今の所詐欺継続中です。
遥とみのりと別れた私は、家へとたどり着くと同時に部屋にこもり、ノートPCでアイドルの動画を検索しだした。
アイドル事情など1ミリもわからないので、比較的最近に作成されている、おすすめアイドルグループ、というサイトを見る。
「...見たことない人もいるけど、見たことある人もいる」
『Cheerful*Days』のセンターこと、日野森雫。
そのサイトでは、彼女の美貌と、愛嬌の良さが紹介されていて、特にアイドルらしさを紹介しているものではなかったが、それでも数多くいるアイドルを差し置いてここに入ってくると言う事は、それなりに人気なのだろう。
と言うか、このサイトはアイドルと言うよりかはモデルとしての彼女を推しているような気もする。
そのあともサイトを読み進めていくが、残念ながら『QT』の名前は出てこなかった。
みのりの話を思い返せば、確かバラエティーによく出ていたという。
『桃井愛莉 バラエティー』で検索すると、かなりの数が出てきた。
それも色々な番組名がある。日付を見たところ、約半年前の番組を最後に動画投稿サイトにあげられていないと言うのは、みのりたちの話を聞いていたから違和感は覚えない。
さて、何故私がこうしてアイドルを調べているのかと言うと、明日から本格的にみのりのアイドル指導が始まるからだ。
私は他人からあーだこーだ言われるのがあまり好きじゃない。
だから、他人から言われる前に、アイドルとしての動きをマスターしておこうという魂胆なのだ。
手始めに雫のライブの切り抜きを再生しようとして、手が止まる。
先程見たサイトでは、彼女はどちらかと言うとモデルとしての彼女が褒められていたように感じた。
彼女には失礼だが、先に他の人の映像を見た方が、余計な癖がつかなくていいかもしれない。
どうせ後で彼女のライブ映像は見るので、お気に入り登録して、私は『桐谷遥』の映像を見始めた。
〈♪〉
この時の彼女の年齢はわからないが、彼女は自身を相手にアピールする技術を、ほぼ無意識にでも実行することが出来るほどのレベルにいると思う。
こうしてPCのモニターで見ている限りではわからないことが多いため、実際に現地に行って彼女の技術を盗みたいところだが、生憎その本人は既に引退の身。頼んだら私の前で踊ってくれるわけでもないだろう。
PCで映像を繰り返し流して、たまに映像を止めて体を動かす。
鏡の前でやるだけでは限界があるものの、1時間ほどで大体様になっただろう。
試しにスマホのカメラをこちらに向けて、音楽を再生しながら踊ってみる。
流す曲は、みのりの練習時にも流れていて、先ほど見ていたライブでも聞いていた曲。
一通り踊ったら、録画を停止し再生。
そのあと、適当に最近テレビに出たアイドルたちと見比べる。
...まだ顔が固いか。
だが大分近づいた。
それこそ、この数10人のグループの中に入っても、多少の違和感を覚える程度の所までは。
些細な所での、体全体の使い方や、表情を極めることが出来れば、おおよそマスターしたと言っても過言ではないかもしれない。
まぁさすがにこの辺りは本業の人に見てもらって判断しなければならないが...。
「瀬名、アイドルにでもなるの?」
良い感じだ、と意気込んでいると、背後から絵名がアイス片手に部屋に入ってきていた。
「...なるなら、相談してからにしなさいよ」
生温かい目で、絵名はそう言いながら部屋の扉を閉めた。
...一気に頭が冷えた。
私は何をしていたのだろうか。
「...寝る」
もはや絵名の誤解を解く気力もなかった私は、部屋の電気を消した後、そのままベッドに倒れ伏して目を閉じた。
〈♪〉
「まふゆ~? どうかしたの、何か見つけた?」
「ううん。なんでもない。それより、わからないところがあるんだっけ?」
「ここなんだけどさ~...」
「...瀬名」
〈♪〉
翌日。
「日野森先輩! 桃井先輩! 今日からよろしくお願いします!」
「よ、よろしく...」
約束通り、みのりは雫と愛莉に、アイドルとしての教えを請うために、頭を下げていた。
...なぜか、私も一緒に。
「ふふっ。よろしくね、みのりちゃん、瀬名ちゃん。力になれるよう頑張るわ」
「ストレッチは済ませてあるでしょうね?」
そういう雫と愛莉は既に運動用の服に着替えている。
私も、動きやすい服には着替えているが、さすがにみのりと一緒にアイドル授業を受けるつもりはない。
ちなみに、私の服はみのりプロデュースなので、上はみのりとおそろいのラッコシャツだ。
『どこか行きたい』がワンポイント。ださい。
でもどこか可愛い印象を受ける。これがいわゆるださかわいいか。
「はい! 教えてもらう時間は全部練習に使いたいので!」
「ふふん、いい心がけじゃない。...ところで、なんであそこで桐谷遥が本読んでるわけ?」
愛莉の視線を追って顔を動かせば、そこには何食わぬ顔でベンチに腰を下ろして、本を読んでいる遥の姿があった。
と言うか、それが許されるのであれば、私もあそこで遥のように座っていたいのだけれど。
「えっと、遥ちゃんはここが1番人が来なくて、静かだからって言ってましたけど...」
「ダンスの練習始まったら、どう考えても静かじゃないでしょ...」
呆れたように呟く愛莉だが、確かに、と私も頷く。
静かな場所を求めているのであれば、校舎の裏とか、図書室だとか、色々あるだろうに。
まぁ、図書室だと視線を感じるだろうけれど。
...あぁ、視線の事で、静かな場所としてここを選んでいるのだろうか。
そういえば、と遥から視線を外して、愛莉はみのりの方を向いた。
「あんた、自己PRと面接の対策は出来てるの? 1次審査はダンスじゃなくて、そっちでしょ?」
「は、はいっ! もちろんです!!」
そう勢いよく答えるみのりを見て、少し驚いたような表情をするも、すぐに安堵の表情を浮かべる愛莉。
アイドルになりたいと啖呵を彼女たちの前で切ったこともあってか、さすがにこのあたりのことは準備してあるのだろうと思っているのだろう。
ただ、彼女の経歴を忘れてはいけない。
「へぇ? じゃあ自己PR、ちょっとやってみせてよ」
「は、はい!! 『花里みのりですっ! 趣味は振り付けの完コピ! 特技はキャッチフレーズをつけることです!』」
「...」
愛莉の顔が真顔になった。
「『今日は自分にキャッチフレーズをつけてきましたっ! 夢が実って花になる♪ 花里みのりですっ☆ よろしくお願いします!』」
「...2点ね。100点満点中」
「ええーっ!? どうしてですか!?」
愛莉の採点に、みのりはムンクの叫びばりに両手を頬に添えて驚きをあらわにした。
だが、恐らくここにいる誰が審査員になったとしても、同じような点数をつけるだろう。
「あんたがどういう人間なのか全く伝わってこなかったわよ。自己PRだって言ったじゃない。クラス替えした後の自己紹介じゃないんだから。キャッチフレーズもよくわかんないし」
「うぅ...」
なるほど。
確かに、みのりの言ったことは自己紹介に近いかもしれない。
「自己PRは、自分の強みをもっと見せないと。私ならそうね...『バラエティに強い』とか、『どんな無茶ぶりでも応えます』とかかしら」
バラエティ番組に出ていた彼女ならではの強さを、並べていく。
自身が求められているものと、世間的な印象を理解しているということなのだろう。
それが、彼女のやりたいこととは少し違っていたとしても。
「桃井先輩、いーっぱいバラエティ出てましたもんね! 芸人さんたちとのやりとり、すっごく面白かったです!」
「...まぁ、視聴者からそう見えていたなら何よりだわ」
「私は、何が強みなんだろう?」
みのりの強みか。
まだ付き合いの浅い私でもわかる程度のものを挙げるとしたら、『頑張り屋』だろうか。
私がそう考えていると、愛莉も同じことを考えていたようだった。
「そうね。今のあんたなら...『頑張り屋』かしら。それをアピールした方がいいんじゃない?」
「『頑張り屋』...? でも、みんな頑張ってるんじゃ...」
「1人でも頑張れるって、案外誰にでもできることじゃないわ。十分あなたのアピールポイントになるわよ。オーディションに50回落ちても頑張っているところなんて、すごくいいエピソードだと思うわ」
確かに、1人でも頑張るというのは難しいことかもしれない。
今の私からは頑張るという言葉は少し遠い言葉だが、1人と言う寂しさは少しは理解しているつもりだ。
...このセカイを巡る旅にも、誰か一緒にいたらもう少し楽だっただろうか。
「た、たしかに...!」
「ま、今日はダンスの練習じゃなくて、自己PRを磨いた方がよさそうね。いい自己PRができるまで徹底的にやるわよ!」
「は、はいっ!」
そうして、みのりの自己PR磨きが始まった。
みのりの謎の感性にくろうしながら、ダメなところを指摘していく愛莉。
それをフォローするようにアドバイスをしていく雫。
まるで飴と鞭のような2人に教えられたみのりは、楽しそうな顔をしていた。
とはいえ、2人がみのりに付きっ切りということは、私が宙ぶらりんということで。
「...一緒に座る?」
「...そうしようかな」
私は本を読んでいる遥の隣に座って、みのりの練習風景を見ていた。
その間特に遥と話をしているわけでもないので、眠くなる。
うとうとしていると、隣で本を閉じる音が聞こえた。
「...眠いの?」
「...ちょっと、昨日思い出したくもないことが」
昨日。
絵名に踊っているところを目撃された私は、その精神的ダメージにより早々にベッドに直行したのだが、思ったよりもダメージが大きかったのか、眠れずにただベッドをごろごろしているだけの時間が過ぎていた。
最後に見た時間は午前4時過ぎ。
その時に『あ、セカイで練習すればよかったじゃん』と気づいて、気づいたら寝ていた。
ただ3、4時間ほどの睡眠で家を出たのだが、そのあとセカイでアイドルの研究をしていたので、眠ることができていない。
一種の深夜テンションで動いていたのだが、ここにきて限界が来たようだ。
「じゃあ、寝る?」
遥がそう言うので、遥の方を見ると、彼女は自分の膝を叩いてこちらを見ていた。
...膝枕で寝ろ、ということだろうか。
「...足、しびれない?」
「まぁ、正座してるわけじゃないし」
「...じゃあ、寝る」
この前まで国民的アイドルだった彼女の膝で寝る、ということが頭の片隅をよぎったのだが、今の私は眠気に勝てる気力を持っておらず。
「おやすみ...」
「うん。おやすみ」
私は体を横に倒して、みのりたちのやり取りを最後に瞳を閉じた。
「...妹がいたら、こんな感じなのかな」
「アッ、遥ちゃんの膝枕! 羨ましいとも思うけど、私なんかがとも思う、やっぱり見てるだけなのが1番なのかも...瀬名ちゃんもアイドルみたいにかわいいし、そういうグループだって言われたら勘違いしそう...!」
「あんたは自己PRに集中しなさい!」
「仲良しなのね~」