よければそちらもどうぞ。
※この話は本編とは関係ありません。
ただの日常回です。
「お母さんは夜遅くは部屋に来ないから...移動はセカイ経由して行こう」
「わかった」
いつの間にか絵名とまふゆの間で抱き枕の契約を交わされていたことにより、私は2日間まふゆの抱き枕となっていた。
今日はその1日目。
以前もまふゆと睡眠をとったことはあるのだが、そのどれもがセカイでの出来事。
まふゆの部屋を見たことが無いわけではないが、まふゆのベッドで横になったことは1度もない。
内心行きたくないなぁ、と思いつつも、時間は無情にも過ぎていく。
今はセカイで待機している最中で、時間になればまふゆがセカイに迎えに来てくれる予定だ。
ぼけーっとしながら灰色の空を眺めていると、座っている私の隣に初音ミクが座った。
何か用があったのか、と思いながら初音ミクを見ていると、ただ私の方を見てくるだけなので、特に用はないのだろう。
そうして2人で無言のまま、まふゆの到着を待っていると、誰かがセカイへとやってきた。
まぁ、このタイミングで来るのは1人しかいないと思うけど。
「瀬名、行こう」
「わかった」
「2人とも、またね」
若干名残惜しそうにしている初音ミクから離れて、私はまふゆと手をつないでセカイを出る。
いつものごとく眩しい光が止んだ時には、もう既に私はまふゆの部屋へとやってきていた。
いつ体感しても不思議現象だ。
「お母さんはもう寝てると思うけど...あんまり音は立てないように」
「うん」
まふゆの母にいい思い出は持っていないが、まぁ、流石にこの時間なら大丈夫だろう。でなければ、まふゆがこれまで活動出来ていたのに理由が付かない。
それに、次同じような状況になっても、
現在の時刻は25時のちょっと前。
いつもであればそろそろナイトコードに集まる時間帯だが、今日の活動はお休みだ。
これに関しては奏が『たまに休んで、効率を上げよう』なんて言っていたのが原因だ。
奏がそういうのであれば、と言った感じで今日の活動はなしになったのだが、奏本人が休んでいるかは謎だ。
まぁ十中八九休んでいないだろうけど。
「こっち」
「うん」
まふゆに声をかけられてそちらを向けば、既にまふゆはベッドの中に入り込んでいた。
そんなに眠いのだろうか。
まふゆの誘いにとりあえず大人しく従い、同じベッドの中に入り込む。
まだ毛布は温かくはないが...まふゆの体温が今日は高いおかげで温かい。
普段は私の背中側から抱き着いてくることの多いまふゆだが、今日はどうやら違う様で、私の頭を胸に抱えるようにして眠り始めた。
まふゆの鼓動が聞こえる。
別に医者ではないから、鼓動を聞いたところで何が分かるわけでもないんだけれど...それでも、他人の鼓動と言うのは落ち着くもので。
私とまふゆは、特に会話もなく、そのまま眠りに落ちていった。
〈♪〉
翌朝。
特にアラームもセットしていなかった私は、セカイで目を覚ましていた。
しかも、ここはニーゴのセカイではなく、私自身のセカイ。...いつの間に来たんだろうか。
「あ、起きた」
体を起こしてぼーっとしていると、隣から声が聞こえてきた。
声の方に体を向けると、そこには眠そうな顔で目をこすっているリンが体育座りでちょこんと座っていた。
「リンだけ?」
「あれは昨日遅くまで騒いでたから...まだ朝7時前だし」
幼く見えるリンが朝早くから起きていて、高校生ぐらいに見える初音ミクが少し遅れて起きてくるの、何だか妙にリアルだと思うのは私だけだろうか。
まぁ、このセカイは私しかいないんだから、私しか思ってないんだけど。
とにかく、朝っぱらからあのテンションに付き合わされなくて助かった、と思いながら、その場に再び寝転がり、そういえば、とリンに声を掛ける。
「私はなんでここに?」
「私が連れてきた。一緒に寝てた子の母親に見られると困るんでしょ」
「...なるほど、部屋に来たんだ」
なんの用があって部屋に来たのかは知らないが、寝ていてもこの体が自動反撃でもしてくれわけじゃないので、今回は助かった。
セカイに移動しているところをまふゆに見られていたら、少し面倒なことになっていただろうけど...恐らく、リンが強制的にセカイに連れてくる、と言うことは、まふゆが眠っていて母親を止められなかった、と言うことでもある。
寝転がったまま首を右左と倒して、スマホを探す。
それでは見つからなかったので、ポケットに手を突っ込んで...と思ったのだが、この服にはポケットは存在しなかった。
寝起き特有のなにもかもがめんどくさい現象に苛まれていると、リンが私の顔の前に何かを差し出した。
「...私のスマホ」
「預かっといただけ。今回みたいなのはこれっきりにしてよね」
リンの顔を見ながらスマホを受け取るが、リンの顔は別に嫌がっているようには見えない。
流石に頻繁に迷惑をかけるわけにはいかないけど、たまには迷惑をかけないと逆にすねるタイプの奴だ。
ひとまずナイトコードを起動し、まふゆに連絡を送る。
既に私がどこにいるのかとメッセージが来ていたので、『セカイに避難してた。まふゆのお母さんに見つかりそうだった』とだけ送信。
別に私はどのセカイなのかを指定してないし、まふゆからすればセカイと言えば1つしかない。
特に違和感もないだろうと思い、まふゆからの返信を確認する前にアプリを閉じた。
「じゃあ、また」
「うん。...今度、1人で遊ぶ道具でも持ってきてくれない?」
セカイから出る際にリンからそうお願いされたのだが、恐らく初音ミクからの絡みがそろそろうざくなってきたのだろう。
まるで幼い子におもちゃを与えるようだな、と思いながらそれに頷いて、私はセカイから出た。
〈♪〉
まふゆの部屋に戻り、すぐさまニーゴのセカイに移動。
そのまま自室へと戻ってきた私は、そのまま自分のベッドでごろごろする。
誰かの抱き枕になる、という経験が絵名でしかない。
以前セカイでまふゆと一緒に寝たような気がするが、あれはベッドの中じゃないから仮にあったとしてもノーカンだ。
そのことを思い出すと、なんだか妙な気分になる。
嫌なわけではないんだが、絵名と一緒に眠ると言うのとはまた違う、と言うか...。
言葉に表すなら、絵名は『あんたは私の』って宣言されてるような...力強い抱擁のせいでそう感じているのかもしれないが、まふゆはどちらかと言うと方向性としては反対の印象を受けた。
『どこにも行かないで』。『1人にしないで』。そんな感じ。
その感情が私に向けられるのは、理解はしている。
何せ、一度消えようとしていた時に、私も一緒に巻き込まれようとしていたのだから。
まぁ不可解なのは、どうしてそこまで私に固執するかなのだが...。
人の気持ちに理由を付ける方が難しいこともある。あれはそういう類なのかもしれない。
一旦この件に関して考えることを止めた私は、体を起こして部屋を出る。
流石にお腹が減った。最悪水だけで活動自体は出来るというものの、そのパフォーマンスは著しく落ちるだろう。それも考え事をしたいのなら特に。
部屋を出てリビングに出ると、自宅には既に誰もいない様で、私の足音だけが響いていた。
今だけは、誰かいてほしかったなんて、柄にもなく思った私だった。
本当ならこの日常回は2話構成だった。
おっかし~ぞ~?