ただの日常回の第X章「おーばーどーず! いち!」も出しているので、まだの方はよければそちらもどうぞ。
2日後。
次の日は真依が予定が入っているということだったので、日にちをずらして遥を呼び出していた。
特に詳しい用件は伝えておらず、私はただ遥に『話があるから、この日に話せないか』とメッセージを送っていた。
遥も、あえて私が詳しい用件を伝えないことをなんとなく察してくれたのか、細かくは聞かずに了承してくれた。
そして、約束の時間まであと5分。
「もうそろそろね。...遥、来てくれるかしら」
「瀬名ちゃんには、ちゃんと来るって言っていたのでしょう? きっと大丈夫よ」
愛莉と雫が、遥が来るかどうかの話をしている中で、私の隣に立っているみのりが難しい顔をしていた。
「...みのり、どうしたの?」
「瀬名ちゃん...。本当に、会ってもいいのかな、って。遥ちゃんがもっと苦しむことになっちゃう。でも、会わなかったら真依ちゃんが...とも思っちゃって。私に出来ることなんてないかもしれないけど、なんだか不安で...」
不安気に手を胸の前で組んでいるみのりの気持ちも、わからないわけではない。
ただ、それでも前に進まなきゃ解決しないのだ。それに、もし何かあってもみのりたちが、私がいる。
何とでもなるさ。
「みのりの不安も分かる。けど、今は前に進むべき。逃げてばかりじゃ、ずっと苦しいままだよ」
「...瀬名ちゃん」
私がみのりに向けて言った言葉を他の3人も聞いていたのだろう。
愛莉と雫はお互い目を合わせて苦笑し、真依は改めて決意した表情を浮かべて、扉を見た。
そして、その直後、扉は開く。
「お待たせ、瀬名。話って...え?」
扉を開けて私と目があった後、その隣にも誰かがいることを確認した遥は、すぐに真依の存在に気が付いた。
「遥ちゃん...」
「真依...!? どうして、真依がここに...」
他校の生徒が入ってくるのは今に始まったことじゃないけど、と呟きながら驚く遥。
多分というか、その他校の生徒とは私の事を言っているのだろう。
想像もしていなかった人物が目の前にいると言うことに頭が追い付いていないのか、驚いて固まっている遥に対して、真依は1歩踏み出して遥に近づいた。
「急に押しかけてごめんなさい。でも私、遥ちゃんにどうしても謝りたくて...」
その真依の言葉を聞いて、遥はようやく再起動したようだった。
一瞬私の方を見てから真依を見る。
ただ、真依と目を合わせないようにしている、という感じだ。
見ているようで見ていない。
「遥ちゃん、本当に、ごめんなさい...! あの日、遥ちゃんに言った事...なんであんなこと言っちゃったんだろうって、ずっと思ってた。謝らなきゃ、謝らなきゃって思ってて...でも、そしたら遥ちゃんがアイドルを辞めたって聞いて...っ!」
頭を下げて、涙を拭うことなくそう言葉を続ける真依を見て、遥は視線を逸らす。
「だから...ごめんなさい...! 謝ってももう遅いって、わかってるけど...でも...っ、私のせいで、遥ちゃんが...!」
真依の気持ちが遥に届くかどうか、と2人を見守っていると、遥が優しく声をかける。
「...顔を上げて、真依。私のほうこそ、ごめんね。ずっと謝りたかった。真依を追い詰めて苦しめたのに、何もしてあげられなくて...。それに、真依は誤解してる。私がアイドルを辞めたのは、真依のせいじゃない」
「...じゃあ、どうして」
「...ただ私が、学生として勉強してみたかった。アイドルじゃない生き方もしてみたかったの。だから...」
遥の考えてることも、何となくわかる。そう言ってしまう気持ちも。でも、私ですらその言葉は、嘘だってわかる。
そして、私より長い間一緒に活動してきた彼女に、その嘘が伝わらないわけがなく、真依は服の裾を強く握りしめて声を荒げた。
「そんなの嘘だよ!! ずっと一緒にやってきたから...遥ちゃんが本当はそんなこと思ってないって...私にだって、それくらいわかるよ...!」
「.........」
「...ごめん...なさい...」
「...本当にそれだけだよ。だから、真依が責任を感じる必要はないよ。わざわざ会いに来てくれてありがとう、真依」
「遥ちゃん...」
真依も、これ以上遥に何を言っても暖簾に腕押しだろうと察したのか、下を向いて頷くだけだった。
後ろでその様子を見守っていた私たちも顔を見あわせる。
はてさて、どうしたものか。
〈♪〉
「...だまし討ちみたいなマネして、悪かったわね」
真依が屋上から出て行ったあと。少しの間無言の状態が続いた中で、愛莉が最初にそう口を開いた。
遥も何となくその理由が分かっているようで、苦笑しながら首を横に振った。
「...いえ。先輩たちは、私が一昨日変なことを言ったから、気にかけてくれたんですよね」
「まぁ、ね。...それより遥、本当にあれでよかったの?」
「.......」
あれで、というのが何を指すのか、たった今さっき起きていたことなのだし、説明する理由もない。
ただこの場から逃げたいなら『あれとは?』ととぼけて、逃げ出すことも出来る。だが遥はそれをせずに、困ったような顔をして話し出した。
「...確かに、アイドルをやる資格がないって思ったのは、真依のことがあったからです。でも、それは真依には言いません。絶対に。...あの子には、過去を引きずり続けてほしくないので」
「遥ちゃん...」
「実際、私はもうアイドルに未練はないんです。やれるだけのことはやりましたから。それに...私が届けられるものは、もうありません」
遥は目をそらすことなく、私たちに向けてそう言い放った。
それを聞いて、私は思う。
今回のループでは、みのりたちのセカイを何とかしなくてはならない。そのためには恐らくだが、遥の存在が、アイドルとしての遥が必要不可欠だ。
遥のアイドルに未練がない、と言うのは嘘だとわかる。でも、アイドルをやる資格がない、と心から思っているのもまた、嘘じゃない。
これが私たちを、真依を思っての嘘ならどうとでもなる。
だけど、ここで私たちが遥に無理を言ってアイドルをやらせたところで、何か良い方向に向かうだろうか。
簡単に言ってしまえば、私は不安に駆られている。
これが正しいのか、否か。
そんな、尻込みしている私の隣で、手のひらから血が出るほど拳を握っている彼女が、声をあげた。
「そんなことない」
「...え?」
「届けられるものがないなんて、そんなことないよ。遥ちゃんはたくさん希望をくれた! だから私は、こうやってアイドルを目指せてる! 何度落ちても挫けないで頑張れるのは、遥ちゃんが、明日を頑張る希望をくれたからだよ! だから、何も届けられないなんて...そんなこと言わないで!」
若干息があがりながらも、そう叫んだみのりのことを、遥は眩しそうに見つめて、それでも首を横に振った。
「...ありがとう、みのり。すごく嬉しいよ。でも私はもう、本当に何も届けられないの。だって___ステージに立ちたくても、立てないから」
「....!?」
...いけない。今は呆けている場合じゃない。
みのりのおかげで正気を取り戻せた。弱気になるのは、これっきりにしなければ。
「...ステージに向かおうとするとね、もう足が動かないの。事務所に相談して、病院にも行った。でも、心の問題だから、自分自身で考え方を変えるしかないって言われて。専門家に相談してみたり、本を読んだりしたけど...やっぱり同じ」
呻きだすように呟く遥の顔は、ひどく辛そうだった。
今もその現象に苦しんでいる彼女のそれは、彼女自身の信条も相まってひどいトラウマと化しているのだろう。
「それでも、私なりに頑張ったんだけどね。もう1度ステージに立てるように、頑張って、頑張って......でも、もういいの。全部受け入れて、諦めようって、そう決めたから」
「っ...でもっ」
「みのり。頑張っても、どうにもならないこともあるんだよ」
本人の口からそう説明されても諦められないみのりだが、ダメ押しとばかりに遥がそう告げる。
それを聞いてついに、みのりは胸の前で組んでいた手を降ろして、口を閉ざした。
それを見て1つ頷いた遥は、校内へと続く扉の方へと向かいながら喋る。
「...みんな、心配してくれてありがとう。それじゃあ...」
愛莉がその背中に思わずと言った様子で手を伸ばすものの、何も言葉は出てこず、遥そのまま扉を開けて行ってしまった。
「...まだ、無理だと思っても、わからないじゃない...」
力なくそう呟く愛莉の声が、やけに響いた。そんな気がした。
からくりピエロのMV来てましたね。
それぞれの表情好きなんだ...。