁ。

 

私がそんなことを考えていると、正面からまふゆが私に抱き着いてきた。

 

「わ」

 

「...」

 

私はそのまま後ろに倒れ、まふゆに乗られたまま、まふゆの頭を撫でる。

 

最近はいつもこうだ。

作業が終われば、ベッドに私を座らせて、そのまま抱き着いて眠る。

セカイにこもって眠るを繰り返していた序盤に比べて、こうして現実のベッドで眠るというのは若干健康に見えるような...そうでもないかもしれない。

 

寝る体制に入ったまふゆの頭を撫でながら、ここ最近で分かったことを思い浮かべる。

 

まずはセカイについて。

 

今まで私は、ビビバスの時もそうだったのだが、誰かによってセカイに入り込んでいた。

私が自分の意志で、1人で入ったセカイは私自身のセカイだけ。だから、私は1人では別のセカイには入ることはできないと思い込んでいた。

 

ただそれだとおかしな点がある。

出るのは私1人でもしていた。セカイに入った後、私の『Untitled』は再生されていたのだ。

ビビバスの初音ミクによれば、セカイは想いで出来ているという。

であればと、あの灰色で何もないセカイを思い浮かべながら再生してみると、私の予想通りに別のセカイへと入ることに成功した。

 

ちなみに、これはビビバスのセカイでも同様だった。

たまたま入った先に初音ミクがいて、意味深な笑みを浮かべてこちらを見てくるだけで、何もせずに私はセカイから出てきたわけだけど。

 

セカイについて分かったことはこのぐらいだろうか。

 

次に、まふゆ自身について。

 

どうやらまふゆは味を感じないらしい。

それがつい最近の事ではないのは本人の口から語られた。一体何が理由なのかは、聞いたら私のお腹に顔をうずめて黙ってしまったので分からずじまいだが。

 

ただ、生まれた時から感じないわけではないようで、私の予想では精神に異常をきたして、味覚に異変が起きているのだと思う。

それこそ、両親とのこととか。

 

まふゆと毎日を過ごしていく中で、少しずつまふゆの事を知ることができている。

それは喜ばしい事なのだが、聞けば聞くほど、過去に戻れたらと思う。

だが私の能力は私の意志に関係なく行使されるものだし、記憶も保持できない。困ったものだ。

 

ネットでOWNと検索し、上げたばかりの曲を再生する。

何度もまふゆと一緒に聞いた曲だ。曲を聴いても、どんな風に作っただとか、その時の風景ばかりが出てきて曲に身が入らない。

コメント欄を除くと、既に何件もコメントが来ていた。

 

『なんだかいつものOWNとちょっと違う。けど進化したみたいな感じですごくいい』

 

『すごい心に刺さる』

 

『違う人の視点を取り入れたみたいな感じがする。似てる人なんだろうけど』

 

すごい人がいたもんだ。探偵にでもなれるんじゃないか。

 

とはいえ、似てるもの仕方ないだろう。

私の作曲の根幹はまふゆなのだから。

 

再生していたアプリを終了し、スマホを横に投げ捨てる。

明日からは何をするのだろうか。期待もなければ不安もない。

妙な感覚とともに、私は目を閉じた。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

「今日は何の話をしてるんだろう」

 

まふゆの部屋に母親が来るのを察知した私は、まふゆにアイコンタクトを飛ばしてセカイへと移動していた。

今日もまた、『友達は選びなさい』だろうか。

 

ここ最近は曲作りに曲作りを重ねているような、とんでもなく忙しい日日々だった。

1日で2曲を同時進行で作って、半分ぐらいの進行度まで進める、とか。

正直頭がパンクしそうだった。でもそれでも何も言わなかったのは、作ってるまふゆの顔が今まで以上に沈んだもので。

 

...結局私にできたことは、まふゆの負担を少しでも減らすことだけだった。

 

「瀬名」

 

「...うん、また来た」

 

私がセカイに来ると必ず、初音ミクが嬉しそうに駆け寄ってくる。

表情に変化はほとんどないが、それでもわかる。尻尾でもついていたら、ブンブンと振っていることだろう。

 

ふと思うのだが、私のセカイの初音ミクと、このセカイの初音ミクを会せたらどうなるのだろう。

私のセカイの初音ミクが、こっちのセカイの初音ミクを振り回しそうだろうか。

 

そんなことをぼーっと考えていると、初音ミクが歌を歌いだした。

それはまふゆがいない時、私と2人でいるときによく歌っている曲だ。聞いたことはない。けれど、優しい曲。

 

初音ミクは歌いながら歩いていく。

その歌をもう少し聞いていたくて、私はその背中を追いかけて歩いた。

 

すると視線の先に、青いジャージを着た人が寝転がっているのが目に入った。

 

「奏」

 

「...ミク。瀬名も。...えななん、絵名が、何度も電話してるのに、コールすら鳴らないって言ってたけど...無事だったんだね、よかった」

 

奏だ。

なんでここで寝転んでいるのだろう(現実逃避)。

確かに地面はひんやりしているような、そうでもないような、何とも言えないぐらいでちょうどいいと言う人もいるかもしれないが。

 

うん、現実を見ようか。

 

コールすら鳴らないというのは、一体どういう意味なんだろう。

もしかしたら、まふゆが私のスマホに何かしたかもしれない。

というか、その線しかないだろう。私が絵名や彰人をブロックすることなど絶対にないのだし。

 

「また、来たんだね。あの子を見つけに来てくれたの?」

 

「それは...」

 

「...そう」

 

初音ミクが若干の期待を乗せて奏に問いかけると、奏は気まずそうに眼をそらした。

別の理由でここに来たことを察した初音ミクが漏らした声は、悲しいというよりかは、寂しそうだった。

 

「なんで、私の曲を知ってるの...?」

 

「今歌っていた歌のこと? この歌は、最初からこのセカイにあって、私は知っていた。私はそれを歌っていただけ」

 

「...私の曲が、最初からこのセカイに?」

 

「そう。最初から。でも...これは、奏が作った曲だったんだね」

 

初音ミクが歌っていた曲。何度も聞く機会はあったが、ただその曲だけをループして歌っていた。

この、まふゆのセカイに最初からあって、初音ミクが歌っている理由。

理由は、きっと1つだけだ。

 

「あの子の想いでできたこのセカイは、何もなくて真っ白。それでも、この曲だけはあった。だから、奏の作った曲は...あの子の想いに届いていたんじゃないかな」

 

初音ミクがそう奏へ優しく告げるも、奏は頭を振って否定する。

 

でも、と。

私の曲では足りていなくて、届いても意味がなかったのだ、と。

 

「奏も、あの子と同じくらい苦しいんだね。...同じだから、なのかな」

 

「え?」

 

初音ミクは、奏から視線を外して、何もない場所を見る。

このセカイには、本当に何もない。

 

「この何もないセカイに奏の曲があるのは、あの子と同じ気持ちがあるからなのかもしれない」

 

「...だから、届いた?」

 

「うん、瀬名の言う通りだと思う」

 

つい口に出してしまったが、その通りだと初音ミクは頷いた。

 

「足りてなくても、ただ1つ。...届いてたんじゃないかな」

 

「...ミク」

 

「私は、あの子に、本当の想いを見つけてほしい。あの子は本当の自分を見つけたくて、ずっと曲を作ってた。苦しくても、泣きながらもがいて、作り続けてた。あの子の本当の想いは、消えたいなんてものじゃない」

 

きっと、私と曲を作るのも、その延長線上なのだろう。

『特異点』である私を感覚で察知して、私と作れば何か見つかるかもしれないとあがいている途中。

でも、私が見つけてあげられるわけじゃない。せいぜいが、心の安定を保つ程度のことだけ。

まるでアニマルセラピー。にゃー。

 

「だから、あの子を見つけてあげて。それができるのは、奏と瀬名だけだから」

 

「私の...私の曲は、雪を救えるの?」

 

「わからない。でも___あの子を見つけてあげられるとしたら。それはきっと2人の曲しかない」

 

だから、奏には頑張ってもらって...ん、ちょっと待って?

なんか聞き逃したような気がする。あれ、このセカイってログとかないのかな。

 

「曲、しか。...もし、そうなら...。...作らなくちゃ。私は、あの子を救えるような曲を、今度こそ」

 

胸の前で手を握りしめ、覚悟の決まった顔で、顔を上げて私を見た。

 

「私がやることは、ただのエゴ。そんなエゴで他人を振り回すのはいけないかもしれない。それでも、私は瀬名の力を借りたい」

 

「...わかった」

 

「...ありがとう。そうだ、ミクと瀬名って、なんだか似てるよね」

 

じゃあ、私は曲を作らなくちゃいけないから、と言い残して、奏はセカイから消えて行った。

 

今度は成り行きじゃない。私の意思で、奏の手助けをすることを決めた。

私があーだこーだ言う必要はない。私が手を貸すのはきっと、生活面になるだろう。

奏のあの様子だと、目標に突き進む中で、自分の体を顧みないで無理やり進んでいくような気がする。

それをサポートしていこう。

適切な曲作りの環境を、私が作っていく。

 

...というか、似てるだろうか。私たち。

 

「...似てる?」

 

「...そうなら、嬉しい」

 

思わず初音ミクに聞いてみたが、初音ミクは首をかしげながら嬉しそうにするという、若干高技術なことを見せるだけだ。

 

...まぁ似てる似てないはどうでもいい。

 

ひとまず、私はこのまふゆの傍にずっといる状態を何とかしないといけないだろう。

奏がアクションを起こしてくれるまで、我慢の時だ。

 

我慢の...いや、すぐにでも手伝える、かもしれない。

 

「ねぇ、私がセカイから出る場所。奏の部屋にできる?」

 

「多分」

 

「じゃあ...行ってくる」

 

「行ってらっしゃい。...がんばって」

 

奏の部屋は行ったことがある。入る先のセカイを私の想像で変更できるなら、出る先も、関係している場所なら私の想像で出られるだろう。

 

私は曲の再生を止めて、スマホを強く握りしめた。

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