とりあえず、個性を使っての身体強化を試してみたいとトレーニングルームの申請書を消太さんが校長先生宛に出してくれた。
思ってたより簡単にOKが出た。
そもそも個性を伸ばしてプロヒーローになるための雄英高校、むしろ普通に鍛えてたの?と困惑された。
いやだってそんな発想なかったし……
ちなみに消太さんは私のトレーニング方針を考え中らしく、とりあえず好きなようにやれ。と言われた。
2日に1回は普通に筋力トレーニング、もう半分は
思っていたよりもすぐに自分の力で自分の体を操り人形にすることに慣れてきた。
最初の2日間は慣れてなさすぎて何回か骨にヒビを入れてリカバリーガールにめちゃめちゃ叱られた。
そしてそれをチクられて消太さんにも烈火の如く怒られた。
それを止めようとしたミッドナイトさんまで消太さんに怒られた。本当に申し訳ない…
…というより、ミッドナイトさんわたしのせいで怒られすぎている気がする。気のせいだろうか。
消太さんが迎えにきてくれる前に汗を流すべくシャワーを浴びる。
汗でべたべたなジャージは袋に詰め込んで、更衣室前のベンチに腰を下ろす。
ボトルの中身をとくとくと飲みつつ、消太さんを待つ。
「待ったか?」
「いえ、ちょうど飲みきったところです。」
ボトルをカラカラと振ってみせる。
「そうか。帰るぞ。」
なんとなく空気が重い気がした。
家について、消太さんから封筒が手渡される。
「合否発表だ。」
ごくりと、喉が動いた。
この薄い封筒に私の命運が詰まっている。
鋏で封を切る。
紙を、封筒から引き摺り出す。
──え?
ふ、と息を吐いて、封筒に一度紙を戻す。
「消太さんはこれ、いつから知ってたんですか?」
と聞いた。
「実技試験当日。お前の他に安全かつあそこまで大量に仮想
お姫様抱っこされて帰ってくるとは思わなかったがな。と話す。
ぐぬと声を詰まらせる。
「そしてお前があんなに落ち込んで帰ってくるとも思わなかった。」
「いや、自分で言うのも嫌ですけど、お姫様抱っこされて戻ってくる受験生って計画性諸々どうなの?って感じしませんか?本格的に落ちたと確信してました。」
「まぁ、なんだ、おめでとう。」
「ありがとうございます…」
引き出した紙には「合格」と書いてあった。
安心のあまり崩れ落ちた。
「改めて、相澤弓月、合格だ。おめでとう。筆記試験は正直社会科目が見劣りしたが概ね良好。実技試験については文句なしの1位だった。
よ、
「よかったぁああ…」
「ようこそ、雄英高校へ。うちがお前のヒーローアカデミアだ。」
ちょっと泣いちゃった。
芦戸三奈ちゃんと瀬呂範太くん、一緒に合格してるといいなぁ。
「ちなみにあの
「私以外にもいたんですね…」
どんな人なんだろう。もし合格してたら話してみたい。
「あー、それからだな。」
「それから?」
「合格祝いだ。」
がさりと紙袋がいくつか出てくる。
「これはミッドナイトから。開けてみろ。」
「ええ?」
まずひとつ、手渡された紙袋を開ける。香水?
カシュと空中に噴霧する。
洋梨とバニラの甘くて幸せな香りが漂った。
少しだけベースに香るウッディな香りが大人の雰囲気を漂わせる。
「いい香り…」
「百貨店回りに回って絶対お前に似合う香り探すんだって息巻いてた。」
正直以前のお洋服大量購入事変があったので結構ありありと想像できる。
「そして、これはマイクから。」
次、と渡されたもうひとつの紙袋を開く。
メガネケースがひとつ、ころりと転がった。
「サングラスですか?」
幅、測ったみたいにちょうどいい。
主張が強すぎないフレームの綺麗な薄青色のレンズのサングラスだった。
「似合います?」
「似合ってるよ。あいつ、お前たまに朝眩しそうにしてるから絶対サングラスだろって言ってたよ。」
意外と細かいところ見てるよな。と消太さんは呟いた。
たしかに、私は目の都合でどうしても光を多量に取り込んでしまい眩しく感じることが多い。気がつかれていたのかと思い少し驚いた。
「それからこれは俺から。」
最後の紙袋を渡される。
アクセサリーボックスが出てくる。
「ピアス?」
意外すぎるチョイスに驚いた。
小ぶりのシンプルなシルバーのピアスが一対。
「なんだ、要らないのか。」
「いや、嬉しいんですけど、消太さんってまだガキなのにピアスなんて開けんじゃねえって言いそうなイメージがあったのでびっくりしました…」
「もう開いてるんだから開けるなも何もないだろ…」
「たしかに…」
人の耳たぶ事情なんて興味ないと思っていたので、むしろ開いてることに気づいてたことに若干驚いている。
「お前がここにきたとき、指輪とネックレスはしてただろ。コート脱がす時についでに外しちまったけど。」
「してましたね。コートのポケットに入れておいてくれてありがたかったです。」
「でもピアスは開いてたけどつけてなかった。向こうで開けた穴だろ、塞がっちまったら寂しいんじゃないかと思った。」
居心地悪そうに首元を掻く消太さんと、消太さんがくれたピアスを見て、どく、と心臓が鳴った。
笑顔を作ろうとして、少し唇が震えた。
「…っ、ありがとうございます!」
過去を忘れなくていいって言われたみたいで、嬉しかった。
「つけていいですか?」
「そのために買った。」
そうですよねと笑って、ぱちぱちと左右の耳たぶにひとつずつ嵌める。
「ふふ、似合ってますか?」
「似合ってるよ。」
消太さんの手が私の頭に乗る。
最近、消太さんはその仕草をよくしてくる。
父親が娘に触れるように。
そのとき香るお香のような少し甘くてほろ苦い香りにいつの間にかほっとするようになった。
消太さんの中で、私はちゃんと娘になれているんだろうか。
私は、迷惑をかけていないんだろうか。
「嬉しいです。」
この人の娘でいられる限りは、そうありたいと祈った。
魔法使い、受験勉強中です。 (8話)で弓月にピアスの穴を触らせたのは、ここで相澤消太にピアスを買ってもらうためでした。
ちなみにマイクが細かいところを見てるのは優しさではなく疑いの心からですが、うちの相澤消太はまじで人を疑えないのでマイクも娘のこと気にかけてくれて嬉しいなとか呑気に思っています。