ハーメルン内でのプロセカ作品数も、もう少しで200になりそうですね。
これが多いのか少ないのかは分かりませんが。
あれほどやりたいやりたい、と気持ちを前に出していた咲希が「演奏はどうやって始めるのか」なんて言い出したおかげで、3人の肩に入っていた力がちょうどいい感じに抜けていくように見えた。
「はぁ...。穂波、カウントとって」
「う、うん。それじゃあ...ワン、ツー、スリー、フォー」
志歩に言われるままに、穂波がスティックを鳴らしてカウントを取る。
その音で思い出したのか、ピンと来ていなかった咲希の顔もハッとした表情になり、演奏は問題なく始まった。
演奏の技術に関しては、まぁ、でこぼこと言った感じだろうか。
今を向いて演奏している人が少ない。過去に思いを馳せて曲をなぞっている。
ただまぁ、彼女たちの場合は、まずはそこからなのだろう。
一歌と咲希が心底嬉しそうな顔をして演奏を進めていく中で、志歩が苛立ったように手を止めた。
「ストップ」
「...え?」
「一歌、咲希、テンポが遅い。もっと穂波の音を聴いて」
「ご、ごめん...」
楽しく弾いていたところに、水を差されたような感じだろうか。
ただ、感じ方は人それぞれだ。志歩にとっては、懐かしくはあれど、この演奏は楽しめるものではなかったのかもしれない。
「...こうなるから嫌だって言ったのに」
「で、でも、今のすごくなかった? 上手くないけど、最初は音がぴったりあってたし...!」
「私は、中途半端な演奏ならしたくないの。知ってるでしょ?」
随分とまた、空気が悪くなったと思う。
何と言うか、上手にやれることに越したことはないけど、それよりも楽しさ優先の咲希と、上昇志向の強い志歩という感じだ。
お前とやるバンド息苦しいよ、みたいな。ちょっと違うか。
「し、志歩ちゃん落ち着いて。もう1回頭からやってみようよ。ね?」
穂波のもう1回の提案に、志歩が大きくため息を吐いたところで、初音ミクが私の肩に手を乗せながら1歩前に出た。
「じゃあせっかくだし、私たちも一緒に演奏していい?」
どうしてこう、話の中心まで手を引いて連れて行くのだろうか。
確かに私の手には、父親に買ってもらったギターがある。ただ、先程の演奏で私は満足したのだが。
「え、ミクたちも?」
「うん。ダメかな?」
「ダメなんてそんな...。むしろ、いいの?」
「みんなが演奏してるの見たら、やりたくなったんだ。瀬名とも、その話をしてたの。一緒に弾かせてよ」
そんな話はしていない。
とはいえ、私にも空気を読むくらいのことは出来る。既に私が拒否できる空気ではないことは理解しているのだ。
初音ミクがそう提案して、一歌と咲希は嬉しそうな顔をしている。
穂波は特に拒否はしない、というような顔。志歩は何でもいいから早く終わりたいと言った感じか。
「...好きにして。さっさと終わらせたいから」
これでメンバー全員から許可を得たことになったため、私と初音ミクは4人の間に入って演奏することになった。
初音ミクの演奏のレベルが高いのは、先程合わせたから知っている。他人との合わせ方を知らない私に合わせて、楽しく弾けるレベルと言えばわかりやすいか。
ただ私の協調性の無さが問題だ。
「...私、あなたに合わせるから」
「うん、今はそれでいいよ」
とりあえずこの場をしのげればいいので、私の考え付いた案は、初音ミクの手元を見て私の演奏に反映させること。
どうせ初音ミクはこの4人と合わせるように弾くのだろう。なら、私もそれに乗っかれば形は私も合わせているように聞こえるはず。
小さな違和感はあるかもしれないが、実際にその違和感に気付くのは志歩ぐらいか。
「じゃあ、もう一度いくね」
そうして、穂波のフォーカウントでまた演奏は始まる。
先程初めて聞いたばかりの曲だが、頭からは離れることはなく焼き付いている。
難しいフレーズはない。彼女たちが昔に演奏した、というのが何歳くらいのことで、演奏歴はどれくらいのものだった時のことなのかは知らないが、まぁ、難易度的にはそれほどでもないということだ。
初音ミクに合わせるように弾く中で、ふと思い立ったことがある。
今このバンド、ギター3人いるのか。
これはただ初音ミクに合わせて弾いていると、一歌と被るかもしれない。ただでさえ自己主張の少ない彼女のギターだ。それを食いかねない。
なら。
一瞬だけ初音ミクと視線を合わせて、彼女が笑みを浮かべて頷いたのを確認する。
息を吸い込む。弦を弾く。
ギターを弾いていて、この曲が彼女たちにとって大切な曲なんだろう、と言うことはなんとなく伝わってきた。
なら、私がその間に入るのではなく、彼女たちを引っ張る枠まで行ってしまえば。
真ん中が。折れない中心部が出来上がってしまえば、微妙に合わなかった彼女たちの演奏も不思議と合うようになる。
集中しながら弾いていると、初音ミクと視線が合った。
きっと、私がいなければ、彼女がやったのだろうな、と思った。
〈♪〉
「一緒に弾かせてくれてありがとう。4人の大切な曲だってこと。伝わってきたよ」
初音ミクと私が入って弾き始めた曲は、途中で誰かがフレーズを忘れていて動きが止まる、と言ったこともなく、最後まで弾き切ることが出来ていた。
一歌や咲希はともかく、乗り気ではなかった穂波や志歩も演奏しきることが出来たのは、そう言うことなんだろう。
「すっご~い! やっぱり、せなちゃんってどこかのバンドに所属してるプロ!?」
「いや、違うけど」
この演奏技術を身に着けるまで、努力と言う努力をしていない私は、そう褒められても後ろめたさを覚えるだけだ。
前までだったら、何とも思わなかったはずなのだが。
いや、もしかしたら、何となく後ろめたさを覚えることを予感していて、私のこの体を使ったことはしたくなかったのかもしれない。
咲希の誉め言葉を右に左にと受け流していると、志歩と目があった。
やけに鋭い視線。私の演奏に不備でもあっただろうか。
そう思って少しの間視線を合わせていると、彼女の方から目を外された。
「...もういいでしょ。早く帰り方教えてよ」
そういえば、彼女は自分の意志でここにいて演奏をしているわけではなかった。
志歩にそう言われた初音ミクが口を開こうとすると、横から咲希が割り込んできた。
「待って。しほちゃん、ほなちゃん、いっちゃん! みんなで...みんなで、バンド、やってみない!?」
「バンド?」
「...本気?」
「だって、さっきのすごく楽しかったもん! しほちゃんは楽しくなかった?」
バンドをやろう、と提案した咲希に、私に向けていたような鋭い視線を向ける志歩だが、咲希に逆に聞き返されて答えに詰まった。
「...私は、あんなの...」
「ミクちゃんは、大切な曲だってわかったって言ってくれたでしょ? だから、2人も本当は、弾いてて楽しかったんじゃないかなって思って...!」
だから、バンドをやりたい。そう続けた咲希だが、帰ってきた返事は求めていたものではなかった。
「私はいい。やらない」
志歩はそういうと、ストラップを外して元あった場所に戻した。
一歌たちに背を向けたまま帰る準備を始めた彼女に、一歌が手を伸ばしかけて降ろした。
そして、穂波もスティックをその場に置いたまま、椅子から立ち上がった。
「ごめんね、私も...」
「...ほなちゃん...」
ただ、この場で強引に誘ってもいい結果にならないことを理解しているのか、それともただ嫌がるなら無理強いは出来ないと思っているのか。咲希と一歌はそれ以上何も言うことはなかった。
今度こそ志歩は初音ミクから帰り方を聞き出して、スマホを取り出す。
「じゃあね」
「...あ、わ、私も...」
返事を聞く気がないほどの早さで、志歩はセカイから出ていき、穂波もそれに続いていくように出て行った。
そうして静かになった教室に、咲希のため息は響いた。
「やっぱり、みんなで一緒にいるのは無理、なのかな...?」
「...」
咲希と一歌が諦めモードに入っているのを、初音ミクが不思議そうに、首を傾げていた。
「諦めるの?」
「...え?」
「あの2人とも一緒にいたいんじゃないの?」
「...うん、そうだね。諦めちゃったら、バラバラのままだもんね!」
絵名なんかに、同じような状況で『諦めるの?』なんて聞いたら『はぁ!?』が返ってくるだろう。
まぁ、絵名の場合はそこから奮起して立ち上がるのが恒例なのだが。
そして。一歌が初音ミクに『なんでここにいるの?』と質問をして、まとめてしまえば一歌たちが本当の想いを見つけられるように手伝うため、と告げたところで、今日は解散となった。
初音ミクたちは、基本的にはセカイを構成している人の想いを見つけられるように手助けする存在。
だとするならば、私のセカイにいる初音ミクたちは、なんなのだろうか。
そして、私の存在意義は。
次回の更新は、ライザ3が出る前に仕上がればその時に。
仕上がる前にライザ3が出た場合は、私がライザ3をトロコンした後になります。
モカの星5だぁ〜!(別ゲー)