マイクさんの「良い受難を!」なんていう不穏すぎる言葉を聞いて不安になりつつ、更衣室で服を着替える。
手首につけておいたヘアゴムで髪をくくりながら指定された演習場へ向かう。
おんなじ中学の子を見つけたのか会話しながら移動する子達を見ると少し羨ましさが募る。いいな。
友達いないもんなぁ…と寂しい気持ちに蓋をして、会場前にあるスタートラインの近くに立つ。
ちなみにあの縮毛の子は見かけないから別会場だったみたい。残念。
正直少しお話してみたかったのに。
あと、あの物見遊山案件でメンタル的に来てたら可哀想だな。と思う。そうなったら立派な受験妨害だよなぁと声の大きいメガネの少年を思い出す。
なかなか号令ならないなぁ。と思っていたんだけど、みんな隣の人とかと話してる。
やっぱり私コミュニケーション能力を鍛えるべきだったのかな。いやでも半年、勉強とトレーニングに注ぎ込む以外に道はなかったよなぁ。
「はいスタート!」
という号令を聞いて、もにょもにょとした心と共に空に向かって体を跳ねさせた。
「どぉおしたぁ!実戦にカウントダウンはないんだよ!走れ走れ!賽は投げられてんぞ!」
というマイクさんの頭上を飛び上がる。
そこからは自分を
「ううん、本当に多いなぁ…」
多数っていうだけあって本当にいっぱいいる。
3種類ありそうなのは分かったけど、どれが何点なのか考えながら倒すのも面倒だし、とりあえず端っこから倒していこう。と決める。
移動手段のある個性ってそこまでないって話をマイクさんから聞いたのを思い出して、遠くから攻めていこうと考えた。
競争率の低そうな奥へ移動して
ついでに電源がつかないようにスイッチだけ破壊して端っこに積み上げる。
落として、壊して、積む。落として、壊して、積む。落として、壊して、積む。落として、壊して、積む。落として、壊して、積む。落として、壊して、積む。
遠くからも何かを破砕する音だったり、崩れ落ちるような音が聞こえる。普通に壊していいんかい、とできるだけ危なくないように壊してた自分の方針に疑問が湧く。
落として壊して積む。落として壊して積む。落として壊して積む。落として壊して積む。落として壊して積む。落として壊して積む。
とはいえ、
落とし壊し積む。落とし壊し積む。落とし壊し積む。落とし壊し積む。落とし壊し積む。落とし壊し積む。
順調順調。いい感じにガラクタの山が積み上がっている。
何点くらいこれで取れてるんだろう?30点くらいかな。数えておけばよかったなぁと後悔しつつ、もう少し稼ぎたいなと思い、フェンス沿いに場所を変えようとした、その時、
「きゃ…っ!」
小さい悲鳴が聞こえた気がした。気のせいかもしれない。
でも周りから破壊音だって聞こえた。
もしかして、この演習場は時間が経つにつれてフィールドが崩れて危なくなっていくんじゃないの?
ぐるりと方向を変える、声のした方向に進む。
加速は私の体が持たないから、できない。
じりじりとした気持ちのまま飛び続ける。
あまりにも巨大な物体を前に女の子が座り込んでいるのが見えた。
これは…説明にあった
スイッチの場所がわからない、想定より大きい、というか大きすぎる!避ければいっかぁって思ってたからプリントもよく見てない!
少しくらい足止めになればと近くの瓦礫を0ポイントの関節駆動部分に噛ませる。
ばぎんという音と共に瓦礫が破壊された。
「まじで??」
声が無意識に漏れた。
嘘じゃーーーーん!と心の中で叫びながら足止めよりも先に避難を優先することに決める。
ちなみに他の人たちはいまの瓦礫破砕を見て逃げた。ほんとにヒーロー志望?
「ちょっとごめんね!」
と声をかけてから遠いところまで運んだ。
足を挫いた子をこんなところにおいては置けない。
気を遣いながらは戦えなさそうだし、そもそも危ないしこんなところ。
彼女を安全そうなところに連れて行って、元の場所へ飛んでいく。
かといえこれ、どうすればいいのかなぁ。
私の身長の何倍くらいあるのかなこれ。
倒したら危なそうだし、機能停止させる他ない気がするんだけど…
とりあえず浮かせてみよう、かなぁ?
限度ギリ、というかはみ出してる気がする。
試してみた。
「…」
「だめじゃーーーん!」
ぴくりともしなかった。重たすぎるんだよ。
距離詰めればもう少し出力出るけどこの手応えだと大差ないなぁと頭を掻く。
やれることはやりたくて、
「おおい!おまえ!逃げなくていいの!みんな逃げたけど!?」
「いやぁ、逃げるとかちょっとなしかなって思いまして!」
地味目の顔の黒髪の男の子が声をかけてくる。
私ひとりの力でダメならふたりで頑張ればどうだ。
そうじゃん私、
「あの!手を組んでみたりとかってどう思います?」
男の子はニヤリと笑った。
「いいね。」
「ええと、私の個性は物や人の遠隔操作です!あの
「俺のはテープ!ここからテープが出る!!」
肘を指し示す少年を見て人体から物体を生成するのってどういう仕組みで…と思いつつ、
「
「おっけ!信じるぜ!」
少年の肘から本当にテープが出てくる。いやなんでもありだねこの世界の個性ってやつは!
人体の不思議みたいな本、昔読んだけどこの世界でそういう本あったらすごく複雑になりそうな気がする。
まずはテープの先を
テープが伸びるたびに少しずつ遠くへ、遠くへと伸ばす。
あれ、これって、消太さんのあの紐みたいじゃない!?と、雄英高校に現れてしまった時に拘束された紐を思い出した。
「これで結構限界かも…いける?」
結構長いテープを吐き出した少年がふぅと息をつく。
「ありがとうございます!がんばります!」
ぐるぐると出してもらったテープをまず近くの電柱に巻き付ける。
そこから
そっちには人がいなかったの知ってるし、もう街並みも壊れてるし、もういいかなって…
いくらハリボテだと言っても街の破壊は少し心が痛んだ。
がしゃんと機械が壊れる大きな音が鳴って時間制限を知らせるチャイムが鳴った。
「試験、終了ぉおおお!」
マイクさんの声も響いた。
「ありがとう!テープの人!」
「いやこっちこそ!ありがとうな!また会えるといいな!」
この有り得ない倍率の受験でまた会えたらーなんて多分ないと思うんだけど、まぁ、口約束くらいはいいよね。
瓦礫に足を乗せた途端にへにゃりと膝が崩れた。
「大丈夫か?!」
地面とぶつかるって思って目を閉じたら、テープの人が支えてくれる。
「あ、いや、緊張解けちゃったらふにゃっと…ありがとう。」
「ありゃ。疲れたのかもね。」
なぜかテープの人は私の背中と膝に回す。いわゆるお姫様抱っこ。まてまてまてと思ってばたばたと足を動かす。
「待って?!重いから!」
「そー?めちゃめちゃ軽いけど?」
でも、落としちゃったら怖いから大人しくしててね。と言われて抵抗を諦める。
「俺、瀬呂範太。そっちは?」
「相澤弓月です。よろしくね。」
「ん。よろしく。」
「…ところでね、もうさすがに歩けるからね。そして恥ずかしいからおろして欲しい。」
「さっき転びそうになった子のそれはちょっと信用ならないなぁ?」
とにやり笑って結局リカバリーガールのところまで運ばれた。
リカバリーガールに少し茶化された。恥ずかしすぎる。
茶化されてる間に瀬呂範太くんはいなくなっていた。
さては瀬呂範太くん、意地悪なひとだな。
かくして私の実技試験は赤面で終わった。
本編に入る際更新頻度下がるかもしれません、二日に一度とか…