ほんとになんでそんなん間違えたの…?って思うところが多すぎて毎回毎回恥ずかしさにのたうち回っています。
校長室を出て、今度はリカバリーガールの元へ運ばれる。
「あんた、粉骨砕身を自分の身体で体現するんじゃないよ…」
「すみません…。」
呆れ顔で言ってくる彼女に限界寸前まで治癒してもらう。
「今回は非常事態だったから仕方がないけど、自分を捨て石にするような戦い方はするんじゃないよ。」
捨て石にした自覚はあったので耳が痛くて、目を伏せた。
「いや、でも緑谷くんだって普段から自壊してるじゃないですか。」
と言い返してみたら、人は人、自分は自分だろとさらに怒られてしまった。
「あの子にもしっかり言い聞かせにゃならんね。」
というリカバリーガールの言葉を聞いて今目の前にいない緑谷くんにごめんねと心の中で謝った。
「あんた、体が治るまでは
「善処します。」
「善処じゃあ駄目なんだよ。」
たっぷり1時間怒られて、この一言を最後にようやく解放された。
話の合間に与えられたお菓子は、なんだか受け付けなくて食べられなかった。
昨日から様々な大人に怒られすぎて若干の自己嫌悪に陥ってしまって、俯いたまま消太さんにからからと車椅子を押してもらう。
背もたれの真ん中を押すのが片腕しか使えない場合のコツだそうで、猫背になった背中にたまに消太さんの手が当たる。
校長先生に登校については好きなタイミングで、と言われたものの後に伸ばせば伸ばすほど行きたくなくなりそうだなと思う。
だってきっと怖がられてる。
みんなお見舞いに来てくれたのだって、多分誰かが言い出して引っ込みがつかなくなったからだろうし。
轟くんと爆豪くんだけがいなかったあたり、なんとなくそんな気がする。
同調圧力、というやつだ。
怖がられていると思うのに、怖がられてると確信するのが怖くて心が竦む。
そしてそんな自分の臆病さに嫌気がさす。
「クラスの皆さんに説明だけでもするべき、ですかね?」
車椅子を押す消太さんに項垂れたまま聞く。
「まぁそうだろうな。」
「ですよねえ。」
すっごく嫌だ。
でかでかとした溜め息が廊下に響く。
ぴたりと消太さんの足が止まる。
それに合わせるように車椅子の車輪が床を噛んだ。
「ところで今日は午後の授業、ヒーロー基礎学じゃなくてロングホームルームなんだが。」
「すごく嫌な予感がするので顔あげなくていいですかね。」
往生際悪く駄々を捏ねてみた。
ここはおそらく教室の目の前だろう。
うわほら視界の端に見覚えのある扉が。
「弓月ちゃん…?」
あぁほら梅雨ちゃんの声だ。
彼女らしい特徴的な声ですぐにわかる。
「謀りましたねお父さん。」
「お父さんとしても娘の交友関係が心配でな。」
じとりと消太さんを睨みつけた。
すいっと視線を斜め上に向けてしらを切る消太さんを見て顔を顰めた。
お父さんとか似合わない一人称を使わないでください。と八つ当たり気味に毒づく。
「体、もう大丈夫なのかしら?」
梅雨ちゃんがぺたぺたとこちらに歩いてきて聞いてくる。
「たった今ものすごく不調になったところです…」
もう引き下がれないじゃないか。
「みんな心配してたのよ。」
と唇に指先を当てて眉を下げる梅雨ちゃんをみて、申し訳なく思う。
こんな優しい子を怖がらせてしまった。
私が諦めたと思ったのか消太さんは教室の扉を開けて車椅子を教室の中に押し込もうとする。
その力に少しでも対抗するべく、扉の縦枠部分に手をかける。
「いやいやちょっと説明してください本当に。というか心の準備とかする時間ってもらえないんですか?!」
我ながら器用に小さく叫ぶ私は車椅子のタイヤにストッパーをかける。これで動かせるまい。
そんな私を見た消太さんは、何も言わずに教室の中へ入っていく。
教卓をずるずると脇に寄せる消太さんからすでに逃げたくなってきた。
というかクラスのみんなはどうして沈黙しているんだ。
「お前くらい引きずって行けんだぞこっちは。」
「力自慢大会じゃないんですから…!」
教卓をずらし終えた消太さんからのあんまりな脅しに扉から手を離して頭を抱えた。
車椅子に乗りっぱなしなら黒板の前の台には登れないだろうと閃いて、頭を抱え込んでいた腕を解いて車椅子にしがみついた。
それを冷ややかな目で見た消太さんは腕を吊っていた三角巾をおもむろに外した。
「怪我してるんじゃなかったんですか?!」
「流石に両腕ないと不便だよな。」
ぼやきながら私の車椅子の左右の手摺りを背後からがしりと掴んだ。
「うわ待ってくださいほんとになんなんですか?!」
私の抵抗なんてたいしたものじゃないというように黒板の前を陣取る台の上に車椅子ごと乗せられる。
「お前ら聞きたいことあるだろ。今のうちに聞いておけ。」
「なんでその話を私に予めしてくれないんですかね?!報連相知らないんですか?!社会人なのに!」
私にしてはめずらしくぎゃんぎゃんと消太さんに食ってかかる。
「おまえ今回いろんな人に心配かけてるんだから少しくらい痛い目見たっていいだろ。」
「反論し難いところ狙ってこないでください…!」
じゃ、と手を振って消太さんが部屋を出ていく。
嘘でしょほんとにいなくなった。
気まずすぎる空気が流れる。
「え、ええと、み、みなさん何を、聞きたいのでしょうか…?」
気まずすぎる空気を打ち破るべく発した言葉は吃りに吃っていて、情けなさのあまり耳に血が集まる。
ふは、と笑い声が聞こえて、そちらをみる。
「相澤、ちょ、動揺しすぎよ。」
吹き出すように笑っていたのは瀬呂くんだった。
「だーれもなんも聞かないで終わっちゃいそうだけど、お前自身は言いたいことねえの?」
瀬呂くんの言葉にはっとする。
確かに、先に謝るのが筋だ。
消太さんの荒療治のせいで頭の中で考えていたことが全て飛んでしまった。
もう全てを消太さんのせいにして逃げ出したい。
「USJの件、皆さんにご迷惑おかけしました。すみません。」
緊張して息が続かなくて、言葉を切る。
「騙していて、怖がらせてしまって、すみません。」
申し訳なくて、目を合わせるのもつらくて、頭を下げる。
「おい、クソアマ。お前の個性なんなんだ。」
「私の
爆豪くんの粗暴な質問に誤魔化しの手を考えようとして、思い直す。
「いえ、私に個性はありません。俗にいう無個性ですね。」
頭をあげて爆豪くんの質問に答える。
個性のことくらい、私はみんなに真摯であるべきだ。
「いやでも、無個性だったらあんなふうに戦えねえだろ?」
切島くんがガタリと立ち上がる。
「なら、どんな個性なら
私はあの場で、謎の生命体を呼び出して操り、他の人間の力を操り、挙げ句の果てに爆発まで起こしてしまっているのだ。
どう考えてもぴたりとハマるような個性はないだろう。
まずもって
「ちなみにですが、私が普段個性として使っていた
力を示すように自分の体を宙に浮かべる。
リカバリーガールに止められていたことを思い出して少し冷や汗をかく。
「そうなってくると個性じゃないこの力はなんだって皆さん思いますよね。」
す、と車椅子に落ちる。
緊張して少し着地点がズレたのか、がちゃと車椅子が悲鳴を上げる。
「魔法、という単語を聞いて皆さん何を思い浮かべますか?」
車椅子にまっすぐおさまり直した私は首を傾げる。
説明に集中する分には、思ったよりも辛くなくて、今まで通りな気すらしてくる。
校長先生と話したときは詳細を話さなければならなくて小難しく伝えたけど、今回はできるだけ簡潔に話したくて、言葉を絞る。
「杖を振って呪文を唱えるとか?」
ふ、と指を振る。
「大きな釜の中身を混ぜて薬を作るとか?」
大釜を混ぜている様の真似をする。
「それらは魔法の一面に過ぎません。」
呼吸がどうにもしにくくて、いつもより多く空気を吸い込む。
「私が魔法と呼んでいるものは、それぞれ系統立てられています。」
「例えば、ルーン魔術。」
「例えば、神道。」
白いチョークが黒板に鳥居のイラストを書き込む。
「例えば、ソロモン王の魔術。」
黒板に描かれたのは五芒星。
それから、
「…例えば、魔眼。」
俯いて義眼を外す。
先ほどとは人数の桁が違うせいかつきりと頭の奥が痛む。
痛みを誤魔化すために目を閉じて、瞬きを繰り返す。
あまりクラスのみんなに動揺が走らなくて少し驚いた。
そういえば、マイクさんにも動揺の色が見えなかった。
どうしてなんだろう。
私ですらこの
「厳密に言えば、私が普段個性と偽って使っている力は魔法ではなくて現象なんですけどね。」
と言いながら義眼をはめ直す。
「それは、例えば俺でも習得できるだろうか!」
「残念ながら、厳しいと思います。」
目をキラキラとさせる常闇くんの声に眉を下げて応える。
というか、怯えられていると思っていたのだけれども。
「ここからは私の推測になりますが、魔法という時代遅れの要素と個性という新世代的要素は共存できないのではないかと考えています。」
「じゃ、じゃあ無個性の人なら使えるってこと?」
「それも、この8割以上の人たちが個性を持っている世の中だと少し難しいかもしれませんね。」
緑谷くんも興味津々の様子で聞いてくる。
この世界の人々は理解不能な現象に対して寛容なのかもしれない。
だからこそ、みんな、魔法という代物を本気で欲してはいないのだろう。
この個性社会じゃ、魔法なんて
たとえば、そう。
私の
箒に乗る魔女の映画が流れても、この世界の人は魔法に憧れはしないだろう。
きっと空を飛べる個性に憧れを持つ。
だってそちらの方が
「個性、という超常の力に魔法は淘汰されてしまったのかもしれませんね。」
憧れうんぬんを抜いたとしても
常闇くんと緑谷くんは心なしかしょんぼりしながら席についた。
「あ、障子くん。
こつ、と指先をぶつけて義眼を鳴らしつつお礼を言う。
「気にするな。助けてもらったのにそれくらいしか俺にはできなかった。」
「じゃあ、もしよろしければこれから私に何かあったら助けてください。」
いつもより僅かに声のトーンを落とした障子くんにそう声をかける。
「例えば、そうですね。授業ついていけないときとか、お勉強教えてください。」
「…そんなことでいいのか?」
「案外苦労してるんですよ。世間知らずなもので。」
きょとんとする障子くんに微笑んだ。
「それでも釣り合わないと思うのであれば、高いところにある本とか、取ってください。」
そう言って面食らう障子くんから視線を移す。
「それから轟くん。氷結ありがとうございました。正直轟くんとはお話しする機会がなくてほとんど賭けのようなものだったので。」
正直なことを言うと轟くんに対する
爆豪くんについてはまあそれなりに、クラスの中で目立っていたし共有しやすいイメージを作り上げるのには苦労しなかったので、ある意味で例外だったのだけれど。
「なんであんなこと頼んだ?」
轟くんの
なぜか初めて目があったような気がした。
「死に様を見られるのは誰だって嫌でしょう?」
生き残るつもりではいましたけど、出血量的にも微妙でしたし。と慌てて繋げて轟くんに視線を向け続ける。
「そうか。」
ひとことだけ、彼は私に返す。
彼は人との会話が苦手なのだろうかと少し心配になる。
でもそんなことを気にしていられないくらい、一番傷つけた子が、目の前にいる。
車椅子から自分の足で立ち上がって、歩みを進める。
もうリカバリーガールに治癒してもらったばかりの体力は擦り切れていて、足の感覚も全然戻っていないから、不恰好な歩き方に自分でも笑える。
彼の席が一番前で良かったと、これほどに思ったことはない。
「尾白くん。」
ずっと目が合わなかった麦藁色の彼の横にへたり込む。
「怪我、しませんでしたか?すみません。私、無我夢中で尾白くんのことほぼかなぐり捨てるように消太さんのところに行ってしまいました。」
「…あんなボロボロになってた相澤さんに心配されたくないよ。」
まだ、目は合わない。
「体だけじゃなくて、尾白くんの心のことを気にしています。」
ぴたりと、私自身の正中線上にあるネクタイの結び目に人差し指を当てる。
「つい数分前に背中を合わせていた相手が、あんな怪物にぼこぼこにやられるなんて光景嫌ですよね。考えが及びませんでした。すみません。」
「…怪我、大丈夫なの。」
まだ硬い声で、疑問符すらつかなそうな質問が降ってくる。
「だめですね。リカバリーガールの治癒に体力吸い取られすぎちゃってもう、膝がガクガクです。粉骨砕身を自分の体で実践してどうするって小一時間程怒られちゃって。」
少しおどけて先ほどのことを話す。
ふ、と息を吐く音が聞こえてきて、
「全然ダメじゃん。」
と尾白くんの声のトーンが少し上がった。
眉を下げた尾白くんとようやく目が合って安心して、言葉を紡ぐ。
「あまりにもすごい剣幕で怒られちゃったので緑谷くんだっていっつも怪我してるのにってつい言っちゃいました。ごめんね、緑谷くん。」
胸の前で手を合わせながら緑谷くんにも少し大袈裟に謝っておく。
「え、ええ?!僕??」
どこかでリカバリーガールに怒られてしまうであろう緑谷くんはあわあわとする。
少しだけ、空気が緩んだ気がした。
「弓月はさぁ、どうして私たちに頼ってくれなかったの?」
ここまで押し黙っていた三奈ちゃんがこちらを見ないまま口を開く。
そういえば、昨日も三奈ちゃんは何も言わなかった。
立ち上がれなくて、三奈ちゃんの方を向くだけにとどめる。
頬杖をついてあさっての方に顔を向ける彼女の表情は、私からは伺えない。
「怪我をさせたくなかったんです。」
「それで自分があんなにボロボロになってたら意味ないじゃん!ここにいるみんな、ヒーロー志望なんだよ!?」
「…すみません。」
三奈ちゃんが机を叩くように立ち上がって、椅子がガタリと音を鳴らす。
「…怖かったよ。」
つかつかと切島くんと上鳴くんの間を通って私のところまで歩いてきた三奈ちゃんがそのまましゃがみ込んだ。
私みたいな人間、やっぱり怖いのだろう。
瀬呂くんみたいな人は例外なのだろう。
分かってはいたけど、悲しくて顔が下がる。
「ごめんなさい。私と一緒にいるのが嫌だったら…」
「そう、じゃないでしょ!」
三奈ちゃんの瞳からぽろぽろととめどなく涙が零れる。
「そうじゃなくて、弓月が嫌とか怖いとかじゃなくて、目の前で友達が化け物に殴られて掴まれて、壊されていくのが、怖かったの…!」
私が壊れていくのが怖かった?
「弓月、最後爆発で吹っ飛んできたとき、死んじゃったかと思ったの…っ!」
「ごめん、なさい。」
彼女の両の手首は拭った涙でべしゃべしゃになってしまっていて、心が痛んで、手を伸ばす。
ぱし、と私の右手が三奈ちゃんの両手に包まれた。
「いなくならないでよ。」
「いなくなりませんよ。私にも生きる理由ができたみたいですし、ピザもアイスも三奈ちゃんと食べに行きたいです。」
へにゃと笑ってみせる。
三奈ちゃんを透かした先にいる瀬呂くんが頭を抱えたのをみた。
その直後に、地面に座りっぱなしの私の視界いっぱいに床が写った。
リカバリーガールに限界ギリギリまで治癒してもらってた私の体力は底をついたようだった。
「弓月?!」
三奈ちゃんが慌てたように肩を支えてくれて、顔面ダイブだけは避けられた。
「だいたい話は聞けたろ。お前らそれぞれ思うところもあると思う。それについてはこれから先、学業に励みながらでも考えろ。こいつの力のことは機密事項だから外部の奴らには言うなよ。」
消太さんはそれだけ言って私を車椅子に乗せた。
正確にいえば、私はその言葉を聞いた後で眠ってしまったので、その先のことはわからなかった。
おおよそ6万字のUSJ編これにて終わりです。
これは弓月ちゃんにとっての現実なのでUSJの話はしばらく後を引くため、綺麗な終わり方にはなりませんでした。すみません。
実は毎朝毎朝弓月ちゃんが自分の部屋から出る前に謎の身支度を挟んでいたのですが、ここで毎日義眼を嵌めていました。裏話です。
朝起きた直後に義眼を嵌めているので相澤先生にもバレていなかったわけですね。
本当は三奈ちゃんサイドも書こうかと思ったのですが蛇足になりそうだったのでやめました。