東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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最後にちょっとショッキングな描写+みのり主観の話が入ります。

〈♪〉
↑目印はこちら。

まぁ、ちょっとですから多分大丈夫だと思いますが、念のために。


第21話

「私たちみんなで、一緒にアイドルをやらない?」

 

遥の提案。それは、先ほどのみのりのようにオーディションに応募して会社のサポートのある中でアイドルになるのではなく、彼女たちだけでゼロから始めていくというものだった。

 

「...私たちで、って。...ゼロからグループを作って活動するってこと? それどういう風のふきまわし?」

 

突然の話に、思わず聞き返した愛莉だけでなく、雫もみのりも目を丸くしている。

私も驚いているが、よく考えるとこれは私からすると理想的な展開かも知れない。

 

そもそも、この4人でグループを組ませようと考えたとき、どうしてもみのりの存在がネックになっていた。

どこの会社も、名が知れている3人を組ませるならいざ知らず。ただの素人(オーディション51回落ち)の人間をそこに入れるか、と考えると難しい。

 

だが、遥の案ならそれら全てをクリアできるし、周囲の言葉は無視しようと思えば無視できる。

 

「私たちはみんな同じ夢を持ってます。ファンに希望をあげられるアイドルになりたいっていう夢を。それなら、私たちが一緒に組めば、もっとみんなに希望を届けられるって思ったんです」

 

そんな遥の提案に1番最初に賛成したのは、雫だった。

 

「...いいと思う。みんなと一緒なら、すごく心強いわ。きっと助け合って素敵なライブができそうだもの。...もちろん、愛莉ちゃんが納得してくれれば、だけど」

 

『一緒に』と決めた雫は、愛莉の賛同を得られればと彼女を見る。

そんな視線を向けられた愛莉は、複雑な表情を浮かべながら遥を見た。

 

「あんたは、それでいいの? 遥が復帰したいならどんな事務所にだって入れるだろうし、すぐに活動も」

 

恐らくだが、遥の場合は復帰するならばどこの事務所も喉から手が出るほど欲するはず。つまりは、遥が事務所を選ぶ側になれる。

それを考えての愛莉の発言だったのだが、遥はそれを遮るように首を横に振った。

 

「私はもう1度アイドルをやるなら、みんなとやりたいんです。希望をくれた、みんなと」

 

「........はぁ。テコでも動かないって顔してまぁ...でも、いいわ。あんたとやれるなんて、面白そうじゃない」

 

困った笑顔を浮かべて呟いた愛莉は、すぐに好戦的な笑みを浮かべて、遥を指した。

 

「そのかわり、『桐谷遥』が相手でも練習はビシバシ行くわよ。覚悟しときなさい!」

 

「ありがとうございます。先輩」

 

そして、その光景を見ていたアイドルの卵が1人。

 

「遥ちゃんが...桃井先輩と、日野森先輩と一緒に...!?」

 

私としては、みのりもその輪に入って一緒に活動して欲しいのだが、とみのりの横で考えていると、唐突に私の視界が右に左にと揺れ始めた。

みのりが私の肩を掴んで揺らし始めたのだ。

 

「瀬名ちゃん、私たち、伝説の始まりを目撃してるんじゃ...! もしかしたら、ファン第1号の名前をもらえるかも...!」

 

やめろ。私を揺らすな。そろそろ気持ち悪くなってきた。

 

私の三半規管が悲鳴を上げ始めた頃、遥が笑う声が聞こえてきた。

 

「ふふっ、何言ってるの? みのり。みのりたちにも一緒にやってほしいって言ってるんだよ」

 

「...へ?」

 

遥に告げられた頃が衝撃だったのか、私の肩から手を放して口に手を当てているみのり。

実際何を言われたのか、みのりに左右に揺らされていたせいで聞き取れていないけど...それなりに衝撃的な一言だったのだろう。

 

「わたしたちも一緒って...それって、遥ちゃんたちと一緒に...え?」

 

「あんた、何ポカーンとしてんのよ...当たり前でしょ?」

 

「そうね。みのりちゃんがいないと、始まらないわ」

 

呆けた顔をして呟くみのりに、仕方ないという表情で愛莉と雫がそう言い、若干吐き気を覚えた私の介護を始めた。

いや、別にそこまでしてもらうほどの物でも...え、もしかして『たち』って言った?

 

「で、でも、私はオーディションの二次審査にも通ったこと...」

 

「みのりは、希望をくれたよ。私たちに1番希望をくれた。たくさんの希望を、アイドルとして、みのりはくれたんだよ」

 

「...わ、私なんかが、本当にいいの?」

 

その遥の言葉が嘘ではないことは、みのりが1番わかっているだろう。

 

不安げにみのりが3人にそう尋ねると、全員が笑顔で頷いた。

 

「みんな...」

 

「まぁ、あんたが不安に思うのもわからなくはないわ。技術的な面でしょ。でも、それもう今更じゃない?」

 

「ふふ、足りないところはみんなでカバーしあっていきましょう。あのステージでの時みたいに」

 

「そうだよ、みのり。私みんなでまた...ううん、これからもずっと、ステージに立っていきたいの」

 

ここにいる全員は、みのりがきっかけで集まったと言っても過言ではない。だからこそ、みのりと一緒にアイドルとして活動していきたいと言っている。

 

それを感じとったのか、みのりは勢いよく頭を下げて大声をあげた。

 

「よろしくお願いします!! みんなに追いつけるように、もっともっと頑張ります!!」

 

これでこのループでの仕事は終わりだ。

そう安堵している私に、遥が視線を移した。

 

「まだ、瀬名から返事をもらってないけど」

 

「え」

 

「私、さっき『みのりたち』って言ったと思うんだけど?」

 

実際にそのセリフは、みのりに揺さぶられていて何も聞こえていなかったわけだけど、そのあとのみのりの繰り返したであろうセリフは確かに聞こえていた。

遥の言っていることにも嘘はないのだろう。

 

だが、別に私はそれを承諾したわけでもなんでもないのだけれど。

今回だってみのりが出したオーディション。私も一緒に出すみたいな流れになってはいたものの、私は出さなかったわけだし、流石に察してくれていると思っていたよ。

 

「...私、流れで練習してただけで...」

 

端的に言えば、別にアイドルを目指しているわけではない。そのことを伝えた瞬間、一瞬だけ、みのりの顔が歪んだように見えた。

 

「...?」

 

「私は、私たちは確かにみのりから希望を貰った。だけど、ためらっている私の背中を押してくれたのは、瀬名なんだよ。だから、私は瀬名とも一緒にアイドルをしたい」

 

...先程の、愛莉の発言がピンとこなかったのだけれど。

この遥の顔を見てると、確かに『テコでも動かなさそうだな』と思わされるな。

 

遥の熱意に押されるように、私は半ば本心とは関係なしに、頷いていた。

 

「よろしくね、瀬名」

 

「...うん」

 

まぁ、よく考えたら私別にループするんだし、ここでアイドル宣言しても別にいいのか。

正しい道に修正することが出来た時点で、私の存在はなくても問題ないような形に変わっていくはずなのだ。

この考察自体は、私自身、結構いい線をいっていると思う。

 

私が自分の頭の良さに震えていると、愛莉がパン、と手のひらを叩いた。

 

「よーしっ! そうと決まれば、早速グループ名を決めましょ!」

 

唐突だ。

と言うか、グループ名っていうのはそれぞれ持ち帰って、何日か後に決める物じゃないのか。

 

「え、もう決めるの?」

 

どうやら雫も同じような事を考えていたようで、首を傾げて愛莉に問いかけていた。

だが、愛莉は腕を組んで首を縦に振る。

 

「そうよ。こういうのはテンションとパッションが大事だもの。はい、みのり! 何か付けたい名前はない!?」

 

「え!? えっとえっと...! 『明日がんばる希望をあげ隊』は、どうでしょうか!?」

 

その勢いのまま振られたみのりは、視線をあっちこっちに彷徨わせながら、何とかひねり出したような名前を出した。

だが残念。愛莉の反応は芳しくない。

 

「さすがにそのまんま過ぎでしょ。...ある意味アイドルらしいっちゃアイドルらしいけど」

 

「私は好きだよ、みのりの」

 

「遥ちゃんに褒められた!」

 

どうやらみのりの案は遥に好評だったようで、みのりは褒められた(?)と喜んで両手を上にあげていた。

いや、もしかしたらだが、みのりが何言っても遥は好きっていうかもしれないけれど。

 

そのやり取りを見ていると、今度は雫がそうだ、と声をあげた。

 

「それなら、英語にしてみたらどうかしら? 明日は『TOMORROW』で、頑張るは『FIGHT』。希望は...」

 

「『FIGHT』の意味は頑張るじゃなくて戦うでしょ!」

 

完全に応援だとかで使われるファイトに引っ張られている。

あれも和製英語の一部になるのだろうか。

 

雫と愛莉の漫才を見ていると、みのりの隣に立っている遥がうーん、と考えていた。

 

「遥?」

 

「...私は、あれが好きかな。『もっともっと』って、みのりの口癖」

 

「え?」

 

「頑張ってうまくいかなくても、もっともっと頑張る。そういう諦めない気持ちが伝わるから」

 

そう遥が告げた後の雰囲気がいい感じだったので、どうやらグループ名には『もっともっと』、もしくは『MORE MORE』が入ってきそうである。

 

そのことを雫も察知して、また案を出してきた。

 

「じゃあ、『MORE MORE FIGHT!』なんてどうかしら?」

 

だがどうしても『FIGHT』は入れたい様である。

 

「まだ『FIGHT』引っ張ってる! 格闘技でも始めるつもり!?」

 

愛莉と雫の漫才パート2が始まってしまった。

 

将来的に、この5人で活動することになる際、事務所と言うバックアップが無く、芸能界への足掛かりが無い以上、配信という形で名前を売っていくことになるのだろうけど、その時にこれを映していればいいんじゃないだろうか。

 

愛莉の印象はそのままで変わらないかもしれないが、本当の雫はまだ世間には知られていないはず。

折角ゼロから自分たちでアイドルグループを作るのだ。本当の自分自身を見せていくのがいいだろう。

 

早速今のトレンドを調べよう、とスマホを取り出すと、みのりがぽつりと呟いた。

 

「...『MORE MORE JUMP!』」

 

それは隣にいた遥と私にしか聞こえていない様で、愛莉と雫のやり取りから目を外して、遥はそのまま繰り返した。

 

「『MORE MORE JUMP!』...」

 

「うん。みんなで夢見たアイドルに向かって手を伸ばそうって感じが出るかなぁって。...あと、瀬名ちゃんは本当にしたいことがまだ見つかってなさそうだったから、私たちと一緒に手を伸ばして、何かを見つけてほしいかな、とも思ったり...」

 

...みのりは、と言うか。

私の周りにいる人間は、なぜか私のことをよく見てくれているんだよな。

嬉しいような、恥ずかしいような。

 

みのりの言う通り、私はまだ何もしたいことが見つかっていない。

将来つきたい職業、なんてことを考えるのは夢のまた夢で。

それなりにいい職について、それなりの生活をして死んでいく。そう思っていたのだけれど...みのりたちと一緒にいられたら、私も何かを見つけられるだろうか。

ループせずに、このまま生きていけたとしたら。

 

「...そうね。それに私たち、いろいろな壁にぶつかってしまって、一度はアイドルを辞めてしまったけど...」

 

「いいわね! 今度は5人で、そんな壁飛び越えていきたいものね!!」

 

みのりの話を途中から聞いていたのか、いつの間にか近くに来ていた雫と愛莉も、強く頷いてみのりの案に賛同した。

 

と、言うことで。

 

「ふふ、じゃあ、決まりだね。今日から私たちは『MORE MORE JUMP!』」

 

遥の号令で、正式にグループ名が決まった。

ようやく一息つける、と思いながら息を吐き出すと、またもや愛莉がパン、と手のひらを叩いた。

 

「そうと決まれば、初練習よ! 用意はいい? みのり、瀬名!」

 

「はい! 桃井先輩!」

 

何も良くない。私は何の準備も出来ていないので、2人で練習していて欲しい。

 

「何言ってんのよ。例え瀬名の動きがプロ級でも、この間のことで見つけた弱点を克服しなきゃいけないわ。ほら準備!」

 

うえーん。

 

愛莉に言われて泣く泣く準備を進めていると、その準備を雫が手伝いながら、そうだ、と何かを思いついたような声をあげた。

 

「もう同じグループのメンバーなんだから、『先輩』をつけなくてもいいんじゃないかしら?」

 

「え? じゃ、じゃあ...愛莉ちゃんと...雫ちゃん?」

 

照れながらそういうみのり。とてもかわいい。この様子を録画しておけば、いつかの時に振り返りみたいな感じで、懐かしさを覚えるのだろうか。

こっそりと私は、隣にいる雫にも気づかれないようにスマホのカメラを起動した。

 

「えへへ、なんだか照れちゃうな...」

 

自分で照れちゃうと口にしているシーンからの録画となってしまったが、まぁ問題ない。

こういうのは身内で見るから、大抵の前後のシーンは飛んでいても脳内補完が出来る。

 

これからの『MORE MORE JUMP!』に私はいないのに、私は彼女たちの練習風景を撮っていた。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

「か、体が...」

 

「情けないわね~」

 

体感的に普段の練習の数倍はハードなトレーニングを終えた後。

私は隣を歩く愛莉ちゃんに呆れられたような、微笑ましいものを見るような視線を向けられながら、帰路を辿っていた。

 

ちらり、と後ろを見ると、雫ちゃんも遥ちゃんも、瀬名ちゃんも笑ってこっちを見ている。

現役アイドルだった3人の体が平気なのはわかるのだが、瀬名ちゃんも平気そうに歩いているのは不思議だ。

青い線のイヤホンを片耳に付けている。お気に入りなのだろうか。

 

改めて思うけれど、名前呼びだともっと距離が近づいた気がする。

遥ちゃんと瀬名ちゃんは、言われる前から名前呼びだったから、そこに変わりはないけど、それでも近づいた気がするんだ。

 

そのことを改めて考えていると、顔がだらしなく緩んでいるのが自分でもわかる。

 

そんな時、視界の隅で、泣いている子供が見えた。

 

「あっ、ごめん、先に行ってて!」

 

ちょうど後ろを振り返っていて気が付いた。

横断歩道の真ん中で、座り込んで泣いてる女の子がいる。

 

返事を待たずに駆け出したけど、後ろからみんなの優しい声がする。

とってもあたたかい。

 

「大丈夫? ころんじゃったの?」

 

しゃがみこんでそう問いかけると、少女は擦りむいたであろう膝を抑えながら、涙目のまま頷いた。

この調子だと、おんぶして歩くのがよさそうだ。

 

「じゃあ、お姉ちゃんの背中に乗って?」

 

私がしゃがんだまま背中を向けると、思いのほか少女はすんなりと、鼻をすすりながら私の背中に乗った。

 

よし、あとは、この筋肉痛の体に鞭を打って動くだけだ。

少女を安心させるように明るい声を出しながら立ち上がると、遥ちゃんのひどく焦ったような声が聞こえてきた。

 

「みのりっ」

 

「え?」

 

反射的に視線を上げると、もう既にそこまで車が迫ってきていた。

 

事故の直前に周りがスローモーションに見える、なんてことを聞いたことがあるけれど、今の私はまさにそれで。

車...トラックに乗っている男性の頭の天井がこちらを向いている、つまりは居眠りをしていることもわかったし、そのトラックにその男性と、まだ赤ちゃんの子供と、その子を抱いている女性の写真が貼られているのまで見えた。

 

私の思考はひどく早く回っている。

でも、そう感じるほどに体が重たい。

足を1cm動かすのに1分かかっているかのようだ。

 

この背中にいる女の子はどうする。

せめて向こうに、この子だけでも投げ飛ばせないか、と考えた瞬間、私の背中に強烈な力が加わり、視界は一瞬で遥ちゃんの胸元まで移動していた。

 

「きゃぁ!?」

 

その勢いのまま遥ちゃんを押し倒してしまって、なんだか分からないけど助かったのだと感じる。

 

けれど、今のはいったい何だったのだろう。

その疑問を解消するかのように、愛莉ちゃんの声が聞こえた。

 

「瀬名ぁっ!!」

 

息も絶え絶えで、先ほどとは天地の差があるような思考の遅さのせいで何も考えられない。

そんな頭のまま後ろを振り返ると、私の足元に、ひび割れたスマホと、青い線の、ペンギンのイヤホンが転がってきた。

 

一体何が起きたのかなんて、馬鹿でもわかる。

 

私、花里みのりは、東雲瀬名に命を救われたのだ。

その代償は、本来私に降りかかるはずだったものを引き受けて。

 

さび付いたように動かない首を回してトラックが通った方向を見ると、トラックは携帯ショップの店に突っ込んでいるようで、荷台部分しか見えなかった。

 

愛莉ちゃんの声も、雫ちゃんの声も、遥ちゃんの声も。

私の耳を通り抜けていく。

 

私の見えているセカイは、私だけが息をしていないように、動かなかった。

背中で泣いている少女の声が、まるで私の声のようで、他人事のように聞こえていた。




直接的な表現ないからちょっと判定。

瀬名以外の1人称の話は初めて書いたのでちょっぴり不安。
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