今年も瀬名ちゃんをよろしくです。
※この話は本編とは関係ありません。
ループしていない、ただの日常会です。
えー。
新年、あけまして、おめでとう。
今年もよろしく。
よし、と息を吐いた私は、先ほどまで一生懸命文字を打っていたスマホをベッドの上に投げ捨てた。
時刻は昼すぎ。
若干お腹が減り始めた時間帯に起きた私は、ナイトコードで来ていたメッセージを全て無視して、私からのあけおめメッセージを送っていた。
寝巻から手早く着替えて、リビングに顔を出す。
「あら、瀬名おはよう。何か食べる?」
リビングにのっそりと入ると、そこには寝ぼけ眼でご飯を食べている絵名と、甲斐甲斐しく世話をしているお母さんがいた。
非情にゆっくりと、もそもそと口を動かしながらご飯を食べている絵名は非常に小動物じみているし、普段はそういうのは叱っているお母さんも、ニコニコしている。
年始だし、優しいのだろう。
「余ってるのなら」
「余ってるなんて、瀬名用に準備してたんだから」
そういって台所へと歩いていくお母さんを見送って、絵名の正面の椅子に座る。
絵名は未だに頭を縦にこくりこくりさせながら、意識があるのか微妙な速度でスプーンを口に運んでいる。
絵名が食べているのは卵のおかゆだ。
量はそんなにないが、絵名のこのスピードだと食べ終わるのに30分はかかりそうだ。
そのままじっと見つめていると、開いているのか閉じているのか微妙なところだった絵名の瞼が、突然カッ、と開いた。
「あら、瀬名。おはよう...もうおそようね」
「...うん」
絵名のその起きる起きないのギミックには触れない方がいいかもしれない。
「はい、熱いから気を付けて食べるのよ」
お母さんが私の前に置いた、絵名と同じ卵のおかゆを食べて、そういえばと思い出す。
「彰人は?」
「なんか、挨拶に行ってくるとか言ってたけど」
すっかり起きた絵名に聞いてみると、彰人は外出とのこと。
メンバーに挨拶に行って、練習もしているのだろうな、と思いながらスプーンを口に運んだ。
比較的ゆっくりおかゆを食べ終わった後、自室へとは戻らずに、私は絵名の部屋に来ていた。
「さて。それじゃあ始めましょうか」
そういって、絵名は私の手をつなぎながらPCを操作した。
開くのはとある音楽ファイル。
私は今から、セカイに半ば強引に連れていかれます。
〈♪〉
眩しい光が収まると、既に私たち以外は集合しているようだった。
「あ、来た来た!あけおめ~」
「はいはい。昨日も集まったけど、今日は何するの?」
やけにテンションの高い瑞希に、奏がそう問いかけ、その後ろでまふゆが...あれ、さっきまで奏の後ろに立っていたはずなのだが。
「瀬名」
「わ」
「!? あ、あんたさっきまであそこに立って...!?」
まふゆの姿を探していると、私の後ろからまふゆの声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、確かにそこにはまふゆの姿が。瞬間移動でも習得したのだろうか。
「行こう」
「うん」
まぁいいか、と不可思議現象を理解するのを諦めると、まふゆが私の手を掴んで歩きだした。
私が首を縦に振ろうが横に振ろうが関係なさそうな行動だが、まふゆが自分で何かをするのも珍しい。
まふゆも新年ということで、テンションが上がっているのだろうか。
瑞希と奏のところまで合流すると、瑞希は何やら大量の荷物を持ってきているようだった。
簡易型の着替え室もある。
「ボクが今日みんなを集めたのは、他でもない、振袖を着てもらいたかったからなんだよ!」
既にテンションが高かった瑞希のテンションさらに上がり、手に持っているひらひらしている服を振り回している。
それを見た奏は、へぇ、と言いながら私と隣のまふゆを交互に見始めた。
「ねぇ、2人でお揃いコーデとか、しない?」
「...奏も一緒なら」
「私も? ...いいけど」
どうやらそこに私の意思が入り込む余地はないようです。
まぁ、着せ替え人形になるのは慣れているからまだいいのだが。
ため息を1つ吐き出して、設置されている簡易型着替え室を見ると、中から初音ミクが出てきた。
頬が若干赤く染まっている彼女が身に着けているのは、いつもの灰色の服ではなく、ミニスカサンタだった。
「...ちょっと遅いと思うけど」
「でも、瑞希がこれ、って」
なら悪いのは瑞希だろう。
瑞希をちらりと見てみると、楽しそうに奏に服を当てては次の服を当てている。
絵名はまふゆを見て、何やら唸っているようだ。
「く...顔もスタイルも...はぁ、これでいいんじゃない?」
「絵名、雑」
「だって何合わせてもあいそうなんだからしょうがないでしょ!」
逆切れだ。
まぁまふゆの方は絵名が何とかするだろう。
しばらく初音ミクと雑談をしていると、絵名と瑞希が軽い喧嘩を始めた。
「だーかーら、瀬名にはこの真っ白コーデが合うに決まってるでしょ!」
「瀬名が白いから服も白で染めようって、ちょっと安直すぎるんじゃない? だからこそ、ここはあえて紫と灰色を入れる! まふゆの色も奏も色も入ってるし、ボクたちも満足でしょ」
「2人を入れるなら私も入れなさいよ!」
くだらない話をしている間に、初音ミクと一緒に座っている場所にまふゆと奏も合流した。
「2人は何してたの?」
「今はただ話してただけ」
「瀬名が、絵名の弟にじゃーまんすーぷれっくすを決めた話をしてた」
「してないけど」
思わず初音ミクの方を向くと、彼女は私から顔を背けていた。
確信犯である。
いつの間にそんなユーモア性を身に着けたのか、とそのまま初音ミクを眺めていると、突然私のお腹に手が回って、上に持ち上げられたと思ったら何かの上に乗せられた。
「瀬名、あったかい」
「...私体温高めだから」
まふゆだった。
お腹に腕を回して、首に顔をうずめるまふゆ。
こそばゆいからやめてほしいのだが...言ってやめるようならこういうことになってはいない。
人間諦めが肝心だ。
まふゆの頭を撫でながら絵名と瑞希の言い合いを眺めていると、空いている左手をにぎにぎされる感覚。
「...確かに、あったかいね」
「...奏」
〈♪〉
「お待たせ~! いや~、やけにつっかかってきてさ~」
「あんたが邪道に手を出そうとするからで...って、なに、これ」
ふと気が付いた時には、私を中心にして寝転がって、全員寝ているところだった。
絵名と瑞希が近くに来て話をしているから起きたが、そのままだったら夜どころか次の日まで寝ていたかもしれない。
とはいえ、目が覚めたのだから、起きないと2人がかわいそうだ。
体を起こそう、としたところで、私は身動きができないことに気が付いた。
私の胴体はまふゆに抱き着かれながら横になっており、右手は初音ミクに、左手は奏に取られている。
どういう状況なんだこれは。
「...まぁ、昨日も夜遅くまで話してたし、今日ぐらいはいいか」
「おや~? えなな~ん、今日は優しいんだねぇ~」
「今日『は』って何よ。いつも優しいでしょ」
「え~?」
...何やらこのまま寝かせてくれるらしいので、私は目を閉じてもうひと眠りすることにした。
その時、まふゆの腕の力が少しだけ緩んだ気がするので、恐らくまふゆは最初から起きていて、絵名と瑞希の話を聞いていたのだろう。
こうしてまふゆが自分の欲望を表に出すようになっただけ、進歩だと自分を納得させて、眠りについた。