第3種目:立ち幅跳び
50メートル走で目についたベルトの子がビームを
射出して飛んでいくのを眺める。
これ多分、多分だけど結構長く飛べちゃうな。
というか浮きながら前に進めちゃったりするな私。
踏切位置についてから、消太さんに声をかける。
「あの、相澤先生。」
「なんだ。」
「時間制限とかって、ありますか?ないってなると多分夕方くらいまではお付き合いいただくことになると思うんですけど。」
消太さんは額に手をやる。少しして、
「あー…じゃあ、5分だ。」
そこから飛んで、砂場超えちまったらそこから先はグラウンド外周。いいな。と言い含められる。
「了解です。」
「立ち幅跳びで外周ってなんなの…?」
と耳郎ちゃんが呟く。
「それじゃあ、せーのっせ。」
軽い声と共に、
グラウンド外周って400メートルだっけ?2周半くらいしよ。
そう思い、2周半くらいでとんと下に降りる。
「1024メートル」
ちょうど2の10乗だ。偶然の一致に少しテンションが上がる。
「いや嘘だろ………」
金髪に黒いメッシュの入った男の子が頭を抱えてるのを尻目に伸びをひとつした。
尾白くんといい、きらきらしい彼といい、いまの子といい、金髪の子がこのクラスには多いなぁ。とどうでもいいことを考えた。
男の子にしては、というよりあまり他に見ることがないくらいに長かった陽光に透ける金糸を思い浮かべた。
今日はなんだかよく彼のことを思い出すな。
ユツキと、声が聞こえた気がした。
幻覚だと頭を振った。
第四種目:反復横跳び
反復横跳びの必要性が私には分からないなぁと思っている私はもう既に結構やる気がない。
タコがえろいとか何とか言っていた男の子は謎の物体を地面にくっつけてぽよぽよ跳ねていた。
どういう仕組み?
地面にはくっつくけど、本人とは反発する?不思議だなぁ。
「いままでのやつ見てるとなんかしょぼく見えるな。」
と周りから拍子抜けした顔をされて困ってしまった。
…そんなにひどいかな?
第五種目:ボール投げ
これは麗日ちゃんの独壇場だった。
せいっという可愛らしい掛け声に反して、麗日ちゃんの投げたボールはどんどん遠くへ飛んでいく。
出た結果は∞だった。
そんなことあるんだぁ。と呟いたら、
「立ち幅跳びで1キロ超えるやつでもびっくりすることあるんだね。」
と耳郎ちゃんに笑われてしまった。
「あれは個性的に向いてる種目でしたからね。」
と耳郎ちゃんに嘯いた。
緑谷くんの番だ。思い悩んでいるように見える。
彼の成績はぶっちゃけて言うと芳しくない。
というより、個性を使っていない、のか、使えないのか。
「緑谷くんは、このままだとまずいぞ。」
という飯田天哉くんの声を聞いた。
最下位が見込みなしとして除籍処分、本当ならおそらく最下位になるのは緑谷くんだ。そう、全員が思っている。
「あァん?たりめーだ無個性の雑魚だぞ。」
爆豪くんがぎゃんと飯田くんに噛み付く。
「無個性?彼が入試時に何を成したのか知らんのか?」
入試で、成した?何を?
飯田天哉くんの言葉になにか引っかかりを感じた。
麗日ちゃんが、あの子に助けて貰ったんだと言っていたのが、頭をよぎった。
消太さんの目が赤く光って、髪が立ち上がる。
「46メートル」
緑谷くんは、何かに驚いたような顔をしていた。
どうしたんだろう?
「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のようなやつも入学できてしまう。」
はぁ、とため息をついた消太さんは続ける。
「個性を、消した?」
緑谷くんが呟いて、はっと息を飲む。
心当たりがあったのだろう。
抹消という個性について、私が理解出来ていることは多くない。
個性の発動を強制的に停止できる。というのはこの個性社会において便利なんだろうな、とは思うけど、私の
「見たところ、個性が制御できないんだろう。また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そんなつもりじゃ!」
と反射的に返す緑谷くんを消太さんは操縛布で引き寄せる。
個性、を制御ってどういうことなんだろう?私は個性ないからわかんないな。
「どういうつもりでも周りはそうせざるを得なくなるって話だ。」
うぁ、耳が痛い。
消太さんは、皆さんは、私のことを助けざるを得なかったんだろうなと思って顔が少し下がる。
「…弓月?」
どうしたの?と気遣わしげな三奈ちゃんに大丈夫だよ。と告げる。
「昔、暑苦しいヒーローが大災害から1人で1000人以上を救い出すという伝説を作った。同じ蛮勇でもお前のは1人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久お前の力じゃヒーローになれないよ。」
消太さんは、当然そんな私には気が付かずに緑谷くんに話し続けていた。
「お前の個性は戻した。ボール投げは2回だ。とっとと済ませな。」
しばらく話した消太さんは、元いた場所に戻った。
「指導を受けていたようだが。」
「除籍宣告だろぉ。」
みんながごちゃごちゃと話しているのを聞き流す。
緑谷くんはぶつぶつと呟いている。彼にとって集中のルーティンなのかもしれない。
ところで、
まぁ考えるだけ無駄かな。
緑谷くんはガバリと顔を上げてボールを投げる。
衝撃が、グラウンドを突き抜けた。
ボールを投げて指を腫らした彼は、その指を握り込んで、
「まだ、動けます!」
と絞り出すように言った。
なんて無茶を、と思った。
君は、部品さえあればいくらでも修理できる
いくらリカバリーガールがいるからと言って自損前提でボールを投げるやつがいちゃだめでしょう。
爆豪くんが飛び出した。
「どう言うことだ。コラ!わけを言えデクテメェ!」
彼を消太さんの操縛布と、私の力が追いかける。
私の力が爆豪くんの両腕をその場に固めたと同時に、消太さんの操縛布が彼の上半身の動きを縫い止めた。
緑谷くんのとんでもボール投げに私も動揺していたようで、縫い留めた爆豪くんの腕が少し軋んだ。慌てて少し緩める。
「何度も何度も個性つかわすなよ。俺はドライアイなんだ!」
と宣う消太さんはしゅるりと操縛布を爆豪くんから解く。
「テメェ離せカス!」
こちらを睨んでぎゃんぎゃんと喚く爆豪くんに目をやる。
ぱ。と離した。
「時間がもったいない。次準備しろ。」
という消太さんの言葉で、生徒たちの群れに緑谷くんが入る。
「指、だいじょうぶ?」
と聞く麗日ちゃんに、う、うん。と返す緑谷くんの元に小走りで駆け寄る。
「緑谷くん、大丈夫ですか。少しだけ見ますよ。」
と、緑谷くんの手を取る。
「わ、わわ、大丈夫!大丈夫だから!」
と顔を赤くする緑谷くんを見て、あ、自己紹介してないな。と思った。
「挨拶もせずですみません。私、相澤弓月です。よろしくお願いします。」
「僕、み、みみみ緑谷です。よろしく、お願いします。」
見ることは断られてしまったので指、できるだけ動かさないでくださいね。と念を押した。
おずおずと緑谷くんは頷いた。
歯噛みする爆豪くんを横目で見て、めんどくさいなぁと思った。
いままで誰にも負けることのできない小さな世界で生きてきたんだろうか。
自分の番が回ってきたので、とりあえず投げようと思った。
ううんでもバリエーション欲しいよね。と思って気まぐれを起こした。
「そぉりゃ!」
投げたボールの周りの
爆豪くんの罵声を思い出して、力が滑った。
それはもうつるんと。
「52メートル」
もうこの結果でよくわかる通り失敗した。
見えないものを触るのはまだ難しいなぁ。
こう、明確なイメージがないと厳しい。
「弓月なら無限行けると思ったのにー。」
三奈ちゃんが口をとがらせた。
「ちょっと試したいことがあったんですけど、上手くいかなかったです。」
少ししょんぼりした。
2回目は余計なことはしないで普通に4キロくらいかっ飛ばした。
ここから、上体起こし、長座体前屈、持久走と残りのテストを消化した私たちに残されたできることは順位の発表を待つ間祈ることだけだった。
最初はここまで頑張らせるつもりではなかったのですが、ここからのお話の流れ的に爆豪くんの上に立った方が都合が良くて反復横跳び以外では頑張ってもらいました。
反復横跳びにどう生かせばいいんだ?と困ったというのもあります。