お気に入り500件、しかも評価30件を達成しました。嬉しいです。
評価を上方修正してくださる方のことも、ちゃんと見ております。大喜びです。
きっと嫌われてしまっただろう。
こんな、禍々しい瞳の女、みんな嫌に決まってる。
しかもここまで隠していたがために、後ろめたさが募る。
最悪だ。
流れ落ちる血の涙より紅い
もう諦めてしまおうか。
ここから先、私の命を代償にみんながここから元気に生きていけるならきっとそれはいいことだ。
─ほんとうに?
そもそもここまで人権が保障されるなんて思ってなかったし、この穀潰しひとりの命で将来のヒーロー20人助けられるのなら、それはもう丸儲けに等しい。
──本当に?
わたしがしんでもだれもなかないんじゃないかな。
うるさい。やめてくれ。
これ以上幼き日のわたしの声なんて聞きたくなくて奥歯を合わせた。
まだ死にたくないとかたかたと震える体をいちど抱きしめる。
情けないこの体にしっかりしろと命じる。
こんなに、怖かっただろうか。
「…死ぬには、いい日だよね。」
自分を納得させるためにぽつりとつぶやく。
ふと、いつの間にかほとんど全員が集まっていたクラスメイトの方へ首だけ振り向いた。
驚愕に固まるみんなを見て、口元を緩めた。
だって飯田くんがいない。
散らされたとしても彼はきっと元の場所に戻ってくる子だと私は信じている。
彼がここにいないのなら、きっと助けを呼びに行ったんだろう。足の速い彼は、どの程度で高校に辿り着くのか私にはわからない。
それでもきっと奴らにとってのゲームオーバーは近いはずだ。
輝く瞳が怖いなんてこともないだろうに、なぜか唸り声を上げるだけのモノとなった怪物の声を聞いて、もう一踏ん張りだと自分を奮い立たせた。
これで、みんなの顔を見るのは最後かもしれない。
生き残れたとしても怖がられて会ってくれないだろう。
最後に、彼らを守ることに全力を賭すと
「
もはや詠唱でもなんでもない。
自らを鼓舞するためだけに申命記10章17編を口ずさむ。
私が今、鉛の指輪でも嵌めていたのなら、もしかしたら効果を発揮したのかもしれないその一編をただ自らを鼓舞するためだけに呟いた。
あーあ。やっぱりちゃんと
怪物が、痺れを切らしたように歩みを進めてくるのを見る。
息を吸う。
背筋を正して、精一杯
彼のようにはできないから、
自信を持てなくても、虚勢くらい張ろう。
笑みくらい浮かべて見せようと、震える口角に力を入れる。
義眼が外れて見えるようになった力を少しでも良い未来へと導くべく手繰る。
じりじりと眼窩が熱く燃えて、溶けてしまいそうだ。
「爆豪くん、3秒後、9時から1時の方向に薙ぐように爆破してください。」
「あ゛?!!」
吸い寄せられるように飛んできた瓦礫を爆破がいなす。
私の足は左に3歩ずれる。駆け寄る怪物の拳は私には当たらない。
「切島くん、8秒後その場で硬化を。」
「お、?」
できすぎた舞台装置のように、硬化したところに向かってガラス片が飛び出してくる。
2歩進む。怪物の掌は私の頭を掴み損ねて空を切った。
「尾白くん、三奈ちゃんと麗日ちゃんを連れて後方7歩下がって。」
「え?うん。…え?」
ちょうど彼らのいたところに巨大な鉄骨が落ちてくる。
斜め前に1歩。再度振り下ろされた致死の拳は私の髪を掠めて、数本の髪が私の頭を離れた。
「梅雨ちゃん、瀬呂くんを回収して。」
「けろ」
何故か少し外れた位置に移動していた瀬呂くんが立っていた位置に鉄柵が刺さる。
ふ、と足を止めた。
「ッおい!脳無!そいつ!潰せ!!!!」
「轟くん、氷結でみんなと私の間に壁を張ってください。」
「…は?」
轟くんとは、あまり会話をしていなかったのでイメージを共有できるか心配だったけど、うまく行ったようだ。
ぴしりと音を鳴らしながら世界が凍った。
いま見えているどの攻撃もいなす目的が見えない、ただの壁。
これ以上、見られたくないというわたしのわがまま。
だってもう、体もまともに
がたがたと震えるこの体はもはや笑みすら浮かべるのに苦心する。
「だまして、ごめんね。」
遺言じみた言葉をひとつ、壁の向こうへ投げかけた。
血とは違う、透明な涙が、右目から流れた。
瀬呂くんが、すごい剣幕でこちらに何かを言っているのが見えたけど、聞くのが怖くて口元の動きまで見えちゃわないうちに背中を向けた。
ぱきん、と役目を終えた天蓋が割れた。
それと同時にするりと私の指から血で滑ってしまった2本の指輪が落ちていった。
怪物と目が合う。
脳髄をぐちゃぐちゃに掻き回されるような不快感に苛立ってため息をつく。
ここからどれくらい持つだろうか。
私が持たせている間に、先生方は来るのだろうか。
実際のところ、飯田くんは
救援なんて来ないかもしれない。
それでも、午後の授業が終わるまでだ。それだけ持たせれば誰かしら異常に気がつくはず。少なくとも、校長先生か、あるいはマイクさん。
軽薄に見える彼はなんだかんだで視野の広い人だと思う。
ごく、と生唾を飲み込んだ。
その時間が来るまであと何分あるんだろう。いつも短く感じる授業の時間を始めて早く終わってくれと祈った。
若干指先がかじかんで、出血量が想定を超えているな、と思う。
どれくらい持つだろうか。
私が失血で気を失うまでの時間と、誰かがここに駆けつけるまでの時間の差が読めなくて、焦燥感だけが募る。
遺書でも書いておけばよかったかな。
この、無駄にめぐる考えが走馬灯というやつの正体なんじゃないだろうか。
怪物からの掴み掛かりをふらりとよろめくように外側に避けながらこの怪物は一体なんなんだろうかと考える。
奥にいる敵のうち、手に塗れた白髪の男は頭を掻きむしりながらぶつぶつと喚いている。
「あんなのいるなんて先生から聞いてないぞ。脳無の攻撃を躱し続けられるなんて化け物じゃないか。」
怪物を連れてきた男に化け物とか言われるの、不名誉だな。
「落ち着きましょう。死柄木弔。見るに彼女に攻撃の力は残っていなさそうですし。」
動揺する白髪男とは対極に黒いモヤの男は落ち着きはらっている。
あの手に塗れた男はおそらく人間だ。少なくとも人の形をして、一応ではあるが、人との会話ができている。
じゃあ
人語を介しているようには見えないのに、手に塗れた男の命令は聞いていた。
瞳に映すだけで奇妙に溶け合う力が私の脳に刺さり続ける。
混ざることのない水と油を無理やりに混ぜ込んでいるような、そんな感じがする。
奥の黒いモヤについてもなんだか奇妙だ。
でも、私は個性のことがわからないし、この世界の人は
考えすぎかもしれないととりあえず思考から外した。
「…は?」
ふと、あの怪物についてもしかしたらとひとつ仮説が立った。
自分の直感に寒気がした。
もしそうなら、この世界は全然平和じゃない。
ヒーロー社会という光からあぶれた生臭い影の香りがした気がした。
「お前ら、何が目的なの。」
掠れ切った声はギリギリで届いたようだ。
敬語はかなぐり捨てた。そもそも苦手なんだ、敬語なんてもの。
「オールマイトを、殺したいんだよ。」
死柄木弔はこう答えた。
オールマイトを殺して、何がしたいというわけでもないのだろう。
何かしらを成し得たいのは、さっき言っていた、先生という奴か。
「この怪物、作るのに何人殺した。」
「何人
にたりと手の奥の顔が笑った気がした。
つかった。と奴は言った。
「そう。わかりました。」
頭がすっと冷えた。
自分の直感が正解であることを悟った。
これ以上、私と奴とで話せることはない。
ぽたぽたと涙みたいに落ちつづけている血は、足元に水溜りを作っていた。
「実際、ヒーローとか
その血で最後の最期のためだけに足元に文字を刻む。
「とりあえずあなたたちを野放しにすることが危ないということは私にもわかりました。」
怒りで弱った精神を奮い立たせる。
ホルスターに手を突っ込み、
──やってみる価値は、あるか。
瞳からごぼりと新しい血が溢れた。
やっぱり義眼で封じていない分、少しロスが少ないなと思いつつ、ホルスターから
それでもこれで最後だろう。
これ以上は呪力の前に、血が持たない。
手に取った小さな神楽鈴を脳無に向けてしゃんと鳴らす。
ホルスターの中で場所取るし、邪魔くさかったなと思ってこの演習が終わればよかったのになと思いながら随分消耗した
「はらいたまい、きよめたまう」
鈴が振られて清洌な音が空気を震わせる。
「ぐ、ぉおおおおおおがぁあ」
守りと浄化に特化した
彼女は案外厳しくて、もーなんでわかんないのお姉ちゃん!と桃色のツインテールを揺らして怒られたことも記憶に新しい。
彼女の才能は彼女の血に耐えきれないと、そう実家に言われていたけれど、それでも彼女は十二分に努力の天才であった。
再度、しゃんと鈴を振った。
「とほかみ えみため とほかみ えみため」
怪物の全身に蔦が這い回る。
「かんごんしんそん りこんだけん」
怪物に蔦がぎちぎちと食い込む。
才能のあるものが行使すればだいだらすらをも引きずる剛力となるこの禊は、やはりそこまでの効果を発揮しない。
苦しみにうめく怪物の叫びが心臓を掴む。
きっとこの怪物とて、好きでこうなったわけではないのだろう。
それでも、私の敵だ。
下がりそうになる視線を上げて、しゃんと鈴を鳴らす。
「はらいたまい きよめたまう」
いま足りないものといま持っているものなら間違いなく足りないものの方が多い。
こんな血と煤と埃に塗れている私が唱えていい
それでもせめて心だけは清らかであろうと、雑念を取り払って唱え続ける。
「はらいたまい きよめたまう はらいたまい きよめたまう」
どしゃりと、蔦の侵食した怪物の左腕が落ちた。
腕一本、ここまでやって腕一本か。
いくら準備不足といっても、これは、思ったより。
正直、義眼が外れたときから気が付いてはいた。
私がいたところとは理が違うせいか、それともそれぞれの人に個性というものが宿っているせいなのか、ここは
こりゃあ流行らない訳だわ。魔法。
天を仰いだ。
ぷつりと糸が切れた気がした。
ひとりでここまで持たせたなら、流石に頑張った方じゃないの?と沼のような疲労感に身を預けたくなる。
絶望感と、疲労感に浸されて目を瞑る。
からだが、おもたい。
どのみちもう限界だ。
血を、流しすぎている。
それでも、やらなければならないことがある、のに。
くらりと視界が歪んだ。
疲労の沼にずぶりと足を取られたそのとき、
トラクターに轢かれたような衝撃と共に脳無に頭蓋を掴まれたことを理解する。
左腕がなくなってもバランス感覚すら悪くならないのかと驚愕した。
手のひらから鈴と一緒に握り込んでいた小さな石ころをひとつ、投げ落とした。
一緒に落ちた神楽鈴に、
ころころと奥に並び立つ
血に塗れた私の足元にその石ころと同じ模様が刻まれていることにだって恐らくは誰も気が付かない。
「…あは。」
今度こそ、ほんとうの本当に最後の一手だ。
うっそりと、唇を動かす。
不本意ながら
「汝らは始まり。」
ダメ押しのようにばたばたばたばたと眼窩に既に溜まっていた血が足元の紋様目掛けて落ちる。
「まずい!死柄木弔!」
何かを感じ取った黒霧という男が叫ぶ。
「何がだよォ!あそこまでボロボロのガキに何ができるって?!脳無が捕まえてんだぞ?怖くなんてないだろ?!」
叫ぶ敵二人を意識の端に感じながら、脳無の腕に爪で
「汝らは導く船。汝らは輝ける松明。」
自らに刻まれたルーンに意味を成して、口端を釣り上げる。
「さらば爆ぜろ。ケイナズ!」
怪物の腕は爆発で緩んで、私の体は宙を舞う。
「げほ。」
爆風に煽られて高く飛ばされた私の方をみんなが見ている気がした。
あ、義眼、どこに落としたんだろう。
指輪も、抜け落ちたことを失念していた。
さがさなきゃ。
遠くから、私が来た!といういつもより幾分か低く響く声が聞こえてきた。
教師としては少し微妙だけど、ヒーローとしては一流の彼がきたのなら安心だと、そう思ってほっとした。
きっと、時間は稼げた。
ねえ、オルト。わたし、まちがえてないかな。
ねえ、イツキ。わたし、ちゃんとできたかな。
ごっと後頭部で音が爆ぜた。
私の体は一度跳ねて、地面を転がった。
気分はそこまで悪くなかった。
弓月ちゃん、メンタルぐずぐず話でした。
めちゃくちゃ死にそうな引きですが死にません。
少なくとも死穢八斎會編で書きたいネタがあるのでそこまでは間違いなく書き切ります。安心してください。こんなところでは死にません本当に。
ここで一旦終戦なのですが、予定だとあと2万字くらいUSJの後片付けが続きます。どうしても書きたかったんです許してください。
明日は緑谷くんサイド、明後日は尾白くんサイドでお届けする予定です。
ちなみに仕事や忍耐を貫き通せる護符魔術を探して、それに紐づいた聖書の1節の原作にいちばん雰囲気の似ている日本語訳を調べて、同じ1節の英文を探し出してラテン語に直すという作業が1番時間を食いました。
本当に物凄い作業だなと思いました…凄い…