あまりに重い腰。
すみませんでした。
短いんですけど、よければ見てってください…。
それから扉越しに聞かされたのは、昔の話。
いつも遊んでいる見慣れたはずの公園なのに、星が輝くような夜だと全く違うものに見えること。
そしてそれが冒険のように思えて、より星の輝きを際立てていたこと。
『そういえば咲希が、あの時見たしし座流星群のこと、カニ座流星群だっけ? って言ってたよ』
そしてそんな話が聞こえてきて、思わずみんなで咲希の方を向いてしまっていた。
「あ、あはは」
「まったく...」
『えっ? もう、咲希ちゃん、あの時何回も説明したのに』
そうして、昔のふざけた話で穂波の笑顔を引き出した一歌は、少し息を吸って、言葉を口にした。
『私、やっぱり4人でバンドやりたい』
『一歌、ちゃん』
『穂波。私たち、もう一度、一緒にいられないかな』
そして、沈黙。
今の穂波に必要なのはきっと、一歩を踏み出す勇気。だけどそれは、今すぐに備わるものじゃない。
一度前に進んでしまえばあとは早いだろう。自転車と一緒。一度進んでしまえば大した労力は必要なくペダルを踏みこむことができる。
だから、後ろから押してあげることのできる存在が必要だ。
「いってらっしゃい」
「え? わぁ!」
「えっ!?」
さっさと行動に移すべきだと判断した私は、すす、と咲希と志歩の後ろに回りこみ、話を聞くために少し空いている扉をそのまま開けられるように、背中を押した。
その勢いのまま2人は進むから、私はギリギリ一歌と穂波からも見える場所にいる。
「…咲希ちゃん、志歩ちゃん!」
「なんで2人がここに…?」
いや、今の2人には私の姿は見えていない様だ。
それならそれでいい。この場に私はいらない。
「私も、穂波ちゃんと一緒にバンド、やりたい!」
「…私も、同じ気持ち」
2人の後ろからでもわかる。2人は変わらず、穂波の目を見て声をかけている。
今日までの、一歌たちと穂波との時間に比べれば短いものだけど、私が見てきた中で、そらし続けてきたのは穂波だ。
だからこそ今、穂波が2人の目を見返すことが出来るかどうかで、前に進めるかどうかが決まる。
そらせば最後、もう穂波が後ろめたさを覚えずに3人の顔を見ることはできない。
本当に、優しい子たちだよ。
「わたし、志歩ちゃんの言う通りだった。誰にも嫌われたくないって、ずっと怖がって…わたしの事を一生懸命考えてくれてるみんなのことを、傷つけてばっかりだった。…こんなわたしがみんなと一緒にいて、本当に、いいのかな…」
「いいんだよ。だって私たちは、穂波と一緒にいたい」
「ほなちゃん、ごめんね。ほなちゃんのことずっと助けられなくて…」
「私も、ごめん」
「うぅ…咲希ちゃん、志歩ちゃん…」
穂波が正直な想いを吐き出して、そこに咲希と志歩が駆け寄って、ようやく4人揃った。
ため息を1つ吐き出す。
今までのと比べても、それなりに面倒なケースだったと思う。
既に出来上がっている関係で、こじれているにしてもそれを解決するには本人たちにしかできないことで。
よそ者の私に何ができるのかと言えば後押しすることなのだけど、今回に限ってはそのあと押しも必要だったかどうか。
この場に私がいると言うことは、彼女たちだけではこうして4人で手を取り合う未来が来ない、もしくはかなり未来の話になってしまう、と言うことなんだろうけど、ちょっと想像できない。
「よかった、想いを見つけられたんだね」
ぼうっとしながら4人が泣きながら話しているのを眺めていると、いつの間にか横にいた初音ミクが私の方を向いて微笑んでいた。
「…それ、私じゃなくてあの4人にかけるべき言葉では?」
「うん、この後4人には声をかけるつもり。でも、まだ積もる話もあるでしょう? ある程度落ち着いてから、話をするよ。未来は逃げないから」
「…」
「だから、まずはあなたに。お疲れ様。それと、ありがとう」
「うん、まぁ受け取っとく」
「うん」
きっと、いや、確実に。私は心の奥底で、彼女たちのことはどうでもいいと考えている。
こうして彼女たちの助けになるように考えて動き続けてきたのも、『そうしなければいけないから』という使命感に動かされているだけ。
その使命感もきっと私の中から生まれたわけじゃなくて、後から誰かに埋められた想いだ。
私は基本的に、家族のこと以外はどうでもいい。
それはこれまでも思ってきたことで、絵名も彰人も、関わりがあるから、悲しい顔を見たくないから何とかしてきただけ。
…きっとこのセカイはこれでお別れだろう。
私のセカイの中に浮かんでいた星の数と、移動した後に光る星の数を考えると次が最後だ。
いっそのこと、次は放置してみようか。
ある程度考えがまとまってきた段階で意識を現実に戻してみると、ちょうど4人のスマホが光っている所だった。
「え…!?」
そうして、視界を焼く眩い光と、一歌の驚愕の声を最後に、4人は屋上から姿を消した。
「さて、私もセカイから___」
「4人は教室に戻ったよ?」
「…」
どうやら私は徒歩で教室に向かわなければいけないそうだ。
〈♪〉
その後の話としては、これまでとさほど変わらない流れだ。
屋上から教室に向かって廊下を歩いていると、耳に音楽が入ってきた。
歌っているのは、多分一歌と初音ミク。屋上から一緒に出たはずなのに、さっさと自分だけ教室に移動してしまうのは、どう思えばいいんだろう。まぁ、あの初音ミクは4人から生まれたのだから、優先するなら向こうなのは当然か。
想いから生まれた曲も無事命名され、彼女たちの始まりの曲になったところで、私が教室に帰還。
そこで穂波から、気になっていたんだけど、と私と一歌たち3人との関係性について尋ねられた。
私たちの関係性はそこまで難しいものじゃない。
穂波の頭を一瞬よぎっただろう、『自分以外のドラマーを既に見つけている』と言うことは一切ない。以前志歩と話したことをそのまま話すと、穂波は分かりやすく安堵の息を吐き出していた。
とはいえ。
私は出来ない人の気持ちを理解するのに時間がかかるので、すんなり教えることは難しいだろう。
出来ないとは言わない。けど、進んでやりたいとも思わないわけだ。
まぁ、もう私が彼女たちに何かを教えることもないだろうし、それ以上に考えたいことが多すぎる。
「ただいま…もうみんな寝てるか」
私がセカイに帰ってくるのになぜかラグがあり、私だけ太陽は沈み切り、お月様が淡く照らしている時間帯だった。
流石にみんな寝ているだろうから、誰にも聞こえない声量で呟きながら、足音を立てずに部屋の中に入る。
別にそこまで気を使う必要はなかったかもしれない。絵名のせいなのかおかげなのか、それなりに各部屋防音処理をされているらしく、イヤホンをしていると廊下の足音なんてものは聞こえない。
たまに貫通して絵名の『はぁ!?』が聞こえてくる時もあるけど。
「明日は…あぁ、学校にいかなきゃいけないんだった」
部屋着に着替えてベッドに寝転んでから、月に数回しかない、学校側から『この日は出来れば来て欲しいな』と言われている日だったことを思い出した。
何をするのかもしらない。ただ、もし明日目を開けて何も変化がなくそのまま日常が進んでいくのなら、忘れないでおかないと。
そうして目を閉じて、そういえば、自分のセカイに入るのを忘れていたことを頭の隅っこの方で考えていた。