魔法使い、ヒーローになります!   作:ysrm

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お気に入り、ここすきありがとうございます。
そしてみなさんメリークリスマスです。


魔法使い、障害物と戦いました。

「さぁ!いきなり障害物だ!まずは手始め…第1関門!」

マイクさんのアナウンスに合わせるように、ロボット達がずしんと足を前に出す。

 

「ロボ・インフェルノ!」

「…これ、本気でヒーロー科以外通す気、あります?」

私はマイクさんの声を聞いて思ったことをつい口に出してしまった。

これは、数が多すぎる。

 

「ってうわ!入試の時の0ポイント(ヴィラン)じゃねえか!」

「まじか、ヒーロー科あんなんと戦ったの?!」

「障害物ってこれ?!」

上鳴くんの言葉を聞いた他の科の人たちが蜂の巣でも突いたように騒がしくなる。

 

「そういえばこれと戦ってガス欠になっちゃってお姫様抱っこされて戻ってきた子いたって噂になってなかった?!」

「…ぐっ!」

そういえばじゃないよ思い出さないでくださいお願いなので本当に。

いつまで言われるのこれ。

体育祭とは関係のないところで私は心にまた傷を負った。

 

 

「一般入試用の仮想(ヴィラン)ってやつか。」

「どこからお金出てくるのかしら。」

そんな私の心を知らない轟くんとヤオモモちゃんはマイペースにつぶやいた。

そういえば轟くんとヤオモモちゃんは推薦だって聞いた気がする。戦ってないのかこれと。

 

いやそうなんですよ私だって戦うことにならなければこんな心の傷を負わなくて済んだわけです。

でも三奈ちゃんを助けなかったら三奈ちゃんとも瀬呂くんとも仲良くなれなかったわけだし、特に後悔はしていない。

 

なぜか断続的に抉られ続けてしまう心の傷だけが辛いのだ。

 

 

「折角なら、もっとすげえもん用意してもらいてえもんだな。クソ親父が見てるんだから。」

私がありし日に思いを巡らせている間に轟くんの手によってロボットの大半が凍っていた。

 

「な、なぜ。」

いくら地味に行きたいとはいえ、流石に派手すぎやしないか轟くん。

 

「あいつが止めたぞ!」

「足元の隙間だ!通れる!」

「やめとけ。不安定な体制の時に凍らした。倒れるぞ。」

轟くんはそう言いながら走り抜けた。

 

「うわっぶな!」

間一髪、私の上に降りかかるロボットだけは止め、きれずにわたわたとロボットより高い位置へ浮き上がって事なきを得た。

 

「1-A轟!攻略と妨害を一度に!こいつぁシヴィー!」

「げほ、ぺぺっ」

マイクさんのアナウンスすら聞こえにくくなる轟音とそれに比例する砂埃に眉を顰めた。

うへえ、砂まみれ。とおもいぱたぱたとジャージをはたきながら地上に降りた。

 

「すげえな!一抜けだ!あれだな、もうなんかずりぃな!」

「合理的かつ戦略的行動だ。」

「さすがは推薦入学者!初めて戦ったロボ・インフェルノを全く寄せ付けないエリートっぷりだぁ!」

それでもまだ、仮想(ヴィラン)は残っている。

 

す、と息を吸う。

ここでの活躍でインターン先が決まるとヤオモモちゃんが言っていた気がする。

そうなれば、あまり多くの仮想(ヴィラン)を潰してしまっても他に見せ場を残せない。

 

だからと言ってこのままだとヒーロー科以外の人は厳しいだろう。

 

吸った息を吐く。

小さい頃に多くの人がやったように、左腕を銃身に見立てて指先で銃の形を模って構える。

イメージは完了した。

 

「0ポイント以外なら半径10メートル、一掃できます。お任せください。」

は?と面識のない人たちに動揺が走る。

 

「まじ?ありがてー!」

上鳴くんのあっけらかんとした声が響く。

 

「あ、足元に立ってる皆さん避けてくださいね。」

一応、我先に通ろうとして足元に立ってる人は危ないので声だけかける。

流石にこの人数、持ち上がらないし誰かひとりくらい力加減を間違えてしまいそうで怖い。 

 

「さん。」

は?本気かよ。みたいな声が聞こえたけど黙殺する。

 

「にぃ。」

周りにいる人たちがほぼ退避した。

 

「いち。」

改めて左の指先で照準を合わせ直す。

 

「ばきゅん。」

口で効果音をつけるのはこれで最後にしようと思った。テレビ映えを狙ったつもりだったけど恥ずかしい。

 

わたしの羞恥心を他所にスイッチを壊されたロボットたちはがちゃがちゃと倒れていく。

 

「おおっと一般入試主席相澤弓月も負けちゃあいねえな!」

「あいつは派手さや規模で言えば轟に劣るが、手数の多さに限れば学年筆頭だろうな。」

褒められているようで貶されているようで微妙な気分。

わたしだって人目を気にしないで魔法使えればもうちょっと活躍の目があるんですけどね。

 

なんて心の中では理不尽な愚痴を呟きながら、

カメラに向けてピースサインを出しておいた。

 

「…余裕だなオイ。」

マイクさんの実況がシンプルな突っ込みになってしまった。

 

「しかし、第一関門を最初にクリアしたのは1-A轟焦凍だ!」

マイクさんのアナウンスにもう抜けたのか、と1位と自分の居場所の距離を大体割り出す。

 

「お、おい、誰か下敷きになってんぞ!」

「死んだんじゃねえか?!」

「し、死ぬのかこの体育祭?!」

と最初に轟くんが倒した0ポイントの周りで悲痛な叫びをあげている顔も知らぬ同級生たちを横目に走り去る。

そこまでおんぶに抱っこじゃなくてもいいでしょ。十分やりました私。

安全対策はそもそも先生の仕事だろうし。

 

うんうん、と頷きながらジョギング程度に走ろうとしたところで、0ポイントの装甲が突き破られる。

「死ぬかー!」

「あーーー!1-A切島潰されてた!ウケる!」

ウケないでマイクさん。

 

「轟の野郎、わざと倒れるタイミングで…!俺じゃなかったら死んでるぞ!!!!」

進行方向に向かって叫ぶ切島くんをみてやっぱり硬化っていい個性だな、と素直に思った。

 

切島くんの近くの装甲もがこんがこんと殴られる音がして、また内側から吹っ飛んだ。

 

「A組の野郎は、ホントにやな奴ばっかりだよな!」

「あー!!!B組の鉄哲も潰されてた!ウケるー!」

もはやギャルと化してしまったマイクさんの実況を聞いて、おや、と思う。

 

「俺じゃなかったら死んでたぞ!」

期せずして切島くんと同じことを言っている。

 

「この間の白髪の子…?」

走りながら振り向いているので、そろそろ何かにぶつかりそうだなぁと視線を切って前に向き直る。

 

「個性だだかぶりかよ………!ただでさえ地味なのに!」

という切島くんの声が後ろから聞こえた気がした。

いい個性なのになぁ、なんであんなに派手さを欲しがるんだろ?

 

「とりあえず俺らは一時協力して、道開くぞ!」

別のクラスの男の子がそう言っているのがまた後ろから聞こえた。

 

なんとなく面白そうで、結局また後ろを振り向きながら走ることにした。

 

「な、何してんの相澤?!」

「いやぁ、後ろ楽しそうだなぁと思いまして。」

突然真後ろを振り向いたまま走り始めた私を奇怪な目で見る切島くんと白髪の少年に理由だけ説明する。

 

「先いかれてたまるかよ!」

残党となった0ポイントの頭上を爆豪くんが飛び越した。

 

「1-A爆豪!下が駄目なら頭上かよ!クレバー!!」

「ん?」

マイクさんのアナウンスを聞きつつ、真後ろの状況を眺める。

 

「おめえこういうの正面突破しそうな性格してんのに避けるのね!」

「便乗させてもらうぞ!」

瀬呂くんと常闇くんが宙に浮いていた。

 

というより常闇くんの個性ってよほど本当の魔法より魔法っぽいというか、なんというか。

個性が個性として別個の人格を持つというのは私の妖精眼(グラムサイト)と似通ったなにかがあるように見えた。

しかも私の瞳よりよく喋る、気苦労も多いだろう。

もう少しお話ししてみたい。

 

「しかしまぁ、みなさん動きが素早いですね。羨ましいです。」

「いやそんなこと言ってる場合じゃねえからな!」

なんだかんだで私が大怪我を負った後からもいい意味で変わらない切島くんの対応にありがたみを感じる。

 

 

「んだこれ。」

「これ渡れちゃったら中国雑技団になれそうですね。」

飛び石のように残る数少ない足場をそれぞれ繋ぐようにロープが張られている。

 

「おーいおい!第1関門ちょろいってよ!んじゃ、第2関門はどうさ?」

マイクさんのアナウンスがまたも空気をびりびりと震わせる。

 

「落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!」

もう落ちる前提じゃないか。

 

「いつの間にこんなステージ作ったん?!」

麗日ちゃんが真っ当なことを言う。

でもUSJなんてもの作っちゃう雄英高校、なんだって作っちゃえそう。

 

「あっ、梅雨ちゃん?」

梅雨ちゃんが飛び上がって、手と足両方でロープに着地する。

 

「おわー、さすが蛙。」

感心して眺めていると、切島くんが近づいてくる。

 

「相澤どうやって渡るんだ?」

「いやぁ私は、ほら個性で浮かべちゃうので。」

何もない空間に階段をイメージして3段ほど登ってみせて、自分の立つ階段の天板のみ残して他を消す。

 

「うわ、弓月ほんとにらくしょーじゃん。」

私もそれあやかりたいなぁーと三奈ちゃんが口を尖らせた。

 

「見えない階段なんて登って足を踏み外すより確実にロープとお友達した方が確実だと思いますけど…」

私はイメージしている当人だからいいにせよ、他の人がこれを渡って足をうっかり踏み外したなんてことになったら笑えない。

 

「…たしかにこれ、どこが天面かもわからねえもんな。」

足を乗せようとして、すかすかとハズレの位置ばかり踏み締める切島くん。

 

「あと、今回はみなさんライバルですし、これに関しては助け合いっこなしかなぁーなんて思ったりしてます。」

「さっきのロボのところはめちゃめちゃ倒してたじゃん!」

拳をぶんぶんと振る三奈ちゃんに目尻が緩む。

 

「あれは、ヒーロー科ではない人たちが潰されちゃいそうだったのでノーカンです。」

コスチュームの規制すらあるというのにヒーロー科同士で助け合いなんてしていたらおそらくブーイングが起こる。

それに、私がこのステージで誰かを助けてしまうと平等ではない気がする。

 

「確かに手助けしてもらうなんて男らしくねえよな!」

ちょろい、ちょろいよ切島くん。

将来高い壺を買わされないか不安になってきた。

 

「むむむ、わかったよう。」

三奈ちゃんもしぶしぶ了解してくれたので、のんびりと空中散歩を楽しむことにした。

 

三奈ちゃんと麗日ちゃんがお話ししているのは、誰だろう?

お友達なのかな。




ヒーロー科の子達の手助けはしません。たぶん。
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