月日が経つのは早いですね...。
次の更新は私が『Q』か『39』をAPしたらです。
結局のところ、絵名は病院には連れて行かずに様子を見ることになった。
相談に乗ってくれた彰人には異常は見られず、ますます私からしたらわからない状態になってきたわけだが、ひとまず絵名はこれ以上ひどくなるようであれば、という結論に落ち着いた。
絵名がおかしくなり始めていることに対する、焦りなのか、それとも申し訳なさなのか、何とも言えない気持ちを抱いている私は、紛らわすように部屋でギターに触れていた。
弾くのは最近流行りの曲。
どのコードがどういう音を鳴らすのかはもう理解したので、あとは耳で聞いて、聞こえてきた音楽をそのままギターで鳴らして歌うだけ。
正直面白さは見いだせないが、弾いていると部屋の前の廊下で絵名が聞いているようなので、一種の精神安定剤として用いている。
当初は絵名に気が付いて、部屋の扉を開けようとしたら、慌てて自身の部屋へと戻っていくのを感じた。
...ぶっちゃけ部屋の外の状況を把握できるようになっている自分に恐れを感じているが、もうそれは考えないことにした。
この体は必要だと少しでも感じたらすぐにでも適応してしまう。
流石に腕が伸びるゴム人間だとか、もう人間じゃないだろうみたいなことにはならないだろうけど。
そうして今日も弾いていると、動画を流しているスマホにメッセージが届いた。
咲希からだ。
時間を見ると、もう既に放課後の時間帯だ。
暇にでもなったのだろう。
メッセージも、『タピオカ食べに行かない!?』だ。
ずいぶんアクティブ...なのはいいんだが、タピオカはもうブームは過ぎたのでは。
「あぁ、戻ってるから、まだ流行ってはいるのか...どうだっけ」
素直に言ってしまえば、タピオカに興味はない。
けれど、何となく無視する気になれない私は、ギターをケースに入れて、ギターケースを背負って家を出た。
〈♪〉
「あ、来た来た!」
咲希から送られてきた地図を見ながらやってきた場所には、既に咲希がタピオカ店の前でこちらに手を振っていた。
その隣には、くせっけのある黒髪ロングの少女も立っていた。同年代ぐらいなので、友達なのだろう。
「咲希、この人は?」
「瀬名ちゃん! 病院でたまたま会ったんだけど、すっごいギター上手なの! プロみたい!」
「言い過ぎ...」
ただお手本通りに弾くだけなら他の追随を許さないかもしれないが、それをプロレベルと呼べるかどうかはまた別物だろう。
身に余る評価を受けながら、私は初対面の彼女に頭を下げた。
「東雲瀬名。咲希とは知り合い」
「あ、えっと。星乃一歌です。ギター、弾いてるんですね」
「敬語はいらない。多分私の方が年下」
「そ、そっか。...うん、じゃあ、ギター弾いてるんだね」
「暇つぶしに弾いてるだけ。咲希の評価は過大評価」
ギター、という単語に妙に反応する彼女、一歌にそう返していると、横から咲希が抱き着いてきた。
「え~!? 私はもう友達だと思ってるのに、知り合いなの~!?」
寂しい~、と言いながら頬擦りしてくる咲希の顔を押しのけて、一歌に顔を向ける。
「はいはい、友達友達。それより、目的は? タピオカ食べるんでしょ」
「あ、うん。咲希が行こうって」
「そうだった! よ~し、早速買おう!」
〈♪〉
「では! ソフトテニス部に入部が決まった咲希ちゃんと、タピオカでかんぱーい!」
「はい、乾杯。部活決まって良かったね」
「うん、見学に付き合ってくれてありがと!」
どうやら今回のタピオカを買いに来た理由は、咲希の部活が決まったかららしい。
ソフトテニスというのと、普通のテニスの何が違うのかは、私はいまいち理解していない。
ソフト、というのだから、球が硬いか柔らかいかみたいな感じだろうか。野球も確か、硬式野球なるもものがあった記憶がある。
元気いっぱいにタピオカを飲んでいる咲希を、一歌は心配そうに見た。
「無理はしないようにね。部長さんはゆるい部活だから平気って言ってたけど、少しずつ慣れていかないと」
「うん! それにしても、部長も顧問の先生もみんないい人でよかった~。病気のこともあったから、運動部に入ると迷惑かけちゃうかもって、ちょっとだけ不安だったんだよね」
「咲希...」
確かに、今は元気でも昔病弱だと、体力の問題もあるだろうし、何より以前まで病気だったという先入観のようなものを覚えてしまう。
そうするとどうしても気を使ってしまうもので、本人はもうなんでもなくて全力でやりたくても、周りの人間がそれをよしとしなくなる可能性もある。
そうなってしまうと、あとは時間が解決してくれるのを待つしかないのだが、咲希と一歌の話を聞いている限りだと、そうはならなかったようだ。
そうして暗くなったような雰囲気を吹き飛ばすように、咲希は明るい声を出しながらタピオカを飲み込んだ。
「んー! 部活に入ると、高校生活の第一歩を踏み出せた、って感じするね!」
そしてそのまま、タピオカドリンクを持っているのとは逆の、左手で先ほど買ったタピオカドリンク店を指した。
「そして、第二歩目は...ここ!」
「ここって...さっき買ったタピオカ...えっと、ミルクティーのお店?」
「そう。友達と放課後にタピる! 流行には乗り遅れちゃったけど、すっごくやってみたかったんだよね!」
なんという事でしょう。流行にはもう乗り遅れている様です。
私の知らないうちに流行って、知らないうちに終わっている...。引きこもりの代償...。
「みんながタピオカタピオカ~って盛り上がってた時に、アタシはずーっと味のうす~い病院食ばかり食べてて...瀬名ちゃんも嫌だったよね!?」
「いや、私はそうでも...」
「というわけで、治ったからには美味しいものをたくさん食べちゃうんだから!」
咲希に話を振られたから返したのに、当の本人は私の返事を最初から求めていなかったようで、瞳に炎でも宿っているかのような勢いで、顔の前で拳を握りこんだ。
なんというか、美味しいものかわいいものを際限なく求めていくのは、女子って感じがするかも知れない。
いや、私も女子なんだけど、私自身は別に性別の認識が薄いというか。
燃えている咲希を苦笑している一歌と真顔の私で見ていると、そういえば、と咲希がこちらを振り向いた。
「美味しいものって言えばさ、昔みんなで食べたアップルパイも美味しかったよね」
「アップルパイ?」
「ほら、小学生の時だよ。いっちゃんがミクちゃんの歌が好きだから、みんなで演奏してみよーってなったときあったでしょ?」
「あ。あったね。穂波が吹奏楽部でドラムできるようになったから、みんなで咲希の家に楽器持って行って...」
『ミク』か。
正直、私がただの女子高生であれば聞き逃していたただの日常会話だが、私の体験してきたことのせいで、咲希と一歌がセカイを構成しているのでは、と勘繰ってしまう。
「で、みーんなヘトヘトになったときに、ほなちゃんがアップルパイみんなで食べようって言ってくれたんだよ。それがもうすーっごく美味しくて...美味しくて...あはは。...瀬名ちゃんにも、食べさせてあげたいぐらい美味しかったんだけどなぁ...」
「......」
重い。急に空気が重くなった。
考え事をしていて話を途中から聞いていなかった、というのもあるけれど、それでも急じゃないだろうか。
ただ、これに関しては私はまだ何も口を出せない。
彼女たちも部外者からの声を求めているわけじゃないだろうし、仮に口を出しても解決できるわけじゃない。
どうしたものか、と考えていると、咲希は手元を見てあ、と声を出した。
「飲み切っちゃった。タピオカって、飲み物自体の味はするけど、タピオカは味無いのかな?」
「...どうなんだろう。私もニュースぐらいでしか聞いたことないから...」
「普通はシロップとか、黒糖とかで味付けするらしいけど...あの店はわざとしてないみたい」
「へ~。瀬名ちゃん物知り!」
「さっき調べて頭に残ってた」
話がタピオカにずれたところで、咲希はゴミを捨ててくる、と私たちに告げて、その場を離れた。
その背中を見送る中で、隣に立っている一歌が口を開いた。
「私たち4人って、昔はとっても仲良かったんだ。でも、今はそうじゃなくて...咲希はまた4人一緒がいいって思ってる。私だってそう。だけど...どうにかしてあげたいけど...」
その先に続く言葉は、咲希が戻ってくるまでも聞こえてくることはなかった。
投稿する順番がおかしくなってましたので再投稿です。
ご指摘ありがとうございます。
睡眠って大事ですね。