ぴぴぴとアラームが鳴り響く。
昨日試験だったから少し疲れていたみたいで、1分くらい鳴っていたらしいアラームを止める。
ん、とひとつ伸びをした。
いつも通りの朝を満喫して、今日も校門手前で降ろしてもらう。
校門の目の前でふと立ち止まる。
昨日の筆記試験は、やれることはやった手応えがある。
やっぱり問題は今日の実技試験、だよなぁ。
結局頭良くても動けなかったらヒーローとして見込みも意味もないだろうし…うーん比重としては実技試験の方が重いんじゃないかなと予想してる。
公平を期すためということで、私は前情報を与えられていない。
というよりも、私に事前情報を与えようとしたミッドナイトさんがこってりと絞られていた。平等じゃないでしょうが!って言われてたのをしっかり覚えてる。
まあそもそも登校一番、部屋に通され、そこで一日中勉強をする私には試験内容を目撃する術がそもそも無かった。
やっぱり皆さんにお世話になりすぎている身としては、期待された通りにヒーロー科に入りたい。
とはいえ、
私が使える魔法たちは攻守両極端だし、ヒーローは不殺不壊が何より大切だと聞いている。
器物損壊すると、その分弁償費用が嵩んでしまう。とマイクさんからお話を聞いた。
それなら他の魔法は向いてないと思って、
左右で厚みの僅かに違う瞳を瞼で覆い隠して息を吐く。
「行くか。」
瞼を持ち上げて説明会場へ向かった。
歩き出してすぐ、なんか浮いてる緑髪の男の子がいた。
「大丈夫?私の個性。ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね。」
と話している茶髪の女の子、癒し系で可愛いなぁ。
"浮かせる"タイプの個性なのかな。もし試験の時に個性使うところを見られたら参考にしたい。
と、考えながら私はひとりぼっちで試験会場に歩をすすめている。
ここにきてお話しした人に同世代は一人もいなかったので、誰かに話しかけられただけで卒倒しそうだから話しかけないでくれるのはありがたい。けど、うらやましい。
そもそもここにきてからお話ししたのってこの高校の先生方くらいだし…いや寂しくなんてないよ。ないけど。友達は欲しい。
適当な席に座って待つ。時間が長く感じられて足をふらふらと前後に振った。
「受験生のリスナー!今日は俺のライブにようこそ!!!」
というマイクさんの声が聞こえて肩が震える。
びっっくりしたぁ!
「エビバディセイ!ヘイ!」
というマイクさんの掛け声は全員からスルーされる。
ハートの強いお兄さんだとは思っていたけど、本当に強い。すんごい。
心の中だけでヘイ!とレスポンスを返す。
申し訳ないけどここで声に出す度胸ないです。ごめんねマイクさん…。
「こいつぁ、シビー!なら受験生のリスナーに実技試験の概要をさくっとプレゼンするぜ!アーユーレディ?イエーーー!」
やっぱり静寂。いや、校門で浮いてた緑髪の男の子がモゾモゾと話している。
マイクさんはそのまま実技試験の概要を説明する。
「入試要項通り、リスナーはこの後10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!持ち込みは自由。プレゼン後は各自指定の演習場に向かってくれよな!OK?」
さっきの緑髪の子と隣の子がわちゃわちゃ喋っている。
いいなぁ私もお友達欲しい。
「演習場には仮想
と言って人差し指を振るマイクさんを見る。
行動不能?破壊じゃないの?と基準と想定のギャップがどの程度あるのか測りかねる。
ううん、本番に強いと信じて流れ流されで頑張ろう。筆記頑張ったし。実技ちょっとあれでもどうにかなるって信じてる。
「質問よろしいでしょうか!?」
という雷鳴みたいな声に驚いて斜め前の声の主を見てしまう。
「プリントには4種の
誤載誤記だけで痴態になるらしい。
雄英高校に対する期待値が高いゆえなのか高らかに話すメガネの少年を見て私のテンションはどんどんと落ちる。
もしうっかり受かったとしても、この人とだけは一緒に教室にいたくない。
なんかテストで赤点取ったら痴態!痴態!って指さされちゃいそう。嫌だな。
「ついでにそこの縮毛の君!」
誤載くんの矛先はマイクさんから緑髪の少年に変更された。
え?これから同級生(になるかも知れない人)にここで矛先向けちゃうの??
この世界の人はみんなメンタル強いのかな…とついさっきのマイクさんを思い出した。
「先ほどからボソボソと…気が散る!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
いやまぁマイクさんが話し始めた時にちょっと思ったけど、こんな公衆の面前で言わなくても良くない?
絶対仲良くなれない。怖すぎる。めんどくさすぎる。
そして多分だけど、物見遊山の人、いっぱいいると思う。
想像するに300倍の倍率のうち5分の1くらいは記念受験だと思う。残ったうちの半分は一縷の望みに賭けてるくらいだと思うし。本気で受かりたい人間は、そう多くないと推測している。
すみませんと謝る緑髪の少年を可哀想にと見遣る。
同じ会場だったら肩を叩いて励ましたいくらいには同情している。
くすくすと笑いが起きた。よりいたたまれない。
「OK!受験番号7111くん。ナイスなお便りサンキューな。四種目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!各会場に一体所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!倒せないことは無いが倒しても意味は無い。リスナーには上手く避けることをおすすめするぜ!」
「ありがとうございます!失礼いたしました!」
と叫んで誤載くんはぴったり90度にお辞儀して着席する。
ところで、ギミックって仕掛けって意味で合ってるのかな。
ゲームみたいなもんか。と知らない人が話しているのを聴いてピンとこない理由に納得した。
そもそも私あんまりゲームとか触る機会なかったしなぁ。
周りの人達はなるほどーって顔をしているので多分わかりやすいんだろうなぁ。
「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていくもの!さらに向こうへ!Plus Ultra!」
この世界にもナポレオンはいるらしい。こう言った小さなところで共通点を見つけて安堵する。
マイクさんの言葉は後に一つだけ続いた。
「それでは皆ぁ!良い受難を!」
…最後の一言があまりにも不穏すぎる。