東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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遅れを取り戻さんと1万文字ぐらい書くつもりでした(過去形)。

1万5000とか書いてる人、すごいですねぇ。


第13話 Have a clean slate

ついにやってきた、咲希と一歌と、それから志歩にとっても勝負の日。

集合場所はスクランブル交差点に指定されており、今は志歩と一緒に2人が来るのを待っているところだった。

 

「...それにしても、あの2人、本当に仕上げてきたのかな」

 

咲希たちを待っている間、お互いに黙っているのを気まずく感じたのか、志歩が唐突に話を振ってきた。

ぶっちゃけそれに関しては、この間も思ったけれどわからないというのが大きい。何せセカイで練習していたようだし。

 

「それを確かめるための、今日でしょ」

 

「それはそうなんだけど...」

 

ここ数日志歩と話したことで思ったのが、彼女もきっかけを欲しているだけなのではないか、ということ。

彼女自身の性格が災いして、直接昔のように仲良くしよう、なんて言い出すことはできずに、向こうから来てくれたのをこれ幸いとばかりに、課題を提示する。

 

私の妄想だけど、いい線いっているのではないだろうか。

 

そんなことを考えていると、人ごみの向こうで、恐らく同級生と歩いているのだろう、穂波の姿が見えた。

 

「...あー...ま、いいか」

 

「?」

 

せっかくだし、と彼女を無理やりこの場に連れてきて、この後の演奏会にも顔を出してもらおうと考えたが、やめた。

私のおかしな挙動を見ていた志歩が首をかしげていたが、これに関しては私が介入してどうこうする問題じゃない。

 

人間関係は、手遅れじゃないなら当人だけで解決するものだ。

 

「お待たせ!」

 

それ以降会話のなくなった私たちの間で妙な空気が流れること数分。

咲希の明るい声が聞こえてきた。

 

声のする方向を見てみれば、普段よりもテンションが高そうに見える咲希と、もう既に緊張しているように見える一歌がこちらに歩いてきていた。

 

「今日はよろしくね、しほちゃん!」

 

「わかってると思うけど...少しでも失敗したらバンドの話は無しだから」

 

「もちろん、わかってる」

 

「そう。...じゃあ、スタジオ行こう」

 

まるであまり親しくない間柄のような挨拶をした後、志歩はさっさと私たちに背を向けて歩き出してしまう。

慌てたようにその後ろ姿を追いかける咲希と一歌を一瞥して、私は背後を盗み見た。

 

そこには、先ほど見かけた時の時刻を考えるとそこにいるのはおかしいであろう、穂波が1人で立っていた。

 

羨ましそうで、後悔しているような顔で、穂波は3人の背中を見つめていた。

彼女たちと穂波の間には、私が立っているというのに、私の姿は視界に入っていないようだった。

 

「...」

 

そこから1歩を踏み出すだけで2人...志歩も加えて3人は歓迎してくれるだろう。

けど、その1歩がひどく重い。後ろに進むのは羽が生えたように軽いのに、前に進むのは鎖で縛りつけられたように動かない。

 

そういった経験は...今世ではなかったけど。

 

結局その数十秒、私と穂波の視線が交わることはなく、私は彼女に背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<♪>

 

 

 

 

 

 

 

志歩がいつも使っているというレッスンスタジオ。

上昇志向の強そうな志歩が選ぶだけあって、機材がそれなりに充実している場所だった。

ここなら、この後もセカイ以外での練習場所を選ぶ必要は無さそうだ。

 

...セカイで練習できるのに、わざわざスタジオを借りる必要があるかどうかは、今後出てくるだろう。

 

各々持ち込んだ楽器の調整を終えたタイミングで、しゃがんでいた志歩が立ち上がって口を開いた。

 

「それじゃ、始めるよ」

 

「うん、よろしく」

 

「オッケー! いっちゃん、しほちゃん、やろう!」

 

2人の準備が終えていることを確認した志歩は、今度は私の方を見て1つ頷いてきた。

それを見た私は、手元に持っていたドラム用のスティックを頭上に掲げて、喉を震わせる。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー」

 

私のカウントに合わせて、3人が一斉に音を奏でる。

 

ぶっちゃけ、驚いた。

それは志歩も同じようだったようで、少し目を見開いていた。

 

先日セカイで演奏を聞いた時と比べて、安定感が違う。音の伸び方と表現すればいいのだろうか。

ブランクを加味したとしても、身内で楽しむレベルのセカイでの演奏だったのに比べて、人に聞かせることのできるレベルにはギリギリなっているか、という具合だ。

 

これなら、と思いかけた瞬間、恐らく私だけがキーボードの異変に気が付いた。

楽器の問題じゃない。演奏者の問題だ。

咲希の演奏技術ではなく、彼女の体調。練習をどれほど頑張ったのかはわからないが、そのぶり返しがここに来ているのかもしれない。

 

「...ッ! せ、せなちゃん...?」

 

「もう少し、頑張ろう」

 

彼女の容態を考えれば、今すぐ演奏を止めさせるのが1番。だけど、彼女の気持ちもわかる。少し見せてもらった楽譜通りなら、もう少しで演奏は終わる。

 

結局私が選んだのは、咲希を後ろから支えることだった。

咲希には左手だけに集中してもらい、体を支えながら私は右手を担当する。

演奏すること自体には問題ない。まぁ、志歩にはこれまでの演奏だけで判断してもらおう。

一応、ミスしなければ問題はないのだから。

 

私が演奏に加わったことに志歩も一歌も驚いた顔をするが、すぐに咲希の表情を見て演奏に集中する。

そのまま演奏自体は何事もなく終了し、咲希は力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 

「咲希、大丈夫っ?」

 

「もしかして、具合良くないの!?」

 

演奏を終えると同時に、志歩と一歌も慌てたように咲希に駆け寄る。

咲希はそんな2人を安心させるように、力なく微笑んだ。

 

「えへへ、アツくなりすぎちゃったみたい...でも、せなちゃんの力を借りちゃったけど、ミスは無しで演奏できたよ!」

 

「バカ、そんなことより...き、救急車...!」

 

「だ、大丈夫大丈夫。今日はただの風邪だから。.......ちょっとだけ横になっていいかな?」

 

志歩の心配性なところが見えたところで、咲希がそれを止めて、その場に横になり始める。

さすがに土足で歩き回っていた床に直接寝かせるというわけにもいかなったので、スタジオの方に椅子を借り、気休め程度のパーカーをしいて簡易的なベッドを作った。

 

先ほどまでは気合で誤魔化していた体調の悪さが一気に出てきたのか、顔を真っ赤にさせて横になっている咲希。

その姿を見て、志歩は慌てたようにスタジオの扉を開けた。

 

「ちょっと、色々買ってくる!」

 

恐らく冷えピタとか、薬だとかを買いに行ったのだろう。

一歌はその様子の志歩を見て、驚いた顔で志歩が出て行った扉を見ていた。

 

「...みんな、同じ気持ちだったってことだよ」

 

「...うん、そうだったみたい」

 

私がそういうと、一歌も優しく微笑んで、すぐに咲希の方を向く。

咲希のおでこには、タオルが乗っている。先ほど事情を説明して椅子を借りた後、スタッフが冷たい水が入った桶と、タオルを持ってきてくれたのだ。

全く、感謝してもしきれない。

 

その数分後、志歩が息を切らして帰ってきて、冷えピタや薬、飲み物などを大量に買ってきたのを、面白い人だなぁと私が眺めていると、咲希が目を開けた。

 

「咲希。...どう? 少し楽になった?」

 

「...うん、ありがとう。落ち着いてきたよ」

 

ひとまず、といった様子で大きなため息を志歩が吐き出している中で、一歌は咲希の肩付近に顔を埋めた。

 

「ずっと一緒に練習してたのに...体調のこと気づけなくて、ごめん」

 

「...最初に無理させるようなこと言った私が悪い」

 

一歌の言葉にハッとしたような志歩の顔は、すぐに罪悪感に塗りつぶされた。

 

「ううん。アタシが勝手に頑張りすぎちゃったのが悪いんだよ」

 

そこで息を1つ吸い込んだ咲希は、天井を見ていた視線を横に動かして、志歩と一歌と、最後に私を見て笑った。

 

「それに、ちょっと無理しちゃうくらい...今日は楽しかったの」

 

「咲希...」

 

一緒に合わせた時間はおよそ2分もない。

それでも楽しかったと断言できるのは、彼女たちだったからなんだろうな。

 

「うん。...私も、今日一緒にできて嬉しかった。私、志歩に嫌われたって思ってたから、もうこんな風に一緒に何かしたりできないと思ってた」

 

「...別に、嫌いになんて...」

 

街中でしていたのなら、喧騒にまぎれて届かなかったであろう志歩の言葉。

その言葉は、静かなスタジオにはやけに響いた。

 

先ほどよりかは体が楽になったのだろう。咲希は上半身を起こして、志歩の方をまっすぐ見た。

 

「ねぇ、しほちゃん。アタシが入院してた間に、何があったの?」

 

その咲希の言葉に、志歩は口を開いては閉じてを少し繰り返して。

目を閉じて数秒した後、志歩はようやく語りだした。

 

ただの、幼馴染が大切な1人の少女の、過去の話を。

 

 

 

 

 

 

 

 

<♪>

 

 

 

 

 

 

1人でいるのが好きだった、と志歩は語る。

 

親しい人といるのは苦ではないけれど、そうでもない、言ってしまえばどうでもいいような他人とまで一緒にいようとは思えないのだと。

 

その性格が災いしたのは、志歩が咲希たちとクラスが離れてからすぐだったと言う。

同じクラスの子に、『一緒に帰ろう』、だとか、『一緒にお昼を食べよう』だとか。色々と誘われていた志歩。ただそれを彼女は全て断った。

ただ1人でいるのが好きだったから。

 

ただそんなことを知らないクラスの子は、それを機に志歩から距離を取る様になった。

志歩が気取っている、と評されているのを聞き流す日々。そんなある日、幼馴染である一歌も同じように悪く言われているのを聞いてしまった。

 

志歩には、我慢ができなかったのだという。

 

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

 

 

「...私は別にいい。でも、私のせいで、一歌たちまで悪く言われるのは...イヤだから」

 

「だから、ずっと1人でいようって思ったの?」

 

咲希の言葉に、志歩はただ首を縦に振った。

 

それを見た一歌は、そんなの、と声をあげる。

 

「私にも言ってくれたら...!」

 

「...言ったら一歌は心配して、絶対様子見に来るでしょ。そしたらもっと酷くなる。だから...」

 

良くも悪くも、学生であるポイントが出ている。

大人であれば、関わらないという、割り切りができるのに対して、彼女たちはまだ精神が成熟していない子供だ。

気に入らない人間は、排除しようとする傾向にある。大多数の意見が自身と同じなら、それは猶更だ。

 

それは、私の置かれてる立場も同じだ。

 

そんな志歩の話を聞いていた咲希は、安心したように笑顔を見せた。

 

「...よかった。やっぱり、しほちゃんも変わってなかったんだ。いっちゃんたちのことが大切だから、我慢してたんだよね」

 

バツの悪そうな顔をそらす志歩を、一歌はまっすぐ見つめる。

 

「志歩。私は、誰に何言われても、志歩と友達でいたいよ」

 

本心も本心。そんな一歌の気持ちを聞いた志歩は、軽くため息を1つ吐き出して、観念したような声を出した。

 

「やっぱり、こうなるよね」

 

志歩も内心では、今日の約束を取りつけてしまった時点で、今のような状況になることは察していたんだろう。

 

志歩は苦笑しながら、自身の手のひらを見つめながら口を開く。

 

「本当に一歌たちのことを考えてるなら、セッションなんかしなきゃよかったんだ。...あぁ、本当に。でも...私はちゃんと、警告したから。もう___知らないからね」

 

その言葉は、今までのような2人を突き放すような言葉ではなく、その逆を示す意味だった。

そのことを理解した2人も、喜色を顔に出しながら、咲希が確かめるように問いかける。

 

「しほちゃん、それって...!」

 

「...一緒にバンド。...やらせてよ」

 

「...! もちろんだよ、やろう志歩!」

 

「うん」

 

「やったぁ! しほちゃんと一緒にバンドできるよ、いっちゃん!」

 

「うん、やったね!」

 

ひとまずの目標達成、ということで、咲希と一歌がハイタッチしているのを、志歩は腕を組みながら、苦笑して眺めていた。

 

「じゃあ、咲希はまず体を治すこと。...穂波のことは、そのあと考える。いい?」

 

この後すぐ咲希が興奮して穂波も、と言い出すのを察したのか、志歩が先んじてまとめていく。

 

「は~い。...ふふっ」

 

ようやく第一段階、といった感じだ。私も軽く息を吐き出すと、志歩が今度はこっちを見た。

 

「あ、それと私たちの指標になってくれる人もいるから。瀬名が私たちの目指すべきレベルを見せてくれる」

 

「それは、心強いね」

 

「せなちゃんも一緒にバンド、しよー!」

 

ぶっちゃけそのことに関しては、この3人はともかく穂波の心が折れないか心配なんだが。

...まぁ、なるようになるか。




前回のニーゴイベで、初めてPreciousの無料単発で星4出ました。

恒常だからと追わないでいた絵名の星4が出て興奮してました。
カラフルパスが3種類になってからずっとPreciousでしたが、これで2枚目の星4です。
1枚目が瑞希...2枚目は絵名...。

やはりみずえなか...。いつ出発する? 私も同行しよう。
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