東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

51 / 69
ついにみんなの前で事故が起きてしまいましたね。あ~あ。

というわけで、MORE MORE JUMP!編に絵名主観の話をぶち込みます。

分かりやすくサブタイをどーん。


第22話 螯ケ縺ッ繧ゅ≧縺?↑縺

瀬名が死んだ。

 

それは唐突な報告だった。

その時私は夜間学校が休みだったこともあって、夜に備えてまだ呑気に寝ている時間だった。

 

自分で自分が許せなくなりそうだ。

 

「...せめて、何か口にしておけ」

 

「...」

 

「...ここに、おいておく」

 

気付いたら父親が部屋に入ってきていて、椅子に座っている私の前の机に、切られたりんごが置かれた。

 

食べる気にはなれない。

けれど、私の意志とは関係無しに、私の体は空腹を訴えている。

仕方なくりんごを口に含むと、ただ冷たいだけで、何の味もしないことに気がついた。

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

瀬名が死んで1週間が経った。

その間に、愛莉が家に来て謝りに来ていた。

その時の私は、受け答えが全くできず、ただ椅子に座って、生理現象が起きたらトイレに。母親にお風呂に入れられ、椅子に座ったまま気絶したように眠る生活を繰り返していて。

流石に今はもう、自分のことは自分でできる。

 

正直、愛莉が何を言っていたか覚えていない。

辛うじて覚えているのは、私の足に縋りつくようにして、泣いていたことくらい。

 

親友の涙を見ても何も思わなくなったのは、私の心が死んだからなのだろうか。

 

まぁ、それでもいい。

世の中の何にも、心を動かされたくない。

最後に心を動かされたのが瀬名の死だったとしても、それがいい。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

瀬名の写真は、私のスマホの画像フォルダに沢山ある。

無防備な寝顔も、ジト目な顔も、何も考えていなさそうな顔も、恥ずかしそうに頬を染めている顔も、嬉しそうにはにかむ顔も、楽しそうに笑う顔も。

 

瀬名の新しい顔を見ることはもうできない。

私のスマホにある画像をずっと見ていると、唐突に画面が暗くなった。

 

故障...いや、単に充電切れか。

 

自分でもわかるほどにひどく緩慢な動きでケーブルをスマホに差し込んで、机に置く。

 

久しぶりに机に目をやると、まだ買ったばかりで数ページしか描いていないスケッチブックが目に入った。

 

そうだ。これで瀬名を描こうか。

たまたま横に転がっていた鉛筆を手に取って、真っ白なページを開く。

 

瀬名は、基本的に感情を表に出すような子ではなかった。

だからこそ、たまに漏れるように見せる表情を見ると、とても愛おしく感じる。

 

瀬名には、どんな表情が似合うだろうか。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

描いてはスケッチブックから破り取ってを繰り返して、どれくらい経ったか。

どれも私の大切な瀬名だ、丁寧に破り取って地面に置いていたはずのそれは、いつの間にか1つにまとめられて机に上に置かれていた。

その横には、新品のスケッチブックが3冊。

 

誰かが置いてくれたのだろう。

 

それが誰なのかはもうどうでもいい。彰人かもしれないし、両親かもしれないし、はたまた人間らしい生活を出来なくなった私のために雇ったヘルパーさんかもしれない。

 

これでは奏のことを笑えないな。

今の私は、栄養ゼリーとサプリを大量に飲んで生活している身だ。

それでも摂れる栄養なんてものはたかが知れているので、そのうち入院でもするかもしれない。

 

私的には、この生活を続けさせてもらいたいのだけど。

あわよくばそのままくたばるまで。

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

描き続けていると、気がついた事がある。

異様に頭が冴える。昔読んだ絵の描き方の本も、全てのページを思い出すことが出来る。

すっかり使われなくなった教科書もパラパラと見るだけで、内容を理解出来る。

 

昔の私なら、飛んで喜んだだろう。

絵を描くのに有用だ、と。

 

今の私に絵自体にもう興味はない。

あれほど描きたいと、見返してやると思い続けてきた絵は、瀬名というただ1人の人間を表現する為だけの手段と化している。

 

だからこそ、この記憶能力は瀬名という人間を思い出すのに有用だ。

 

忘れた訳じゃない。

ただ、より詳しく、より鮮明に。

それだけだ。

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

記憶を辿りながら描いていると、不思議と思った通りに描ける時がある。

 

最初は想像した場面と、私の手で描かれる絵に違和感を覚えていたのだけれど、最近は、想像した場面をそのままスケッチブックに出力したように描ける。

覚えがいいなんてものじゃない。思ったものをそのまま描けるなんて、この世に何人いるだろうか。

 

そういえば、瀬名も覚えがいい、と言うか、1度見たもの聞いたものはすぐにでも完璧に再現出来ていた。

愛梨に連絡した日だって、ノートPCの前で真剣な顔で何かの映像を見ていると思ったら、その次にはまるで現役アイドルのように踊っていた時があった。

 

それ以外にも、瀬名の特異性は何度も見てきたけど...私にも、その能力が備わった、ということだろうか。

 

どうして今、と思うけれど、それと同時にありがとうとも思える。

瀬名が私の傍にいてくれているような感覚がして、久しぶりに嬉しいと思った。

 

そのことが分かれば、あとは描くだけだ。

 

絵を描くのに私の感情は必要ない。

どんな感情を乗せたいのか、それらは全て技術で補って表現できるものだ。

この感覚に従って描くことができれば、私の絵は完成する。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

頭の中にある風景をただスケッチブックに出力し続ける日を続けていると、いつの間に部屋に入ってきていた父親が、私の描いた紙を眺めていた。

 

ひどくやつれた顔をしている。この男でも、こんな顔をするのだな。

 

「何?」

 

「っ...いや、何でも......絵名。この絵を元に、来週にある私の個展に出さないか。...1枚程度、無理やり入れられなくもない。それほどに、世の中に見せるべきだ」

 

「勝手にして」

 

しばらく使っていなかった私の声帯だが、思いのほか普通の声が出た。

その声で話しかけられた父親は、声を聞いただけで動揺していることがまるわかりだったが、次に聞こえてきた内容は、思わず私の耳を疑うものだった。

 

この男の個展に出す? 何を? 私の絵を?

 

ただ、自分の耳を疑う内容だったものの、考えてみれば、別にもうそれはどうでもいいものだと気が付いた。

 

私には、瀬名を完璧に描くことができるこの手が。この才能だけがあればいい。

他に、何もいらない。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

父親に言われるがままに真っ白なキャンバスに描いて、私の想像に起こした風景を完璧に出力しただけの絵。

それを父親の個展に出したところ、見に来た人が絶賛したらしい。

 

中には、私が父親の名を借りているだけだと、あの日直接会場で言われたこともあったけれど、基本的にどれも無視していたから、誰が言っていたのかは覚えていない。

 

ただ、私はどこか誇らしく思っていた。

 

これは瀬名の才能だ。私自身の才能じゃない。

世の中に、瀬名が認められている。それだけが、私の心を満たしている。

 

正直、私の名前で出すのすら躊躇った。どうにか瀬名の名前で出せないだろうか、とも思った。

さすがにやめたけれど。

 

瀬名の名前を使って、瀬名のことを知ったかぶる人が現れたら、自分で自分が何をするかわからない。

 

その日の夜。

いつも通り瀬名の絵を描いていると、数十分前から部屋の前で立ち尽くしていた父親が部屋の中に入ってきた。

 

「絵名。今回の報酬だ。...お前の絵が認められた成果だ」

 

そういって私の机の上に置いたのは、万札が何十枚か入った封筒。

 

私からしてみれば、ただ瀬名の絵を描いただけで、父親から労うような言葉をかけられて、お金を得ている。

やはり、瀬名はすごい。

 

だとするならば、私の絵はまだまだだ。この絵では、まだ瀬名の魅力を表現しきれていない。瀬名からもらったこの才能も、まだ使いこなせていない。

 

瀬名を表現するためのアイディアを考えようと、お風呂に向かっていると、男性とすれ違った。

 

「おい、絵名」

 

驚くことに、彼は私の名前を知っているらしい。

いや、当たり前か。彼が私の家に平然とした顔でいる時点で、私の名前ぐらいは知って...あぁ、そうか。彼がヘルパーだったのか。

 

娘のヘルパーに男を当てるなど、やはりあの父親は何を考えているのかわからない。

 

呼び止められたから立ち止まったものの、それ以降特に何を言われることもなかったので、私はそのまま風呂場へと足を進めた。

何かいいアイディアが浮かべばいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

「くそ...俺も逃げられたらどんだけ楽か...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

絵を描き続けて、たまに父親の個展に、父親に言われるがままに出て。

そんな生活を続けていると、気づいたときに、『瀬名』が私の隣に立っていた。

 

初めて見たときは、瀬名が生きているのだと思った。

触れることはできない。私が生み出している幻だ。だが、その触れることができないという点を除けば、瀬名がまだ生きているかのようだった。

 

『絵名、この線の使い方、間違ってる』

 

「あ、そっか。ありがとう、瀬名」

 

まるで、本当に瀬名が私の隣にいて、絵のアドバイスをしてくれているような状況。

私が感謝の言葉を告げれば、瀬名は嬉しそうに目尻を下げる。

 

そうして瀬名が私の隣に立つようになって、私の絵は更に成長しているように感じる。

そこで私はようやくわかったのだ。

 

瀬名は、私のところに才能という形になって帰ってきたのだと。

 

「瀬名、聞きたいことがあるんだけど。私は瀬名の絵を描くことをやめたくない。だから、たまに父の個展に出て、お金をもらって。それで生活していこうと思うんだけど」

 

『...父親が生きてる間は大丈夫だと思う。まぁ死ぬときには絵名の名前も売れてるはずだから、その時はその時に考えよう』

 

「うん、ありがとう」

 

私たちは、一心同体だ。

 

瀬名は死んでない。

私の中で生きてる。だったら、瀬名が経験するはずだったものも、私が代わりに経験するべきなのではないだろうか。

 

ちらりと瀬名の方を見ると、瀬名はまるで何も気にしていないように首を横に振った。

 

『もう疲れたから』

 

「そっか」

 

なら問題ない。

 

私は死ぬまで、瀬名と一緒に絵を描き続けよう。

 

 

 




文字化けで察した方はいらっしゃるでしょうが、文字化けテスターさんなんかを使うと文字が出てきます。
まぁ完全には出てこないんですけどね。

さて。
絵名にとって瀬名は。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。