東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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評価などなど、ありがとうございます。



第2話

私がいつも通り学校をさぼってセカイで時間を過ごした後。

今日の晩御飯は何だろうかとリビングでぼーっとしていると、荒々しい足音を鳴らしながら誰かが家に帰ってきた。

 

一体何だと音の方を見てみれば、しかめっ面をした彰人がいた。

 

「...」

 

「彰人、怒ってる?」

 

「怒ってねぇよ。...ちょっと癪に障ったのと、失望しただけだ」

 

それは一般的に怒っているというのだが、彰人のニュアンス的には違うようだ。

 

とはいえ、普段は私の前では大抵穏やかな表情をしている彼にしては珍しい物を見た。

余程のことがあったらしい。

もしかしたら、最近というか昔見たストリート音楽系統でひと悶着あったのかもしれない。

 

「彰人、冷蔵庫の中に私の分のケーキが入ってる。食べていいよ」

 

「いや、それは瀬名のもんだろ。俺のじゃ...」

 

「私は別に、特段好物ってわけじゃないし、また今度一緒に美味しいお店に連れてってくれたらそれでいいよ」

 

「...あぁ、わかった。サンキューな」

 

私に気を遣われているのが分かったのだろう。

息を大きく吐き出して、私の頭を撫でた。

私の分のケーキを譲ることで多少緩和されるのであれば、もしかしたら友人との間で起きたのかもしれない。

 

これが原因で仲違いしてそれっきり、というようなことにならなければいいが。

 

...ふむ。男なのだからか、絵名に比べると少し撫で方が力強いというか、荒いというか。

だが、それでも気持ちの良いものであることに変わりはない。

 

 

私はそのまま、しばらく彰人に撫でられたままでいた。

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

リビングで食後のデザートとしてケーキを食べていた彰人が絵名に見つかり、ちょっとした騒ぎになったものの、今日も平和に1日が過ぎた。

 

ほぼ毎日外を出歩くのは疲れる。

こうして1日中ベッドの上で寝て過ごせたらいいのに、と思いつつ、私はスマホの画面に触れる。

 

ミュージックアプリの中には数多くの楽曲が入っているが、その中でも異彩を放つものが1つ。

 

「『Untitled』...気づいたら入ってた」

 

毎日ミュージックアプリを起動する私だからこそ、いつから入っているのかはわかる。

あの日、セカイに呼び込まれた日からだ。

その他に、その日にあった異常なんてない。確実にセカイと関係しているのだろう。

 

その証拠に、この楽曲を再生すれば、あのセカイへと何時でも飛び込めるし、セカイの中で曲を止めれば、現実へと戻って来れる。

 

初めてセカイに入ったときは曲を再生した記憶はないし、全くもって謎の現象だ。

いや、もしかしたら適当に曲を流した際に、と言うことも考えられるか。

 

「もうこんな時間...絵名が少しうるさいけど、寝よう」

 

耳をすませば、『あんたねぇ』と絵名の声が聞こえてくる。

大体25時ぐらいから絵名はうるさいのだ。

早いうちに寝なければ翌日に支障をきたす。

 

...彰人は平気なのだろうか。

 

そんな事を考えているうちに、私はいつの間にか眠っていた。

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

翌日。

いつも通り学校に行くふりをしてセカイで時間を潰した私は、なんとなく、真っすぐ家へと帰らずに喫茶店へと足を運んでいた。

 

考えるのは、昨日の彰人の事。

 

「心配だけど...」

 

彰人のことは彰人が解決するだろう。

私は別に、困っている人がいても、こちらに手を伸ばしていなければ助けようとも思わない。

彰人は今、助けを求めているわけではないのだ。

 

それでも、気になる。

 

...もしかしたら私は、彰人が何をしているのか気になっているのかもしれない。

 

ストリート音楽、と言うことは本人から直接語られたから知っている。

だが、彰人自身が何をどうしているのかは知らないのだ。

 

一旦息を吐き出し、思考をリセットするためにコーヒーを口に含む。

味覚には基本的には5種類あり、コーヒーは主にそのうちの2つ、『苦味』と『酸味』を感じることが出来る。

この2つがいい感じにバランスがとれていると、美味しいと感じやすいのだとか。

まぁ香りだとか、温度だとか、コーヒーを美味しく飲むためには他にもいろいろとあるようだが、特に考えて飲んでいるわけではない。

 

「やっぱりコーヒーには何も入れないのが美味しいな」

 

飲んでいたコーヒーを一気飲みし、支払いを手早く済ませた私は、スマホを取りだして地図アプリを起動した。

目的地は、ビビッドストリート。

この辺りでストリート系統で有名な場所と言えば、その辺だ。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

「うん?」

 

適当に道を歩いていた私。

そろそろ誰かに尋ねてみるのもいいかもしれない、と考えていたところで、歌声が聞こえてきた。

音楽は聞こえず、声だけ。アカペラ、という奴だろうか。

 

近くまで来ると、歌っている人の顔も見えてくる。

勝気そうな女の子と、メガネをかけた少し気の弱そうな女の子。

 

「いい声」

 

聞いていると、なんだか気分が乗ってくる、と言うのだろうか。

何の曲を歌っているのか、私は聞いたことのない曲だったが、それでもいい声だった。

 

こうして通りで歌う人がいるのだ。もしかしたら、私の兄を知る人がいるかもしれない。

そう思い、隣に立っていたツートンカラーの髪色をしている男の人に声を掛けた。

 

「あの、東雲彰人って人、知ってます?」

 

「ん?」

 

そう声をかけた男の人は、どこか昔を懐かしんでいるようで、少し悲しんでもいるような眼をしていた。

 

「君は...?」

 

「東雲彰人って人を探してるんです。この辺りで歌ってたりしません?」

 

「...彰人と会いたいのか。なら、案内しよう。ちょうどこの後会う予定がある」

 

そう告げた男の子は、先導するように歩き始める。

助かった、彰人を知る人間と偶然にも会うことが出来た。

 

駆け足で男の子に追いつくと、彼は私の歩幅に合わせて、少しゆっくり歩いてくれていることが分かった。

彼が嘘をついていることも頭によぎったが、まぁ問題ない。

何せ、私は普段運動をしていないだけで、運動神経は抜群だし、瓦ぐらいなら正拳突きで破壊することが出来る。

男の腕を折るぐらい朝飯前だ。

 

それに、この辺りは人通りも多い。

何とかなるだろう。

 

「彰人の知り合いなのか?」

 

そう考えながら後ろをついていると、彼が後ろを振り返ってそう尋ねてきた。

 

「妹です」

 

「...失礼を承知で言うが、あまり似ていないと言われないか?」

 

「まぁ言われますね」

 

なるほど、確かに失礼だが、それは本当のことだ。

 

絵名と彰人であれば、共通点を見出すのは容易い。

好きな食べ物は2人ともパンケーキとチーズケーキだし、嫌いな食べ物はにんじんだ。

にんじんに関しては、甘くてスイーツ...とまではいかないが、そこそこ美味しいと思うのだが。

 

性格面で言えば、まぁ簡単に言えばどちらもツンデレ、だろうか。

とはいえ、ツンとデレの両方が発揮されるのは、彰人と絵名のお互いが関係している時で、私との時はツンがどこかに消えて、デレだけが残るのだが。

それもまた共通点でもある。

 

さて、そんな東雲家の末っ子である私はと言えば。

好きな食べ物はジャンクフード。

嫌いな食べ物は常識外の食べ物。常識外で例を挙げるとするなら、異常に甘い、だとか。

 

自分で判断した性格は...まぁめんどくさがり、だろう。

中学を不登校で終わらせようとしているのも、中学生を演じるのがめんどくさいからが大半で、既に義務教育は終了していることなど言い訳でしかない。

やればできる、と言うのは私自身も認識しているのだが、いかんせんそのヤル気が出ない。

 

クラスに1人はいただろう。そんな奴。私はそんな奴の1人だ。

 

「あなたは、彰人と知り合いなのですか?」

 

「ああ。2人でグループを組んでいるんだ。『BAD DOGS』って聞いたことないか?」

 

「いえ、ないですね」

 

「そうか...俺たちもまだまだだな」

 

ツートンの彼は悔しさをにじませながら笑うという器用なことをしているが、申し訳ないが私が単純に無知なだけなので、許してほしい。

このストリートの世界は詳しい詳しくないどころか、何も知らないが正しいのだ。

 

と、そんな事を話していると、謎の建物にたどりつく。

店...なのだろうか。

 

「ここが、俺たちが普段練習しているライブハウスだ。中に彰人もいるはずだ」

 

「なるほど」

 

彼の後ろについていき中に入ると、確かに彰人が立っていた。

 

「時間通りだな、とう、や...なんで瀬名と一緒にいるんだ!?」

 

「彰人を探していたようで、偶然ビビッドストリートで声を掛けられたんだ」

 

「そ、そうか...瀬名、どうしたんだ?」

 

ツートンの彼に目を合わせ、次に私に目を合わせたところで、普段聞かないような声量で彰人は驚いた。

ふむ。これだけで今日来た甲斐があったというものだが...今日の目的はそうじゃない。

 

「彰人のしてることが気になった」

 

「...瀬名、いいからもう帰れ。俺たちは遅くまで練習することになってるし、瀬名が家にいなかったら絵名もうるさいだろ」

 

私を返したいがために絵名を出してきたか。

なるほど、確かに絵名はうるさくなるだろう。癇癪を起こすとまぁめんどくさい。

だが、今の私にその引出じゃあ勝てないな。

 

「絵名にはもう『遅くなる』って連絡した」

 

「...」

 

私がそう返すと、彰人は後頭部に手を当てて、目を反らした。

そこまで帰したい何かがあるのだろう。

だが、それを知るのが私の今回の目的だ。ここで『はいそうですか』と素直に家に帰るわけにはいかない。

 

「彰人、いいんじゃないのか」

 

「冬弥...」

 

「彰人のしていることを知りたがってるんだ。むしろ、理解してもらった方が今後の事を考えた時その方が良いかもしれない」

 

「...わかったよ。じゃあ、このイスに座ってみてるんだぞ」

 

「わかった」

 

「そうだ、自己紹介がまだったな。俺は青柳冬弥。よろしく頼む」

 

「東雲瀬名」

 

冬弥の助言もあり、彰人はようやく折れて私は見学を許された。

そうして用意されたイスがどこか子供用に見えるのは、私の気のせいだろうか。

いや、気のせいじゃない(反語)。

 

おのれ低身長め。

ジェットコースターも乗れない身長になんの価値があるというのだろうか。

せめて150cmは超えてほしかったのだが、世界はそう甘くないということか。

 

そんな事を考えていると、既に2人は練習モードへと移っていた。

 

「彰人。わかっているとは思うが...」

 

「2曲目の入りは走りすぎないように、だろ。...今日は完璧に決めてやる。瀬名の前で下手なところは見せられねぇ...

 

「? それならいいんだが...」

 

「...あの夜を超えたいなら、どんな奴らも、俺たちの歌で圧倒しなきゃな」

 

彰人が口にした『あの夜』。

一体、どの夜の事を指すのだろうか。

あの鐘を鳴らすのはあなただろうけれど、あの夜は皆目見当もつかない。

 

「特に...あんな半端な奴らには絶対に負けねぇ。だろ?」

 

「あぁ...」

 

そういった彰人の顔は、先日家で見せた、怒っているかのような顔だった。

彰人の『あの夜』にかける情熱は、とんでもない物なのだろう。

昔やっていたサッカーとは比べ物にならないぐらい、だ。

 

しかし、それに反して冬弥はパッとしない反応を見せていた。

乗り気ではないのだろうか。

 

「ふむ...」

 

いや、そうではないのだろう。

こうして2人でガチの雰囲気をだしながら練習するのだ。ストリート音楽をやること自体にではなさそうだ。

どちらかと言うと、『半端な奴ら』関連だろうか。

 

「今日も頼むぞ、相棒」

 

彰人はそう言い残し、歩いていく。

練習が始まるのだろう。

その後ろ姿を見つめる冬弥の顔には、戸惑いの色が浮かんでいるのが、わかってしまった。

 

「彰人、俺は...」

 

 




主人公ちゃんが歌うことはありません。
多分。
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