魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使い、身構えました。

バスから降りたところに待ち構えていたのは、13号先生だった。

 

「皆さん。待ってましたよ。」

いつものように着込んだ宇宙服の影響でくぐもって高いのか低いのかよくわからない反響した声色で彼女は話し始める。

 

「おぉお…」

とクラスメイトは小さくどよめく。

オールマイト先生ほどではないけれど、13号先生も有名なヒーローなのだと聞いたことがある。

 

「わぁー私好きなの13号!」

と麗日ちゃんが喜ぶのを微笑ましく見つめる。

私も13号先生、大好きです。

 

「今日、13号先生だったんですね。」

でしゃばるのもよくないかなと思ったけど、みんな感動しているようだったし話しかけに行く。

 

「相澤さんとお話しするのも入学前の訓練以来ですね。」

「13号先生もミッドナイトさんもあんまり訓練っていう訓練してくれなかったじゃないですか。」

少し口を尖らせてみせる。

 

「あんまり頑張りすぎてもいいことはありませんでしたからね。」

根を詰めすぎても体を壊すだけです。といつも彼女は私にお茶を差し出してくれた。

宇宙服の奥の表情は今の私には読めないけれどきっといつもの通り優しく緩んだ眼差しを向けてくれているのだろう。

 

「待って?!相澤さんって13号とも知り合いなの?!」

「はい、13号先生の淹れてくれるお茶は和洋問わず美味しいです。」

緑谷くんの疑問に答えたところで、また煎茶が飲みたくなってきた。

 

「早速中に入りましょうか。」

と13号先生は左手を奥の大扉へ向ける。

 

「よろしくお願いします!」

とクラス一同挨拶をした。

 

大扉の中はかなり大きなドーム型の天蓋に覆われていた。

 

「すっげえ、USJかよ。」

確かに、各所にある様々な施設がアトラクションのように見えるのも頷ける。

なんか、燃えてる。

なんでだ。どうして燃えてるんだ。

 

そして、とても、広い。

あまりの広さに唖然としている私たちに13号先生は説明をしてくれる。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、エトセトラ。あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です!」

これを13号先生が作ったのか。

嬉しそうに両手を広げる彼女を目前にして、昔会社にいた身としては経費がどれほどかかったのか気になってしまい、胃がキリリと痛む。

 

ヒーロー科なんて特殊な学科があるくらいだしきっと助成金とか降りるのだろうけど、この天蓋だけだとしても維持するのにどれくらいかかるんだろうか。

燃料代や水道代、どうなっているんだろう。

 

というより、あのライト何個あるの?

15個くらいで数えるのをやめた。多すぎる。

 

「その名もU(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)。略してUSJ!」

商標権は大丈夫か気になってさらに胃が痛くなってきた。

 

まさか13号先生のお話を聞いて胃が痛む日が来るとは、人生とはわからないものだなと心の中で愚痴る。

 

どうしても堅苦しい方向に心配が向いてしまって少し嫌になった。

 

 

「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが。」

とテンション高めのポーズを決めている13号先生にあまりにもテンション低めの消太さんが聞いた。

 

「いやそれが…」

こそりと13号先生が消太さんに耳打ちしながら指を3本たてた。

 

どう言う意味があるのかはわからないけど、きっと共通認識のある意味合いがあるのだろう。

そこまでは知りたいわけじゃないので、考えを巡らせるのをやめる。

 

「不合理の極みだな、おい。」

消太さんは呆れたように呟いた。

 

「仕方ない。始めるか。」

こちらに向き直った消太さんはため息混じりにそう私たちに告げて、センターポジションを13号先生に譲った。

 

「えぇー。始める前にお小言をひとつ。」

指を1本立てる。

 

「ふたつ。」

立った指が2本に増えた。

 

「みっつ、よっついつつむっつ。」

立てた指は増やされなかった。

6になっちゃうともう片手では足りないもんね。

 

彼女の心配性は私だけに向けられたものではなく、すべての人に平等に発揮されるのか、と思って笑みが口端に漏れる。

 

「皆さんご存知とは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます。」

胸元まで手のひらをあげて、手を開いてみせる13号先生に注目が集まる。

 

「その個性でどんな災害からも人を掬い上げるんですよね。」

高揚気味の緑谷くんが喋ると同時に麗日ちゃんが勢いよく首を縦に振る。

 

「ええ、しかし簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそう言う個性がいるでしょう。」

そう言って彼女は宇宙服越しにクラスの全員を見た。

簡単に人を殺せる力、と言われて私もそうだなぁと心の中で呟いた。

 

だからこそ、と13号先生は言葉を続けた。

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えば、容易に人を殺せる行きすぎた個性をここがもっていることを忘れないでください。」

単純にヒーローになれば華々しい日々が待っている、と言うわけではないと言う現実を13号先生は私たちの眼前に突きつける。

 

個性を扱う資格を持つ、というのは重大な責任が伴うと心配性の彼女はまだヒーローというものの本質がわからない私たちに向けて示す。

 

どこであれ、どんな力であれ、振るうためには責任が伴う。

だからこそ私たちは練習をする必要があるのだ。

 

最大限の力を最小限の労力で出せるだけでは足りない。

思った出力を思い通りに出せるだけでも足りない。

 

個性(魔法)を自在に扱えるだけでは、足りない。

心・技・体全て揃えてなお足りない。

私たちは()()()()になるのだから。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトとの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。」

13号先生の言葉で、思考から抜け出して周りを見渡す。

真剣な面持ちで13号先生の話を聞いているみんなを見て安堵した。

 

「この授業では心機一転人命のために個性をどう活用するかを学んで行きましょう。」

すう、と言葉を続けるための呼吸音が響いた。

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。」

オールマイト先生や、相澤先生には言えない、災害救助を主とする彼女だからこそ言えるその言葉はきっとみんなの心にも届いていると信じたい。

 

「以上、ご静聴ありがとうございました。」

右手を胸元に当てて、左手を横に開いた13号先生はそのままお辞儀をした。

心の籠った綺麗なお辞儀だった。

 

生徒たちからの拍手と歓声が鳴り響いた。

 

「よし、そんじゃまずは…」

と消太さんが指を向こう側に向けた、その時だった。

 

「は?」

ばちばちばちと先ほど数えるのをやめた無数の電灯が火花を散らして、役割を終えたように明かりが消えた。

全部取替になったらいくらかかるのだろうかと余計なことを考える。

 

中央に配置されていた噴水の水の出がうようよと不安定になり、水の膜が飴細工のように不定形になる。

なにかがおかしいと、目を眇めた。

 

風に煽られるカーテンのように激しく靡く水の膜から破り出るように空間が渦を巻いた。

ギチリ、と瞳が音を立てる。

 

見ロ、見ロ、見ロ

その渦から私の左目は離れてくれなかった。

 

 

ぱりん、と平穏な日常が壊れた音がした。




弓月ちゃんが13号先生のことを先生付けで呼んでいるのは別に仲が悪いからではありません。

13号先生がミッドナイト先生のように押しの強いタイプじゃないからこその距離感です。良き茶飲み仲間ですね。
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