魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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下がった評価についても、これからの励みにさせていただきたいと思います。いや下がらないなら下がらないに越したことないのですけどね。


魔法使いを見るクラスメイト_1

相澤さんというクラスメイトの印象、っていうとかっこいいって感じかな。

 

何も知らなかった1週間前の僕はそう言ったんだろうな。とUSJ襲撃で休校となった木曜日に自分の部屋の天井を見ながらそう思った。

 

 

彼女はなぜだか僕らよりもずっと大人びて見えた。

 

それでも彼女の周りに人が集まっていたのは、揶揄われたときに突き出される唇と寄せられる眉に親しみを感じたからかもしれない。

あまりにも崩れない敬語の口調に反して彼女はよく笑う女の子だったし、このクラスの中でもかなりヒーローに向いている子だと思っていた。

 

僕は、女の子とあまり話す機会もなくて、なかなか話しかけられはしなかったんだけど。

 

「いやぁ、なんか相澤がさ、お前らの試合の話してたぞ。なんか憧れが身を滅ぼすことがあるとかって。」

戦闘訓練でオールマイトと戦ったらしい彼女の話を切島くんから聞いたとき、ぎょっとした。

それは、僕のことなんじゃないだろうか。

それでも、僕はヒーローになりたいんだと拳を握った。

少しの意地があったのかもしれない。

 

ヒーローノートに彼女のページも作ったけど、個性の幅が広すぎてまだあまり埋められていなくて、ペンもあまり走らなかった。

 

 

よく晴れた昨日の昼下がり、USJで彼女が巻き起こしたことなら、きっとずっと鮮明に思い出せる。

 

黒いモヤに吸い込まれた後、僕は水難ゾーンに墜落した。

 

あの(ヴィラン)、オールマイトを殺すって言っていた。

何が一体どうなってるんだろう。というかいきなり侵入してきてかなんなんだよ!と文句を呟きながら水面に浮かびあがろうともがいた。

 

そんなところを(ヴィラン)が見逃してくれるわけもなく襲い掛かられそうになったところで、蛙吹さんが(ヴィラン)に蹴りかかって、僕はぎりぎりことなきを得た。

 

「緑谷ちゃん!」

と呼びかけられ、彼女の舌に僕の体は絡め取られた。

 

彼女が引っ張り上げてくれたおかげで船まで降ろしてもらえた。

程なくして、蛙吹さんに助けられていたのだろう峰田くんが船に落とされる。

 

「ありがとう、蛙吹さん。」

最後に上がってきた蛙吹さんに声をかけた。

 

「梅雨ちゃんと呼んで。」

「つ、つつつ、梅雨ちゃん。ありがとう。」

女の子の下の名前呼びは僕にとってはハードルが高くて、つい蛙吹さんと呼んでしまう。

 

「しかし、大変なことになったわね。」

「うん、さっきの(ヴィラン)の言葉。雄英のカリキュラムを知っていた…」

マスコミ侵入事件のことを思い出した。

 

「轟くんが言っていたように虎視眈々と準備を進めていたんだ。」

「でもよでもよ。オールマイトを殺すなんてできっこねえさ。オールマイトがきたらあんな奴らけちょんけちょんだぜ!?」

そう、話せていたときはまだよかったなと思う。

僕たちは、オールマイトなら助けてくれるって、きっと誰も傷つかないってそう思っていたんだ。

 

 

(ヴィラン)たちを一掃して水難ゾーンを抜け出した僕たちは、セントラル広場へ向かうところで衝撃的な光景を目の当たりにした。

 

手に覆われた(ヴィラン)に相澤先生の肘が掴まれて、その肘がボロリと崩れた。

僕たち3人は声にならない悲鳴をあげた。

怖い、と思ってしまった。

 

そのまま相澤先生の頭が化け物の手によって地面に叩きつけられるとほぼ同時に、相澤さんと謎の生物がセントラル広場に乱入した。

 

その表情は絶望のような、怒りのようなぐちゃぐちゃなもので、いつも穏やかに微笑む彼女の顔とは思えなかった。

 

相澤先生と化け物の間に滑り込んだ相澤さんは化け物に薙ぎたおされて、吹き飛んだ。

それでも尚、彼女の目は怒りに燃えていた。

 

「あ、相澤さん!」

思わず出た声は、彼女の耳には届かなかった。

 

狼、なのか?

相澤さんと共に乱入した翼の生えた生物は相澤先生を背中に乗せてこちらに走ってくる。

 

「死柄木弔!」

モヤの男が声と同時に白髪の男の元へワープしてきた。

 

「弓月ちゃん…血が…!」

蛙吹さんの小さな悲鳴で相澤さんに視線を向けると、彼女の顔は既に血に塗れていた。

そちらに行こうとざばりと水から上がろうとしたとき、つい先ほど悲鳴をあげていたはずの蛙吹さんに手を引かれた。

「行かない方が、いいと思うわ。」

「どうして!」

 

蛙吹さんが止める意味があの時の僕にはわからなかった。

「緑谷ちゃん。私たちが行っても足手纏いになってしまうわよ。」

 

「弓月ちゃんは、出来る限りあの化け物を私たちから引き離そうとしてるわ。」

「なら、僕たちも加われば引き離さなくて良くなるじゃないか!」

僕もかっとなってしまって蛙吹さんにほぼ反射的に反論した。

 

「緑谷ちゃん。弓月ちゃんがそうしているのは、きっと相澤先生を守るためよ。」

蛙吹さんの瞳と、僕の瞳が合って、ハッとした。

私たちは、負傷した相澤先生をなんとしてでも守るべきだわ。という蛙吹さんの言葉に、反論できなかった。

 

「…わかった、ごめん。」

しぶしぶ返事をしてとりあえず水から上がった。

 

「緑谷たちここにいたんだな。」

「尾白くん!無事だったんだね!」

「いやもうほぼ相澤さんにおんぶに抱っこ。」

といって相澤さんの方を見る尾白くん。

 

「尾白くんは相澤さんと一緒だったんだね。」

「そう、緑谷は?梅雨ちゃんと峰田と一緒だったの?」

そうだよ。と頷いた。

 

「尾白ちゃん。どうして弓月ちゃんを止めなかったの?」

「止めたさ。止めきれなかったけどね。」

尾白くんは蛙吹さんの疑問に答えながら、ぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

「脳無!あいつからだ!!やれ!!」

と言う白髪の男の指す方向を見て、13号先生が倒れ伏しているのを見た。

相澤さんと同時に飛び出した有翼の狼が、13号先生、クラスメイトと化け物の間に割り入った。

 

その隙をついたのか、相澤さんが遠隔操作で13号先生を引き寄せ、

「緑谷くん!」

「…え?!?!」

僕の名前を叫び、13号先生を投げて寄越した。

 

「う、わ!」

突然のことでびっくりしていたのが半分、宇宙服の重さに驚いたのがもう半分でバランスを崩した。

 

「うわ、大丈夫??」

倒れると、目をつぶった時に支えてくれたのは尾白くんの尻尾だった。

 

「ありがとう、尾白くん。」

「俺にできることなら喜んでやるよ。」

そう言いながら尾白くんは視線を相澤さんの方へ戻した。

彼の表情は随分と険しく見えた。

 

有翼の狼が、麗日さん、砂藤くん、瀬呂くん、障子くんを背に乗せてこちらへ走ってくる。

 

「こっちに来んのかよ!」

オイラたちまで狙われちまうぞ!と言う峰田くんを申し訳なかったけど黙殺した。

というよりも、返事をする猶予はなかった。

 

化け物が有翼の狼を狙ったように平手を振り下ろす。

その衝撃と同時に有翼の狼は光となって世界に溶けた。

背に乗っていた4人は僕たちの方向へ投げ出されて、すぐ近くまでごろごろと転がる。

 

「けろ、」

蛙吹さんが舌で一人ずつ絡め取って側に運ぶ。

障子くんは少し重たくて運ぶのに苦労していそうだった。

 

「わ、悪い。俺たちが乗ってたあの生き物、どうなったんだ?!」

「空気に溶けたように、見えたけど。」

がばりと顔を上げた瀬呂くんの問いにわからないなりに見たままを答える。

どういうことだ?というつぶやきには答えられない。

僕だってこの状況がなんなのか聞きたい。

 

化け物はずしと重たい足音を響かせてこちらへ歩を進める。

 

「…どう、すればたたかえるとおもう?」

「無理に決まってんだろぉ!」

僕の言葉に峰田くんが否定で返す。

 

「けろ、流石にあれは…」

蛙吹さんも口篭っている。

 

そんな間にもずしり、と一歩ずつ踏み締めるように化け物が近づく。

 

もうダメだと何人が目を瞑っただろう。

僕達と、化け物の間には指輪を鈍く輝かせた相澤さんがひとり立っていた。

 

何かに耐えるように歯を食いしばった彼女は何か英語のようなものをつぶやいて、化け物の拳を生身で受け止めた。

 

「…はは。俺に一捻りになんてされる訳ないじゃん。」

尾白くんが冷や汗を一筋流してつぶやく。

 

でも、そのとき僕は見てしまった。

彼女の足が一度、ぱきんという高い音と共にひしゃげて、形を思い出すかのように元の形に戻るところを。

長いズボンに覆われたその足の形が変わったのがわかるほどの規模かつ、高音を伴う変形、それはきっと骨折だ。

 

「…っひ!」

悲鳴を呑みこんだ。

彼女はおそらく力業で自分の怪我を隠して、体に鞭を打って闘っている。

まるでなにも起きていないように。

 

さも当然のように戻っていったそれを見て、あまり怪我をしていないと思っていた彼女の体にどれだけの骨折が、どれだけの怪我があるのだろうと考えて、僕は口元を抑えてずるりと座り込んでしまった。

 

「大丈夫?!緑谷ちゃん。」

「だ、大丈夫。ごめん。血の匂いが。」

蛙吹さんの声にごまかしの言葉を重ねた。

他の人は、みんな気がついていないのか?!

口元を覆ったまま周りに目を配ったけど、誰もが唖然としていてあの恐ろしい光景までは目に入っていなさそうだった。

 

化け物が相澤さんの体をサンドバッグのように殴打する。

 

「なんかに、遮られてる…?!」

麗日さんが何もない空中を叩く。

透明な壁のようなものに遮られているようで、僕たちは相澤さんの方に駆け寄れずにいた。

いや、遮られていなかったとして、駆け寄れたのだろうか。

 

彼女の頭が横にぶれて、こちらを向く。

 

僕たちが呆然としている中、意識を浮上させた相澤先生が目を見張って手を伸ばす。

「弓月…!」

 

相澤先生の指は力無く空を切った。

そんな状態で、彼女は大丈夫と言って笑った。

 

そしてそのまま吹き飛ばされた彼女の眼窩には、いつも見る優しい紫水晶(アメジスト)の瞳ではなく、白目までもが何よりも紅い紅玉(カーバンクル)の瞳が埋まっていた。

 

彼女は何かを諦めたように笑って、数名のクラスメイトに指示を出す。

彼女の指示はまるで魔法のように、僕たちを落ちてくる瓦礫から逃れさせ、攻撃の余波を避けさせた。

 

彼女は最後に轟くんに氷結を頼んで、氷の壁の向こうへと消えていった。

 

そこからオールマイトが来るまで、彼女は壁の向こうで戦い続けた、んだと思う。

爆風に煽られて宙を舞う彼女を受け止めることすら、僕たちにはできなかった。

 

化け物に追い詰められるオールマイトを助けるために足は動いた。

なのに、なのにどうして相澤さんを助けるためには前に進めなかったんだ、とひとり歯噛みした。

 

 

「あの脳無という化け物、片腕が潰れていてね、両腕が揃っているあれと戦っていたらと思うと随分骨が折れるだろうと思ったよ。」

襲撃が終わり、塚内さんという刑事が帰ったあと、トゥルーフォームに戻っているオールマイトはお茶を啜りながらそう言った。

 

オールマイトにそこまで言わしめるあの化け物の片腕を落としたというクラスメイトの小さな背中を思い出して、僕は小さく震えた。

 

 

次、彼女に出会うとき、僕はどんな顔をしたらいいんだろうか。

強くなりたいと願って、僕はダンベルを手に取った。




緑谷くんから見る相澤弓月回でした。

そりゃ大人びて見えますよ。2個上ですもの。
緑谷くんは元々弱いからこそ強い子ですが、弓月ちゃんは強くなってしまったからこそ弱い子です。

ちなみに、水難エリアの戦闘やオールマイトの活躍についてはちょっと余分になってしまいそうだったので中略とさせていただきました。
片腕落ちててちょっと楽したね、オールマイト。くらいです。
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