魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使いを見る大人たち_1

1週間が始まってしまった。

無意識のうちにため息が漏れる。

 

職員室の空気もすごく重たい。

 

そりゃそうよね、とひとり心の中で頷いた。

前代未聞となるUSJの襲撃事件から5日経った。

つまり、弓月ちゃんが意識を失って、もう5日経った。

 

血まみれでぼろぼろの姿で倒れる彼女をUSJで見て、守ってあげられなかったと思った。

イレイザーが決して軽くはない怪我を負っていたこともわかっていたのに、私は八つ当たりのように彼を責めた。

後で話しましょうとあの場で吐き捨てたけれど、イレイザーはとても憔悴していて、昨日までずっと話せる状態じゃなかった。

 

昨日、ふらふらと出勤してきてそのまま授業に向かっていった彼はまるで屍のようだった。

彼の机は心配する教師たちからの差し入れのブラックコーヒーが山のように積み上がっていた。

 

昨日からその山は嵩を減らしていないようにみえる。

 

「弓月ちゃん…。」

何度呟いたのかわからない彼女の名前を舌の上で転がした。

 

「あーもう、湿っぽいなぁ、ミッドナイト。命に別状ねえんだろ?」

マイクはからからとした声で言い出して、私はぎりと彼を睨んだ。

 

「…っと悪い悪い。」

両手を開いたマイクの動作すら煩わしく感じた。

 

「つうかお前、相澤に肩入れしすぎじゃねえか?」

「あんたはあの子のこと、ちゃんと知らないからそんな冷たいことが言えるのよ。」

マイクの言葉が薔薇の棘のようにちくちくと突き刺さる。

つい、私も刺すような物言いをしてしまった。

 

「んだよ。俺があの子のことちゃんと知らねえっつうなら、()()()についても知ってたっていうのかよ。ミッドナイト。」

かっと視界が赤く染まった。

イレイザーすら知らなかったことを私が知っているわけがなかった。

 

「そんな話をするために声かけたのなら、もう少し後にしてくれるかしら。」

「おぉ怖。」

乱暴に椅子を押し除けて立ち上がる私にマイクは肩をすくめる。

 

「結局のところあいつは俺たち全員に隠し事をしてたってことだろ。」

「そんなこと、あの子が来た最初の会議の時点でみんなが認識していたことじゃない!」

つい、反射的に大声を出してしまって職員室の全員が振り返る。

 

「今回は味方として良いように動いたから結果オーライだけどよ。これで制御しきれねえ力だったり、敵として有用な力だったりが玉手箱みたいに次から次へと出てきたらたまったもんじゃねえだろ。」

「あんた、ずっとあの子のことそういうふうに見てたのね。」

眉間に皺が寄るのを自分でも感じた。

 

「そりゃあそうだろ。最初の時のこと思い出せよ。ミッドナイト、あんたやイレイザーほどお人好しじゃなかったら普通は信用しねえよ。」

「それでも私は、あの子の笑顔を守りたいのよ。」

淡々と話すマイクを睨みつけた。

 

「それで他のやつが笑えなくなったら責任取れんのかよ。センパイ。」

ぐさりと心に棘が突き刺さった。

()()()()としては、マイクが正しいと理解している。

それでも私は彼女に笑っていてほしかった。

 

それは、間違っているの?

 

「ミッドナイト、プレゼントマイク。ちょっと良いかい?」

校長からの声に振り返る。

今、マイクと一緒に呼ばれるというのは良い気分ではないけれど、呼ばれるがままに校長室へ向かう。

 

「失礼しま…は?」

校長室には、当然のように校長。

それから、スーツの男と、ホークス…?

 

「初めまして、ヒーロー公安委員会に在籍しております。目良と申します。」

「こんにちはー。」

場違いにも朗らかに手を振るホークスに胡散臭さを感じる。

 

「相澤弓月さんが、今から来るのさ。」

「もう、目が覚めたんですか?」

半月は昏睡状態と聞いていた彼女が来るということはそういうことだろう。

 

「昨日ね、目が覚めて相澤くんとクラスメイトが見舞いに行ったそうだよ。」

ほっと息をついた。

とりあえず、無事に目が覚めたならよかった。

 

「彼女の出自について知っているのはこの雄英高校の教師たち、それから公安の皆さんなのさ。」

「そして公安としては、彼女について出された個性届と、実際に警察が聞き取りを行った際の現象の不一致を懸念しています。」

目良は眠そうな眼差しでつらつらと告げる。

 

「彼女を、どうするおつもりですか。このUSJ襲撃事件に関しては完全なる被害者じゃないですか。」

ぎり、と歯軋りの音が耳元に鳴る。

 

「僕もそう思っているよ。彼女の頑張りによって他生徒は無事で済んでいるわけだしね。だからこそ、彼女が(ヴィラン)にならないという保証と、能力についての概要を知りたいと言うこととらしい。」

「ならなぜホークスがここにいるんだ?」

校長の言葉を聞いたマイクは首を傾げて質問を投げる。

 

「オールマイトすら手こずったあの化け物を独力で引き止める力がある少女が暴れ出しでもしたら、ナンバースリーくらいの力はないと止められないでしょう。」

相も変わらず朗らかに言い放つホークスになにを知っているんだと思う。

言外に彼女を災害級の化け物と断じるような言葉に苛立ちが募る。

 

「あの子は、そんなことしないわ。」

「イレイザーヘッドもあなたと同じことを言っていましたよ。」

めんどくさそうなニュアンスを滲ませた目良は言う。

 

「高校教師として働くヒーローがふたりも彼女を庇うこの状況だからこそ、彼女が洗脳の力を持っていないとも断言できないわけです。」

「…っ!」

息を詰めた。

私が、私たちの思いが彼女の首を絞めているの?

 

「だからこそ、両名には相澤弓月の聴取に立ち会っていただきたい。」

「何かあれば、戦闘は俺がやりますから。生徒とは戦いたくないですもんね。」

にこりと笑うホークスをじとりと見た。

 

「了解ですよ。公安殿。」

マイクはいつもの出で立ちのまま飄々と答えた。

 

「後はミッドナイト、あなたですね。」

「…わかったわ。」

立ち会うだけ、そう、立ち会うだけだと自分を説得した。

 

 

話をする場には初対面の人間はいない方がいいと校長が進言して、目良とホークスは隣室へ通された。

音声と映像は監視用のカメラから覗くらしい。

 

私たち3人は校長室で沈黙の時を数えていた。

こんな、しんどくて辛い時間、ずっと来なければいい。きてしまうなら早く終わって欲しいと身勝手なことを考えてしまう。

 

ついに、扉がノックされた。

 

「開いているよ。」

という校長の声でイレイザーと弓月ちゃんが入ってくる。

手元に制服がなかったのか、以前私が買い与えた私服のうちのひとつを身に纏う彼女が、車椅子に乗せられてやってきた。

 

彼女の長かった髪は肩口で切り揃えられている。

あの戦いが彼女にとってどれほど凄絶だったかを推し量ってしまい、また眉根が寄る。

 

「それから、この場に会話の証人としてミッドナイトとプレゼントマイクを同席させることを許してほしいのさ。この場ではふたりは話に口を出すこともしない。」

「いえ、ご配慮痛み入ります。教職員内での情報共有等、校長先生が必要だと思われれば外部の方にでもお話しいただいて構いません。」

校長の断りに、彼女は動揺もなく返答した。

ここまで魔法という力についてできる限り隠し通してきた彼女にとって情報の共有を委ねるというのはどれほどの覚悟が必要なのか、私には計りかねた。

 

彼女の処遇を校長はつらつらと話す。

ほぼお咎めなしの結果に彼女は意外そうに目を丸くした。

 

私も、驚いてしまった。

公安の人間が出張ってくるのなら彼女の青春は奪われてしまうものだと思っていたから。

 

そこからの自分の力や、瞳のことについても彼女は恙なく、そして澱みなく答えた。

すらすらと、そこに解説書があるように。

 

彼女の瞳から紫水晶(アメジスト)の義眼が転げ落ちて、なによりも紅く染まる紅玉(カーバンクル)の瞳が覗いたとき、あまりの綺麗さに息を呑んだ。

いのちの色だと思った。

 

マイクは目の前の煌めきに特に動じることもなくそのままその場に座していた。

正直、その瞳の話については、あまり覚えていない。

とても綺麗で鮮烈な紅だった。

 

 

「怪我、というとひとつ。公安とは関係なく、聞かせてもらえるかな。君の太ももの傷、どういう経緯でついたものかな。」

太ももの傷?

彼女の表情が初めて苦痛に歪んで見えた。

 

ふたりで買い物に行ったときに気がついて、校長にぽろりと漏らしたことがある。

彼女は膝丈より短いボトムだけは頑なに履かない。

その理由は、それだったの?

 

「人払いを、お願いできますか。面識のない方に聞かれたくないんです。」

という言葉に別室にいる公安に気がついていた、ということに今更ながら気がついた。

 

「彼らは公安のものでね、どうしても聞かれたくないかい?」

「いえ、ならいいです。」

彼女はすぐに引き下がった。

 

そこから聞いた話で、わたしも、校長も、イレイザーも、マイクも全員が打ちひしがれることになることを、この時の私は知らなかった。

 

 

彼女は口を開いた。

自分の過去を紐解くように。

たまに声を僅かに震わせて。

 

 

「そこから日本に帰って、この瞳のよしみで〈アストラル〉に拾われたわけです。」

その言葉を結びとして彼女の過去の話は終わった。

 

イレイザーは弓月ちゃんの肩にずっと手を置いていた。

わたしは、彼女に気を使えるほどの余裕すらなくて涙をぽろりとこぼしてしまった。

 

「医者から、君はそれを治したくないと聞いたときに何かあるのだろうとは思っていたけれど、」

辛かったね。と校長は言った。

 

「もう済んだことなので。でも、綺麗なお話じゃないのでこの話はあまりしたくありませんね。」

諦めていると笑う彼女を私たちはどう受け止めるべきだったのか、私にはまだわからない。

 

 

リカバリーガールに治癒してもらうと良い、と校長は彼女に言ってイレイザーと弓月ちゃんは校長室を後にした。

 

「思ったよか、ヘビーな話だったな。」

「…そうね。」

ティッシュを差し出しながら呟くマイクに相槌だけ打つ。

私たちはそれ以上、彼女の話を続けられなかった。

 

 

確かに彼女から昔の話というものを聞いたことはほとんどなかった。

今まで彼女と過ごしてきて、私は不用意なひとことで彼女を傷つけていなかっただろうか。

 

話終わりに目を伏せた彼女の表情が忘れられなくて、ただ唇を噛み締めた。




この回を書くか悩んで、書いては消してを繰り返していたのですが、弓月ちゃんとミッドナイトさんとの間のすこしのすれ違いを書きたくて結局書きました。
後、別室の人間不気味すぎるので誰かわかっておきたかった気持ちもあります。

次回で一応USJ編が終わります。
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