東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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お久しぶりです。



第6話 Wanting to start again?

今の所、ただ真正面からぶつかっていくだけでは少し難しいと言わざるを得ないだろう。

穂波にしろ志歩にしろ、なぜ仲の良かったはずの一歌と咲希を避けるのか。それを理解しなければ何も始まらない。

 

ただ、恐らくだがそのことを咲希は知らないだろうし、度々気まずそうな顔で視線をそらす一歌だけが知っているのだろうな、とあたりをつけた。

 

セカイで演奏し解散した後、夕食を済ませ自室にこもってギターを鳴らす。

演奏に感情が乗る、と言うのを、目にしたのか耳のしたのか、記憶に残っている一文ではあるけれど、少なくとも私の演奏には何の感情も乗っていないだろう。

ただ上手なだけ。楽しくても、苦しくても、私の指は常に一定の動きを刻んでいく。

 

母親に随分と上手になった、と、たまたま自室にやってきた時にほめられはしたが、素直に受け取れなかった。

 

このまま弾いていてもいい気分にはならないな、とピックを置いてギターをスタンドにかける。

手入れを怠ったことはないおかげか、まだギターはきれいなままだ。

 

「...まぁ、まだ何年もたったわけじゃないから、それはそうか」

 

それに比べて、ピックを見ると塗装は剥げているし、角はつぶれていてボロボロだった。

買い替える時期というのはよくわかっていないが、そろそろだろう。

ギターと一緒に与えられた道具の1つだから、どのタイプのものを選んだらいいのか分からない。

まぁ、最終的にどれも一緒、と私の場合はなりそうだけど。

 

床に座って引いていたので、足を延ばそうと椅子に座って、スマホを触る。

魅せるパフォーマンスの研究をするわけでもなく、曲を作るわけでもなく、誰かを笑顔にする練習をするわけでもなく。

やることのない私が代わりに選んだのは、ライブハウスに乗り込んで、即興でバンドをすることだった。

ただ、それも少し前に比べたら億劫になったのは間違いない。

前回、ギターである私だけが目立って、メンバー全員に白い目で見られたのは記憶に新しい。

 

しばらくスマホを触っていて、この辺りのスタジオには、大体乗り込んだことが分かった。

同じ場所にもう1回乗り込む、というのは何だか嫌な感じがして、私はスマホを机に置く。

しばらく観客は、扉の向こうの絵名だけかな、と考えていると、スマホが震えた。

 

「咲希から...?」

 

メッセージアプリを開くと、内容は『一緒にバンドしない?』だった。

それに対して、『手伝うだけなら』と返信を送ろうとして、止まる。

 

「...今回は、ただ見ているだけじゃダメなのかな」

 

これまではどのグループにも、手伝いはしたものの、メインになって活動はしてこなかった。

だが、ここにきて関わる必要が出来たのかもしれない。

失敗しても、恐らくだけどループする。この週は、情報収集にあてるのが良いのかもしれない。

 

私は送信しかけていた分を消して、新しく文字を打ち込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

「あれ、また来るとしたら一歌たちだと思ったのに」

 

『Untitled』を再生してやってきたセカイにて、最初に目に入ったのは、目を丸くして驚いている初音ミクだった。

まぁ確かに、言ってしまえば部外者である私が最初に、もう1度来るとは思わなかっただろう。

 

ただ、私も自分からこのセカイに来ようと思ったわけではない。

 

「咲希に誘われて」

 

「咲希に? へぇ...面白い試みだね」

 

妙に気になる言い方をするものだ、と聞き返そうとしたところで、後ろから声が聞こえてきた。

 

「本当にまた来られた...! ていうか、また来ちゃってよかったのかな?」

 

「ミクちゃんも『また来てよ』って言ってくれたし、きっと大丈夫だよ!」

 

振り返ると、そこには一歌と咲希が来ていた。

 

「ミクちゃん、瀬名ちゃん! 昨日はありがとう! 2人のおかげですっごく楽しかったよ!」

 

「急に来ちゃったけど、大丈夫だった?」

 

私が咲希に手を握られ上下に振られている中、一歌が心配そうに初音ミクに尋ねていた。

もちろんそれに嫌な顔をしない初音ミクは快活に頷いて、首を傾げる。

 

「志歩と穂波は?」

 

「ちょっとまだ一緒には来られないけど...。きっといつか来てくれると思う!」

 

一歌が気まずそうに眼をそらす中で、咲希が初音ミクにそう言い切る。

それは、時が解決してくれるような他人任せの『きっと』ではなく、自分から動こうとする『きっと』だった。

それを初音ミクも察したのか、笑顔を浮かべた。

 

「楽しみにしてるね」

 

「でね。今日はミクちゃんに伝えたいことがあってきたの!」

 

「伝えたいこと? 何?」

 

咲希からの言葉に、初音ミクはこちらを一瞬見てから首を傾げた。

まぁ、さっき私が言っちゃったし、流石に察してはいるか。

 

咲希から告げられた時、初音ミクは知ってたと素直に言うのか、それとも演技をするのか、どっちなんだろうと考えていると、突然咲希に抱き寄せられた。

 

「なんとアタシたち、バンドを始めたの!」

 

咲希の右脇に抱えられるように急に寄せられた。

空気が音もなく口から漏れ出たが、咲希の左脇を見ると、そこには一歌も同じように抱えられていた。

 

「あはは...咲希がごめんね...」

 

「...気にしないで」

 

恐らくだが、この先咲希や一歌と行動していくたびに、こんな感じになるのだろう。

一歌もなされるがまま、と言った感じだ。今のうちに慣れておこう。

 

咲希に宣言された初音ミクは、1つ頷いて笑った。

 

「ふふっ。やっぱりそうなるんじゃないかって思ってたよ。まぁ、瀬名も巻き込んで、っていうのは予想外だけど。この前の演奏はよかったし」

 

「えへへ、ありがとう! でも、もっとちゃんと弾けるようになりたいな。あたしはピアノは弾けるけど、シンセのことはよくわからないし...」

 

電子ピアノも色々な音を出せるが、シンセサイザーは色々な音を合成して出すものだ。

普段音楽を聴いていて、ギターやドラム、ベース。それに加えて電子ピアノを想像しても、どのパートから鳴っているのか想像つかないような音は、基本的にシンセサイザーから出ていると考えても良い。

 

基本的にシンセサイザーにはある程度のプリセットが揃えられているので、合成を試して音を作り出すのは、慣れてからになるだろうか。

 

「私も、コードと簡単なメロディくらいなら弾けるけど、それくらいだな」

 

「これからいっぱい練習しなくちゃね!」

 

気合十分、と言ったような2人を見て、初音ミクがそうだ、と声をあげた。

 

「それじゃあ、今日は5人で練習しない?」

 

「5人?」

 

初音ミクの提案に、一歌が首を傾げる。

まぁ確かに、今この場には4人しかいないので、一歌の疑問ももっともだ。

 

「いち、に、さん、よん...あれ? あともう1人は?」

 

咲希も当然ながら同じ疑問に至ったようで、指差しで数えて人数を確かめている。

もちろん、5人と指定した初音ミクもここに4人しかいないのはわかっていることなので、扉の方を見た。

それと同時に、私たちの背後から声がする。

 

「ここにいるわ」

 

揃って私たち3人が振り返ると、そこには初音ミクと同じタイプの制服を着た、ピンク色の髪色が特徴的なバーチャル・シンガー、巡音ルカがいた。

 

誰かが立っているのはなんとなく把握していたが、まさかそこに立っていたのがルカだったとは。

...私のセカイにいるあいつとは、全くもって別物の気配をまとっているせいで、気づけなかった。

 

「こんにちは」

 

「ル、ルカ...!?」

 

「ミクちゃんだけじゃなくて、バーチャル・シンガーのルカさんもいたの?」

 

まさに予想もしていなかった人物の登場に、一歌も咲希も目が点だ。

咲希の問いには、初音ミクが1つ頷いて口を開いた。

 

「うん。ルカはよくここで私と一緒に演奏してくれるの。私のバンド仲間...みたいな感じかな。ギターもシンセも出来るから、2人にみっちり教えてくれるよ」

 

丁度今求めていた人材だ、と2人はテンションが上がっているが、教える対象に私が入っていないのはどういう事なのだろうか。

 

「瀬名は別に教えなくても大丈夫でしょ?」

 

さいですか。

 

「ルカに教えてもらえるなんて...!」

 

「...覚悟はいい?」

 

「ス、スパルタでも頑張ります!」

 

「フフ、冗談よ。一緒に頑張りましょうね」

 

一瞬厳しい鬼コーチ、のような雰囲気を見せておいて、へこたれなさそう、むしろどんとこいと言うような様子を見て、顔を緩めた。

 

明らかにホッとしたような表情を浮かべる咲希を見て笑いながら、辺りを見渡して口を開く。

 

「ミクから聞いてた話だと、あと2人いるはずなんだけど」

 

それを問いかけられた一歌は明言できず、ルカも複雑な事情があるのだと理解した。

 

「本当はあと2人、幼馴染がいるんです。アタシたち、昔はすっごく仲が良かったんです。毎日一緒に遊んでて。でも、アタシが病気で入院して戻ってきたら、しほちゃんとほなちゃんがあんまり話してくれなくなって...」

 

簡単な説明を咲希から受けると、ルカは顎に手を当てながら眉を八の字にして首を傾げた。

 

「...2人に、何かあったのかしら?」

 

ルカがそう考えるのは一般的だし、何かがあったのは間違いないだろうけれど、問題はその何かがわからないという事だった。

咲希から少し話は聞いていたが、取りつく島もないといった様子。どうしてそんなことになっているかは、恐らく。

 

「大事な友達だから、うまく話せないのかもね」

 

初音ミクと考えている事が同じだったが、恐らくそういう事なのではないだろうかと思っている。

ぶっちゃけ、明確に喧嘩していないのに、一方的に距離を置こうとするのなんて、後ろめたい気持ちがあるか、巻き込みたくない何かがあるかのどっちかだと思ってる。

 

細かいのであればまだあるかもしれないが...大抵はこの2択だろう。私の独断だけど。

 

「でも、2人にとって穂波と志歩が大切な友達だって言う事に変わりはないんでしょ?」

 

「それは、もちろん」

 

「それなら、いいんじゃないかな」

 

「...ふふっ。2人にそう言ってもらえるとなんだか本当にそんな気がしてくるね!」

 

どうやら初音ミクの励ましで、咲希は立ち直ってくれたようだ。

 

尚、私は一切の発言をしていない。

ここにいる意味はあるのだろうか。




ある程度投稿できるまでは進んでいたんですが、切りのいいところで、切りのいいところでと伸ばしていたら栄養失調でダウンしました。

カップ麺だけだと人は倒れます(?)。
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