ありがとうございます。
結構大きな問題になると思っていた年齢については、想像よりもさらりと解決策を提示されてしまった。
戸籍を作るにあたって、私の年齢は14歳ということにする、というお話だった。
成人したら飲んでみたいと思っていたスコッチウィスキーまでの時間が2年伸びてしまって残念だなと、グラスの中でまんまるの氷と一緒にゆったりと揺れる琥珀色の液体を思い返した。
いやいやそういうことじゃない。
16歳と14歳なんて、大人から見ればそう変わらないかもしれないけど、結構違う。
14歳から見れば16歳は大人で、16歳から見れば14歳はお子ちゃまに見えるくらいには差がある。
流石に止めた。でも、食い下がる私に対して校長先生は
「そもそも君の見た目で16と言われたほうが違和感があるのさ。」
と切って捨てた。
周りをいつの間にか最初の会議室にいたような気がする(正直何人かしか覚えていない。)人々に囲まれていて、ほとんどの人がうんうんと頷いている。
これでも幼く見えることを気にしているというのに。失礼じゃないのか?
個性社会では、異形型?と呼ばれる個性の形があるらしく、見た目の幅がそれなりに広いことから数歳程度の年齢の差なら誤魔化せてしまうとのことだった。
声帯とかどうなってるのか気になってきてしまった。
この段階で最初に挙げていた三つの不安のうち、二つが解消されてしまい、最後の一つもあいざわさんに教えてもらうということで落ち着いた。
戸籍を作るにあたって、あいざわしょうたというフルネームの漢字を見た。相澤消太。消すという文字が名前に入っているのって珍しいなとか特に意味の無い感想だったのでよろしくお願いします。とだけ述べた。
「私の名前は、相澤弓月になるわけですね。」
と、普段から苗字を名乗ることがなかったので多少の違和感があるフルネームを声帯に馴染ませるように呟いた。
何はともあれ、一応生活出来ることになった、ような気がする。
路頭に迷ってストリートチルドレンにまっしぐらなんてルートは余程のことがない限り突入しなさそうだ。
安堵したすぐ後に校長先生が口を開く。
「次は個性届だね。」
「個性届ってなんですか?」
周りの人々の目が刺さる。まだ学ばなきゃ行けないことが多そうだなと先が思いやられた。
後反射で質問するのやめた方がいいのかも。刺さる視線が痛い。
個性届っていうのはこの個性社会においてほとんどの人間が持っている個性というものを政府が管理するためにある、という説明をいつの間にか消えた校長先生と相澤さんの代わりにミッドナイトさんからされた。30分かかった。
魔法使いはそもそも時代遅れの代物って感じだったし、基本的には秘匿されていたから、そう言った力の届出を出すって言うのは少し新鮮。
その後、そもそも私が使っているのは魔法であって個性では無い。という説明に50分かかったし、全然納得して貰えなかった。
個性、と言うものの範囲が広すぎてどう説明しても周りの皆さんからは「じゃあ個性じゃん。」みたいな反応しか返ってこない。
またもやいつの間にか戻ってきた相澤さんだけがちょっと真面目に聞いてくれた気がした。
理由はよくわからないけど。少しだけ心強かった。
「君のその力が仮に魔法だとして、他の人から見たら個性にしか見えないのさ。それならば個性届の提出は必要だと思っているよ。」
最終的に校長先生の一言を聞いて食い下がることを諦めた。
郷に入ってはなんとやらって言うし。
「ひとくくりに個性って言っても大きな区分自体は存在する。」
そう話し出したのは相澤さん。
私も相澤になるわけだし、お義父さんとか呼ぶべきなのかな?いやもしかしたら嫌かもしれない。というか私も嫌だ。
「一つ目は発動型だ。自分の意思でスイッチを切り替えられる個性をひとくくりに発動型と分類している。
二つ目は変形型。これは発動型と同じように自分の意思でスイッチを切り替えられるが、人体を変化、変形させることを個性としているものが分類される。
三つ目に異形型。これは前の二つと違い、切り替えが効かない。そのため一般に人間と規定される形とは多かれ少なかれ異なる体型の人間が多く存在している。」
実際に会ったら驚くかもしれないな。と相澤さんは言葉を繋ぐ。
確かに何も知らずに外に出てイカ星人みたいな形の生命がうようよしてたりしたら卒倒してたかもしれない。
聞いておいてよかったと心から思った。
「そして四つ目が複合型。前の三つの二つ以上の特徴を兼ね備えている個性が分類される。」
「説明だけ聞くとピンとこないですね…」
紙とペンをお借りしてメモだけは取ってみたがなかなか腑には落ちない。
「そこら辺の系統の区分については、人と関わりながら少しずつ覚えていけばいいと思っている。問題はお前の魔法ってやつだ。」
「その四つで分けるとなると発動型になりますかね?」
頷く相澤さんを横目に
─side相澤
個性の分類について目の前にいる少女に講釈を垂れつつ、ミッドナイトが個性届けについて説明している間にあった校長との会話を思い出す。
「僕はね、彼女が他の力も持っていて隠してるんじゃないかと思っているのさ。」
たしかに、突如知らない人間に囲まれて気がついたらあれよあれよと決まって行くこの状況で全てを赤裸々に話せる人間がいたらそれは素直という名前の病気だ。
「それを糾弾したいわけではないけれど、隠している力の危険性がわからない限りは監視を続けなければならないのさ。」
そこまで話してから校長はため息を挟んで話の続きを述べた。
「彼女には社会勉強を兼ねるという理由を前面に押して三年間雄英のヒーロー科に通ってもらおうと思っている。個性を知らないということはきっとヒーローも知らないだろうしね。」
「だから俺なんですね。」
俺は既に来年のヒーロー科1年生の担任になることに決まっていた。
そして、俺の個性は少女にバレても問題がないものになってしまった時点で、校長の中では俺に任せる以外の選択肢は無くなったのだろう。
「そうなると彼女にはヒーロー科の入学試験を頑張ってもらわなくてはならない訳だけれど…まぁ、彼女そこまで頭の回転が悪いわけではなさそうだしね。」
そういった経緯の元、彼女には俺というお目付け役兼義理の父親兼家庭教師が着いてしまったわけだ。
そして俺には魔法使いを名乗る不思議な義理の娘ができた。
─side弓月
一通り相澤さんから説明を聞いた後、時計の長針は1周半回った。
いくらなんでも個性届に
「とりあえず幅を持たせて遠隔操作でどうだろうか?」
「そ!それで行きましょう!」
目の前の校長先生のことを天才かと思った。
でももう少し早く言って欲しかった。私がうんうんと唸り出してから結構時間が経ってしまった。
これで戸籍の申請書類と、個性届が揃ったのでとりあえず今日は相澤さんのお家に連れて帰ってもらうことになった。
相澤さんの運転する車の後部座席に乗り込んでしばし、揺れる車内に合わせて私の上半身も揺れる。
明日も来るようにと校長先生に念を押されたので、あまり夜更かしもしないで寝たいな、と考えたところでひとつ欠伸が出た。
「眠いか?」
「眠たいというより、疲れたって感じです…」
相澤さんの言葉に欠伸混じりで返事を返す。
そうか、と運転席から独り言とも返事とも取れる声量が聞こえてきた。
「そういえば、相澤さんは私みたいな正体不明の人間を養子に取っちゃって大丈夫だったんですか?」
バックミラー越しに目が合った相澤さんは瞼を重そうにしてこちらを見ていた。
「いや、これでもヒーローだからな。気にしなくていい。」
視線を前に戻して私にはよくわからないことを話す相澤さんの雰囲気はヒーローというよりも草臥れた公務員のイメージが強くて、首が傾く。
「ヒーロー、ですか?泣いている子供を笑顔で助けてくれる、あのヒーローで合ってますか?」
「まぁ、大枠はそういうもんだ。お前にとっては魔法使いという職業が当たり前だったんだろうが、同じように俺たちにとってはヒーローという職業が当たり前に存在している。」
個性による差別や犯罪は後を絶たないから。と前を向いたまま相澤さんは話し続ける。
「明日から色々覚えなきゃならないですね。」
私にとってのヒーローは
もう日が暮れていたので全然人はいなかった。
このままだと本編にたどり着くまでに15話くらい書くことになってしまいそうなのでもう少しスピードを上げたい気持ちもあるのですが、義理の父となった相澤さんと義理の娘になってしまった弓月ちゃんとの全然仲良くならない空気感を描きたいのでもう暫く本編突入はお待ちください……