魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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本日2話目です。


魔法使い、携帯を見ました。

ミッドナイトさんが帰っていって、消太さんが口を開いた。

 

「話はできたか?」

「はい。私の眼は綺麗なんだそうですよ。」

くすりと含むような笑みを浮かべて嬉しかった話を告げる。

 

「あぁ、ミッドナイトがいのちの色だって言ってたな。」

私の瞼をなぞるように消太さんの目が滑る。

なんとなくくすぐったく感じて含み笑いがまた漏れた。

 

「本当は昨日、家に来る予定だった。」

「あれ、じゃあもしかして私、邪魔しちゃいましたか?すみません。」

消太さんとミッドナイトさんがただならぬ関係だとは思わず、目を丸くする。

私の手術があったからそれどころではなくなってしまったのかと申し訳なくなる。

 

「俺に用事があったわけじゃない。お前と話すためにだ。」

「私とですか?」

額に手をやってため息混じりに言う消太さんを見て首を傾げる。

 

「校長と話したとき、自分のリアクションで傷つけたって気にしてたぞ。」

「むしろ不愉快なものをお見せした上に嫌なものを聞かせてすみませんって感じです…。」

はぁ、と重たいため息が肺から漏れる。

 

「俺はお前の話が聞けて良かったよ。」

そういうものなのだろうか。

父親だから?それとも消太さんがそういった人間だからなのだろうか。

 

「それから、俺とミッドナイトは断じてお前が考えたような関係じゃない。職場で惚れた腫れたは合理的じゃないだろう。」

「消太さんらしいこと言いますね。」

そりゃあ俺だからな。と消太さんが笑う。

 

「とりあえず、教科書とノート、筆記用具、あと携帯の充電器は持ってきた。あとは欲しいものあるか?帰りに買ってくる。」

「本か何か欲しいですね。どうにも暇を持て余してしまって。」

天井のしみを数えているだけでは、すぐに時間を持て余してしまいそうだし、看護師さんと雑談ばかりするわけにもいかない。

 

「わかった。適当に見繕って持ってくる。」

「ありがとうございます。」

消太さんの見繕う本ってどんな感じなんだろう。

楽しみになってきた。

 

「クラスの連中も心配してたぞ。」

「そうですよね。退院したと思ったクラスメイトが翌日になったらまた入院してるんですもん…。」

ごめんなさいみなさんと心の中で謝罪をする。

その分ちゃんと体育祭に向けて頑張りたいと、拳を握った。

 

「じゃあ、仕事が終わったらまた来る。」

そう言って消太さんが帰ってから、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 

ぽたりぽたりと落ち続ける点滴の雫も見飽きてしまって、教科書に手を伸ばす。

 

今頃みんなはこの教科書のどの頁を勉強しているんだろう。

黒板を見ようと首を傾ける私の視界の端に映る尾白くんの尻尾すら懐かしく思えて、ぱらぱらと頁を捲る。

 

ぽたぽたとカテーテルに落ちる雫にももう慣れてきてあまり気にならない。

 

 

私が次に顔を上げたのは扉を開いた看護師さんに声をかけられたときだった。

 

「相澤さん。暇してない?」

「暇すぎて教科書読んでます。」

へにゃりと笑って見せて教科書を摘み上げる。

 

「ここ、個室だから携帯使っても大丈夫よ?」

「え、そうなんですか?」

なんとなく病院って携帯を使ってはいけないみたいなイメージがあったから少し驚いてしまった。

 

「体調は今のところ問題ない?」

「はい。大丈夫です。」

うん、脈も大丈夫そう。と手首を取って時計を眺める看護師さんは言う。

 

「体調に少しでも異常があったらちゃんとナースコール鳴らしてね。あと携帯充電したかったらそこ、コンセント使って大丈夫だからね。」

そう言って看護師さんは部屋を出ていった。

 

携帯、使っていいのか。

手を伸ばして、携帯を手に取る。

 

「嘘だぁ。」

充電16%の表示が赤く光っていた。

昨日の帰りは70%くらいあったはずだ。放置してこんなに減るわけがないと思いながらロックを解除する。

 

「…うわ。」

鬼のようにメッセージが来ている。

メッセージの量が多すぎて開かないと中身が見られなくなってしまっている。

 

「クラスの女子トークとかつくっとこーよ!弓月もほら、連絡先ちょーだい!」

そういえば初日、三奈ちゃんがこう言って、私のアカウントをグループチャットに突っ込んでいた。

 

にしても、たったの6人でこんなに送ってくるものなのか?

現代女子というのはそういうものなのだろうか。

 

ええい、見なきゃ始まらない。

そう思ってメッセージアプリのアイコンをタップする。

 

「…え?」

見たことのないアイコンが並んだ私のトーク一覧に無意識に目が開く。

 

ぽこんとひとつ音がして、また知らないアイコンが1番上に躍り出る。

 

[おめえが復帰しねえと体育祭張り合いねえだろ。さっさとしろこのクソアマ。]

爆発物のようなアイコンとこの文面の主は爆豪くんなのだろう。

dynamyteというアカウント名を、爆豪くんに変えておく。

 

時間はちょうど昼休みで、誰かからクラスメイトなんだからメッセージくらい送れよと絡まれたのだろうか。

互いに相性が悪いとわかっているからこそなのだろうか。

不思議なことに爆豪くんからのメッセージは随分と真っ直ぐに届いた。

 

[体育祭に間に合わせるために入院したので、体育祭楽しみにしててください。]

と返信してメッセージの一覧へ戻る。

 

「口田くん?」

綺麗にブラッシングされているのだろう毛並みのいい兎のアイコンが既読になって下に降りた爆豪くんのメッセージの代わりに上に登る。

 

[口田です。芦戸さんから連絡先聞いたよ。入院、大変かもしれないけどゆっくり休んでね。]

柔らかくて優しい文面だなと思った。

彼らしいと思えるほど彼と話せていないことを、少し寂しく感じた。

 

[ありがとうございます。知らないアイコンが並んでいたのでどうしたのかなと思っていたのですが、三奈ちゃんが教えていたんですね。点滴を受けているだけなのでのんびりしています。]

たぷたぷと画面でメッセージを送り、いまだに溜まっている通知に目をやる。

 

のんびりと、あまり急がずに上から返信していく。

想像した以上に心配してくれていて、むず痒い気持ちになる。

 

真ん中のあたりに三奈ちゃんのアイコンがあって、通知のアイコンが、15件の新着を告げている。

[入院したって聞いたよ、大丈夫?]

[体育祭出るために無理してない?]

と私を慮る言葉が羅列されていて、突然動画が送られてきている。

鞄の底に仕舞ってあったイヤホンを耳に嵌めて再生ボタンを押す。

 

「おっとと、撮れてるかなこれ。」

画面の中の三奈ちゃんはいつもより真剣な顔をしてこちらを覗いている。

 

「急にまた入院でしょ?ひとりぼっちだったら寂しいよなぁって思って、教室の様子だけでも送ろっかなぁって。」

どこかに携帯を立てかけていたのか、三奈ちゃんの手が近づいて、そのままがたがたと画面が揺れる。

 

がた、と音がして視点が急に高くなる。

 

「みんな弓月がくるの待ってるからね!」

椅子の上に乗ったのだろうか、見たこともないくらい高い位置から撮られた教室はほとんどの位置を見渡せた。

 

「芦戸くん?!相澤くんの椅子に乗るんじゃない!」

「ええ?靴脱いでるよ。ほら。」

多分三奈ちゃんがいきなり始めたことなのだろう。

そういう問題ではない!と飯田くんの注意する声が聞こえる。

 

私の席かこの位置。

入り口からほど近い私の席なら全体を見渡せると思ったのだろう。

三奈ちゃんの天真爛漫さに笑みが溢れる。

 

私が嬉しいので、飯田くんも今回くらいは許してあげてほしい。

 

「んじゃ、ゆっくり休んでね!お見舞い行くから待っててねーー!」

最後に三奈ちゃんの顔のアップに戻って動画が終わった。

お見舞い来てくれるのか。

この状況、どう説明したものかなと少し悩む。

 

通知のアイコンが残りひとつになって、想像通りにというべきか想定外にというべきか、最後のひとりは瀬呂くんだった。

 

なんとなく、開くのに少し指先が迷う。

 

[おはよう。入院したって聞いた。ちゃんと治して。]

少し迷った指先でそのままタップした彼からのメッセージはこの1行だった。

 

体育祭に出るためにこんな無茶をしたと知ったら、彼は怒るだろうか。

昨日、体育祭に出ると告げた時点で随分と苛立っているように見えた彼を思い出す。

 

どう、返信するのがいいんだろうか。

そっと目を伏せて、指先で文字をなぞる。

 

悩んでいたら、お昼休みの時間が終わってしまった。

ヒーロー基礎学が終わるまでに返信を考えようと気持ちを切り替えた。

そういえば、今日のヒーロー基礎学は何をやるんだろう。

 

結局当たり障りのない文面しか浮かばなくて、そのまま送ることにした。

[ご心配おかけしてすみません。ゆっくり休もうと思います。]

 

日差しが眩しくて、今日はきっとみんなにとっていい1日になるんだろうなと思って、ひとつあくびが漏れた。




最近の病院って個室でスマホ使えるんですね。
時代の進歩にびっくりしました。
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