東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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今回から新章です。


第3章 MORE MORE JUMP!編
第1話


朝だ。

 

窓の外から小鳥のさえずりを聞きながら目が覚めた私は、スマホで時刻を確認して、アラームが鳴る5分前に起きたことを理解する。

 

ここで『あと5分だけ』と思いながらベッドの上で寝ようものなら、そのまま何分も寝てしまい、遅刻寸前に起きるという流れがお約束だ。

 

なので私は起きる。

暖かい毛布の温もりから断固たる意志で抜け出し、今日を始めるのだ。

 

「おい瀬名、起きろ。マジで遅刻するぞ」

 

「...あい」

 

部屋にいないはずの彰人の声が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には私はベッドの上で寝ていて、彰人が私の体を揺らしていた。

 

...どうやら先ほどまでのは夢だったらしい。

 

「よし、二度寝すんなよ...手首、ケガしたのか?」

 

「ん?」

 

彰人に言われて手首を見れば、左手首に赤い線が横に何本も走っていた。

寝ている時にひっかいただろうか。

 

「寝ぼけてたかも」

 

「ったく、残らねぇようにしろよ」

 

彰人はそれだけ言うと、私の部屋から出て扉を閉めていった。

 

...こうして改めて傷を見ていると、爪でひっかいた際に出来る、腫れるという現象が無い。

既にこの傷自体は完治しており、跡が残ってしまったのだろう。

このような状態になるのはリスカ...略さずいえばリストカットと呼ばれているものをしたとしか思えないが、ここ最近そんなことをした記憶はない。

 

昨日もニーゴでオフ会をしたばかりで、ようやくひと段落したところなのだが。

 

「...隠さなきゃ」

 

寝間着を脱いで中学の制服に着替えた私は、絵名からかわいいからと言われて渡されたリストバンドをつけた。

多少不自然に思われるかもしれないが...仕方ない。

最近暑くなってきたとでも嘘を吐いて乗り切るしかないだろう。

 

白色に水色の線が入ったリストバンドをつけた瞬間、机の上に置いてあったスマホから、鏡音リンが映し出された。

 

「...リン?」

 

「...今回はヒントを出そうと思って」

 

そういうリンはどこか眠そうだ。

もしかしたら初音ミクに夜中遊びに付き合わされたのかもしれない。

 

瞼をこすっているリンは、ふにゃふにゃした声で私の方を見て言う。

 

「今までは兄と姉だったから自然に気付いたけど、今回は違う。出会いやすいように流れてはいるけど、すぐにはわからない。だから私が教えてあげる」

 

「...それは助かる、けど」

 

リンにそう言われ、助かると思いながらカレンダーを見る。

日付が巻き戻っている。

それほど戻っていないにしても、過去に戻ってきているのだ。

 

ここからわかるのはただ1つ。

 

ニーゴは本当にひと段落した。

今日から、新しいセカイを持つ人と関わらなければいけない。

 

「...うぅ。また初対面」

 

しかも今度は身内がいないという、取っ掛かりの無い完全初対面。

そのことに気が付いた私は、テンションを落としていった。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

スマホのカレンダーを見ると、どうやら今日は登校しなければならない日のようだった。

何に使うのかは聞いていないので知らないが、全校生徒1人1人写真を撮っているらしく、そろそろ私の写真を撮らせてくれ、との事なので、今日行く予定になっていた。

 

私が不登校なのを彰人にも絵名にも黙っている私は、彰人に遅刻するからと強制的に家から出されたが、ゆっくりと学校へと向かっていた。

どうせ写真を撮るだけだしと、ゆっくりどころか遠回りをしている。

買いたいものがあるのだ。

 

普段は必要なものがあれば神山通りで事足りるのだが、今回私が求めているものはたまたま無かった。

あるだろう、ここでは扱っていないが、隣の町なら置いてある、みたいな。

店員に扱っている場所を探してもらったところ、宮益坂に出している店にあるとの事。

 

少し遠いが、必要経費かと思い私は歩いている。

 

「イヤホン~イヤホン~」

 

今回私が求めているのは、青いイヤホン。

普段私がお気に入りのイヤホンが断線してしまい、同じタイプのものを求めてここまで来た。

ただ懸念点は、同じタイプの物はもうキャラクター仕様のものしかないらしく。

調べてみたところ、ペンギンが布団で寝ているという、よくわからない絵が描かれているものだった。

 

まぁ露骨にペンギンなのはイヤホンを入れるケースだけか、と思った私は店員に取り置きをしてもらったのだ。

偉いぞ私。

 

まだこの時間軸では出されていないだろう、ニーゴで私も携わっていた曲を鼻歌で歌いながらルンルン気分で歩いていると、突然前から明るい茶髪の女子に吹っ飛ばされた。

 

「ぐは」

 

「あ、ごごごごごめんなさい! ケガ、大丈夫ですか!?」

 

その場に仰向けに倒れた私を、オレンジのヘアピンを付けた少女が抱き起こした。

まさか約160cmの、身長差約10cm程度の少女に一方的に突き飛ばされるとは思わなかった。

私の体重が軽すぎるのだろうか。

 

「大丈夫。どこも痛くない」

 

「ほ、本当? あ、貴女もこれから学校? 急がないと遅刻しちゃうから、お互い頑張って走ろうね! じゃあ!」

 

そう言うと、ヘアピン少女は走っていった。

あの制服には見覚えがある。進学先をどうするかという学校のイベントで、進学先から代表生徒を招待して学校を紹介してもらおう、ということがあったときに見たことがある。

 

確か、共学の神高とは違い、あそこは女子高だった気がするが。

 

私だったら遅刻しそうなら、もう諦めてゆっくり歩くが、あの子は良い子なのだろう。

あんなに頑張って走るのは私には無理だ。多分死んでしまう。

 

スマホをポケットに入れていたので、倒れた衝撃で画面が割れていないかを確認しようとすると、画面にはリンが映し出されていた。

 

「今の子」

 

「...ヘアピンの子?」

 

「そう。頑張ってね」

 

リンはそれを最後に姿を消し、スマホは元のホーム画面へと戻った。

 

これは困ったことになった。

 

次のセカイの持ち主は、恐らく宮益坂女子学園の高校生で、見ず知らずの人。

これまでは学校関係なしに、彰人なり絵名なり、身内が関係していたからそう深く考えていなかったけど、こういうことになると非常に困った。

 

宮益坂に知り合いなんていない。

いっそこそこそ隠れて侵入...いや、待てよ。

 

「確か、知り合いがいたはず」

 

何年か前に絵名経由で知り合いになり、連絡先を交換してちょいちょい会ったりしている。

 

『瀬名:ちょっとお願いがあるんだけど』

 

ひとまずメッセージを送信...もう既読になった。

もう始業の時間だろうと、スマホの電源をオフにしている可能性を考えてメッセージにしたのだが、この早さで反応するなら通話でもよかったかもしれない。

 

『愛莉:瀬名から連絡してくるなんて珍しいわね。どうかしたの?』

 

確かに会話の始まりは、必ずと言っていいほど愛莉から話題が振られることの方が多い。

愛莉から話を始めなければ、この個人チャットの履歴は短いものになっていただろう。

 

『瀬名:愛莉の学校、宮益坂にちょっと入りたい』

 

『愛莉:見学ってこと?』

 

『瀬名:誰にもばれずに』

 

『愛莉:なんでばれずに入る必要があるのよ...まぁうちにも他校に放課後行ってるっていう子がいるらしいし...放課後でいいかしら。校門前で待ってるわ』

 

『瀬名:てんきゅー』

 

何とか愛莉に入れてもらうようにお願いすることが出来た。

他校に遊びに行っているらしい先人に感謝である。いなければ愛莉に怒られ、私が勝手に入ろうとしているのを警戒して見つかるかもしれない所だった。

 

危うく犯罪者...いや、愛莉に入れてもらっても犯罪者か?

 

実際どうなんだろう、とうんうん唸っていると、いつの間にか目的の店へとたどり着いていた。

 

「あの、取り置きをお願いしていた東雲です」

 

「いらっしゃいませ! ペンギンのイヤホンですよね、ありがとうございます!」

 

お値段1万6千円。ひゃー、高い。

これはお父さんにお小遣いを追加でもらわなければ。

 

財布から諭吉たちと1人ずつさよならした私は、早速箱から出してイヤホンをつける。

未使用ゆえにまだ固いが、それも味だ。

 

後は、学校に行って用事を果たせば、宮益坂女子学園の放課後まで待機するだけだ。

 

...それにしても。

 

「このペンギン、何かのキャラクター...?」

 

 




グレ1は誤差。
だから実質AP...。

「フレー」追加来ましたね。
あの曲大好きです。
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