東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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アッ! もう1か月...。




第7話 I don't give a damn

バーチャル・シンガーのルカも加えて、5人で練習頑張ろう、と練習を始めて1時間。

初音ミクは一歌の事を教えており、ルカは咲希の事を教えているので、私は手持無沙汰になっていた。

 

なんだこの、孤独感は。

 

仕方がないので、咲希が「難しい~...ルカさん、全然できなくてごめんなさい...」と謝っているのを聞きながら、私は誰にも気づかれないように教室を出た。

 

このセカイにも、しっかりと屋上と言うものは存在しているらしく、屋上に出れば満点の星空を拝むことが可能だ。

 

星と言えば、このセカイの星空はまだ常識の範囲内...と言うには綺麗すぎるが、まだ範囲内だろうけど、私のセカイの中にある星は、これといった変化は起きていない。

それこそ、星が落ちてくる、とか。

 

そのセカイでの問題を解決すれば、そのセカイを模しているらしい星が、それぞれの色で光るだけ。

 

「...わかるのは、全部が光った時だけ?」

 

さっさと結末を知ってしまいたい、という気持ちもあるけれど、いつまでも問題を先送りにして寝てしまいたい、という気持ちもある。

結局私はいつまでたっても、すぐ逃げる根性なしなのだ。

 

辛いことからは出来るだけ逃げたい。楽な方に進みたい。

 

1度見たことはすぐ覚えて模倣も出来て、それでいて忘れることもないという、いかにも便利な体を持っているくせして、私は持て余している。

 

気持ちに体が付いてこないような、じれったい思いをしている人にこの体をあげてしまいたい、と思うのは私の傲慢だろう。

 

つい持ってきてしまったギターを構えて、スマホで曲を検索する。

 

星空に関連している曲で有名どころを調べて、1番上に載っていた曲を頭に叩き込む。

 

曲の題名は『SPiCa』。

 

誰かと眺めた記憶はないけれど、誰かと眺めた曲を歌う。

この曲を歌っている人も大体そんな感じだろ、と私は自嘲気味に口元を歪ませて、弦を弾いた。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

そのあとも適当に弾いていると、誰かが屋上にやってくる気配を感じた。

 

「ここにいたんだ」

 

その声に振り向いてみれば、そこには初音ミクがいた。

 

「何?」

 

「もうみんな帰っちゃったよ。気づいたらいないから、一歌たちも心配してたし」

 

何も言わずに屋上に来ていたのは確かに私のミスだ。

スマホの時計を見ると、既に2時間は経過していた。

 

思ったよりも長居してしまった、とピックをギターのネックと弦の間に挟む。

 

「帰るの?」

 

「うん、まぁ」

 

後は教室に置いてあるギターカバーを回収して、セカイから出るだけ、といったところで、初音ミクがすれ違いざまに私にこう告げた。

 

「向こうのミクにも、聞かせてあげてね」

 

思わず振り返ると、既にそこに初音ミクの姿は無かった。

 

初音ミクの言う、『向こうのミク』というのが誰の事を指しているのかは不明だが、もしかしたら初めてかもしれない。

恐らく私だけが知っているであろう、別のセカイの事を言及されたのは。

 

どこか気持ちの悪さを抱えながら、私は誰もいない教室まで戻り、スマホを操作してセカイから出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

セカイから出てきた私は、そのまま自室のベッドに倒れこんだ。

現実世界へと帰って来てから、絵名が部屋にいたらどうしよう、なんて考えたけれど、さすがに絵名も人の部屋に入り込んでどうこうするような非常識な子にはなっていなかったようだ。

 

...そうだ、絵名の異常性も気になる。

 

私のこれまでの目的を優先しているせいで他の問題を無視しているような状況になってしまっているけれど、絵名の事も解決できるのならしておきたい。

 

これまでとは違う何かが起きている、そんな予感。

 

「言ってしまえば、このセカイは4つ目。計算通りなら、このセカイを含めればあと2つ。そんな中で、絵名があそこまでおかしくなった」

 

この問題を解決せずに次に進んでしまえば、更に絵名がおかしくなってしまうのではないだろうか。

もしくは、絵名だけでなく、彰人も。

 

現時点で様子のおかしいのは絵名だけ...いや、まだいる。

 

「忘れてた...なんで忘れてたんだろう。みのりも、まふゆもおかしい」

 

異変が起きていたのは、前回のみのりたちのセカイの時から、か。

私が関わった人に限って異変が起きているけれど、その点で見ると、最初に関わった4人に異変が起きていないのは妙だ。

 

顔を合わせていない、と言うか、見かけてないから気づけていないだけなのかもしれないけど。

 

気になるなら会いに行ってみようか、と一瞬思うものの、ぶっちゃけ何かあったら怖い。

 

まふゆに関しては、ぶっちゃけ私に依存しているような節が見えたから、納得できなくもないんだけど。

みのりは、恐らく私が死んだ様子を目の前で見ているのだろうし。それでおかしくなる可能性はあるだろう。

みのりはあの4人の中でも特に、多感な少女だった。

 

『Vivid BAD SQUAD』の4人に関しては、特にこれといっておかしな点はなかったと思うけど...私の考えが及んでいないだけで、何が起きていてもおかしくない。

 

「...まずは、絵名から確認してみよう」

 

そうして私は、絵名の部屋へと向かった。

 

今は昼過ぎ。

絵名の時間割を把握しているわけじゃないけど、今日は平日だ。さすがにまだ寝ているだろう。

 

そう考えながら部屋の扉をそっと開けると、絵名は楽しそうに椅子に座りながら絵を描いていた。

 

「...絵名」

 

「あ、瀬名。どうこの絵。結構自信作なんだけど」

 

絵名の背中で見えなかった立てかけられている画用紙には、恐らく私が描かれていた。

 

私を見たことがある人なら、すぐに私だとわかるような、それほど鮮明に、まるで生きているように描かれている。

一瞬、これほどの技術があるのに、父親は何を考えてあんなことを告げたんだろう、という考えが頭をよぎったが、頭を振ってその考えをどこかにやる。

 

これも異変の1つだ。

 

「...うん、上手。これ私?」

 

「瀬名の事を考えながら書いたんだけど、伝わってよかった。少し前から頭が冴えてるのよね...まるで生まれ変わったみたい」

 

絵名はそれだけ言うと、私から視線を外して筆を動かし始めた。

 

数日前までは、私の姿が見えないだけで精神が不安定になるほどだったのが、こうまで元に戻るとは。

 

「...じゃあ、頑張って」

 

「ええ。完璧に仕上げたら、また見せてあげる」

 

私は最後に絵名とそれだけ言葉を交わして、扉を閉めた。

 

これは、元に戻るというか、おかしくなっていないだろうか。

別の方向におかしくなっている、というか。

 

今の絵名を父親が見たらどう思うか、とか、ニーゴはどうなってるのか、とか。

色々と浮かぶことはあるけれど、まずは他の状況を整理しなければ。

 

自室へと戻ってきた私は、続けてスマホと取り出してメッセージアプリを開いた。

 

メッセージを送る相手は愛莉。

内容は適当に考えた、『最近どう?』。

 

この私的に何気ないフレーズから、愛莉の近況を聞き出して異変を探る。

私のスマホの連絡先には、花里みのりの名前も、桐谷遥の名前も日野森雫の名前も存在しない。

 

存在しないったらしない。

朝比奈まふゆの欄があるなんて私は信じない。

 

しばらく現実逃避をしていると、愛莉から返信があった。

 

『愛莉:瀬名から連絡なんて、珍しいじゃない。私の方は特に変わらず、アイドルとして歌って踊ってるわ。瀬名の方はどうなの?』

 

歌って踊ってる、か。

どうやらこの世界の愛莉は、バラエティに出されることなく王道の道を進めているようだ。

愛莉の事だけを考えるなら喜ぶべき、なんだろうけど、なんだか複雑な気分だ。

 

恐らくは、学校でみのりたちとグループを組むのが正しい世界線。

彼女たちのセカイと関わった時はそういうルートだったのだから、ほぼ間違いないだろう。

 

『瀬名:特には。退屈だから、愛莉の話を聞こうと思った』

 

さて。

愛莉から話が聞ければ万々歳。もっと欲を言えばみのりたちの話を聞けないかな、とスマホを見ていると、愛莉から返信がきた。

 

『愛莉:面白いかは分からないけど、そうね。最近仲のいい友達がいるんだけど、グループを組んでしまおうか、なんて話になってるわ。事務所もそれぞれ違うから、いっそ抜けてフリーで...なんて、冗談まじりだけどね』

 

...それ、冗談だろうか。

 

 




バレテナーイ...バレテナーイ...
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