魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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お気に入り、評価、コメント、ここすきありがとうございます。
本日は予約投稿なので適当なこと書くと現実と矛盾しそうです。


体育祭前編
魔法使い、登校しました。


目を覚ましたら消太さんの家のベッドだった。

正確にいうと、見覚えのある天井が目に入った。

「…え?」

 

眠りについた記憶がない。

一昨日とあまりにも同じ状況に我ながら困惑する。

気絶癖でもついてしまっているんだろうか?

 

体をガバリと起こした。

頭に血が回らなくて、呻き声が上がった。

「…っう。」

 

ぺたりと左目に手をやる。

義眼が外れている。どこで外した?

最後教室で外した、いやあのあと付け直したはず。

どこ、どこに落とした?

 

ふと、ドレッサーに目を向ける。

 

ドレッサーの上にティッシュが広がっていて、義眼が置いてあるのを見てほっとする。

消太さんが外してくれたのだろうか。

人の目蓋の奥に指を入れるなんて不快じゃなかっただろうかと心配になる。

 

そういえばこのあいだちらっと義眼をしたまま眠ると悪夢を見るという話をした気がする。

覚えていて、頑張ってくれたのだろうか。

 

扉を開け放していたのか、消太さんが一声と共に部屋に入ってくる。

「入るぞ。」

 

律儀におはよう。と言ってくれる消太さんにおはようございます。と言ってから質問を投げる。

「私、病院にいませんでしたっけ?」

「リカバリーガールの治癒がよく効いたみたいで、医者に退院許可をもらった。」

 

ぐぱと手を握ってみる。

昨日と比べるとはるかに動く。

 

ベッドから起き上がって屈伸してみる。

ぺしゃりと膝が崩れ落ちた。

 

「おおー、足はまだ全然ダメですけど…リカバリーガール様々ですね。」

これならいざというときでも騒霊現象(ポルターガイスト)で動かさなければならない部分もだいぶ少なくて済む。

 

「ありがとうございます。外してくれたんですね。」

「いや、少し手こずった。難しいな、それ。」

消太さんはドレッサーに乗る私の義眼をティッシュごと掴み上げて私に手渡してくれる。

かぱりと嵌めて数度瞬きをする。

 

「で、どうする。今日から行くか?無理せず休んでもいいが。」

「いえ、行きます。」

学生の本分ですしね。と言いながら伸びをひとつする。

今日行かなければ、きっとずっと行けない。

 

「飯は?」

「うーんお腹空いてなくて、準備だけしちゃいます。」

私の言葉を聞きながら、消太さんがクローゼットの扉にかかった制服を手に取って渡してくれる。

これ、消太さんが持ってきてくれたのだろうか。更衣室に置き去りだと思っていたけど。

 

「制服、ありがとうございます。」

「あぁ、ミッドナイトだ。」

つまりはミッドナイトさんが更衣室に入ったのであって自分が入ったわけではないと言いたいらしい。

私が着替えようとしているから、消太さんはひらりと手を振って部屋を出る。

 

なんかちょっと以心伝心感があっていいな、と思いつつ着替える。

 

ふと油断する時に走る痛みに少し呻き声を上げながらとりあえず制服だけ着た。

髪を梳かすのもそこそこに顔を洗っていないと思い、壁を伝ってリビングに出る。

 

「顔洗ったらこれだけでも飲め。」

消太さんがことりと置いた大きめのマグカップから甘やかな野菜の香りがする。

 

「コーンスープ、ですか?」

「期待するな、と言いたいところだが溶かすだけの代物だ。誰が作っても大差ない。」

ありがとうございます。とお礼を言って顔を洗う。

 

「いただきます。」

「おう。」

消太さんは先に食べたのだろうか。私がダイニングで手を合わせるのを向かい側の椅子に座って眺めている。

 

あたたかいコーンスープが喉を通って胃に落ちるのを感じる。

「ほっとしますね。」

「飯、ほんとにいらねえか?」

「この間消太さんが飲んでたあれ飲みたいです。10秒チャージみたいなやつ。」

あれなら胃にすぐ入る気がする。

ちょっと今日は本当に固形物が入る気がしない。

 

「今日だけだぞ。」

「ありがとうございます。」

本当に入らないんだと察してくれたのだろう。消太さんがエナジー系ゼリー飲料を出してくれる。

 

あたたかいコーンスープを飲み終えて、ゼリー飲料の蓋をパキと開ける。

…あまり美味しくない。

先ほどのコーンスープとは違って少し抵抗がありつつも胃に入れる。

 

「うまかないだろ。」

消太さんがほうじ茶を入れてくれて少し慌て気味に飲み込む。

少しむせて消太さんの手が私の背中をさする。

 

「けほ。」

体温の低い消太さんの手が怪我のせいで少し熱っぽい私の背をさすり続けてくれる。

体温が吸われる感覚が気持ちいい。

 

「大丈夫か。」

大丈夫、と言いたいのに声が詰まって、首だけを縦に振る。

むせて、息が詰まって、それでも酸素を求める自分の肺と浅ましく生きたがる自分の体に微笑ましさを感じた。

死ぬ覚悟、決めたのはなんだったんだ。

 

「だ、いじょうぶです。」

ようやく落ち着いて、深呼吸を繰り返す。

心配そうに差し出されたほうじ茶をちびちびと胃に落とす。

 

その後、車椅子に乗ってて欲しいし送り迎えをしたい消太さんと車椅子に乗るのはさておき送り迎えはちょっと恥ずかしい私で論争を繰り広げ、元々ひとつだった骨たちがそれぞれの形に戻るまでは送り迎えされることになった。

 

…そもそもまだこの土地に慣れていない私がひとりで車椅子で公共交通機関に乗るのは無理筋だった。

 

 

学校に着いて、車から降りようとしたところで消太さんが私の体を抱え上げて車椅子に降ろす。

「凄く恥ずかしいので早く怪我を治したいですね。」

なぜかこの一言は消太さんに黙殺された。

 

消太さんに後ろから車椅子を押してもらって手持ち無沙汰な私の膝の上には鞄が乗っている。

「なんというかこの、人に運んでもらってる感じ慣れないですね。」

「慣れないでくれ。」

怪我をするな。ということだろうか。

 

「おはようございます。相澤先生。おはよう。相澤。」

「おはようございます。障子くん。」

後ろから現れたのは障子くんだった。

俺が押していきますよ。という彼の言葉に消太さんは車椅子のハンドルを手放した。

 

「あまり無理するんじゃねえぞ。」

若干怒気を孕んでいるように聞こえたので知らないふりをした。

がちゃんと車椅子が悲鳴をあげた。

 

「返事は?」

「…はい。」

車椅子の車輪の下に靴を入れ込むなんて斬新ないじめ、人生で初めて経験した。

 

からからと車軸の擦れる音が廊下に響く。

「昨日は、大丈夫だったのか?」

「すみません、あれは完全に寝落ちです…。」

リカバリーガールに治癒してもらった後だったので疲弊してたみたいで、と言い訳を口にする。

寝れたのならよかったな。と障子くんは言ってくれた。

 

「ところで、相澤のその瞳、怖がられたことがあるのか?」

「いえ、怖がられた記憶自体はありませんけど、皆さんには怖がられるかと思いました。」

私の周りは特殊だったしなぁと昔馴染に思いを馳せる。

 

「ここは思ったよりも、人と違うものに寛容ですね。」

「…そうだろうか。」

何か思うところがあるのだろうか障子くんの言葉に少し含みを感じた。

 

「どうしてそんな質問を?」

「わざわざコンタクトレンズではなく義眼を嵌めている、ということは隠したいのだろうと思ってな。無神経だった。」

単純な疑問を彼は叱咤と捉えてしまったようだ。

 

「隠したいっていうのもまぁ、ありますけど、単純に見えすぎるんですよこの目。」

「見えすぎる?」

少しくらい正直に話そうと思って口を開く。

 

「たとえば今こうしているときに義眼を外したらですね、障子くんの息遣いすら、見えてしまいます。視覚の拡張とだけ言えば聞こえはいいんでしょうけど、そんな世界をずっと見続けていたら脳みそが焼き切れちゃいます。」

「いいことばかりではないんだな。魔眼というものも。」

慣れるまでは毎日が重傷って感じでした。と笑うとドン引きされてしまった。

塩梅が難しいなぁ。

 

「ところで、相澤の言っていた魔法を扱う人間には、異形型のようなものはいるのか?」

擬似人間(ホムンクルス)だったり、機械人形(オートマタ)だったり人狼(ヴリコラカス)だったり色々といましたからね。探せばいたかもしれません。」

私はあまり顔が広くなかったので、わからないですけどね。と笑う。

 

「まぁでも、姿なんて人の心までは表してくれないので。」

そこまで見た目は気にしなくていいんじゃないですかね、と言葉を紡ぐ。

私が言えたことじゃないなと呟いてから思う。

 

「…そうか。」

欲しい言葉ではなかったのだろう、障子くんは短く答える。

 

「……今日はいい天気ですね。」

「嗚呼、そうだな。」

間が持たなくてお見合いみたいなことを言ってしまった。

障子くんは複製腕というらしい、腕の先から口を生み出してくつりと笑った。

 

「ここまで、ありがとうございます。扉くらいなら開けられますよ。」

私の車椅子を一度止めて教室の扉を開けようとした障子くんの代わりに騒霊現象(ポルターガイスト)で教室の扉を横にスライドする。

 

「それ、使っていいのか?車椅子に乗ってるから使えないのかと思っていたが。」

「自分の体に使うのは禁止されちゃいました。大袈裟なんですよね、相澤先生もリカバリーガールも。」

「相澤先生はリカバリーガールに大袈裟に包帯を巻かれたと言っていた。」

やはりどこか似てるな。と障子くんに言われてそんなことないと思うけどと眉根を寄せる。

 

「椅子には座れるのか?」

「座れますよ、とありがとうございました。」

すこしバランスを崩しそうになりつつ車椅子から学校の生徒用の椅子に移る。

 

「気にするな。」

車椅子を畳んで横に置いてくれる。至れり尽くせりでありがたすぎる。

 

Bonjour(おはよう)相澤さん。体調は大丈夫だった?」

「おはようございます、青山くん。よく眠りました。ご心配おかけしてすみません。」

Pas de problème(問題ないよ)と言ってくれた彼との会話は終わった。

 

 

まだ少しだけ眠たくて、うとうととしながら周りの楽しげな話を聞き流していた。

からからと教室の扉がスライドする音が聞こえて、目を開く。

 

「相澤もようやく出席したことだし、お前らに話すべきことがある。」

神妙な面持ちで消太さんが話し出す。

 

「戦いはまだ終わってねぇ。」

「戦い?」

「まさか…!」

爆豪くんと緑谷くんが息ぴったりに呟く。

 

「また(ヴィラン)が…?!」

峰田くんが頭を抱えてガタガタと震え出す。

 

「…雄英体育祭が迫っている。」

「くっ…そ学校っぽいの来た!」

と雄叫びを上げる切島くんの言葉はきっとみんなの心情だったのだろう。

 

「待て待て」

上鳴くんが切島くんの顔に手をやって立ち上がる切島君を抑える。

 

(ヴィラン)に侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか?」

耳郎ちゃんが右手を上げつつ質問を発する。

 

「また襲撃されたりしたら…」

不安げに眉を下げた尾白くんも懸念を口にする。

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備も例年の5倍に強化するそうだ。」

消太さんはみんなの言葉を聞くように俯いていた顔を上げた。

 

「何より、うちの体育祭は最大のチャンス。(ヴィラン)ごときで中止していい催しじゃねえ。」

「いやそこは中止しよう体育の祭りだよ?!」

珍しく峰田くんがまともなことを言っている。

 

「え、峰田くん雄英体育祭見たことないの?」

「あるに決まってんだろ。そういうことじゃなくてよ…」

歯切れ悪く緑谷くんに返事をする峰田くん。

ちなみに当然の如く私は見たことがない。

 

「おいらたちは出られてもさ。相澤は出れねえだろ。」

と峰田くんが言って、教室内が水を打ったように静かになる。

 

「え?私ですか?」

みんなからの視線が集まるのが気まずい。

 

どうなんでしょうね。と消太さんを見つめた。




障子くんと弓月ちゃんは身体的特徴を隠していた仲間なので絡んでいってほしいなと思っています。

車椅子の間はかなりお世話してもらいます。大きいので彼。
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