魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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魔法使い、久しぶりの登校でした。

「おはようございます。」

からからと教室の扉をスライドさせて、誰ともなしに挨拶する。

 

「弓月ちゃん。おはよう。もう大丈夫なのかしら?」

「はい。体は鈍りましたけど運動、食事ともに制限はありません。」

大丈夫です、と拳を胸元で握りしめた。

 

「よかったわ。心配してたのよ。」

そう言って握った拳をやんわりと包む梅雨ちゃんの手がひんやりしていて心地いい。

 

「相澤さん?!」

「緑谷くん。」

先ほど潜り抜けた扉を振り返るとばさばさと手に持っていたノートを取り落とした緑谷くんがいた。

あまりにもびっくりした顔をしているから、ノートはとりあえず拾って渡す。

 

「救助訓練で怪我したって聞きましたけど、大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫。相澤さんこそ、大丈夫なの?」

「ならよかったです。私も見ての通り回復済みですよ。」

リカバリーガールを疑っているわけじゃないんだけど、やっぱり怪我については本人に確認しないと落ち着かない。

緑谷くんも心配してくれていたのかほっと息をついていた。

 

「お?相澤じゃねえか。もう歩けるんだな。」

「おはようございます。砂藤くん。ちょっと待ってもらっていいですか?」

ん?いいけどなんだ?と彼は私の目の前で立ち止まる。

私はカバンからあるものを取り出した。

 

「私マドレーヌが食べたいです。」

「ちゃんと伝言が伝わっててよかったぜ。そのうち作ってくるな。」

そう、私が取り出したのは消太さんが持ってきてくれたお菓子のレシピ本だった。

 

「え?なに?マドレーヌ?食べたーい!」

「俺も気になるな。食べてえ!」

「クラスの人数分作るべきか…?」

三奈ちゃんと切島くんの言葉を聞いて片眉を上げた砂藤くんはそう呟いた。

 

「全員分は大変じゃないですか…?」

「量作るのは作るので楽しいんだよな。たまにあるだろ、飯作ろうとして作りすぎちまったみたいな。」

図らずも納得してしまった。

私の場合は作り置きばかり作っているので作りすぎてもさして問題はないのだけど。

 

「ありますね…砂藤くんが大変じゃないときにお願いします。」

「おう。」

楽しみにしとけよ。と砂藤くんは親指を立てた。

 

「爆豪くん。」

「退院したんか。」

がらりと扉の開く音でまた振り返るとそこには不機嫌顔の爆豪くんがいた。

そもそも彼の笑顔とかみたことないけど。

 

「はい。体育祭まではリハビリと調整です。」

「張り合いねェからさっさと戻せクソ。」

そのまますたすたと自分の席まで歩いて行く爆豪くんに対して、らしいなぁと思った。

 

「…相澤くん!」

「飯田くん、おはようございま、うわ、うわうわ。」

後ろの扉から入ったのであろう飯田くんは私につかつかと歩み寄ったと思えば、私の両肩を掴み、前後に揺らした。

 

「大丈夫なのかい体の調子は?もう車椅子は不要なのか?」

「だ、だいじょぶ、です。車椅子も、もう、歩けるので、いらな、」

下手なタイミングで喋ると舌を噛みそうだ。

 

「飯田さん、退院したての相澤さんを揺らすのはよろしくありませんわ。」

「す、すまない。つい。」

助け舟を出してくれたのは八百万ちゃんだった。

う、まだ頭がぐわんぐわんする。

 

「八百万ちゃん、ありがとうございます。」

「いえ、相澤さんもご無理なさらずに、ね。」

眉を下げて微笑む八百万ちゃんに気をつけます。と告げたところで、消太さんが教室に入ってくる。

 

「お前らさっさと席つけ。」

消太さんの声で全員が席につく。

 

 

そうして、高校生活としてはいつもの日常が戻ってきた。

 

「今日のヒーロー基礎学は、個性の使用演習とする。」

昼下がり、消太さんはそう言って私たちにコスチュームに着替えるように言った。

 

「相澤と更衣室向かうのも久しぶりって感じだね。」

「そうですね、ちょっと嬉しいです。」

ブレザーのポケットに左手を入れて歩く耳郎ちゃんはしみじみと声をかけてくれる。

更衣室に向かう足が僅かに踊ることは否定しきれなくて笑みを浮かべて話す。

 

更衣室でコスチュームに袖を通して、ホルスターを太ももに括る。

ブーツはUSJ襲撃のときにボロボロになってしまったから、運動靴を履く。

 

マントは今日はなくていいなと思い、スナップボタンをパチリと外した。

 

 

「あれ、相澤ちゃん今日はマント外しちゃうの?」

「ちょっと今日は邪魔になっちゃうかなぁと思いまして。…?」

なぜか葉隠ちゃんに手を握られて、握り返す。

 

「なんか、動きちょっと変な気がするんだけど、ほんとに怪我治ってるの?」

「あぁ、今調整中なんですよ。」

調整中?と葉隠ちゃんと三奈ちゃんの声が被った。

 

「自分の体を、自分の力で外から動かす調整です。やっぱり指先とかになるとまだうまくいかなくて、人体構造の難しさをしみじみと感じますね…。」

例えば小指を曲げたら薬指が連動するような、そんな自然な動きがまだぎこちない。

意識の外で動かしている部分の粗が目立ちすぎる。

 

ふ、と肉体操作(ドーピング)を切って葉隠ちゃんの手のひらを握り直す。

 

「ね?変じゃないでしょう?」

「…うん、そうだね。」

きゅ、と握られた指先に力が籠る。

 

「そろそろ行きましょ、怒られちゃいますよ!」

その手をそっと離して私は笑顔を浮かべてみんなを急かした。

幸か不幸か離した手の持ち主の表情は私には見えなかった。

 

 

「またもやUSJだけど、各々好きに散って個性の使用練習をすること。いいか?」

はぁいとクラス全員が答える。

 

「相澤、昨日言ってた調整、今していいぞ。というより病院から出たばかりのやつ居残りさせるんじゃねえって校長に言われた。」

「ありがとうございます。」

それも確かにそうだなぁ。

 

「弓月調整ってなにするの?」

「さっき言っていた肉体操作(ドーピング)の調整がてら誰かと組み手したいですね…。」

ぱちりと切島くんの視線と私の視線が噛み合った。

 

「相澤!俺、付き合おうか?」

「いいんですか?」

もちろん。と切島くんが歩み寄ってくる。

切島と組み手だったら私は役に立てなさそうーと三奈ちゃんはどこかへ行ってしまった。

 

「つ、ついでに試してみたいことが二、三あるのですが。」

「多少のことじゃあ俺の個性は傷つかねえよ。」

「ありがとうございます。」

ふたりでとりあえず山岳ゾーンへと向かう。

 

「ところでなんで組み手なんだ?相澤どっちかっていうと遠距離系かと思ってたぜ。あの狼とか呼べる訳だし自分を鍛える必要そんなになくねえか?」

「あれは基本的に秘中の秘ですよ。そちらも練習はしたいですけど余程のことがないと使いません。」

一応、呪物(フェティシュ)は持ってきているけど、そうほいほい使うわけにもいかない。

 

「ふうん、そういうもんなのか。」

納得顔の切島くんに質問を投げかける。

 

「切島くんはかなりの近接タイプですよね?殴り合いになった場合ってどういうことを考えてます?」

「とりあえず体を固めて、殴る!って感じだな!」

…参考にならなすぎる。

にかっと笑った切島くんの眩い笑顔に流されかけたけどあまりにも参考にならない。

 

「ううん、とりあえず、とりあえず組み手させてください。」

「おう!危ねえから硬化は使わねえぞ?」

それはもう切島くんの練習にはならないのでは?と思いつつ、お言葉に甘えた。

 

とりあえず、お互いに構える。

切島くんの右のストレートを左の手のひらで弾いて脇腹を狙う。

そのままの勢いで視界の外から飛んできた回し蹴りを彼の右腕を弾いた左の腕でいなす。

 

そもそもリーチが足りないことに今更気がついた。

がっしりしていてあまりイメージがなかったけど、身長差の分当然の如く腕と足が長い。

 

間合いに入り込んで鳩尾に拳を叩き込む。

うわまって何この筋肉硬いんですけどほんとに硬化使ってないんですか?

 

「思ったより、相手殴るの慣れてんだ、なっ!」

「入学前、ちょっと稽古つけてもらってましたから!」

ぱしりぱしりと肉を受ける音が響く。

私は肉体操作(ドーピング)で僅かに増強しているのに余裕そうなんだよなぁ。

肉弾戦慣れしている。

 

「ふ、う。一旦休みましょ。」

「相澤、相手からの攻撃を受ける前提で戦う癖あるよな。」

「たしかに、そうですね。」

切島くんの言うことは図星だった。

受け流して打撃を与えるのが私にとっての定石となっている。

なんとなく避け切れるか不安で、それなら受けてしまえと思ってしまう。

 

「俺は個性が硬化(これ)だから、自分の体を盾にできるし、殴ればそれなりに強え矛になる。でも相澤は違うだろ?」

USJのときも気になった。と切島くんは言った。

多分自分の体を肉壁がわりに扱ったことを気にかけているのだろう。

いや、あんなこと流石にそうほいほいとはしないんですけど。

 

「そうなんですよね、試行錯誤中です。」

「俺で手伝えるなら手伝うからな!」

切島くんの言葉がありがたすぎて拝みかけた。

 

「…できれば関節技とかそういう搦手も試してみたくて、ちょっとお願いしてもいいですか?」

立ち上がって切島くんに声をかける。

 

「腕を伸ばしてもらって、はい、そうです。」

「おう、…?うわ、待ていてえ!待て待て待て!!」

手首を切島くんの背後に向けて回して、肘から上を手刀で抉るように押す。

 

「なんだ今の?めちゃめちゃ痛えな…。」

「誰でもかんたん護身術!っていう動画で見まして…。すみませんそこまで痛いとは…。」

思ったよりも痛がる切島くんを見て少し怖くなってしまった。

 

「なぁそれ、俺にも教えてくれねぇ?思ったより痛えし動けねえから捕縛する時とかに良さそうなんだよな。」

「え?はい。」

きよとんとしながら、腕を伸ばす。

 

「こ、こうやってたか?」

「あ、そこで上に向けるイメージで手首をひねります。」

あぁこうか。と呟きながら切島くんが私の手首を捻りあげる。

 

「んで、ここら辺だったっけか……」

「肘から指2本分くらい上らしいですね。ここらへんです。」

取られていない方の指で圧すべきだと動画で言われていた箇所を指さす。

 

「…どうだ?」

「あんまり痛くないですね。」

ぐ、と押されている感覚はあるけど特に痛みは無くて首を傾げる。

 

「俺がやられたときはめちゃめちゃ痛かったんだけどなぁ……?今度他の奴にも試してみようぜ!」

「それ、いいですね。コツが掴めそうな気がします!」

そうだよな!と笑みを浮かべる切島くんが眩しくて仕方がない。

 

「ちなみに俺もその動画見てみてえからURL後で送ってくれ。」

「もちろんです。」

お互いに動画を見ておけばよかったのかと今更気がついた。




少林寺拳法の天秤をイメージしています。(弓月ちゃんはこれが少林寺だとすら知らないので、関節技と言っていますが、実際には柔法という技の体系になります。)
切島くんは…柔法の才能があんまりなさそうな気がしています。
必要もなさそうな気もしますが、それでも挑戦してみるタイプだと信じています。
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