東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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第4話

イベントは恙無く進行していた。

その場を盛り上げるMCが進行し、それぞれの特徴を持ったグループが出てくる。

1人の時もあるし、3人や4人の時もあった。

 

「楽しい」

 

普段は感情表現が苦手なこの体も乗っているようで、今日はだいぶ素直に動いてくれている。

持ってくれよ...オラの体、3倍上げ上げだァーッ、みたいな感じだろうか。

 

いや、それだと、このイベントの後反動が来るのでは?

 

「むぅ...まぁ、後のことは後の私が考える」

 

そんな風にテンションを1人で上げ下げしていると、MCが次のグループを紹介しだした。

 

「次は『Vivids』! 結成したばかりの2人だが、何と1人はあの謙さんの娘だ! 聞き逃すなよ!」

 

「...来た」

 

MCもが『あの謙さんの』と言うぐらいだ。相当レベルが高いのだろう。

通ぶって考えてみるが、別にレベルの高さなんて認識しちゃいない。

その前にいた数グループも、楽しかったがどれくらいのレベルなのかなんてさっぱりだ。

 

ただ、楽しみなだけ。

 

周りを見てみれば、ついに、という反応が大体だった。

期待大、という感じだ。

それなりに知っているだろう人たちがこれだけ期待を寄せているのだ、否が応でも私の気分は上がる。

 

黒髪の子が、クリーム色の髪の子をちらりと見て、曲が始まる。

 

「-----♪」

 

力の入った、芯のある声だ。

それこそ、マイクの力とは関係なしに会場の端まで届いて体に響きそうな、そんな感じ。

 

ちらり、とクリーム色の髪の子を見る。

...メガネちゃん、と仮称しよう。

 

メガネちゃんを見れば、黒髪の『白石』さんを見て、マイクを力強く握っていた。

息遣いや表情を見る限り、次のパートあたりで歌いだす。

そう予想していた時だった。

 

「~~♪ーー...ッ!?」

 

音が消えた。それも突然。

まだ曲が始まって間もないし、2人の反応を見る限り、これはイレギュラー。

 

流石の私も驚きで目を見開いた。

 

遠くで彰人の声がするが、それも客の声でかき消された。

盛り上がってきたところだったのに、と口々に言う。

 

このままではいけない。だが、この空気を1番どうにかしやすいのは、今ステージに上がっているあの2人だけだ。

 

メガネちゃんは...。

 

「ダメそう...」

 

マイクを持つ手が震えて、無意識だろうが、後退りもしている。

この空気に呑まれているのだ。

 

はてさてどうなる、と考えていると、声が響いた。

 

「---!---♪」

 

声の主は探さずともすぐにわかった。

『白石』さんだ。

音楽がある時と遜色ない迫力で、彼女は声を震わせていた。

 

それを見たメガネちゃんも、後に続こうとしているのは見てわかる。

だが、一度自分の時の流れを折られた、という体験が足を引っ張っているのだろう。

ついさっきの出来事が、所謂トラウマとなって彼女を襲っている。

 

マイクを口元に持って行って、息を深く吸い込む。

だがその先が踏み出せないのだ。

 

そのままメガネちゃんは一言も発することが出来ないまま、彼女たちの出番は終わっていった。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

イベントはまだ進行している。

機材トラブルだと予想されていたものは、コードが抜けていたが故であり、機材自体には問題は見られなかった。

ライブハウス内では、今出番のグループが出演中だ。

 

ただ騒動にならずに済んでいるのは、偏に『白石』さんのおかげだろう。

 

このまま楽しむ気分ではなくなった私は、ライブハウスを出て少し離れた場所で2人が話しているのを見つけた。

 

ここからだと周りの喧騒に紛れて何を言っているのかは分からないが、恐らく慰めている、のだろうか。

 

同情したわけじゃない。

けれど私は、なんとなく私は、彼女たちに声を掛けてみたくなった。

 

声をかけて何を聞くのかなんて何も思い浮かんでいない。

それでも、なんとなく。

 

ほぼ直感だけで体を動かしていると、聞きなれた人の怒号が聞こえてきた。

 

「おい! どういうつもりだ!!」

 

「どうもこうも、お前らも目障りに思ってたんだろうが!」

 

「お前のくだらねぇ嫉妬と一緒にすんじゃねぇ! イベントが台無しになっただろうが!」

 

彰人の声と、紫のパーカーを着たいけ好かない男の声だ。

冬弥の仲裁の声も聞こえてくるが、ヒートアップしている2人には届いていないようだ。

 

私にも聞こえていたのだ。

当然、彼女たちにも聞こえているわけで。

 

「なんだろう...喧嘩かな」

 

ああ、嫌な予感がしてきた。

 

さっさと家に帰って寝たい。

このめんどくさい状況から逃げ出せるなら絵名の抱き枕になった方がマシかもしれない。

だが、彰人がいる。彼が騒動の中心に近い場所にいるだけに、見捨てて帰ることも出来ない。

 

「音を止めたって...どういうこと?」

 

考え事をしているうちに、話が進んでしまっていた。

どうやら、紫のパーカー男が音を止めた張本人らしい。

 

「なら早く帰れる」

 

犯人は分かった。

彰人とパーカー男が喧嘩していたのは、まぁ察せるだろう。

なら後はこの場で男を断罪して、ハッピーエンド。

メガネちゃんにはトラウマを残してしまったかもしれないが、まぁそれはしょうがないことだ。

いつかは起きていたかもしれないこと。

 

そう楽観的に考えていたのだが、『白石』さんは彰人たち3人がグルなのだと勘違いし、彰人たちがやったのかと問い詰めている。

冬弥が否定しようとしているが、それを遮って彰人が口を開いた。

 

「ああそうだ。俺がやった。お前らを潰してやるつもりでな」

 

おや。

 

「は...!? なんで!? どういうつもりで...わざわざ誘っておいてこんなマネ...!!」

 

彰人自身が『やった』と口にした以上、ここから真犯人がいる方向にもっていくのは難しい。

『白石』さんも目の前にいる男が犯人なのだと判断し、激高している。

 

「俺は、覚悟もねぇ奴が、『RAD WEEKEND』を超えるなんて口にするのが許せねぇんだよ。...そのチビがこれくらいで歌えなくなるってことは、しょせんその程度の覚悟だったってことだろ」

 

彰人さんや。

私よりも背の高い人をチビってバカにするのは勘弁してもらえませんか。

好きでチビじゃないんです。

 

とはいえ、物陰に隠れて様子をうかがっている私がこの場でそんなことを言い出したら雰囲気ぶち壊しだ。

もう少し隠れていて、暴力沙汰になったら間に入るとしよう。

腕っぷしには自信があるのだ。

 

「初めてのイベントでトラブルなんて起きたら、どうしようもないでしょ!」

 

「初めて。どうしようもない。だから仕方ない、ってか? 少なくともお前はそう思わなかったんだろ、白石。あそこで食い下がったのは、お前に覚悟があったからだ」

 

『白石』さんの言うこともまぁ、間違いではない。

だが、彰人には通用せず、『白石』さんも事実を言われたのか、目をそらした。

 

「『あのイベント』を超える気なら、こんなところでつまずくわけにはいかないって...思ったんじゃねぇのか」

 

「...」

 

「そこのチビにはそれがない。だから歌うことが出来なかった。...違うか?」

 

「違う! こはねは本気だった。このイベントのためにずっと一生懸命練習して...!」

 

ふむ。

話は長くなりそうだ。

 

そう判断した私は、音もなくメガネちゃんの隣に立った。

肩と肩の距離はおよそ5cm。それだけ近くに立っているのに、彼女は私に気付かない。

 

どうしたものか、と思っていると、突然彰人と『白石』さんがこちらを向いた。

 

「そこのチビ! お前は本気だって言えんの...瀬名?」

 

「えっ!?」

 

「見つかった」

 

おや、まさか突然こちらを向くとは思わなかったのだ。

とはいえ、見つかったのならやることは1つだけだ。

 

「彰人。見損なった。絵名には1人で帰るって言っといて」

 

「は、ちょっと待て。え、何?」

 

私の見損なった宣言に、彰人はダメージを受けたのか、急に呂律が怪しくなった。

以外とメンタルは弱いのかもしれない。

 

それだけ彰人に言い捨てた私は、メガネちゃんの手を取って走り出した。

 

「行こ」

 

「えっ、えぇ!?」

 

「ちょっと、こはね!?」

 

 

 

 

 

 

 

「彰人、どうして...彰人?」

 

「...終わりだ。俺はもう終わりだ」

 

「おい、彰人」

 

「瀬名に嫌われた。もう生きていけない」

 

「しっかりしろ彰人!」

 

 

 

 

 




ここにきて急な原作介入
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