東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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アイドルとしての指導を受けたくないがために、アイドルとしての技術を高める女、瀬名。

間違って1個先の話を投稿してました。
作者がポンコツなせいです。


第6話

宮益坂の屋上で、かつて国民的アイドルだった少女の膝枕で寝た後。

私が目覚めたときには既にその日の練習は終わっており、後はクールダウンをする、と言う所だった。

 

結局自己PRを磨く、と言うのはほどほどの所で諦めて、体を動かす方針に入ったらしい。

 

「今度お礼する」

 

「そんなのいいのに。私もしたくてしたみたいなものだし」

 

遥に頭を下げてお礼を告げるが...まぁ、確かに私がねだったわけではないけれども、実際してもらったわけだし。

 

感想でも述べた方が良いだろうか。

 

「膝枕の感想、いる?」

 

「恥ずかしいからやめて」

 

「遥ちゃんの膝枕の感想、聞かせぐえっ」

 

「あんたはまだ途中でしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

みのりに後で感想を聞かせてほしい、と言われた後の帰り道。

今日は愛莉と雫と3人で帰っていた。

 

遥はこの後用事があるらしく、みのりは早く家に帰って練習の続きがしたいらしい。

私もさっさと家に帰って絵名の誤解を解かなければいけないのだが、まだ家にはいない上に、愛莉に用があると誘われていた。

 

今日の晩御飯は何だろうな、と考えていると、愛莉が口を開いた。

 

「ま、根性はあるみたいね、あの子。昔の雫よりはしごきがいがあるって感じ?」

 

「ふふ、研究生時代の愛莉ちゃんのこと、思い出しちゃった。とっても厳しくて...」

 

みのりの話のようだ。

確かに、みのりから根性を取ったら何が残るんだろう、と言うレベルで、彼女はとにかく『頑張る』。

まぁ、残るのは遥オタクなみのりなのだろうけれど。

 

「あんくらい、ふつーよふつー」

 

雫と言う飴がいたからなのか、ただひたすらに鞭となっていた愛莉だが、あれで普通なのだろうか。

いやまぁ、本気でアイドルを目指しているのに、甘い指導だとよくないと言うのはわかるのだけれど。

 

そこで会話は途切れ、少し歩いていると、愛莉が少し口に出しにくそうに話題を振った。

 

「...ねぇ、ところで雫。この間の話って結局......」

 

「...。..........」

 

ただ、それでも雫の口は固い。きっと、噂は大体本当の事なのだろう。

メンバーとうまくいっていない、と言うのはきっと、雫への嫉妬が原因だと思う。

どのサイトでも、『Cheerful*Days』については、他のメンバーに軽く触れただけで、基本的には雫にフォーカスが当たっている。

 

目につくサイトや、リビングで流れているテレビでも、単体で映っている回数が多いのは雫だ。

彼女自身が驕っているわけではない、と言うのは、この2日間でもわかる。

ただそれでも、人の嫉妬と言うものは向けられるものだ。

 

雫が答える気配がないことを察した愛莉は、すぐに話を切り上げて、私の手を振って立ち止まった。

 

「...はぁ。まぁ、今日は疲れたし、解散ね。また明日、学校で」

 

「...うん。それじゃあまたね。愛莉ちゃん、瀬名ちゃん」

 

それだけ言うと、雫は私たちに背を向けて歩いて行った。

 

今更なのだが、こうして変装もせずに歩いているのは大丈夫なのだろうか。

 

雫の背中を見送った愛莉は、若干寂しそうな顔をして、私の方を向いた。

 

「...少し歩きたいんだけど、どうかしら」

 

私は街中の時計を見て、まだ時間があることを確認しているような動作を見せて首を縦に振った。

別に愛莉のお願いを断るつもりはないのだが、こうして時間に余裕があるように見せることで、愛莉も気を遣わずに私を連れまわすことが出来るだろう。

 

「ん、じゃあ行きましょうか」

 

そういって愛莉と歩き出した直後、すれ違った知らない2人が、後ろで私たちを見て驚いた声を出した。

いや、正しくは私たち、と言うよりかは愛莉を見て、だが。

 

「ねえ、あれって愛莉じゃない? 桃井愛莉!」

 

「愛莉って、よくバラエティに出てた?」

 

「そ、バラエティタレントの...あれ、アイドルだっけ」

 

それ以上は聞きたくない、と言ったような顔で、愛莉は歩くスピードを早めて私の手を引いた。

 

そのまま愛莉に引っ張られるようにしてたどり着いた場所は、名も知らぬ公園。

まだ少し明るいとはいえ、既に公園で遊んでいるような人影はなかった。

 

適当なベンチに腰を下ろして、愛莉はため息を吐きだした。

 

「ごめんなさいね。あなたをここまで連れてきちゃうつもりはなかったんだけど」

 

「気にしないで」

 

感覚的には、愛莉も身内だ。

昔絵名と何かがあって仲良くなった、と言う事はわかるが、別にそのことを知りたいわけじゃない。

ただ、東雲宅に遊びに来るときは、絵名が楽しそうに笑ってくれるから、愛莉の事は出来るだけ助けてあげたい。

だから身内みたいなもの。

 

「私、何がしたかったのかしらね」

 

とことこと歩いてきた猫を見て、撫でたそうに手を上げた後固まり、所在なげに手をさまよわせた後、隣に座っている私の頭を撫で始めた。

 

私は猫ではないが。

 

「...帰りましょうか。久しぶりに絵名の顔も見たいし。最近会ってなかったのよね。忙しいみたいで」

 

そうして私たちは、東雲宅へと向かい、玄関先でちょうど絵名と会い、3人で軽く世間話をした後解散した。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

それから数日間、雫は仕事の都合で来れなかったりする中、愛莉が毎日のように付き合ってくれることにより、みのりの自己PRは劇的に改善されていた。

そして今日は、愛莉と数日ぶりに参加した雫の前で自己PRの最終審査だ。

 

それを、私は今日も運動しやすい服に着替えてはいるものの、遥と一緒に座って見ていた。

 

「...いいわね。自己PRもバッチリまとまってきたじゃない!」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

愛莉に褒められ、笑顔を見せるみのり。

愛莉と一緒に頭を悩ませてPR文を考えていたのがもう昔のようだ。

 

「そういえば、書類審査用の写真は撮れた?」

 

「あ、はい! えっと、こんな感じなんですけど....」

 

雫に聞かれ、みのりはカバンの中からファイルを取り出して、1枚の写真を抜き取った。

 

それを見た愛莉は、少し意外そうに片眉を上げてほほ笑んだ。

 

「あら、ナチュラルでいい感じじゃない。写真はこれでいいと思うわ。でも、実物の方を磨くことも忘れないよーに! 写真と違いますね~、なんて、マイナスな方で言われたくないでしょ?」

 

「た、確かに...! ...でも、他の子たちはみんなかわいいんだろうなあ。写真も、実物も...」

 

そう言いながら、みのりは不安そうに手を胸の前で合わせて俯いた。

どうしてこう、夢に向かって何度落とされようとも諦めずに挑戦する意思があるのに、自信は持てないのだろうか。

それは『普通』の事なのかもしれないけど、私からすれば理解できない。

 

みのりは俯いたまま、人差し指と人差し指をつんつんと合わせながら体育座りを始めた。

 

どんどん暗くなっていくな。誰か止めてあげないのか。

 

「...日野森先輩みたいにキレイだったら、こんなに不安にならなかったのかな...」

 

「...アイドルは見た目でなれるものじゃないわ。アイドルはハートが大事なの。ファンのためを思って頑張る心。それがアイドルにとって一番大切なものよ」

 

雫にそう声をかけられたみのりは、俯いていた顔を上げて、雫を見上げた。

 

「...昔、ある人に教えてもらったの。みのりちゃんはとっても素敵だから、自信を持って。ね?」

 

「...はい! ありがとうございます!」

 

こうしてアイドルとしての先輩に教えられ、それを素直に受け取ることが出来るのは、みのりの長所だろう。

 

美人な雫に『顔じゃない』と言われても、中々納得できるものでもないだろう。

特に雫に言われるのは。

 

「よ~し! 練習頑張るぞ~! お~!」

 

みのりは勢いよく立ち上がり、手を上に突き出した。

それを見た愛莉と雫は微笑みあい、1つ頷いた。

 

「それじゃあ、次のステップに行くわよ!」

 

「はい! 瀬名ちゃんも、一緒に頑張ろう!」

 

「え」

 

愛莉の言葉に頷いた後、みのりはなぜかこちらの方に駆け寄り、私の手を引いて元の場所へと戻った。

何故私もここに連れてこられたのかはわからないが、もしかして私も練習に参加するというのが継続されているのだろうか。

 

別にアイドルになりたいわけじゃないが、ここでそういうと、『なんでいるの?』となる可能性が大なので、否定しないだけだ。

どこかのタイミングで、良い感じに修正しなければならない。

まだ何も思いついてないけど。

 

「絵名に聞いたわよ。『瀬名がPC見て踊ってたから、もしかしたらなりたいもの、見つかったのかも』って。タイミング的に間違いないわね。瀬名も気合入れなさい!」

 

「...おーまい...」

 

これもう修正不可能なのではないだろうか。

 

「さ、まずは筋トレと適度なランニングからよ。基礎が大事なんだから!」

 

「ひょ、ひょえ」

 

「瀬名ちゃんそれ私のマネ!?」

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

翌日。

未だにセカイに入ることの出来ない4人なため、私もセカイを経由して宮益坂女子学園に来ることが出来ず、自分の足で向かっている途中。

 

もう私が校内に入ってくるのを日常と認識しているのか、すれ違う生徒に頭を撫でられたりするようになった頃。

ひどく聞きなれた声が私を呼び止めた。

 

「あ、そこの白い髪の人。ちょっといいかな」

 

「...」

 

振り返るまでもなく誰かわかるが、ここで振り向かないのは不自然だろう。

私は後ろを振り向くと、そこには予想通り、まふゆが立っていた。

 

「聞きたいことがあるの。少しだけ時間をくれないかな?」

 

まふゆはそれだけ言うと、私の目をまっすぐ見つめて口を閉じた。

私の返答待ちなのだろう。

 

本音を言ってしまえば、今すぐにでも屋上に向かいたい。

まだ時間に余裕があるとはいえ、遅れれば愛莉に怒られる。別にアイドルになりたいわけでもないのに。

 

仕方なしに、私は首を縦に振った。

 

「ありがとう。ちょうど空いてる教室があるから、そこで話そう」

 

まふゆは教室の扉を開けて、奥へと進んでいく。

私もそのあとを追いかけて、扉を閉めた。

 

こうしてまふゆに話しかけられる可能性を考えなかったわけではないが、私はそれらを全てあり得ないと振り払ってきた。

私が過去の記憶を覚えていること自体が異常なのだ。ここでまふゆも覚えているとなるとなると更におかしくなる。

 

私がまふゆが話を始めてくれるのを待っていると、それを察したのかはわからないが、真顔になったまふゆが喋りだした。

 

「私、最近夢を見るの。私が入ってるサークルの中に、いるはずのないもう1人がいる夢。その子は、私がどれだけ常識のないことをしても、何も言わずに受け入れてくれる。その子の為なら、私は何でも力になれる、そう思うような、そんな子。ただ、目を覚ました世界にはその子はいなくて。でも、私の身に起きたことは夢の中とそう大差なくて。...これって、偶然かな? 夢の中に、あなたが出てくるの。偶然かな? 東雲瀬名。姉がサークルメンバーの絵名。偶然かな?」

 

「...私は、知らない」

 

まふゆの一息もつかない怒涛のマシンガントークに、私は否定する事しかできない。

ここで偶然じゃないなんて言って、まふゆに事情を説明するのは簡単だけれど、そのあとが怖い。

何が起きるのかわからないのだ。

 

私の姉や兄ですら、そのことについては覚えていないのだ。なのに、まふゆが夢を見ることでその時のことを覚えているというのは、何かとてつもないことが動いているような気がする。

 

私が首を横に振って否定したのを見ると、まふゆは数秒目を閉じた後、再び目を開いたときには笑顔になっていた。

 

「ごめんね、変なこと言って。用事があったんだよね、ありがとう、私のために時間を割いてくれて」

 

「...大丈夫。じゃあ、私は行く」

 

私は逃げるように、まふゆに背を向けて教室から出て行った。

 

早くセカイを経由して屋上へと移動したいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚かなかった、か」




まふゆこわ
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