誤字報告ありがとうございます。いつも助かっております。
「一応理由を聞いても...いい?」
「質問に質問を返すようだけど。それでいいと思ってるの?」
私が特に悩んだ様子もなく断ったのを、一歌も『だろうな』という顔で受け止めていた。
私が理由を離さずとも理解しているだろう。言葉にしづらくても、一歌だけじゃなく、咲希も志歩もわかっているだろうこと。
バンドのレベルを手っ取り早く上げるのなら、今すぐにでも全体練習を始めたいのなら、確かにその方がいいかもしれないけど...それよりも優先するべきものがあると私は思う。
技術を苦労もせずに身に着けてしまう私だからこそ、猶更思うのかもしれない。
「だけど、もう一度一歌の口から誘われたら、私は入る。ドラムも始める。だから、これが最後」
「...うん。わかってる。さっきの事は忘れて」
直接は一歌に告げていないけれど、私が言いたいことが遠回しに伝わったのか、一歌は苦笑しながらそう呟いた。
きっと、一歌にとっても『言って見ただけ』のレベルの話だったんだろう。
穂波との件だって、一歌の中では既に答えが出ている。
「私は、みんなと一緒にいたい。けど...。咲希は、穂波の今を尊重してバンドに誘うのをやめた。志歩は、そんな咲希を見て、今のままでいいのかと、穂波と話をしに行った。でも、私は? 私には、何が出来るんだろう...」
穂波の為に。ひいてはみんなのために何かしたい。だけど、何をしたらいいのかもわからず、その場に立ちすくんでしまっている。そんな一歌の想いが、痛いほど伝わってきた。
少し、羨ましく感じる。
「一歌はもう、本当の想いを見つけられてるんだね」
「え...?」
「『みんなで一緒にいたい』って。その想いを受け止めて、大切にしてあげてよ」
「...想いを、大切に...。うん。そう、だね。そうする」
それだけ呟いた一歌は、自分のギターを構えて、ピックを手に取った。
「私、4人で一緒にバンドしたい。また一緒に笑える日が来るならバンドじゃなくてもいいかもしれないけど、でもあの時。みんなで久しぶりに演奏した時、すごく幸せだったから。...まだその何をしたらいいかは、わからないけど」
「じゃあ一緒に考えようよ一歌。4人でバンドをやるためにどうすればいいのか。ここには瀬名もいるし」
「そうね。私たちも、何でも手伝うわ。瀬名もいるし」
初音ミクもルカも、私の事を頼り過ぎではないだろうか。
今パッと思いつくのだって、私がドラムをやって、穂波をあおってどうにかしようみたいな微妙な案ぐらいだし。
一歌の話を蹴っといて私がドラムをやる案を出すのもどうかと自分でも思う...。あまり期待しないでほしい。私の頭は記憶力に特化しているのだ。
「ルカ...そっか、瀬名もいるんだし、百人力だよね」
おーい。
「じゃあ、早速考えようか」
ひとまず手に持っていた楽器を置いて、一歌と初音ミクは腕を組んでうんうんと考え始めた。
この場で必要なのは、今すぐ解決策を浮かべることではなく、連鎖して考えられるようなヒントのようなもの。
つまりは。
「このセカイって、どんなセカイなんだっけ」
「えっと...確か、初めてここに来た時に、私たちの想いで出来たって...あ、そっか...!」
私があえて一歌に問いかけると、一歌は『そうか!』といった表情を浮かべて辺りを見渡し始めた。
ルカがその一連の流れを見てニコニコしているのはまだいいのだが、初音ミクも手のひらに拳を置いて『あ!』みたいな顔をするのはどうなんだろう。
一歌が辺りを探しつつ、初音ミクがその後ろをついていくこと10分。一歌が黒板の粉受*1の上に置かれている星図を手に取った。
「これ...穂波の...?」
その星図を手に取って、考え込む一歌。
その状態のまま少しの時間が過ぎた後、一歌はバッとこちらに振り向いた。
「何をしたらいいのか、思い浮かんだかも!」
「じゃあ、善は急げだね!」
「うん! 部屋に戻って、ノートに計画を立てるから...今日はこれで!」
初音ミクの言葉に頷いた一歌は、そのままの勢いでスマホを操作して、セカイから出て行った。
星図があるのは知っていたけど、それを見て即座に穂波の物だとわかるのは、さすが幼馴染と言うべきか。
彼女たちの間で夜空の星が大きな意味を持つのは、まぁこの教室にあるものからでも察することが出来るが、まさかそれが最後のピースになるとは。
「上手くいくかな?」
「ええ、もちろん」
一歌がセカイから出て行ったあと、途端に不安な様子を見せる初音ミク。そこはもう、どっしり構えていてほしいのだけれど...それもこのセカイの初音ミクとしての特徴なのだろうか。
「うぅ~...なんだか私が緊張してきちゃった。ちょっと演奏しない?」
「ええ、いいわよ。瀬名も一緒にどう?」
「...じゃあ、一歌がギターを取りに戻ってくるまでなら」
そう言って私は、一歌のギターを手に取った。
結局この後一歌が思い出してギターを取りに戻ってくるのは、2時間後だった。
〈♪〉
『一歌がギターを取りに戻ってくるまで』なんて安請け合いをしてしまい、危うく次の日まで演奏する羽目になるところだった私は、その時に一歌から告げられたことを思い出していた。
『明日、穂波をここに連れてくるから』
ギターを恥ずかしそうに私から受け取った一歌は、最後にそれだけ言い残して再びセカイから出ていった。
明日...は普通に平日なので、恐らく放課後に無理やりにでも連れてくるつもりなんだろう。
こちらの押しが弱ければそのまま逃げてしまうような彼女だが、逆にこちらの押しが強ければ断り切れない彼女は確実にセカイへとやってくるだろう。
その際に一歌が具体的に何の話をするのかは不明だが...まぁ星図からヒントを得るのだ。それ関連だろう。
母親と2人寂しく夕食を済ませた後、自分のセカイで考え事でもしようかと部屋へと向かっていると、絵名とすれ違った。
「絵名」
「あ、瀬名。もうご飯食べ終わっちゃった?」
「うん。でも、言ったら準備してくれると思う」
「ホント? お母さんに聞いてみよ。ありがとね、瀬名」
絵名はすれ違いざまに私の頭を撫でて、廊下を歩いて行った。
...一瞬、別人かと思った。
ここ最近の、と言うか。この世界線の絵名は恐らく、これまでの世界線の影響を本人の意志とは関係なしに大きく受けた状態だった。
影響を受けた世界線と言うのが、恐らく私が最後の最後で事故った世界線、花里みのりたちの世界線なはず。
ひどく不安定にな精神状態だったはずなのだが...今にもスキップしそうなほどに上機嫌な絵名は久しぶりに見た。
「...まぁ、良いことではある、のかな」
状況の説明は不可能だが、悪いことではないはず。
ひとまず絵名の事を頭の片隅に追いやった私は、自室へと入りセカイへと移動した。
〈♪〉
「ということなんだけど」
「...そう言われても、出来る事なんてない気がするけど」
「繝代Φ繧ア繝シ繧ュ縺碁」溘∋縺溘>繧」
「あ、ちょうちょ!」
さて。
今までの経緯を簡単に説明した後の各々の反応なのだが、これは会話に参加してくれているのは1人だけという認識でいいのだろうか。
上から、リン、ルカ、初音ミクの順だ。
リンはまともに会話してくれるから好ましい部類だ。見た目は9歳くらいの女の子で、この中では外見年齢は1番若いが、対応力は1番上。
ルカに関しては何を言ってるのかわからない。仮にこのセカイに存在している彼女が機械の体を持っているのなら、喉がぶっ壊れているのだろう。ラジオの音声を使って喋るバンブルビーみたいな感じ...とはまた違うか。意思疎通がひどく難しい。
最後の初音ミクに関してだが、こいつはリンが来てからまともに会話できなくなってしまった。
初音ミクのまともな部分が分離して出来たのがリンです、と言われても信じるほどである。
「まぁ、そうだよね」
「この後上手くいくかどうかなんて、一歌の手腕にかかってる。そこに幼馴染の残り2人が合流するならまだしも、他人の瀬名が入ってもどうにもならない...なんなら悪くなるんじゃない?」
ぶっちゃけリンの言う通りな気がする。
一歌がセカイに無理やり連れてきたとして、そのあと必要なのは穂波の本音を聞き出すこと。
それは親しい彼女たちの前だからこそ漏れるもので、部外者である私がいては気になってそれどころじゃないだろう。
杏とこはねたちのように、関係性が始まった時にその場に私もいれば話は早いのだが。
「だから、瀬名に出来ることは多分場を整える事。直接穂波と話すのはそのあとだね」
一歌と話を済ませて、自分の気持ちに整理を付けられた後なら、私とも話を出来るという...という流れかな。
うん、やはりリンだけが私のセカイの心のよりどころだ。
リンもいかれたら私は二度とこのセカイには来ない気がする。
「じゃあ、また」
「うん。今度ギター持ってきてね」
それは...聴かせろという話だろうか。
それぐらいならお安い御用だ。
リンの言葉に頷いて、スマホを操作してセカイを出た。
今度、リン用に胃薬でも持ってこようか。他のセカイでコーヒーを出したりする初音ミクもいたのだし、飲み食いはみんな出来るんだろう。
〈♪〉
さて。
私のセカイではなく、一歌たちのセカイにやってきたわけだが。
「リンの助言通り、ここはどこかで時間を潰しておくのが得策...」
となると、私が行かない方が良い場所は自然と絞られてくるな。というか、ほぼあの場所で話をするんだろうな、と察してはいるけど。
まずは教室。
彼女たちがセカイに移動する際に、大抵は教室にダイレクトにやってくることが多い。
穂波を連れてセカイにやってくる今回の場合も、高確率でまずは教室に姿を現すだろう。
次に屋上。
このセカイでと言うか、元の私たちが生まれ育った世界でもそうだけど、天然の星を見ようと思えば、学校内で場所を探した場合屋上が一番ベストな場所だ。
もしかしたらプラネタリウム、なんてことも一瞬考えたけど、黒板の前にある机の上にあったのは望遠鏡だったし、ちゃんとした星が相手だろう。
つまり、それ以外なら比較的大丈夫そう、という事だ。
「と言う訳で、どこに隠れてたらいいかな」
「う、うーん...」
「とは言っても、一歌も穂波もすぐに屋上に向かうだろうし、机の下にでも隠れてたらいいんじゃないかしら」
思わずルカの言葉に納得してしまった。
あの2人は意外と周りに目がいかないタイプの人だし、多少見える位置にいても気づかずに屋上に行きそうだ。
「じゃあ、誰か来そうな予兆があったら机の下に隠れる、と言う事で...」
自分で言ってて思ったのだが、セカイに誰かがくる予兆なんてあるのだろうか。
光ったと思えば、いつの間にかそこに誰かがいるので、便りは初音ミクとルカだけなのだが。
「あ、誰か来たみたい」
未だに顎に手を当てて隠れる場所を考えていた初音ミクが、唐突に顔を上げて私にそう呟いて、不思議そうに辺りを見渡した。
「あれ、瀬名は?」
「瀬名なら、『あ』の時点で机の下に隠れたわよ」
団長の手刀を見逃さなかった人でも、今の私の動きは見逃すのではないだろうか。それほどの速さで机の下に隠れた私は、息を殺して誰かがセカイにやってくるのを待っていた。
「あれ、ここって...」
「うん。私たちのセカイ。見せたいものはこっちにあるよ、行こう」
一歌はそういうと、穂波の手を取って教室を出て行った。
あの方向からして、屋上へと向かうのだろう。予想通りである。
「2人とも、多分屋上に行ったね」
「ええ。...あら、綺麗な星空。なら、みんなで見ないと」
いつの間にか私の隣に来て隠れていた初音ミクとルカがそう呟くと、お互いスマホを取り出し、目をつむりだした。
そのまま数秒待っていると、2人の作業が終わったのか、目を開けて笑顔を浮かべた。
「正直な子たちね」
「うん、みんな良い子で、前に進める強さを持った子だね」
...もしかしてだけど、今の行動で咲希と志歩のスマホに連絡を送っていたのだろうか。
私が以前、愛莉のスマホにリンと一緒にお邪魔した時は、化粧室のような場所の鏡からだったのだが...初音ミクのような存在だけなら、そのようなことしなくても十分、という事か?
ひとまず隠れる必要はなくなったという事で、一旦机の下から出て窓の外を眺めていると、今度は初音ミクの言葉は無しに、咲希と志歩がやってきた。
「ほなちゃんが来てるって、ほんと!?」
「今どこ!?」
2人とも大慌てである。
このまま2人も屋上に向かわせてもいいけれど...うん、今はとりあえず、屋上の扉の前で話を盗み聞きするとしよう。
例えどれだけ仲が良くても、話を聞く人間が1人なのと3人なのでは、話しやすさに差が出てくるだろうから。
「今は2人とも屋上。だけど、突入するのは少し待ってほしい。盗み聞きみたいになるけど、2人の話を少し聞いてあげてほしいから」
「...まぁ、いいけど」
「ほなちゃん...」
ひとまず私たち5人は、ばれないように、それでいて話を最初から聞けるように、急いで屋上の扉の前へと向かった。
まさか自分が、朝7時から夜10時まで働く身になるとは。
うっひょ~!
あまりの過酷さに、思わず残業代を全てプロセカにつぎ込んでしまいました~!
○すぞ~(天井)!
なんて。
忙しさもようやく落ち着いてきましたので、ようやく更新再開できそうです。
前回の更新が8月の5日なので...まぁ約1か月お待たせしてしまったわけですね。すみません。
予定としては後3話でレオニード編を終わらせるつもりです。
多分、レオニードに後から関わらせるなら、曲を作ってる存在の方が楽でしょうね。