魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使い、投票しました。

「昨日の戦闘訓練、お疲れ。VTRと成績見させてもらった。」

教卓の後ろに立つ消太さんはぎろりと爆豪くんに目をやる。

 

「爆豪。お前もうガキみてえな真似するな。能力あるんだから。」

「…わかってる。」

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か。」

緑谷くんも自覚しているのだろう。ぎゅと眉根を寄せて下を向いてしまった。

 

「個性の制御。いつまで立ってもできないから仕方ないじゃ通させないぞ。」

緑谷くんから視線を切る。

 

「俺は同じことをいうのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。」

やれることは多いと言われて嬉しかったのかがばと顔を上げる。

 

「焦れよ。緑谷。」

焦るように言われてつい先ほど笑顔になった表情をきりと顔を引き締めて、はい!と返事をする。

見てて飽きない子だなと思ってくすりと笑ってしまった。

 

「相澤、お前笑ってるがあの作戦はなんだ。またリカバリーガールと俺にとっちめられたいのか?お前も他人の身体操作、できませんで通せると思うなよ。」

「他人に個性で触れるようになっただけ随分な成長だと思いませんか…?」

頑張ったんだから褒めてくれてもいいじゃないか。

娘の成長をもう少しくらい喜んでくれ。

 

「文字通り骨折ったにしては成果が小せえ。もっと死ぬ気でやれ。」

文字通りに骨を折ったのは私じゃなくて消太さんなのだけど。

入学前の束の間の間にやりたくないと喚き続けたにも関わらず何度か半強制的に他人への肉体操作(ドーピング)の練習として消太さんの腕を数回へし折りかけている。

というより正直にいえば恐らく何回か折っている。

 

「私がそれ、死ぬ気でやったら本当に死んじゃうの相澤先生なんですけど…」

実はこの会話、家でも訓練中でも何回もやっているので埒が開かないことをお互いに知っている。

どうせ終わらないので最後の一言はぽそりと呟くだけに留めた。

 

「んで、ホームルームの本題だ。急で悪いが今日は君らに学級委員長を決めてもらう。」

お?学校っぽい。

周りのみんなもほっこりと微笑んでいる。

 

「委員長!やりたいですそれ俺!」

と切島くんが両手を上げる。

 

「俺も!」

「うちもやりたいっす。」

上鳴くんも耳郎ちゃんも手を上げた。

 

「僕の為にあるやつ「リーダーやるやる!」

三奈ちゃんは青山くんを遮らないと気が済まないのかな?

彼女の天真爛漫さに圧され続ける青山くんに少し同情してしまう。

 

みんなが手を上げるのをのんびりと眺める。

 

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ」

と両手を振る峰田くんには絶対に投票しないと決めた。

 

「俺にやらせろ!俺に!」

と鬼のような顔で手を上げる爆豪くん…うん怖いしやめておこう。

なんでだか峰田くんよりも酷い独裁政権が樹立しそうだ。

 

緑谷くんもはにかみながら静かに少し手を上げる。

 

「静粛にしたまえ!多を牽引する責任重大な仕事だぞ!やりたいものがやれるものでは無いだろう。周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…」

飯田くんが声を発して、みんなが飯田くんの方を見る。

 

「民主主義に則り真のリーダーをみんなで決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!」

と、いう飯田くんの腕はぴっしりとまっすぐそびてたっている。

 

「なぜ発案した???」

と上鳴くん。無駄に真面目よね飯田くんって。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ。飯田ちゃん。」

梅雨ちゃんはそう言いながら頬に手を当てる。

 

「そんなんみんな自分に入れらぁ。」

と切島くんが手を広げる。

え?自分に入れるのありなの?

多数決なのに…?

 

「だからこそここで複数票取ったものこそが真にふさわしい人間ということにならないか?どうでしょうか先生!」

飯田くんは芋虫になり始めた消太さんを振り返る。

 

…その寝袋本当に何なのか聞くのすら怖くなっている私がいる。

 

「時間内に決めりゃなんでもいいよ。」

と言った消太さんは完全に芋虫となり、視界から消えていった。

 

本当にその状態なんなんだろう?

 

もう理解不能な消太さんのことは忘れて頭を切りかえよう。

誰に投票するか。

 

ほとんどの人は自分に投票するんだろうけれど、私は別に委員長とかやりたくない。

いやぁ…どうしようかな。

 

飯田くんに入れておこう。そうしよう。

 

カリカリと紙をペンで引っ掻く音を少し立てて、すぐにペンを置く。

 

投票用紙を教室前の箱にぽいと入れた。

 

「弓月誰に入れたの?」

「誰に入れたかは内緒ですが、自分には入れませんでした。」

と三奈ちゃんにウインクして答えた。

 

「えー?じゃあ私に入れた?」

「三奈ちゃんは委員長さんってよりも体育委員さんって感じがするので入れてません。」

入れてくれてもいいじゃーん!と口を尖らせる三奈ちゃんを微笑ましく眺める。

 

「え?じゃあオイラに入れたってことか??相澤ったら膝丈のスカートしか履かねえの勿体無いぜ!」

「峰田くんが委員長になることがあったら私不登校になります。」

お前も膝上スカート履くんだぜ!とグッドサインを出してくる峰田くんににっこりと笑う。

峰田くんがカチンと固まってしまった。

 

「えーじゃあ誰に入れたの?」

「いちばん使命感に燃えているひとです。」

これ以上のヒントはあげませんよー。と付け足して窓から見える四角い青色を眺めた。

 

 

そうやってぼんやりしている間に全員分の結果が出揃ったらしい。

 

黒板に出た結果を見て呆れた。

この1票の人たちってまさかほとんど自分で入れたのか…

 

緑谷くんが3票、八百万ちゃんが2票、麗日ちゃん、轟くん、私の3人が0票。

私が投票した飯田くんを含めた他のみんなは1票だった。

 

「ぼ、僕3票?!?」

「なんでデクに!誰が?!」

緑谷くんと爆豪くんが叫ぶ。

 

「ま、おめえに入れるよかわかるけどな。」

「んだとコラ!俺のどこが悪いんだよ!」

さらっと言い放つ瀬呂くんに爆豪くんがキレる。

…そういうところだよ。

 

飯田くんが肩を揺らしている。

「い、1票入っている?!しかし緑谷くんに届かなかったか…」

 

「分かってはいた。流石に聖職と言ったところか…!」

そのまま呟き続ける飯田くんをみんなで見つめる。

 

「飯田さん、他に入れたのね。」

「お前もやりたがってたのに、何がしたいんだよ飯田。」

八百万ちゃんと砂藤くんが気遣わしげに飯田くんを見つめている。

 

「しかし…誰が入れてくれたんだろうか。」

眼鏡を光らせる飯田くんを見ていると、三奈ちゃんからにししといたずらっ子のような笑みが溢れた。

 

「ねえ飯田!多分それね、弓月だと思うんだよなぁ!」

「あ、相澤くん?!そうなのか???」

み、三奈ちゃんんん。なんでこう目立つようなことをしちゃうのかな?!

ほらはりねずみ爆豪くんがこちらに棘を伸ばし始めている!!最悪!

 

爆豪くんの目尻が吊り上がっていくのが視界に入る。

見なかったことにしよう。

 

「う、はい。私は飯田くんに入れましたね。」

「あ、ありがとう。相澤くん。ありがとう!!!」

ものすごい勢いで感謝された。

ちょっと怖い。

 

「じゃあ、委員長は緑谷。副委員長は八百万だ。」

消太さんは芋虫のままで教卓から顔を出してそう言った。

しかし、今はちょっと消太さんの芋虫を気にしている場合ではない。

 

「ま、まま、まじで、まじでか????」

緑谷くんの震え具合がえげつないのだ。

バイブレーションでも内蔵しているのかと思うほどにガタガタと震える緑谷くんをそれはもう心配そうに眺める八百万ちゃんが呟く。

「うーん、悔しいです。」

 

「いいんじゃないかしら。」

口元に指先を当てて梅雨ちゃんは言う。

 

「緑谷なんだかんだで熱いしな!」

と言う切島くんと梅雨ちゃんは頷きあっている。

 

「八百万は講評のときのがカッコよかったし!」

と言う上鳴くんの言葉を聞いて、八百万ちゃんの講評の時の高らかな言葉を思い返していた。

 

みんな、いいヒーローになってほしいなぁ、と頬杖をつきながら私は思った。




委員長やりたいってみんなが言う世の中、私の知っている学級には存在しないので難しいですね…。
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