それを裏でサポートしてる愛莉も見たい。
翌日。
今日も今日とて宮益坂女子学園の屋上で練習をするので、その場所へと向かっている最中に、みのりから電話が来た。
何の連絡だと思いながら出てみれば、ランニングのお誘いだった。
どうやら、練習に行く前に走りたいらしい。
本音を言えば断りたいのだが、昨日手伝うと言ってしまった以上、断ることも出来ない。
しょうがないのでそれを了承したのだが、私はこの時の判断をしばらく悔やむだろう。
〈♪〉
「ハァ、ハァ、ハァ...お、おはようございます!」
みのりと共に走った後、その勢いのまま屋上へと向かった私たち。
予定では10km走る予定だったのだが、なぜかそこでみのりが『いや、やっぱり15...いや、20kmいこう!』なんて言い出したので、みのりも私も顔色がだいぶ悪い。
さて。ここで私のハイスペックな体について軽く解説しておこう。
私の体は、1度見たことはそのまま再現できる、と言うのと、1度体験したことは忘れることはないし、ミスをすることもない。
つまりは、私のスペックを発揮するには、見ているか体験しているかのどちらかが必須になってくるわけだ。
基本的に引きこもりの私は、長距離を走る事なんてなかった。
つまりは、みのり以上に死にそうなのである。
疲労困憊の状態で屋上へとやってきた私たちを見て、雫も愛莉も目を丸くしていた。
「お、おはよう、みのりちゃん。...どうしたの? 息を切らせて」
「ライブ、やるならっ、体力つけなきゃって思って...20km、走って、きました!」
「ちょ、急に張り切りだしてどうしたわけ? いや、まぁ前から張り切ってはいたけど、今日はやけにって感じ。昨日はあんなに凹んでたのに...」
不思議そうな顔をして言う愛莉だが、そこで言葉を止めて雫と顔を合わせた。
「っていうか、ライブ?」
「私、遥ちゃんのために、ライブをやろうと思うんです!」
「え?」
「遥ちゃんのために...?」
昨日の今日でどうしてその発想になったのか、よくわかっていない2人に、みのりは話し出した。
遥にとっての大切な思い出。それをもう1度見せることが、目的なのだと。
「その景色は、セカイのステージでライブをやれば見せられると思うんです! だから私、セカイでライブをやろうと思うんです! それで遥ちゃんが少しでも元気になってくれれば...!」
そこまでみのりの話を聞いていた愛莉は、なるほど、と1つ頷いてから首を傾げた。
「...でもその景色って、ステージの上から見ないと意味ないのよね? 景色を見てもらうためにはステージに上がってもらう必要があるけど、遥はステージに上がれないわけで...そこはどうするつもりなの?」
「それに...アイドル時代に見た大切な景色なら、見たら余計に辛くなってしまうかもしれないわね...」
ごもっともな愛莉の指摘に、遥を思った雫の反応。
それらを聞いたみのりは、そういった反応をされることを予想していたのか、首を縦に頷いて、それでも、と口を開いた。
「...でも、今の遥ちゃんは明日はきっといい日になるって、もう信じられなくなっちゃっていて。...そんな風に前を向いて進めなくなっちゃうことは、すっごくすっごく辛いことだと思うんです。だからせめて、遥ちゃんが少しでも前を向いて進めるように、あの景色を見てもらいたい」
そこまで言い切ったみのりは、隣に立っていた私の手を掴んで、愛莉と雫に力強く言う。
「あの光は全部、遥ちゃんに希望を貰った人たちの想いの光なんです! だから、きっと届きます! 『たとえアイドルを辞めたとしても、遥ちゃんには前を向いて進んで欲しい』っていう想いが!」
痛いほど、みのりの気持ちが言葉から、握られている手から伝わってくる。
本当はアイドルを続けてほしい。でも、それ以前に前を向いて、希望をもって毎日を送ってほしい。
みのりの、遥を思うひたむきな想いが、まるで私にも流れてくるようで。
...いや、痛いほどって言ったけど、普通に痛い。私の手が握りつぶされそうだ。
涙出そう。
「遥ちゃんをステージに呼ぶ方法は、まだ決まってません。でも、考えてるだけじゃ、私も遥ちゃんもずっと止まったままだから...!」
みのりが止まらない事を悟ったのか、まだ言葉を続けていようとしていたみのりの言葉を遮って、愛莉は苦笑しながらため息を吐きだした。
「結局、ノープランってことじゃない。ほんと、みのりって最初からそうだったわよね。無茶なことばっかりっていうか、無鉄砲っていうか」
もっと言ってやってください。
無鉄砲小娘が既に暴走しているせいで、私も20km走ることになったんです。
絵名や彰人なら伝わるが、いかんせん私のこの顔ではこの場にいる3人には通じず、愛莉は不思議そうな顔をして首を傾げていた。
「そんなこと言ってるけど、愛莉ちゃんはもう答えを出してるんでしょう?」
「まあね。雫のとこの劇場に飛び込んでいった私が人のこと、とやかく言えないもの。だから...みのり、私たちにも、そのライブをやらせてくれない?」
「え?」
みのりからしてみれば、思わぬ申し出、だったのだろう。
目を丸くして愛莉を見て、今度は私を見た。
今回の件は全てみのり主体だ。みのりに決定権がある。
そうして未だにみのりが困惑している中、雫も愛莉に便乗してきた。
「ええ、私も手伝わせてほしいわ。...実は、私たちも遥ちゃんを励ましたくて、どうすればいいのか悩んでいたところだったのよ」
「つまりノープラン。お互い様」
「う、うるさいわね」
とはいえ、2人の申し出は素直にありがたい。2人と4人では、出来ることに差があるはずだ。
それに私とみのりとは違って、アイドルとしての知識がある。非常に助かることになるはず。
「私は、愛莉ちゃんが私の為に行動してくれたから、また前を向けるようになったわ。だから、遥ちゃんの事をいっぱい考えてるみのりちゃんとなら、遥ちゃんを励ませるかもしれない、って思うの」
「それに、みのりみたいな頑張り屋、応援しなくっちゃアイドルが廃るもの!」
「...! ありがとうございます、桃井先輩、日野森先輩!」
そうしてひとまず2人が協力してくれることになったのだが、結局悩むのは遥をどうやってセカイに連れていくか。
「うーん...無理やりセカイに連れてきて、後は何とかする、とか浮かんだけど、それだと意味が無さそうよね」
「やっぱり遥ちゃん自らが来てくれないと...」
「むむむ...」
彼女たちが悩んでいるのは、遥を連れてくるときに無理やり連れてきてもいいのか、と言う点だ。
正直私の考えとしては、そこまでしないと遥はセカイには来ないと思う。
言葉で説得しても、言い訳して来ない。そんな未来が見える。
3人が唸っているのを見ながら空を見上げていると、突然肩をがしっと掴まれた。
驚いて視線を前に戻すと、愛莉が笑顔で肩を掴んでいた。
その愛莉の後ろでは、みのりが『?』と言ったような顔をしているし、雫はしばらくこちらを見つめて、『あぁ!』みたいな表情をしている。
何も説明なしに、思いついたからすぐに私の所まで来たのだろうか、愛莉は。
「前も私が誘って、あんな感じになったけど。今回も来てくれそう?」
「...あ~...そういえば、そうだったわね...」
前、と言うと、真依がいることを隠して遥を呼び出した時のことだ。
あの時の事を警戒されて、今度は断られるのではないだろうか。
そのことを伝えると、愛莉は忘れていた、と言った様子で顔に手を当てて空を仰いだ。
「名案、って思ったのだけど、そういえばあの時は瀬名ちゃんにお願いして、遥ちゃんを呼んでもらったんだったわね...」
天を仰いでいる愛莉に代わって、雫が苦笑いしながらそう言う。
別にあの時だって、誰が読んでも遥は来ていたと思うが...まさかここに来て私が呼んだことによる弊害が出て来るとは。
そこまで話が進んでから、ようやく何の話をしていたのか理解したみのりは、遅れてリアクションを取っていた。
「じゃあ...どうしましょうか。本格的に遥を呼ぶ方法が無くなったような...」
「やっぱり無理やりしかない。言葉で説得しようとしても逃げられるだけ。なら、無理にでもセカイに連れて、みのりの想いを伝えた方が良い」
このまま時間が過ぎていくのが惜しいので、めんどくさくなった私はみのりの事を見ながら提案する。
結局これしかないように思うのだ。
私の言いたいことを理解したのか、みのりも頷いて、胸の前で拳を握った。
「うん。...絶対に伝えてみせるよ」
そんな私たちのやり取りを見ていた愛莉と雫も納得したのか、笑顔で頷いた。
「よし、ならまずはセカイに行きましょうか。セカイでライブをするにしても、みのりたちのことは知ってても、私たちのことは知らないでしょうし」
「そうね、まずは挨拶からしなきゃ」
そして、ほぼ全員が同時にスマホを取り出し、『Untitled』を再生した。
『Miku』の3DMVって、いつの間に来てたんでしょうね。
今日マルチでたまたま選曲されて、その時初めて知りました。
DIVAの『Weekend Girl』みたいだなぁなんて思ったり。