私は大学で少林寺と初めて遭遇したのですが、意外とメジャーなのでしょうか?
「あんまり切島くんを拘束するのもアレなので、魔法の調整に入ろうかなぁと思うんですけど。」
「なんだそれ、気になる!」
素直に伝えた私が馬鹿だった。
「切島くん、ご自分の練習は…?」
「横目で見ながらそっちの岩殴れ、ば…尾白!」
近くを尾白くんが通ったようで切島くんは尾白くんに声をかける。
「切島、と相澤?どうしたの?」
「相澤が魔法の調整?やるって言うから近くで手合わせしながらチラ見してえなって!」
「あまりにも素直すぎませんか。」
そんな堂々とチラ見とか言うんじゃありません、と言う言葉を飲み込んで額に指を当てる。
「俺も気になりはするけど…危なかったりとかしないの?そして相澤さん迷惑じゃない?」
「私はいいんですけど、そんな楽しいものじゃないですよ。」
ふたりの目がきらりと輝いた。
「ええと、じゃあ攻撃性のないルーンで行きましょうか…。」
近くの礫を拾い、尖った部分でぶつりと右手の親指の皮膚を切り裂いた。
他の礫にダイヤに近い四角形を血で書き込む。
「実れ、インガス。」
呪力を絞っているためか、あまり意味を載せていないからか、それともここに土壌がないからか数本のゼラニウムが咲くにとどまった。
…なんでゼラニウム?
「うわすっげえ。」
「そういう魔法もあるんだね。」
ふたりが後ろからまじまじと見ながら話しているのが聞こえる。
ちょっと真面目に練習してるそぶりくらい見せてほしいんですけど…。
「USJ襲撃で私が皆さんのところに飛ばされる直前に爆発があったのって見えました?」
「あぁ、覚えてるぜ。」
尾白くんも頷いているのをみてなるほどやっぱり見えていたのかと思う。
「あれと同じ魔術系統です。
「自分の体に馴染んだ…?どういう意味?」
すっごく失言だった。
尾白くんの言葉を聞いてするりと目を逸らす。
いいごまかしが思いつかない。
「そのまんまの意味ですよ。」
にこりと笑って話を終わらせた。
我ながら久しぶりの授業に舞い上がりすぎている。
とりあえずふたりは放置して考えに耽る。
現状で無意識下のうちに設定している
ジェイクという男のことを想起する。
〈
彼は確か
…いくらなんでもやりたくないし、そもそもあんな大英博物館レベルの
あるいは、魔法の構成だろうか。
〈アストラル〉にいた頃は周りに魔法使いが多かったからこそ、行使する魔法につけいられないようにかなり細かく作り込んだ構成を組んでいた。
他の魔術系統にしても、血脈をもつ人よりは数段劣る行使となるため、同じようにできる限りつけいられない構成を組んでいた。
そこを複雑化するより、呪力の扱いに重きを置いた方がこの世界においては有効かもしれない。
「尾白くん、切島くん。」
「どうしたの?」
「なんだ?」
目の前でゼラニウムと戯れるふたりに声をかける。
そんなに珍しいだろうか、ゼラニウム。
というか手合わせとか、しなくてよかったの?
「今から防御系の魔法を2回展開するので、同じくらいの力でぶん殴ってもらえますか?」
ふたりはきょとんとした後に頷いてくれた。
「まずは1回目です。」
近くに転がる礫から似た大きさのものをふたつ選びだして、片方にYの縦棒がつきぬけたような形の文様を描く。
「守れ、アルギス。」
ぐわりと角のような形の壁が私の前に展開される。
それと同時にふたりはその壁を殴る。
一通り殴ってもらって、その壁をかき消す。
「そのまま2回目お願いしてもいいですか?」
「おう!」
「大丈夫だよ。」
ふたりの快い返事を聞いて、視線を手元に戻す。
先程選び出した残りのひとつに同じ文様を描き出して、同じ詠唱を行う。
意識するべきは魔術構成。
同じ呪文を口にして、同様の壁がまた展開される。
ふたりはまた同じように殴ってくれる。
「どうでした?」
「硬化も使って殴ってたけどどっちも硬ぇな。」
「どっちも硬くはあったけど、2回目の方がより硬かったかな。」
割合についてはもう少し検討した方がいいかもしれないけど、概ね想定通りだ。
構成をいじることで呪力を回せるようになっている。
「ううん、ありがとうございます。」
「ところでよ、この花なんて名前なんだ?」
切島くんはこのお花のことがずっと気になっていたらしい。
あぁ、切島くんの髪の色と近い色なのか。
「ゼラニウムですよ。」
「可愛い花だな。」
1本の枝の先に複数の小花がボール上に集まる可憐な花だ。
ずっとここに咲かせておくのもなぁ、と思って、じっとゼラニウムを見つめる切島くんに提案する。
「切ってお家に持って帰っても大丈夫ですよ。枝物ですし、それなりの寿命はあるはずです。」
「お?いいのか?!」
「どうぞ。」
無邪気にじゃあ帰るときに切っていく!と喜ぶ彼に頬が緩んだ。
構成についてはじっくりいじるしかない、と思う。
後は呪力のバランスだろうか。
数パターン試すためにぽこぽこと花を咲かせる私を興味津々の顔で見る切島くんと尾白くんが年相応に見えて可愛かった。
「流石に見られすぎて穴あきそうです。」
「わ、ごめん。あっちでやってるからもし用事あったら呼んでね。」
尾白くんが名残惜しそうにゼラニウムを見る切島くんを連れて少し遠くへ移動する。
ようやく落ち着いて実験できるなぁと思い、無心でゼラニウムを栽培することにした。
「相澤?そろそろ時間だよ。」
「ありがとうございます。」
うーん思ったよりうまいバランスが見つからなくて咲かせすぎてしまった。
このままだと花咲か爺さんになってしまう。
「…全部切っていこうと思うんですけど、要ります?」
「俺が全部持ってたらメルヘンにならねえ?」
うーん、可愛いと思うけど。
可愛いからダメなのか。
「とりあえず遅れちゃわないように切ります。」
ポシェットから小さな鋸を取り出してぎこぎこと地面近くを切る。
見事にゼラニウムだらけだったんだけど、ここを作るときに持ってきた土とかにゼラニウム畑かどこかの土が混ざっていたのだろうか?
「私今気がついたんですけど、もしかしてこのまま集合したら相澤なにしてたんだって怒られます?」
「ど、どうだろう?」
尾白くんの逸らした視線を見て怒られることを覚悟した。
戦闘訓練をしていたはずなのに花を抱えて登場する女、どうやっても怪しい。
私のことを近くで見ているはずの13号先生が弁解してくれることを祈る他ない。
とりあえず切島くんと尾白くんにそれぞれ好きな量取ってもらって、残った大量のゼラニウムを両手に抱えて集合場所に戻った。
「どういうこと?」
「いやこれには深い事情がありまして…。」
三奈ちゃんの言葉に返そうとしたところだった。
「相澤、その状況にそぐわない花はなんだ?」
「つい生やしすぎちゃいました。」
すごく大きいため息が消太さんの口から漏れた。
「切島と尾白もおんなじ花持ってんじゃん。」
「瀬呂くんも要ります?普通にお花屋さんで買った切り花の寿命くらいは持ちますよ。」
「まじ?ちょっと欲しいかも。」
瀬呂くんがひょいひょいと数本貰ってくれる。ありがたい。
というかこれ抱え続けていると鼻が、麻痺する。
いい香りなんだけど0距離にこの量だと厳しいなあ。
「この香り、その花からか?」
「はい、エッセンシャルオイルとかにもよく使われている香りです。」
すん、と鼻を鳴らした障子くんの言葉に答える。
正確に言えば、エッセンシャルオイルに使われているのはより香りの強いハーバル系のゼラニウムなのだけど。
「ゼラニウムですわね。」
「はい。その通りです。」
いい香りですね。と八百万ちゃんは瞳を閉じる。
「あげますよ。」
「嬉しいですわ。何本くらいいただけます?」
「私の腕がぶっちゃけ限界なのでいっぱいもらって欲しいんですよね…!」
花束って存外重たいんだぞうと、世の皆様には訴えたい。
そもそもこれ枝だし、ヒーロースーツが耐刃じゃなかったら絶対この量抱えられてない。
女子陣にとりあえず配って、それでも多いゼラニウムの束を片腕で抱えて、呟いた。
「本当に欲しい方いたらもっといっぱい持っていってくださいね…。」
「いや見てみんな結構貰ってんのよ。」
瀬呂くんの言葉に周りを見た。
ほとんどの人が手にゼラニウムを持っていた。
え?この残り、私ひとりで持って帰るの?
枯れた桜の木が咲き誇るのなら埋まってる種からゼラニウムも咲くと思うんですよね…。(暴論)