魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使い、ご飯を食べました。

消太さんは一瞬黙ってから口を開いた。

 

「出たければ死ぬ気で治せ。怪我治ってなかったら出るな。これは教師としてじゃない。父親としての判断だ。」

学校としてはヒーロー科の実技試験1位を体育祭に出さないわけにはいかないのだろう。

だからこそ、消太さんは父親としての判断だと強調した。

 

「体と相談しながら、考えます。」

正直、出ても出なくてもどちらでも良くて、頬杖をついたまま返事をする。

 

消太さんは正面に向き直って話を戻した。

 

「うちの体育祭は日本のビッグイベントのひとつ。かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した。」

これ、社会の教科書で見たときに信じられなさすぎて消太さんにもミッドナイトさんにもマイクさんにも聞いたのを覚えている。

だって、オリンピックが形骸化するとか、あり得る?

 

「そして日本において今かつてのオリンピックに代わるのが、雄英体育祭だ!」

「当然、全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的でね!」

「知ってるってば…」

高らかに言う消太さんに呼応するように、八百万ちゃんは力強く拳を握りながら峰田くんに力説する。

 

「卒業後はプロ事務所に相棒(サイドキック)入りがセオリーだもんな。」

「そっから独立しそびれて万年相棒(サイドキック)ってのも多いんだよねぇ。上鳴、あんたそうなりそう。アホだし。」

上鳴くんがグーサインを出しているのを見もせずにつらっと耳郎ちゃんが現実を引っ張り出してくる。

それに対して上鳴くんは顔を引き攣らせて固まってしまう。

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が開けるわけだ。」

 

「年に1回、計3回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな。」

みんなのはい!と言ういい返事を聞いて青春だなぁも思った。

 

「ホームルームは以上だ。」

消太さんはそういって教室を後にした。

 

 

そこから午前の授業をなんとなしに受けていたけど、みんな体育祭の3文字に浮かれているようで、授業に身の入っている子の方が少ないくらいかもしれない。

 

「あんなことはあったけど、テンション上がるなぁ、おい!」

昼休みになった途端に切島くんが声を上げる。

 

「活躍して目立ちゃあ、プロへのどでけえ一歩が踏み出せる!」

「雄英に入った甲斐があるってもんだぜ!」

「数少ない機会ものにしない手はない。」

瀬呂くん、砂藤くん、常闇くんも張り切っているようだ。

 

「尾白くん、相澤ちゃん!私なんだか緊張してきちゃった!体育祭、目立たなくっちゃ!」

「う、うんでも葉隠さんは相当頑張らないとプロに存在気づいてもらえないかもね…」

えいえいおーと張り切る葉隠ちゃんにシビアなことを言う尾白くんに白い目を向けようとする。

 

「葉隠ちゃんって、体育祭もコスチュームという名の半裸だったりします…?普通にまずい気が…」

白い目を向ける前に気がついてしまった。

葉隠ちゃん、あなた放送コード的にダメかもしれない。

 

見えないから大丈夫!と私に返す葉隠ちゃんから目を逸らしてエナジー系のゼリー飲料を少しずつ啜る。

 

「困っちゃったなぁ。僕なんて立ってるだけで目立つからスカウトの目に留まりっぱなしになるね!」

「…なるよね!」

青山くんの圧に口田くんが赤べこのように頷く。

 

「いいよなぁ、障子は。そのガタイだけで目立つもんなぁ。」

「自分の有用性を知ってもらわねば意味がない。」

上鳴くんのやっかみまじりの羨みも障子くんには効かないようで、彼は拳を力強く握って有用性という。

 

「あんたも目立つと思うよ。」

うぇいうぇいとする上鳴くんを想像したのか耳郎ちゃんが吹き出しながら言う。

 

「みんな、すっごいノリノリだ。」

「君は、違うのか?ヒーローになるため在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう。」

緑谷くんの呟きを綺麗に拾った飯田くんは、相変わらず独特の動きで自分の想いを表現しているのだろう。

 

「飯田ちゃん、独特な燃え方ね。変よ。」

梅雨ちゃんがさらりと毒を吐く。

 

「緑谷くんもそうじゃないのかい?」

「僕もそりゃそうだよ。でも何か…」

飯田くんからの問いに違和感ありげに口籠る緑谷くん。

 

「デクくん、飯田くん。」

少し剣呑な雰囲気の麗日ちゃんの声が耳に入ってついそこに目を向けた。

 

「頑張ろうね、体育祭。」

そこにはいつものうららかな麗日ちゃんはいなかった。

ごうごうと闘志の炎を燃やす彼女がそこにはいた。

 

「か、顔があれだよ麗日さん!?」

緑谷くんも、そう思ったのが声をかける。

緑谷くんと飯田くんが珍しいものを見るように見ている間に三奈ちゃんがぴょこと顔を出す。

 

「どうした?全然うららかじゃないよ。麗日。」

不思議そうに三奈ちゃんが言って、どうしたんだと思う?と私に振る。

 

「うーん、負けられない戦いなんですかね?」

全然美味しくないエナジー系ゼリー飲料のせいで眉に皺が寄った。

 

「生理…」

不用意なことを言いかけた峰田くんを梅雨ちゃんが舌でしばく。容赦がない。

 

「みんな!私!頑張る!」

瞳を暗く輝かせて、パワフルなガッツポーズを決める麗日ちゃんに、彼女も何かあるのだろうと考える。

 

「おおー!」

両手をあげて飯田くんと三奈ちゃんが返事をした。

「おお…」

少し引き気味に緑谷くんと梅雨ちゃん。

 

「ふんっ!私!頑張る!」

さらに方向を変えて、切島くんたちの方向にも宣言する麗日ちゃん。

 

「お、おおー。」

困惑気味の瀬呂くんが見られて満足だった。

「けど、どうした?キャラがふわふわしてんぞ。」

きょとんと切島くんが言った。

 

なんとなく、輪に入れなくてちびちびとゼリーを啜った。

 

 

「相澤、飯行かねえの?」

「朝も固形物が胃に入らなくて、当面のお供はこれになりそうです。」

声をかけてくれた瀬呂くんに半分は飲んだエナジーゼリーをあげてみせる。

 

「いやでも、ランチラッシュの飯見たら腹減るかも知んねえぜ?ほら。」

切島くんが、車椅子を広げて座面をポンポンと叩く。

 

「ほぉら、行くよ。」

「え、うわ、待ってください。」

瀬呂くんが私の体を抱え上げて車椅子に乗せる。

 

「どうして私はこんなに瀬呂くんに抱え上げられることが多いんですかね。」

「相澤が無茶しなくなったらやらずに済むんだけどなぁ。」

…それは私が悪いのだろうか。

ぷちぷちと文句を言う私に笑いながら、からからと切島くんが車椅子を押してくれる。

 

「弓月、お粥なら食べれそう?」

ぱたぱたと上履きの音を廊下に鳴らして追いかけてきてくれた三奈ちゃんが言う。

 

「ううん、挑戦だけしてみます。」

折角の好意だし、甘えようと思って返事を返す。

 

「ところで、みなさん。怖くないんですか?」

思ったよりも簡単に受け入れられてしまっている現状に、というよりも、ずいぶん親切に介護されている現状に困惑して質問をする。

 

朝も、障子くんが車椅子を押してくれていた。

 

「誰だって隠したいことのひとつやふたつあるでしょ?」

三奈ちゃんはきょとんと首を傾ける。

その瞼はまだ、昨日の影響か少し腫れている。

 

「まぁ、あの化け物と戦ってる時はちょっと怖かったけどよ。それでクラスメイト避けるっつうのは男らしくねえだろ。助けてもらったんだしよ。」

片手を車椅子から離して頭を掻きながら切島くんは言う。

 

「まぁ相澤がなぁんか他とずれてんのは実技試験からわかってるしね。」

と瀬呂くんはフォローにならないフォローを入れてくる。

 

「そんなにずれてないと思いますけどね…」

「いやずれてるでしょ。」

不毛な言い争いをしつつ、食堂にたどり着く。

 

ぼんやりとメニューに目をやる。

「お粥ってどれに入ってるんでしょうか…」

「いやぁ、入ってないんじゃねえか…?」

切島くんは頭をガシガシと掻きながらメニューを覗き込む。

 

「うーん。ぱっとみだと見つからないね。」

三奈ちゃんもメニューを見て首を傾げる。

 

「あ!ランチラッシュ!」

「こんにちは。今日も白米に落ち着きそう?」

メニューから視線を上げた三奈ちゃんがぶんぶんと腕を振ってランチラッシュを呼び寄せる。

 

「あぁ、ランチラッシュ!相澤がメシ食えねぇっていうからお粥とかあれば出してもらいたいんすけど…。」

「…量は少なめでよさそうだね。」

わずかに口籠ったランチラッシュさんに、少し申し訳なく思った。

 

ランチラッシュさんは少なめのお粥とお漬物を出してくれた。

彼の作ってくれたお粥はやはり美味しくて、それでも半分しか食べられなかった。

お漬物は、ふたくちだけ胃に収めた。

 

お漬物の残りは瀬呂くんにあげたけれど、流石にお粥はなぁ、と思って申し訳ないけど大人しく残すことにした。

 

久しぶりに固体を食べて、重くなった胃袋に若干の嬉しさを感じた。

 

「ごちそうさまでした。」

久しぶりに言った気がした。

 

ようやく、日常に帰ってきたような気がした。




病み上がりってご飯食べられないですよね…。

弓月ちゃんが倒れていた影響で、アニメ版の救助訓練が心操くん襲来の後に回ります。
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