魔法使い、インタビューから逃げました。
戦闘訓練の影響で筋肉痛が痛いなぁ。なんて日本語としてアウトなことを考えつつ、校門までのんびり歩く。
頭の中くらいは文法からも敬語からも自由なのだ。
なんか大変だったなぁと家を出る前のことに思いを馳せた。
身支度をしっかりと終えて、カバンを手に持った私に消太さんが突然告げた。
「…今日も送るぞ。絶対に今日は厄介なことになる。」
「いやです。」
消太さんからのありがたいお言葉に対してコンマ3秒で否を返した。
「なんでだ。」
想定外の返答だったのか消太さんが驚いた顔をする。
「昨日障子くんに相澤って本当に相澤先生の娘なんだなってしみじみ言われまして。」
「事実だからいいじゃないか。」
そういうことじゃないんですよね消太さん。
この父親1年生め!と頭を抱えたくなった。
「こう、なんていうんですかね。ちょっと気恥ずかしくなるわけですよ。」
かくいう私も娘1年生なもので全然なにも言語化できなかった。
「全然わからねえ。」
「私も人生で初めての思春期に突入した気持ちです。」
親子ふたりで朝から頭を抱えているこの光景、側から見たら面白いのだろう。
私たちふたりはとても困っているのだけれども。
「と、とにかく!クラスの人に見られるのなんだか恥ずかしいのでひとりで登校します!」
消太さんはふいとそっぽを向いて珈琲を啜った。
何も言わない時は基本的に肯定ととっていいということを私は最近学んだので、消太さんをおいて扉に手をかける。
「お先に行ってきますね!」
「…いってこい。」
絶対に厄介なことになる。という言葉の意味を私は今ようやく知った。
目の前の光景は普段の生徒だけが通り抜ける校門ではなかった。
「うそぉ…」
見渡す限りのアナウンサー、カメラマン、照明さん、音響さん。そう、あり得ない数のマスコミの方々がひしめき合っている。
「君!オールマイトの授業はどんな感じですか?」
ずいと記者さんのマイクを口元に寄せられたのは緑谷くんだった。
「え…っすみません。僕保健室に行かなきゃいけなくて!」
と言って緑谷くんは逃げていった。
どうしようこの人混み。
校外で個性って使っちゃダメだった気がするし、悪目立ちもしたくない。
というか校門の前って校外なんだろうかギリギリいけない?いけないか…。
「あれ?相澤じゃん、おはよ。どしたん立ち尽くして。」
「…瀬呂くん。おはようございます。あのマスコミ、どうすれば切り抜けられられるかなぁと考え中です。」
遠い目をしつつ、あ、ハンバーガー美味しかったですね。なんて呟いてみる。
「今度は別のも食べに行こうな。」
と瀬呂くんが言う。楽しみ。
「平和の象徴が教壇に立っている様子を聞かせてくれる?」
ずずいと記者さんは次のターゲットとして捕まった麗日ちゃんにマイクを寄せる。
「よ、様子?えーっと。筋骨隆々…です!」
困り顔の麗日ちゃんが両腕でガッツポーズを決めた。
「教師オールマイトについてどう思ってます?」
ずずずいと次にマイクを向けられたのは飯田くんだ。
「最高峰の教育機関に自分は在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが他にもユーモラスな部分など我々学生は常にその姿を拝見できるわけですから…」
飯田くんの長口上に彼を囲んでいたマスコミの皆様がげんなりし始めた。
…飯田くんはもしかしたらマスコミ対策にうってつけなのではないか。
「トップヒーローとは何をもってしてトップヒーローなのかを直に学べるまたとない…」
マスコミの皆さんはすごすごと飯田くんから逃げていった。
「私たちもあんな感じでやってみます?」
「あんなに話せる?俺無理よ。」
飯田くんを指さして頑張ってみる?と聞いてみたが確かに無理だ。
「オールマイトについて…ってあれ?」
次にターゲットになったのは爆豪くんだった。
「君、ヘドロの時の…?」
「ぐ、やめろ…」
爆豪くんの顔色がてきめんに悪くなった。
「ヘドロってなんですか?」
「相澤知らねえの?あいつあんまり知られたくなさそうだし本人から聞きなよ。」
うへえ。と顔を顰めた。
「そこまでして知りたくないので大丈夫です。」
「まじで仲悪いのね…」
瀬呂くんから同情の眼差しを向けられて居た堪れなくなる。
「‥だから面倒なことになるって言ったろ。」
馴染みのある手が頭に乗る。
「もうちょっと詳しく教えてくれても良くないですか?」
「え、おはようございます。相澤先生。」
非難がましい私からの目線を受けて涼しい顔をする消太さんに瀬呂くんが挨拶する。
「俺がマスコミの相手しておくから、お前らその間に通れ。」
少し面倒そうにして消太さんは足を進める。
「すみません、オールマイトについて…って小汚っ!なんですかあなたは!」
消太さんの目論見通りにマスコミの皆さんが消太さんに注目する。
「彼は今日、非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください。」
しっしとマスコミに向けて追い払うようなジェスチャーをする消太さんにマスコミは戸惑い気味だった。
その間に私と瀬呂くんは後ろを抜き足差し足で通り抜けた。
私たちが校門を通り抜けたのをみて、消太さんも校門をくぐる。
「あ…オールマイトに直接お話し伺いたいのですが!」
「ちょっと…少しでいいのでオールマイトに!」
思ったように情報を取れず苛立った様子の記者さんが校門に足を踏み入れようとする。
「あ…馬鹿!」
他の記者さんが制止しようとするが、止まらない。
けたたましい警報の音と共に、校門だけではなくそこにつながる塀の内側にも鉄板が迫り上がる。
「え…なんですかこれ。」
「俗にいう雄英バリアーってやつだ。」
「牢獄みたいですね…」
雄英高校、すごいことするな…
びっくりしたまま瀬呂くんと顔を見合わせた。
お互いの顔が間抜けで二人揃って笑ってしまった。
「学生証や、入校許可証を身に付けてないときに校門を潜ろうとしたらお前らも締め出されることになるから気をつけろ。」
「はい。」
私と瀬呂くんは笑みを引っ込めて返事をした。
締め出されたら絶対揶揄われる。三奈ちゃんとかに。
「んじゃ、早く教室行け。」
ひらりと手をはためかせながら消太さんは職員室の方に歩いていった。
「オールマイト先生が教師になるって、そこまでの大ごとなんですね。」
「いや俺合格発表の動画見た時ひっくり返ったもん。オールマイトだー!って!」
瀬呂くんの言葉に首を傾げる。
「動画、ですか…?」
「あれ、相澤違った…あ。相澤先生と一緒に住んでんのにわざわざ動画撮るのもどうなの?ってなってそう。」
「あぁ、たしかに、ありそうですね。」
ちなみにお姫様抱っこのことも動画で言及されたらしい。試験終了後だったから
「動画でそれ言われてたら、ここに来る前に心労で死んでたかもしれないので直接でよかったです…」
当初面識のなかったオールマイト先生にまで間接的にダメージを与えられるとは思わずつい苦い顔をしてしまった。
ところでいつまでこのお姫様抱っこの話は私にダメージを与え続けるんだろう?
親になったことのない相澤先生と、ちゃんとした親に育ててもらえていない(いつか話題に上がるかもしれません。)弓月ちゃんなのでお互いにあまり上手く嵌まらない時があります。