励みになっております。
「弓月ー!お昼いっくよー!」
「お腹空きましたね三奈ちゃん。」
るんるんと足取り軽い三奈ちゃんを微笑ましく眺めつつ学食へと足を運ぶ。
「今日何食べる?」
「うーん、さらっと食べられてお腹に溜まるやつがいいですね。」
どうしよっかなぁと悩んでいると、ふと丼ものに目がいく。
「天丼にします。お家だと揚げ物しないので。」
「おお!いいねぇ!じゃあ私はカツ丼!」
注文を通してもらってお盆に乗ったカツ丼と天丼をそれぞれ手に持って、空いている4人がけの席に座る。
「いただきます。」
「いただきまーす!」
今日もランチラッシュさんのご飯は外れなく美味しいなぁ…とうっとりする。
「あれ?相澤に芦戸だ。混ぜてもらってもいい?」
「耳郎ちゃん。席余ってるのでどうぞ。」
「ねえ、どうして相澤は飯田に入れたの?」
何の話だか一瞬分からなくて首を傾げた。
「委員長決めのことだよね。私も気になる!」
あぁ、委員長決めか。
「飯田くんって、杓子定規って感じしますけど案外周りの事見てますし、注意しなければならないことも躊躇せずに進言できる人じゃないですか。向いてると思って入れてみました。」
実技試験の説明会でのことといい、入学式の日に爆豪くんに注意していたことといい、彼は自分の中の正義に自信のある人だ。
そこに柔軟性がないことが難点ではあるものの自分にとっての正義を人に伝えることに躊躇がない。
案外そういう人って少ないし。
忖度や遠慮を除いて人にものを伝えられるというのは委員長という立場においてはかなりプラスに作用すると思ったんだけど。
「ふぅーん。」
白米をひとくち含んで飲み込んだ耳郎ちゃんはこう続けた。
「相澤は瀬呂に入れるかと思ったけど。」
せろにいれるかとおもったけど?
「…なんでですか?」
理解不能な言葉が来てしまって反射的に質問を返す。
「だってあんたら仲良いじゃん?」
「三奈ちゃんとも同じくらい仲良しですよ?だからと言って仲良いから投票するってものでもないような気がしますけど…」
委員長決めって別に仲良い人に入れるものでもないと思うのだけど、違うのだろうか?
「でもほら、あんたがた噂の的だったし、実際めちゃくちゃ仲良いし。」
くるりと特徴的な耳先を指に巻くように弄る耳郎ちゃんが満足する答えが分からない。
ううんと心の中で唸る。
「耳郎ちゃんは、瀬呂くんが恋愛的な意味で好きなんですか?」
「…なんでそうなる?」
絡めていた耳先を指先から離して、嫌そうな顔をする耳郎ちゃんを見て外れてたかと思う。
「瀬呂くん、凄くいい子だと思いますけど。」
そう言う方向じゃないのか、と首を傾げる私を見て耳郎ちゃんはため息をついた。
「むしろあんたはどうなのさ。」
び、と指をさされた。
「何がですか?」
聞いた私に向かって、耳郎ちゃんの唇はこう動いた。
「す」、「き」、「な」、「ひ」、「と」
自分にこんな話題が振られると思わなくて面食らってしまった。
正直昔は
「その類の話題を振られたことがなくて、回答に困りますね。」
「んじゃ、それこそ瀬呂はどーなの?」
頬杖をついてにやにやとする耳郎ちゃん。
「さっきも言いましたけど、いい子だと思います。ここにきて出来た初めてのお友達ですね。」
「そう言う答えじゃないんだよー欲しいのは!」
何か不満だったのか三奈ちゃんはぺしぺしと机のヘリを叩いている。
「と言うか私じゃないの?!最初の友達!」
「実は名前を最初に聞いたのは三奈ちゃんじゃなくて瀬呂くんなんですよね。」
「ええー悔しい!」
そんな益体もない話を続けていたとき、突然けたたましい音が鳴り響いた。
「え、何?!?!」
三奈ちゃんの慌てた声を聞いて椅子から立つ。
『セキュリティー3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください。』
アナウンスが流れた瞬間、食堂はバタバタと慌ただしい靴音で溢れかえった。
アナウンスの言っているセキュリティースリーの重大さがわからず今ひとつ身構えようがないなあと天丼をもう一口頬張る。
「いや待てそんな場合じゃないでしょ。」
耳郎ちゃんがお昼ご飯を中断させにくる。
いやぁでも、食べられるだけ食べたい。
「セキュリティー3ってなんですか?」
飯田くんの質問の声が聞こえる。
「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ。3年間でこんなの初めてだ。君らも早く!」
と、飯田くんの質問に答えてくれた先輩もバタバタと逃げ出す。
はやくはやくと私を急かすふたりに落ち着いてもらうべく口を開く。
「耳郎ちゃん、三奈ちゃん。一旦このまま、ここにいましょう。」
「え?なんで?!」
「屋外にってアナウンスあったろ!」
話している間にも生徒たちは外へ出ようと食堂の出入り口へ殺到する。
「この人数が一度に出て行こうとしたら雪崩が起きちゃいます。」
人というものは雪崩で、簡単に圧死するのだ。
「まずは、自分たちの安全確保です。それから、今殺到している人々をどうするか考えましょう。」
ふたりの了承を得てとりあえず食堂の隅へ避難する。
廊下から「待って倒れる!」だったり、「押すなよ!」という声が聞こえてくる。
「本当に焦っていかなくてよかったな。」
「ね、ありがとう。弓月。」
「いえ、一旦整理しましょう。まずひとつ目は、ここをどう切り抜けるか、です。ふたつめは侵入者の危険度合いですね。」
「避難するのに侵入者の危険度合いを測る必要ある?」
「あります。なぜなら廊下にいる皆さんも含めて私たち、今なら襲撃され放題です。」
窓は頑丈で分厚い硝子がはまっていて、女子の腕力では壊せないだろう。
そして廊下はあのざま、となると私たちに逃げ場はない。
学校に侵入者がいる、ということはつまりいつ誰に襲われてもおかしくない、と思ったほうがいい。
と思いながら窓の方を見た。
「…マスコミ?」
と、消太さんとマイクさん。
目に見えた光景を理解するのに少し時間がかかった。
「マスコミなら全然大丈夫じゃん!よかったよーー!」
と言う三奈ちゃんを放っておいて少し考えに耽る。
「マスコミが入って来れるようなシステムにはなってなかったはずなんですよ。」
マスコミの方々があの雄英バリアーを破壊して入って来られるのならば朝の時点でやっているはずだ。
考えに耽っているところをぶった斬るように、飯田くんの声が響いた。
「皆さん!大丈ぉーーーーーー夫!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!大丈夫!ここは雄英!最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!」
飯田くんのその声で、生徒たちの混乱は収束した。
──本当にただのマスコミかはさておいて、だ。
遠くからサイレンの音が鳴り、警察が来たことがわかって思考を止めた。
「何事もなくてよかったです。」
「教室戻ろっか。」
「そーしよー。」
教室に戻った後で、他の委員決めの時間が始まった。
「ほら委員長、始めて?」
「で、では、他の委員決めを取り行って参ります!」
オドオドとする委員長としっかりした副委員長。
案外いいバランスなんじゃないかなと思いつつ眺める。
「…けど、その前にいいですか?」
「え?」
緑谷くんは違う方向に舵を切った。
八百万ちゃんの反応を見ると何も知らされていないらしい。
「委員長はやっぱり飯田天哉くんがいいと思います!」
「なっ…!」
そう言うことになってくると投票の意味、無くなっちゃわない?と午前中の話をかっ飛ばす流れにびっくりする。
「あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は飯田くんがやるのが正しいと思うよ。」
緑谷くんはまっすぐに飯田くんを見つめている。
「俺はそれでもいいぜ。」
「えっ…?」
切島くんの肯定的な意見に驚きの声を漏らす飯田くん。
「緑谷もそう言ってるし、確かに飯田、食堂で超活躍してたしな。」
と、上鳴くんの方を向く切島くん。
だいじょぉおぶ!と言う大きな声を思い出した。
「あぁ、それになんか非常口の標識みたいになってたよな。」
上鳴くんの言葉を聞いた直後に、
「時間がもったいない。」
と、芋虫になった消太さんが出てきた。
余程驚いたのだろう、緑谷くんの顔は心なしか青い。
「なんでもいいから早く進めろ。」
そう言って消太さんは、床とお友達の芋虫に戻った。
飯田くんは徐に立ち上がった。
「委員長の指名なら仕方あるまい。以後はこの飯田天哉が委員長の責務を全力で果たすことを約束します!」
ピシリと揃えられた指先がまっすぐ天井に向けて伸ばされる。
「任せたぜ、非常口!」
「非常口飯田!しっかりやれよ!」
切島くんと上鳴くんがまぜっ返した。
「私の立場は…?」
と八百万ちゃんが疲れたように呟く。
この委員長決めで一番大変だったのって八百万ちゃんかもしれないなぁと思って同情した。
どう考えても全員が一気に避難したらだめでしょ?!と初めアニメ見た時に思いました。
USJ編をふんわり描いているのですが、すんごく長くなりそうです。
想像を超えて長い上に多分まだ長くなるので先に謝らせてください。本当に長いです。何が長いって多分後始末が長くなりそうです。