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モニタールームを出よう、というときに袖を誰かに引かれた。
「怪我、しないでよ。」
三奈ちゃんだった。
緑谷くんと爆豪くんの争いを見て、少し怖かったのだろうか。
それとも私がいま怖い顔をしていたのだろうか。
珍しく眉を下げる三奈ちゃんを見て顔がほころんだ。
「大丈夫ですよ。そこまで無茶しません。」
三奈ちゃんの落ちた視線の先に屈んで入り込む。
「怪我したら、怒るからね。」
「上鳴くんと一緒に祈っててくれてもいいんですよ?」
三奈ちゃんの表情がこれ以上曇らないように軽いトーンで相槌を打つ。
「でも、弓月が怪我したら、私がご飯食べさせてあげる。」
「私、腕へし折る前提なの?」
むすっとした顔で言われた言葉が可愛らしすぎてつい敬語が抜けてしまった。
「三奈ちゃん。ありがとう。緊張もだいぶ解けました。」
頑張ってきますとピースサインを突き出して笑った。
「うん、頑張ってこい!」
私の笑顔に合わせてくれたのか、三奈ちゃんにも笑顔が宿り、ピースサインが返ってきた。
怪我、しないように頑張るしかないかなぁ。
これで怪我なんてして戻ったら泣かせてしまいそうだ。
あまりにも可愛らしい三奈ちゃんからのお話?注意?を聞いてから何も無い演習場に来るとなんだか味気なく感じる。
がらんとした廃ビルを模したこの場所は薄ら寒くて身震いをした。
4階の階段隣の部屋に核兵器の張りぼてを置き去りにした。
部屋の扉は閉めない。
壁や床に対しての細かい工作をざっくりと終わらせた。
あとは戦いながら壊れてくれることを祈る他ない。
唸れ私のキャパシティ。
経費的な面で心は痛むけれど、もうすでに結構なビルが壊れちゃっているので許して欲しい。
1階からの階段、下から2段目に腰をかけてオールマイト先生の襲来を待つ。
…私は正直、オールマイトというヒーローを教科書に並んだ文字列としてしか知らない。
曰く、現代ナンバーワンヒーロー。
曰く、揺るぎのない平和の象徴。
曰く、日本のヒーロー社会の一本柱。
そのやたら重たそうな称号たちを背負い続けるには、どれだけのストイックさが必要なんだろうか。
どれだけ自分の人生を犠牲にして、生きてきたのだろうか。
オールマイト先生が登場したときのクラスメイト達の湧き様を見た私は、恐怖した。
彼が彼でありつづけるために、何を切り捨てて、何を諦めてきたのか。
…考えるだけで怖気が走った。
だからこそ、あそこで緑谷くんと爆豪くんの明らかな私闘を止めなかったオールマイト先生には違和感を覚えた。
"ヒーロー・オールマイト"としての彼では有り得ないであろう優柔不断さを露わにした"オールマイト先生"に、疑問を感じている。
苛立ちのあまり少し頭が痛くなり、舌打ちをひとつした。
「冷静になろう。」
頭の中を整理するべく、ここまでに立てた作戦のピースを並べる。
「あれ、これって逃げ切れば勝ちだったっけ?」
忘れちゃったなぁ。まぁいっか。と呟きながら、渡された確保テープをくるくると手の中で弄ぶ。
伸ばしては丸め、丸めては伸ばしをしばらく続けた。
ビルの中では私の呼吸音と、確保テープの擦れる音だけが響いている。
ところで、
「私重たいものは動かせないって思ってたんですよ。」
実技試験の
ただひとつ、他者から知られている私の
「でも気がついたんですよね。
正確に言えば、私の発想の問題で重たいものを動かす時に
その場に留めるだけなら持ち上げるという無駄な工程が要らず、楽になるということが判明していた。
弄んでいた確保テープを空中でぴたりと浮かせてみせる。
私の声は、訓練開始の合図からずっとオールマイト先生の耳にもイヤーモニターを通して届いている。
「このビル内は
そう、オールマイト先生は入ってこないわけではない。
入れないのだ。
ドアノブを回しても、固定されてしまっているドアは開かない。
「ヒーローは一般市民の生活を守るため、できるだけ破壊活動を行わないように努める必要があると伺いました。」
ドアをがちゃがちゃと鳴らそうとしても鳴らないドアを引き続けるオールマイト先生を眺めて続ける。
ここであえて言葉にすることで、無駄な破壊活動は行えないように、心理的な重石を乗せる。
「なら、生徒と戦う際に、しかも私たちに初めて見せる演習ならなおさら、窓をいきなり壊しては入ってこない。そう推測しました。」
ゆらりと立ち上がる。
そう、あなたは今、ヒーローではなくて先生だから。
私たちに模範を示さなければならない。
「どうしますか?オールマイト先生。」
多分私が
まあそれにはもう少し
でもこのままでは、私の力も、オールマイト先生の力も示さないまま終わってしまう。
何より私は、あなたと戦ってみたいのだ。
2階に上がる階段の踊り場までゆっくりと上がる。
ついでに腕を横に振って
がらがらがらと音を立てて扉と申し訳程度に扉を押さえていた瓦礫が建物内側に吹っ飛んだ。
「すごい威力ですね…」
「そうかい!褒めてくれてありがとう、ね!」
オールマイト先生の掌がわたしを掴むべく伸びる。
握られない拳をみて、馬鹿にするなよと思う。
「手加減、してくれるんですね。」
あは、と笑う。
がちりとオールマイト先生の腕が止まる。
「でも、今それ欲しくないです。」
オールマイト先生の腕に、私の
操ろうと思わなければ
その境地まで来るのに消太さんをぶっ壊すリスクに怯えやだ無理頑張れませんと逃げ回り続け結局逃げ切れずに骨をへし折りかけ半泣きになるあの日々を思い返して遠い気持ちになる。
自分が怪我するより、自分のせいで人が怪我する方が精神的には厳しいよなぁ、と回想した。
この学校の人たちはリカバリーガールに頼りすぎている、とあの時は思った。
お陰様で無理無茶が効くわけなんだけど。
リカバリーガールがいなくなってしまったらこの高校は抜本的な改革をしなければならないだろうなぁ。とまだ見たくはない未来を考えた。
「ぐ…っ。重たい、ね!」
オールマイト先生が少し呻く。
「でも、これくらいなら全然余裕、だよ!」
腕の一振りで跳ね除けられた。
目で見えないはずの
「すんごいですね。平和の象徴。」
冷や汗を隠すように笑って見せた。
笑顔というのは、動物の間では威嚇だと聞いたことがある。誰から聞いたのかは、忘れてしまった。
「こうやってみんな
「相澤少女、何が言いたいんだい?」
嫌味じみた喋り方になってしまい、オールマイト先生に怪訝な顔をされた。
「あこがれの4文字で命を投げ捨てられる人って案外沢山いるんですよ。」
知ってます?と首を傾げる。
魔法というものに焦がれて、魔法になりたくて、身体も心も失ったのにそれでもそのあこがれには足りずに自分の娘すら喰らおうとした男だった。
それは、執着だけが残ったような、そんな姿だった。
「だから、オールマイト先生、貴方にあこがれた人がそのあこがれに蝕まれないことを祈っています。」
あまりうまく笑えずに、ぐにゃりと歪んだ笑みを浮かべる。
「私に憧れた人のことは、私が死なせないさ!」
そう自信満々な笑みを浮かべるオールマイト先生に、この人本当になんも分かってないなと思ってどっと疲れた。
「……先ほどの第1試合、どう考えても訓練の域を超えているように見えました。いくらでも止めるタイミングはあったはずですが、どうして止めなかったのでしょう?」
眉間に皺が寄りそうなのを抑えて、もうひとつ聞く。
「彼の成長に必要だと思ったからさ。」
「彼
これ以上深掘りされたらまずいと思ったのかオールマイト先生からのリアクションはなかった。
彼、と言うのが誰なのかには興味がない。
ただオールマイトという人間が先生という立場にあるのに、誰か1人に肩入れしているのであればそれは不誠実ではないかと思うのだ。
やはり、あの時のオールマイト先生は、先生ではなかったのだろう。
このクラスにいる生徒のほとんどが多かれ少なかれ
梅雨ちゃんの真っ当な授業という言葉を思い出してあんなものはただの私闘だよと奥歯をギリと噛み締めた。
「あんなことばかりしていたら、いつか本当に誰か死んじゃいますよ。」
マーフィーの法則ってやつです。と述べて両腕を前に突き出す形で構え直す。
この世界にもマーフィーの法則はあるのだろうか、と言ってから思い至った。あとで調べてみよう。
きゅ、とオールマイト先生の意識を刈り取るべく頸動脈を圧迫するように
お世辞にもフィジカルに恵まれているとはいえないお前が戦っていくのなら、最小限の力で最大限の効果を求めていくべきだ。と消太さんから言われたことを思い出す。
「器用なんだな相澤少女。」
血管って鍛えられるものだっけ?と困惑している間に、オールマイト先生の足が振り上げられた。
頸動脈への
あらかじめ傷つけておいた2階の壁を柱だけ残してオールマイト先生に向かって爆ぜるように隣接した部屋側から圧をかけて大破させる。
足元にゴロゴロと転がる瓦礫はいくらオールマイト先生といえど多少の足止めにくらいはなるだろう。
砂埃の中で階段を登る。
2階と3階の間の踊り場の側で息を潜めた。
数瞬。
「相澤少女。」
ざり、と靴裏が砂利と化したコンクリートを靴が踏みにじる音がした。
「どうも、オールマイト先生。」
立ち上がって構えをとった。
「徒手空拳は、勉強中なのでお眼鏡に叶うかわかりません。」
体格差が違いすぎて目は打てない。
緑谷くんが教えてくれたオールマイト情報からざっくり計算するとおおよそ60センチ以上の身長差、体重差にして6倍強ほどあったはず。
小柄を生かす戦闘術などあるけれど、それにだって限度がある。
ここまでの人外的体格差までは考慮されていない。
それでももし崩せるとすれば、足下か?
くるぶしを外に払うべく、ブーツを彼の足の間に差し込んで外向きに払う。
びくともしなかった。嘘でしょ。生身じゃないんだぞこっちは、
「うわ、本当にフィジカルお化けですね。」
「君もその矮躯でよくそこまで力強く動けるものだよ。増強系の個性じゃないと聞いているけどね?」
…?
「ぞうきょうけいの個性ってなんですか?」
「あ、そっか、そうだよな知らないもんな?!ごめんね!今度説明するよ?!?!」
オールマイト先生が少しおろおろした。
少し屈んだ背中を
「うっそぉ…」
ほんとーに生身の人間、ですか?
合金でできてない??
私のトレーニングの成果達はナンバーワンヒーローのフィジカルという壁に木っ端微塵にされた。
「相澤少女。君は、肉体的にも精神的にもまだまだ脆いよ。」
もう少し大人に頼りなさい。とわたしの拳も蹴りも避け続けるオールマイト先生は言う。
「もう、十分、迷惑かけてます、から!」
つま先を上方に振るって薙ぐように腕の腱を狙う。叩き落とされる。
そのままよろけてそのまま逆の足で2発目を脇腹目掛けて叩き込む。
が、体が回転する方向に打ち落とされる。
「そうかなぁ。大人はもっと君に頼ってほしいと思っているよ。」
と言うオールマイト先生は無防備に崩れた私の後頭部に向けて手刀を振りかぶった。
その手刀は振り下ろされない。
クッションのように配置した
そのままオールマイト先生の腕に力が籠る。
キャパオーバーの文字が頭をよぎる。
「それでも君が隠した核さえ見つけて仕舞えば私の勝ちだよ。」
そのオールマイト先生の言葉と同時に彼の拳が巻き起こした風圧で私は3階まで飛ばされる。
私は、破顔した。
オールマイトにどのような思惑があった所で、先生になりきれないオールマイトに対して、苛立ちを感じています。
ちなみに芦戸ちゃんに怪我しないでねって言われなかった場合はもう少し感情的に訓練が進むこととなっていたと思います。