私生活がばたばたしていて深夜になってしまいました…。
「毎年ここで多くの者が
ごくりと固唾を飲む音が聞こえた気がした。
「さて、運命の第1種目。」
ミッドナイトさんの鞭がぱしりと振られる。
それと同時に空中に映像が表示される。
まるでスロットのように映像の中身がくるくると回る。
「今年は…これ!」
「障害物競走…。」
ミッドナイトさんの声に合わせるように映像がぴたりと嵌る。
全員が僅かに前のめりになる。
つい、文字を読み上げてしまった声は緑谷くんとかぶってしまった。
「計11クラス全員参加のレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4キロ。」
ミッドナイトさんはまた鞭を振り上げる。
「我が校は自由さが売り文句。」
そして彼女はヒーロー名に恥じないくらい艶かしく唇を自らの舌で潤した。
「コースを守れば、何をしたって構わないわ!さぁさぁ位置につきまくりなさい!」
観客たちからの歓声が波を打つように鳴る中でも彼女の声は綺麗に通った。
この間病院で泣いていた彼女の弱々しい姿はきっと忘れたほうがいいんだろうな、と思いつつそっと心のアルバムにしまうことにした。
言いふらしたりしないから許してください。
ぞろぞろと生徒たちがスタートゲートに集まる。
おお、この人数だと集まるだけですごい迫力。
そんなに急ぐ必要もないかなと思って後ろの方に陣取ろうとのんびり歩いていると、紫の髪の少年に声をかけられた。
「あんた、入試1位だったんだな。」
「意外でした?」
少し驚いたように声をかけてくる彼に問いを投げ返す。
「その体格で1位なんてさぞかし強個性なんだろうな。あんた。」
「そんなことはないですよ。」
そのままスタートラインを見つめる。
「ちなみにこの間は怪我、酷そうだったけど大丈夫なの。」
「はい。リカバリーガールのおかげですこぶる元気ですよ。」
ふん、と力こぶを作る真似をする。
それなら、大丈夫か。と目の前の彼は呟く。
…何が大丈夫なのだろうか。
不可思議な言葉に眉を顰める。
「俺、心操人使。よろしく。」
「相澤弓月です。よろしくお願いします。…っ?」
瞳が言葉にならない音を立てた。
鼻腔に血の香りが広がって、下瞼に指先で触れる。
…血の涙は流れていなかった。
「…は?」
彼は予想外のことでも起きたみたいに目を丸くした。
そして、何故かその数瞬後に少しほっとしたような顔をした。
「…?どうしました?」
「あぁ、いや、よろしく相澤さん。」
不思議そうな顔を作って首を傾げて見せる。
彼はそれだけ言って足早に、最前列の方へと進んでいった。
強個性、という概念があるのか。
やっぱり人間というものはままならないなと考えている間に私はスタート列の最後尾に来てしまっているようだった。
のんびり、そして油断なく、締まっていこう。
みんなの燃え盛る闘志が目にみえるような気すらしてくるけれど、当てられないように気をつけよう。
熱く、華やかに行くのは柄じゃない。
地道にこつこつ進んでいくのが1番だ。
スタートゲートの上部にある緑のランプがひとつ消えた。
そう、命をなくすわけじゃあるまいし、あまり気張りすぎずにいくべきだ。
もうひとつ、緑のランプが消えた。
でもね、私も選手宣誓なんてしたからには負けたいとまでは思ってないんですよね。
切り替えるべく、一度瞼を閉じる。
「スタート!」
最期のランプが消えると同時にミッドナイトさんの声が聞こえた。
たくさんの人たちの足音がばたばたと聞こえて、それを最後尾からのんびり眺める。
「さぁーて、実況していくぜ!解説アーユーレディ?ミイラマン!」
マイクさんの声が聞こえてきて吹き出した。
そのミイラマンって、消太さんのことでは…??
「無理やり呼んだんだろうが。」
機械で少し歪んだ声ではあったけれど、そのテンションから察するに本当に消太さんでツボに入ってしまった。
「早速だがミイラマン。序盤の見どころは?」
「…今だよ。」
ミイラマン継続するんだ。
マイクさんは消太さんの冷たい対応に慣れきってるかのようにそのまま話を続ける。
通り抜けたい人数とスタートゲートの広さが合わず、まるでマスコミ侵入事件の際の廊下を再現したかのように、人がひしめいているのを後ろから眺める。
いくらヒーロー科のみんなでもそれなりにもみくちゃになってるんだろうなぁとひとつ伸びをする。
「あ、轟くんかな。すごい。」
パキパキとスタートゲートが凍りついていったのをみて、彼ならやりそうだなぁと伸びをしながら呟いた。
「つうかお前の娘、めちゃめちゃスタート地点でのんびりしてるけど。」
「それは俺に言われても困る。」
そろそろ解説席や観客の皆様からの視線が痛くなってきたなぁ。
「よし、いきますか。」
誰もいなくなったところでのんびりと歩き始めた。
地道に、こつこつと。
だからと言って地面を歩くとは言っていません。よね?
「ずるいぞ!俺たち動けねぇのに!」
「やっぱり混み合っちゃうなら人が通らない道、通りたいですよね。」
「なんなのあんたふざけてんの?!」
「大真面目ですよ。」
うんうんわかるわかると頷きながら話したこともない同級生の方々からのクレームを受け流す。
やっぱりコスチュームじゃなくてよかった。
スカートだと、どうにもやりにくい。
「いってえ!何だ?!」
「動けん…!」
「きゃあ…っ!」
「邪魔だ、通れねえ!」
「…うっそぉ。」
ゲートを潜り抜けた先がすでに阿鼻叫喚だった。
薄らと地面に張った氷に足を取られた人たちが足止めを喰らっている。
その視線の先に轟くんが見えてやっぱ彼だったかと納得した。
「甘いわ!轟さん!」
「そううまくはいかせねぇ!半分野郎!!」
八百万ちゃんはいいとして爆豪くんのこのテレビ映りの悪さはなんなんだ。
というか半分野郎って何。髪色の話?
「そいつは1度受けてる!2度目はないぞ!」
「うわ、っと、とととうわあぶな。」
尾白くんと三奈ちゃんもことなきを得たようだ。
まあ、物騒さはさておき絶望的窮地であろうこの地獄絵図の中、A組のクラスメイトたちはうまいこと前に進んでいるようだった。
よかったよかった。
正直他のクラスの人は知らないので、あまりピンとこないんだよなぁ。
「ちょっと面白いこと、してみたいですね。」
せっかく地面がスケートリンク状態なのだ。
私を浮かせる形だった
三奈ちゃんの溶解液での滑り出しのようにつるつると私の体は前に進む。
「そうです!これは独力スケート…!」
「…スケートって何だ?」
「…いや知らねえ。」
スポーツの衰退したこの個性社会にはスケートすらないのかとげんなりしてしまった。
確かに見かけないもんなぁ、スケートリンク。
「まさかスケートがマイナースポーツだとは…」
しょんぼりと視線を落としながらスケートスタイルで靴裏を滑らせる。
「使い慣れてんな、個性。」
心操くんは数名の生徒にもちあげられるようにして前に進んでいる。
どういう取引をしたらこの体育祭でそんなことしてもらえるんだろうか。
不思議だ。
彼は交渉ごとが得意なのだろうか?
「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな。…んっ?」
轟くんに追い縋ったのは、思ってもみない人物だった。
「えええ峰田くん?!」
自分の髪をもぎり取って、それをクッションとして轟くんの氷に巻き込まれないように効率的に移動していたようだった。
「轟の裏の裏を掻いてやったぜ!ざまあねえってんだ!くらえ!」
またも峰田くんは髪をもいで投げつけるような構えをとる。
「必殺!グレー……………」
がしゃんと音がして、峰田くんが吹っ飛んでいく。
びっくりしすぎて
ごめんね峰田くん…!
「峰田くん…!」
「うわ…。」
そこには見覚えのある機械が鎮座していた。
「ターゲット…………タイリョウ!」
入試の時の仮想
こう見ると大きいなぁ。
突然日差しを遮られて、ただ機械を見つめた。
心操くんとのお話はもう少し後ですることになりそうです。