予約投稿です。
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緑谷くんが緊張を解くように深呼吸をしているところに、轟くんが寄っていく。
珍しいなと思い、額の痛みを少し忘れた。
「轟くん。何?」
きょとんと音がしそうなくらいに目を瞬かせた緑谷くんが轟くんに問う。
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う。」
「えっ、う、うん。」
轟くん、なんて事言うんだ。
歯に衣を着せない、というかオブラートに包むことを知らないような轟くんの物言いに慄いた。
しゃ、社会性の欠如…。
「けどお前、オールマイトに目、かけられてるよな。」
「あっ…」
眉を下げて口籠る緑谷くんを、みんなが見る。
確かに彼はオールマイト先生に目をかけられている気がする。
戦闘訓練のときに言っていた
言われてみれば、緑谷くんとオールマイト先生がよく連れ立っているところを見るように思える。
「別に、そこ詮索するつもりはねえが、お前には勝つぞ。」
真剣な轟くんの眼差しを横から盗み見て、本気で言っているんだなと思った。
「おお?クラス最強が宣戦布告?」
上鳴くんが茶化すように言葉を発すると同時に切島くんが立ち上がる。
「おいおいおい、急に喧嘩腰でどうした?開会式の直前にやめろって。」
轟くんの肩に手を置いて切島くんは轟くんを宥めようとする。
「仲良しごっこじゃねえんだ。なんだっていいだろ。」
その手を轟くんは振り払って扉に向かう。
なんか、やな感じだなぁと思う。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってるのはわかんないけどそりゃ、君のほうが上だよ。」
轟くんが足を止めて振り返る。
「実力なんて、大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても…」
「緑谷も、そういうネガティブなこと言わないほうが…」
切島くんの優しい制止を聞かずに緑谷くんはそのまま続ける。
「でもみんな、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。」
きっと下げていた視線を轟くんと合わせる緑谷くんをみんなが見ている。
あの、私がこの体育祭に出場するきっかけとなった紫の髪の少年を思い浮かべた。
彼の来訪はかなりこのクラスにとって刺激的だった。
「遅れをとるわけにはいかないんだ。僕も、本気で獲りにいく。」
「おお。」
ふたりの会話を聞いて歯噛みする爆豪くんが視界に入った。
気まずい雰囲気のまま、私たちは入場のスタンバイをした。
ジジ、と言うマイクの接触音の後に馴染みのあるマイクさんの声が聞こえる。
「ヘイ!刮目しろオーディエンス!」
わぁああと言う観客の歓声が耳に飛び込む。
「群がれマスメディア!」
どれだけのマスコミが押し寄せているのだろうかと怖くなる。
「今年もお前らが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英大会が始まるぜエビバディ!アーユーレディ?」
「…オフコース。」
小さな声で返事をする。
「1年ステージ生徒の入場だ!」
先頭をきって、私たちが歩き出す。
眩い太陽の光とフラッシュで目が眩んだ。
観客の歓声に合わせるかのように花火が空に上がる。
「…ここまでするんだ。」
「雄英体育祭。ヒーローの卵たちが我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!どうせあれだろ?こいつらだろ?!」
そんな盛り上げ方するんだそして。
「敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科1年A組だろ?!」
より一層大きくなった歓声が暴力のようにびりびりと内臓を揺らす。
一時忘れていた足元の鎖が、じゃらりと音を立てた気がして、足元を見る。
「どうしたの?弓月。」
「あ、いえ。なんでもないです。」
実際に鎖なんてついているわけもなく、ただのジャージに包まれた自分の足が伸びているだけだった。
「大人数に見られる中で、最大のパフォーマンスを発揮できるか…これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな。」
真面目な顔をした飯田くんが前を向いたまま言う。
「めっちゃ持ち上げられてんな。なんか緊張すんな。なぁ爆豪。」
「しねえよ、ただただアガるわ。」
切島くんが爆豪くんに話を振って、最高に爆豪くんっぽい返答を返している。
「話題性では遅れをとっちゃいるが、こっちも実力派揃いだ!ヒーロー科1年B組!」
あ、この間の白髪の少年だ。
「続いて普通科C D E組!」
ヒーロー科の人以外、というよりもA組との交流しかまだ持てていない私としては、普通科にここまでの人数がいるとは思わなくて、素直に驚いた。
これだけの人数がヒーロー科から溢れたというのか、と思ったところで実技試験の際のえげつない人数を思い出した。
「サポート科FGHも来たぞ!」
サポート科って何をする学科なのだろうか?
めかめかしい装備を纏った少女が混ざっているのを見て、機械系の学科なのかもしれないとざっくり推測する。
「そして経営科IJK!雄英1年揃い踏みだ!」
経営科なんてものまであるのか。素直に驚いてしまった。
まぁヒーロー事務所の運営という社会貢献方法もあるよなぁと納得した。
「俺らって完全に引き立て役だよなぁ。」
「だるいよね。」
と言う声が聞こえて、振り返る。
気だるげに、そして面倒げに話すその子たちのそばに、あの紫の髪の少年がいた。
全員が整列したところで、お立ち台の上にはミッドナイトさんが立つ。
「選手宣誓!」
ミッドナイトさんはぱちんと鞭を振り、高らかに言った。
「今年の1年の主審は18禁ヒーローミッドナイトか!」
「校長は?」
「校長は例年3年ステージだよ!」
観客たちの声すら耳に飛び込む。
「ミッドナイト先生、なんちゅう格好だ…。」
「さすが18禁ヒーロー。」
切島くんと上鳴くんが顔を赤くする。
「18禁なのに高校にいてもいいものか…」
常闇くんがごもっともなことを言う。
「いい!!!!!」
「静かにしなさい!」
峰田くんの元気の良い肯定はあまりにもうるさくて、パチンと鞭を地面にたたきつけたミッドナイトさんが怒る。
「選手代表、1-A相澤弓月!」
「そうじゃん、相澤1位だったもんな…」
ミッドナイトさんの言葉にどよめきが走った。
どうせ1位っぽくないですよ。
「はぁ、ヒーロー科の入試な。」
普通科の気だるそうにしていた子が、注釈を入れる。
「対抗心むき出しだな…」
瀬呂くんがすこし引いたようにつぶやく。
まあ筆記が芳しくなかったのは事実だし、仕方がない。
社会さえ足を引っ張らなければそれなりだったと思うのだけど。
「それもこれも爆豪のせいだろ。」
上鳴くんが言い終わる頃にお立ち台の階段を登り切った。
上から見て、ここまで1年生が多かったのかと改めて驚く。
鉛のように重たい腹を抑えて、息を吸った。
「宣誓、泣いても笑ってもたった3回しかない体育祭の1回です。誰にでもチャンスはあるし、誰にでもピンチが訪れるでしょう。それでも最後に笑える大会になるよう、それぞれが全力を尽くしましょう。」
普通だと思われていそうでイラッとしたので、くるりと振り返って言い放つ。
「私も、ただで負ける気はありません。頑張りますので、よろしくお願いします。」
ぱちぱちと1人の拍手が聞こえて、音の方を見る。
宣戦布告してきたあの紫の髪の少年だった。
お眼鏡に適ったようで何より。
つられたようにぱちぱちと拍手が鳴り響く。
そのままぺこりと礼をしてお立ち台から降りた。
「き、緊張しました。」
胸に手をやると、どくどくどくどくと心臓が早鐘を打っていた。
うわ、早死にしてしまう。
人生における鼓動の数はあらかじめ決まっていると言う通説を思い出して、少しだけ慄く。
「やっぱり相澤でよかったー。爆豪だったら全生徒に喧嘩売りそうだし。」
上鳴くんの言葉を聞いて確かになと思う。
私がいなかったら爆豪くんが選手宣誓してたのか…。怖い。
「さーてそれじゃ早速始めましょう!第一種目はいわゆる予選よ。」
「雄英ってなんでも早速だね。」
「本当にそうですよね…。」
ミッドナイトさんの言葉を聞いて発された麗日ちゃんの言葉に同意した。
予選なら予選と言って欲しいなぁなんてひとり心の中でぼやいた。
騎馬戦が全然かけません!!!!!!!!!!!