魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使い、落ち込みました。

正確に言うとほのぼのとしていて嬉しいなぁ、と思った数瞬後に私は言葉のダンプカーに吹っ飛ばされた。

 

「あんたが噂のお姫様抱っこの女の子かぁ。」

と耳たぶが特徴的な女の子に話しかけられる。

 

最悪すぎる。頭を抱えてうずくまった。

 

噂になっちゃってるじゃん。と近くに佇む瀬呂くんを恨みがましげに見上げた。

にっこりと歯を見せるように笑われた。

 

う…素敵な笑顔だよ瀬呂くん。

笑顔の眩しさに私は目を逸らした。

 

「あ、うち、耳郎響香。まぁそんな気にするな…って方が無理か。」

「相澤弓月です…気にします…」

握手を求めるように差し出された手を握る。

そんなに気にしてるとは思わなかった、ごめんな。と助け起こしてくれる。

 

ふと彼女の特徴的なヘアスタイルに目が行った。

「耳郎ちゃんの髪型かっこいいですね。私もやってみたいです。」

似合うかな?あんまりショートカットってやったことないんだよね。

 

「案外似合いそうだね。あれ、相澤のピアスいかしてんね。」

「ふふ、合格祝いに貰ったんです。」

耳たぶの重みがちょうど良くてしっくり来ている。

これはしばらく消太さんから貰ったこのピアス以外付けられないなぁと体温の移ったピアスに触れた。

 

「めっちゃセンスいいじゃんその人。もうちょっと見して。」

いいですよーといって横髪を耳にかけて、耳郎ちゃんのほうに耳を向けた。

 

「私も混ぜて!葉隠透!よろしくね!」

せいふくがういてる。

つい、まじまじと見つめてしまった。

 

「個性の影響で人から見えないの!」

と私の疑問を掬うように続けてくれた。

異形型の個性、というのはそういうパターンもあるのかと驚いた。

 

「そういう個性もあるんですね。相澤弓月です。よろしくね?」

いつか顔見てみたいな。と思った。

 

私が女の子たち(と、瀬呂くん)ときゃっきゃしていると、

「初めまして!楽しそうだな。俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!」

と、挨拶してくる男の子が居た。

 

この男の子は…あ。

「あ、痴態くんだ。」

「待て君、痴態くんとは僕のことか?!」

げ、聞こえてた…

 

「だって君、受験番号7111番の人でしょ…?実技試験の説明会場で、近くに居たから声大きくてびっくりしました…」

飯田天哉くんの圧が強すぎて、声量がしりすぼみになっていくのを自覚する。

 

「あぁ、あの時席が近かったのか!驚かせたのならすまなかったな。改めまして、俺は飯田天哉だ。よろしくな。」

素直に謝れるタイプの子だった。

2回も自己紹介をしてくれたのに、自分は何も言わないというのは宜しくない。と思って名乗る。

 

「相澤弓月です。よろしくお願いします。」

「相澤くんか!よろしく頼む。」

悪い子じゃ、なさそうなんだよな。と前ならえのようにぴたりと揃えられた指先を見る。

スルーしきれなくて、手を握った。

 

杓子定規なのか…融通が効かないのか…うーん…

 

元々私が在籍していた〈アストラル〉自体がちょっと型破りというか掟破り気味な会社だったこともあり、杓子定規にあれ駄目これ駄目そろそろ除籍してあげましょうか早く仕事してくれませんかねこの申請書間違えてますからね1時間後までに書き直してくださいよろしくお願いしますよとちくちくお小言を言ってくる〈協会〉を思い出して、憂鬱になった。

 

少し遠い気持ちになっていたところをまたもや飯田くんの声で現実に引き戻された。

 

「机に足をかけるな!」

「あァん?」

「雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!」

「思わねぇよ!てめェどこ中だよ!端役が!」

端役ってなんだ。

みんな自分の人生の主役だからねとか言うつもりも無いけど、端役って…

 

…厄介なクラスメイトだと思うべきなのか、キャラクターの濃いクラスメイトだと思うべき、なのか。

 

 

にしてもあんな粗暴な口調のヒーローがいていいものなのだろうか?

髪型も態度もつんつんしているし、名前も分からないのでつんつんくんと呼ぶことにした。

 

ねえ、と瀬呂くんの袖を引く。

「ヒーロー科ってあんな感じの人もいるものなんですか?」

とつんつんくんを指し示す。

 

「まぁ…ヒーローって言っても活動方針は千差万別だし、ねえ。」

瀬呂くんの歯切れが悪い。

 

ヒーローインタビューなるものがあるが、この感じのヒーローでもやるのだろうか?

放送コードに引っかからないかが心配すぎる。

 

「ぼ…俺は私立聡明中学出身飯田天哉だ。」

「聡明?クソエリートじゃねえか!ぶっ殺しがいがありそうだな!」

「な、ぶっ殺しがい?君酷いな。本当にヒーロー志望か?」

 

今度は芦戸ちゃんの袖を引いた。

「ヒーロー科ってこんな朝一番から殺すって出てくるものなんですか?」

「いやぁ、普通有り得ないと思うけど…」

またも歯切れの悪い芦戸ちゃんを見て、私がおかしいわけじゃないと確認する。

 

あのつんつんくんが変なだけだと思いたい。

触らぬ神に祟りなしってことかな。触らないでおこう。

できるだけ放置。

 

というより、こう、すぐ殺すとか死ねとか言う人とは多分関わらない方がいい気がする。

 

「あ?」

「君は?」

つんつんくんと飯田くんの視線が教室の入口の方を向いた。

 

見覚えのある緑髪の男の子が入口の扉を開いていた。

どうにも実技試験の説明会場で目立ってしまっていた彼のことを見遣る。

 

飯田天哉くんがずんずんと歩いて声をかけに行く。

「おはよう。俺は私立聡明中学の…」

「き、聞いてたよ!」

 

「えっと、僕緑谷。よろしく飯田くん。」

彼は緑谷くんと言うらしい。髪色と一緒で覚えやすいお名前だなと思った。

受験会場での印象通りに臆病な子に見える。

 

「緑谷くん、君はあの実技試験の構造に気づいていたんだな。俺は気づけなかった。君を見誤っていた。悔しいが、君の方が上手だったようだ。」

 

「あ!そのモサモサ頭は!地味目の!」

あれ、この子、実技試験の朝に緑谷くんを浮かせていた女の子だ。

 

「プレゼントマイクが言ってた通りに受かったんだね。そりゃそうだ、パンチ凄かったもん!」

パンチの振りなのかぶんぶんと拳を振る彼女は無邪気で、可愛らしかった。

 

 

「いや、それは、あなたの直談判のおかげで、僕はその……」

「なんで知ってんの?」

直談判なんてしたのか、あの女の子。

緑谷くんのその台詞に、彼女は首を傾げた。

 

「あ、そ、それは!」

あわあわする緑谷くんを眺める。

緑谷くんは女の子と話すと緊張する質なのか、顔を赤く染めて手をわたわたと振っている。

 

可愛いな緑谷くん。悪い子じゃなさそうだな緑谷くん。

それをぎりりと睨みつけるつんつんくんを見やった。

 

 

ところで、消太さんが言ってた新学期の準備って、なんだったんだろうか?

 

「そういえば担任って誰なんだろうな?」

と赤髪の少年が話しているのが耳に入る。

 

もぞりと、教卓横の芋虫が動いた気がした。

 

…嫌な予感が少しした。




もう明日で20話になるんですね。びっくりしました。
全員と初めましてする頃に何話になっているのか、考えるのが怖いこの頃です。
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