東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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いっけなーい! もう13話なのに本編半分しか進んでなーい!


第13話

スマホの位置情報を見ながら、みのりと、それから雫も一緒に走る私たち。

 

位置情報を遥から教えてもらう際に、遥が言っていたことを私は思い出していた。

 

『きっと、見たくないものを見ることになる。アイドルだってただの人間で、劣等感や嫉妬心も持つ。桃井先輩を追いかければ、見たくもないものを見る羽目になると思う』

 

遥のその言葉は、私たち2人に向けて、と言うよりかは、どちらかと言うとみのりに向けて言っているように聞こえた。

 

みのりが純粋な想いを持っているからこその、遥の忠告。

それを、みのりはしっかりと受け止めて、笑顔を浮かべて答えた。

 

『...心配してくれてありがとう、遥ちゃん。でも、桃井先輩は大好きな先輩だから。それに、私は乗り越えなくちゃいけないから』

 

みのりがそう言うと、遥は仕方ない、と言うような顔をして息を吐いた。

 

そのあと、遥も一緒に向かう、と言うことになったのだが、『寄るところがあるから』とだけ言い、別行動中だ。

私たちが劇場につくまでには合流できるって言っていたけど、大丈夫だろうか。

 

「大丈夫、何とかなるし、何とかする」

 

劇場へと走っている私の隣で、みのりがそう呟く。

私の不安感を感じ取ったのかは定かではないが、ここまで言い切るみのりも珍しい気がする。

 

ようやく劇場へとたどり着くと、ちょうどタクシーが止まり、遥が降りてきた。

 

「遥。タクシーで来たんだ」

 

「本当は使う予定はなかったんだけど、間に合わなさそうで。...それよりも、話は通してあるから、入ろう」

 

そう言う遥に頷き、私たちは遥の後に続いて中に入ろう、としたタイミングで足が止まった。

 

後ろを振り向けば、雫が立ち止まっていた。

 

「わ、私......」

 

「日野森先輩...」

 

ここに来て怯えているような反応を見せる雫に、みのりが心配そうな表情で、歩み寄ろうとする。

確かに、誰かが支える必要があるかもしれない。

でも、それは私でもなくみのりでもないのだと、私は思う。

 

「雫、行くよ」

 

私は、雫の反応を無視して、雫の手を掴んで少し先に進んでこちらを振り返っている遥の元へと合流する。

遥はちらりと雫の方を見た後、すぐに私と視線を合わせた。

 

「目的地はすぐそこだから。少し暗いけど、ついてきて」

 

「わかった」

 

そうして、遥の背中を追いかける事数十秒。

扉の先から、愛莉の声が響いてきた。

 

「雫のことで話がしたいの!」

 

その声で、今まさに扉を開けようとしていた私の手は止まる。

このまま開けてもいいか、と遥とみのりにアイコンタクトで問いかけると、2人とも頷きが帰ってきた。

どうせ雫に聞いても、答えが返ってくることはなさそうだ。

 

私は、意を決して扉を開け放った。

 

「愛莉ちゃん...」

 

「はぁ...はぁ...」

 

「......」

 

雫とみのりは心配そうに愛莉を見ており、遥は何も見逃さないように、といった様子で、愛莉たちを見る。

そんな愛莉は、まだ私たちが来たことに気づいていなさそうだった。

 

「...そうね。私は逃げた。私は、アイドルとして活躍できないことが嫌で逃げて、そこでもアイドルとして見てもらえなくて、逃げたわ。...本当は...もっと頑張って、理想に近づかなくちゃいけなかったのに。...でも雫は違う! 雫はセンターとして頑張ってた! あんたたちと一緒に、ファンに希望を届けるために頑張ってた。だから...!」

 

愛莉は、握っている拳から血が出るほど強く力を込めて、愛莉の先にいた彼女たちにそう言う。

しかし、彼女たちの反応は冷めたもので、ため息を吐かれ、首を傾げられた。

 

「....だから、何?」

 

「.....!」

 

彼女たちの真ん中にいる1人が、ちらりと、こちらを一瞬だけ見る。

その一瞬だけこちらを見たその目は、とてつもなく暗いもので。

 

「辞めたのは雫の意志でしょ。私たちに何の関係があるの?」

 

「別に、あの子に辞めろなんて言ってないし。...それにさぁ。雫ならアイドル辞めたって、モデル事務所とかが拾ってくれるんじゃないの?」

 

「本当、見た目がいいって得だよね。こっちは必死で頑張ってるのに。『雫がいなければ』なんて言葉を聞いた時の私たちの気持ち、わかるっての?」

 

1人が胸の内をこぼせば、それに乗っかるようにして、他の2人も口を開く。

その様子を見る限り、今まで自分たちだけで雫の悪口を言い合っていただけで、こうして部外者どころか、当の本人の前の前で言うのは初めてなのだろう。

 

たまたま聞こえて来てしまった、と言うのは別とするが。

 

「....、あんたたちの気持ち、わかっちゃうのが本当にイヤ...!」

 

最早隠す必要もない、と言わんばかりの彼女たちから雫は目をそらし、対照的に愛莉は前へと一歩足を進ませた。

 

「そうよ。私もあんたたちみたいに羨ましかった! 雫は華があって、綺麗で、特別で...! 自分の方がずっと頑張ってるのに、どうしてって思っちゃうことも確かにあった。でも、それは雫が努力していたから! 自分の才能を驕らずに、期待に応えようとしていた! ...それを、あんたたちは見たの...?」

 

「...愛莉ちゃん」

 

「ごめんなさい、雫。私、最低だった。自分のことばっかりで、雫のことずっと傷つけて。雫はずっと私の言葉を信じて、みんなに希望をあげるために、ずっとずっと頑張ってたのに...」

 

愛莉と雫は仲直り出来そうだ、と思い横を見ると、みのりも同じことを考えていたのか、安心したような表情を浮かべていた。

 

しかし、雫とメンバーだった彼女たちは、今度は雫にターゲットを変えてきた。

 

「...ていうかさ、なんでまた雫がここに来るの? あんたのせいで仕事の予定もぐちゃぐちゃなのに、よく顔出せたね」

 

「愛莉に泣きついて、代わりに文句言ってもらいに来たってわけ? そういう所がむかつくんだよね」

 

「あーあ。本当、雫がいなくなってくれてよかった」

 

その3人の言葉に、ついに我慢の限界と言わんばかりに突撃しようとする愛莉。

これはいけない、と私の体が反射的に愛莉を止めようとする前に、横から鋭い声が飛んだ。

 

「桃井先輩、ダメ!!!!」

 

「!!」

 

「ダメです。桃井先輩。...桃井先輩は『アイドル』なんです。『アイドル』は、みんなに希望をあげる存在、ですから」

 

「...ええ。そうだったわね」

 

みのりの大声で愛莉の動きを止めて、そのあと静かに優しく嗜める。

先生に向いているんじゃなかろうか。

 

そして愛莉も冷静さを取り戻し、彼女たちから1歩離れて腕を組んで息を吐き出す。

 

そんなみのりと愛莉のやり取りに、彼女たちの1人がつい、と言った様子で呟いた。

 

「...はぁ? 愛莉はとっくの間にアイドルは辞めて...」

 

そんな彼女たちの呟きを、あえて無視しているのか、愛莉はこちらに振り返った。

 

「ありがとう。みのり。頭に血がのぼってたわ。アイドルは___こんなことしちゃダメよね」

 

「よ...よかったぁ」

 

ひとまず暴力沙汰は避けられた、と言う安心感で肩の力を抜くみのり。

雫と愛莉と話すみのりから離れて、私は遥の横へと移動していく。

 

「どうしたの?」

 

「ん、私があそこにいなくても大丈夫」

 

「...そう、だね。みのりなら、大丈夫」

 

そう呟く彼女の顔から読み取れるのは、憧れ、だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

かつてのメンバーたちに感謝と別れの言葉を告げた雫。

これから練習があるから、とだけ言い放たれ、私たちは邪魔にならないために劇場から出ることになった。

 

その後ほぼ無言で1度学校まで戻り、荷物を回収。

今は着替えも済ませて、帰宅しているところだ。

 

帰り道も無言で、やや気まずい空気が流れる中で、先頭を歩いている愛莉がこちらを振り返った。

 

「悪かったね、3人とも。こんなことにつき合わせちゃって」

 

眉を八の字にして申し訳なさそうに言う愛莉に、みのりは両手を振った。

 

「いえいえ、大丈夫です! それより、誰もケガしなくてよかったです!」

 

遥と私は特に何も言わないが、まぁ私はみのりと大体気持ちは一緒だ。

 

あの勢いのまま愛莉が相手の事を殴り飛ばしていた場合、あの場にいた全員の記憶を飛ばさなければいけない所だった。

どうやってかは想像にお任せするが、身の安全は保証できないということだけ。

 

私の想像が伝わったのか、隣を歩いていた遥が顔を青くして体を小さく震わせていた。

 

「...雫、ごめん、私、自分のことだけしか考えてなかった。許してなんて言えない。でも...本当にごめんなさい」

 

「...ねぇ、愛莉ちゃんに1つ、お願いしてもいい?」

 

「え?」

 

「私、愛莉ちゃんに___もう一度、アイドルをやってほしいな」

 

「え......!?」

 

「さっきね、すごく嬉しかった。私のことをちゃんと見てくれる人がいたんだって。あの一言で、私、本当にたくさんの希望をもらえたの。愛莉ちゃんは昔も今も、ずっとアイドル。辛い時、支えになる言葉をくれたのも、それに、『本当のアイドルになる夢』を教えてくれたのも...全部、愛莉ちゃんだった」

 

そういう雫の声は、深く噛み締めるような声だった。

本当に、雫の中で愛莉の存在は大きなものだったのだろう。

 

「だから愛莉ちゃんは、きっと他の人にも、もっともっと希望をあげられると思う。そんな愛莉ちゃんを、私は見てみたいの」

 

「......」

 

雫から、正面きってそう告げられた愛莉は、困ったように、それでいて嬉しそうな顔をして、声を震わせた。

 

「...ホント、雫ってずるい。そういうところ....」

 

「え、ずるい...?」

 

「雫にそんな事言われたら...断れるわけないじゃない」

 

愛莉のその言い方は、雫のお願いを聞いてくれると同じ意味だ。

それを理解した雫は、期待を乗せて愛莉の顔を見た。

 

「じゃあ...!」

 

「でも! あんたも一緒にやるのよ!」

 

「え?」

 

「さっき、『本当のアイドルになる夢』を私が教えてくれた、って言ったわよね? ...その夢があるなら、諦めないで。雫にとってのアイドルが私なら、私にとっての理想のアイドルは、雫なんだから! ずっと追いつけなくて、悔しいのに、もっとステージの上に立ってる雫を見たいの...!」

 

「....!」

 

「そんな雫が私のせいでアイドルじゃなくなったのに、自分だけアイドルに戻るなんて...できないわよ...」

 

「愛莉ちゃん。...わかった。一緒にアイドルやろう。愛莉ちゃん」

 

愛莉の誘いに、首を縦に振った雫。

これで2人でアイドルを再び目指しながらみのりを鍛えていくのか、と私がこれからの事を考えていると、雫が実は、と話し出した。

 

「本当は、私もいつか、愛莉ちゃんと一緒にアイドルをやれたらなって、ずっと思ってた。一度は諦めちゃった夢だけど...愛莉ちゃんと一緒なら、きっとまた追いかけていけると思う」

 

「...ええ! 私こそ、今度こそ絶対にあきらめたりしないわ! ....よろしくね、雫」

 

「...うん。頑張ろうね、愛莉ちゃん!」

 

かつて描いた妄想の出来事が、こうして現実になったことに感極まったのか、雫は半泣きで愛莉に抱き着いていた。

そのあまりの勢いに愛莉はよろけながらもしっかりと受け止めて、照れながらも無理やり離れようともしていなかった。

 

今度こそ何とかなった、と言うことで、私もみのりも、安堵のため息を吐いた。

 

「よかった、桃井先輩も、日野森先輩も....」

 

「私はここから武闘派アイドルになるのかとあの時思ったけど」

 

「それエンタメとかじゃなくてガチの武闘派じゃ...」

 

私たちをすっかり置いてけぼりにして話を進めている2人は、ある程度の問題がクリアされたこともあり、これからのことについて盛り上がっている最中だ。

世界で一番、だなんて、大きく出たなぁ。

まぁ、夢は大きく、とも言うか。

 

「どこの事務所に入るかとか、2人でどうやって活動するかとか、ゆくゆくは具体的な事も考えなくちゃいけないけど...まずは、練習から、かしらね。ねえ雫。明日から放課後、屋上で練習しない?」

 

その言葉に嬉しそうに反応したのは、みのりだった。

 

「え! 本当ですか!?」

 

「それはとっても素敵ね。...お邪魔じゃないかしら? みのりちゃん、瀬名ちゃん」

 

「大歓迎です! よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

まぁ、今までもみのりの指導をするために屋上で一緒に活動と言うか、一緒にいたのだし、別にあまり変わらない気もするが、そこは気の持ちようとも言うのだろう。

雫は改めてみのりに頭を下げてよろしくお願いしており、みのりは雫以上に頭を下げてこちらこそ、と反応していた。

 

そして、愛莉はこれまでずっと無口だった遥にも、声をかけた。

 

「遥。その...あんたも、たまには一緒にやらない? 正直に言うと、教えてもらいたいのよ。『ASRUN』の時から見てたけど、歌もダンスもずば抜けてたし。私、1日でも早く勘を取り戻したいから...」

 

それは、『私の為に来てくれないか』と言う、入りにくさを考慮した誘い文句なんだろう。そのことは私にも察することが出来た。

だが、遥の表情は優れない。

 

「...ごめんなさい、私はいいです」

 

その冷たさに若干涙目になる愛莉を、みのりが慌てて慰める。

若干面白い構図だ。

 

ばっさり切り捨てられた愛莉を置いといて、雫も声をかける。

 

「私からもお願いよ。遥ちゃんが教えてくれたら、きっと...」

 

「...!」

 

その雫の言葉を聞いた瞬間、遥の目が見開かれた。

そして、つい、と言った様子で遥は叫んだ。

 

「やめて!...私には、アイドルをやる資格はないの!」

 

「え...」

 

「...!!」

 

そして、今まで遥の前で遥のファンであることを公言していたみのりの言葉で、遥は我に返ったようだった。

 

先程までみのりに慰められていた愛莉も、理解できない、と言う風に首を傾げた。

 

「アイドルをやる資格がない...? それっと、どういうこと?」

 

「......いえ、深い意味はないです。ただ、言い間違えただけで」

 

「遥ちゃん?」

 

「私のことは気にしないで。...私は、今は学生として、普通の生活を送りたいの。...瀬名みたいに、そういうの抜きにして接して欲しい。...4人とも、頑張ってね。応援してる」

 

遥は、それだけ言うとさっさと歩いて行ってしまった。

 

「あ...遥ちゃん!」

 

みのりの言葉に振り向きもせず歩いていく遥。

 

遥の背中をただ見つめていた私たちは、彼女の背中が見えなくなったところで、はっとして顔を見合わせた。

 

「言い間違い...じゃ、ないわよね。あれ」

 

「遥ちゃん、何かあったのかしら...」

 

腕を組んで頭を悩ませている愛莉と雫の2人と、胸に手を当てて、悲しそうな表情で顔を伏せているみのり。

 

私には、その場でみのりにかけられるような言葉は思い浮かばなかった。

 

 




本当はリンとレンの誕生日の前に投稿するはずだったんですけどね...。

計画性の無さが露呈...前からか...。
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