いまだに年賀状かけていません。
三奈ちゃんと麗日ちゃんと話しているように見えた装備過多の少女の身体が宙を舞った。
「わー、すごいですね。びっくり。」
のんびりと歩きながら呟く。
視線は、今宙を舞った桃色の髪の女の子に。
アンカーで留めた執着地点と自らの体の間をワイヤーで結ぶことで空中浮遊するブーツによる空中機動の不安定さを補っているのだろうか。
遠目からでも各所に見受けられる工夫の数々に驚きを禁じ得なかった。
アンカーも目標物に当たる寸前までは、空気抵抗を最低限に抑えた滑らかな流線型を描いていた。
内部になんらかの動作機構を備えているはずだ。
そうにも関わらず、投げるときに力みを感じなかった。軽く作るためにどれだけの試行錯誤を繰り返したのだろうか?
1年生というより入学してからまだ数ヶ月しか経っていないのにあそこまでの機構が作れるものなのか。
サポート科は楽しそうなところだなと考えながら、
「負けない!」
「悪平等だっ!」
麗日ちゃんと三奈ちゃんが綱渡りへの1歩を踏み出した。
「実に色々な方が、チャンスを掴もうと励んでいますね。イレイザーヘッドさん。」
「何足止めてんだあの馬鹿ども。」
やっばい。消太さんがイライラし始めている。
みんな頑張れと思いつつ、てくてくと歩く。
「はいはい邪魔ですよー、っと。」
空中散歩の邪魔になる位置を飛んでいた爆豪くんを左手で引っ掴んでひょいっと後ろに放り投げる。
爆豪くんの体重を私の腕1本で支えられるわけもなく、もちろんこれは
「はァ?!テメェ何してくれとんじゃクソアマ!」
「私のお散歩ルートの目の前をぴゅんぴゅんと飛んでいるのが悪いんですよ爆豪くん…っとと。」
相変わらず血圧の高い爆豪くんと距離を空けてまたものんびりと歩きだす。
爆豪君の爆破が頬を掠めてわずかにバランスを崩して、ふらりとよろけながら元のバランスを取り戻す。
「つかあいつ歩いてる割に進むの早くねえか?」
「…ばれちゃいましたか。」
今回イメージしたのは、空港によくある水平コンベア。
つまり、私が歩く足場は前に向かって進み続けている。
実際に実現可能なラインを突くためには、動く床といったようなものになってしまってはいるのだけど。
歩くたびに私の後ろにある床を消去、前にスライドする床を作り直すと言う繰り返し。
少しイメージし続けることに疲れてきて、これ普通に床を作って走った方が早かったなぁと後悔し始めた。
なぜ無駄に余裕を見せたくなってしまったのか。
「さぁ!先頭は難なく1抜けしてんぞ!」
マイクさんの声に先頭を見る。轟くんだった。
「おそらく兄も見ているんだ。格好悪い姿は見せられん…!」
と飯田くんの声も後ろから聞こえる。
振り返ると、両腕を広げて綱の上をエンジンの排気で進む飯田くんが目に映る。
案外器用なことするんだよなぁ飯田くん。
体幹がしっかりしているのかもしれないな、と呑気に考える。
「か、かっこ悪いー!!!!」
マイクさんが辛辣だった。
「1位のやつ圧倒的じゃんか。」
「個性の強さもあるが、それ以上に素の身体能力と判断力がずば抜けてる。」
「そりゃそうだろ。あの子、フレイムヒーローエンデヴァーの息子さんだよ。」
「オールマイトに次ぐトップ2の血か!」
観客の声に一瞬音が消えた。
ナンバーツーヒーローエンデヴァー。
事件解決数最多の男。
フレイムヒーローの名の通り炎を操るヒーロー。
たしか多数抱えている
筋骨隆々の身体を窮屈そうにヒーロースーツに押し込んでいる印象の彼が、轟くんの父親?
華奢に見える彼とあのヒーローが少し繋がらない感じがして、首を傾げた。
家庭なんてそんなものなのかもしれないな、と考えを巡らせるのを中断する。
あぁ、でも彼、轟くんの半分と同じ赤色の髪をしていた気がする。
青いヒーロースーツと対照的だと思った記憶が蘇る。
轟くんと、エンデヴァーの個性みたいに対照的だ。
親子というものは、よくわからないなと思う。
「…よっと。」
向こう岸まで歩きついて、地上に一度降りる。
「やっぱり地面はいいなぁ…。」
自分で作る足場はなんとなく、自分の想像次第で揺らいでしまうので信用ならないときがある。
「先頭が頭ひとつ抜けて下は団子状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!」
確かに聞いた記憶がないなと思って唇に指先を置く。
ヒーロー科Aクラス、Bクラス合わせて41人。
その人数ちょうどには設定しないだろう。
少なくともひとり、ふたりはヒーロー科以外からも
そうでなければ、体育祭のリザルト次第でヒーロー科に編入、という言葉に現実味がなくなる。
どう考えたって、実践を授業中に行うヒーロー科が有利なのだ。門戸を広げるくらいの配慮はするだろう。
「さぁ、早くも最終関門。かくしてその実態は一面地雷原!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!目と足酷使しろよ!」
ちっちっちとマイクさんが舌を打つ。
「ちなみに地雷は競技用で威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜーー!」
「…人によるだろ。」
マイクさんと消太さんのアナウンスがなんとなく漫才の空気を帯びてきた。
「うわぁ…壮観。」
我先にと走っていく人達が地雷を踏んで宙に飛ばされていくのを眺める。
この桃色の爆煙は何で着彩しているのだろうかなんて余計な疑問が湧く。
パワーローダー先生に今度質問してみよう。
なるほど、先頭であればあるほど地雷を踏む可能性は高い。
でもなぁ、多分私この関門、有利すぎる。
浮くことすら、不平等な気がして、地面に身を置いたままにする。
す、と足を踏み出した。
「なんで相澤そんな普通に歩けんの?!」
「いやあ、私他の人より目がよくって。」
わなわなと震える上鳴くんにこつこつと下瞼を叩きながらさらりと返す。
そうだったーーー!と頭を抱える上鳴くんを置いて、つま先立ちで地雷のない地点に着地する。
その私の横を、見慣れた赤い火花が通り過ぎた。
「ははァ!俺には関係ねえ!」
爆豪くんだった。
1位の轟くんを狙って爆進する爆豪くんを後ろから眺める。
「てめぇ、宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえ、よっ!」
爆豪くんは轟くんに向けて手のひらを向けて爆破する。
「ここで先頭が変わった!喜べマスメディア。お前ら好みの展開だ!」
マイクさんの言葉に観客は沸きあがった。
「うう、ぉおおお!」
飯田くんはもう地雷を踏み抜いてそのまま走り抜けることにしたようだ。
「さぁさぁさぁさぁ後続もスパートかけてきたぞ!だが引っ張り合いながらも先頭2人がリードか?!」
マイクさんの放送は続いた。
先頭では爆豪くんと轟くんが小競り合いをしながら前へ走り続ける。
爆豪くんの手のひらの爆破を轟くんが内から外へと往なす。
その返し手で爆豪くんの腕を轟くんが凍らせ、爆豪くんが掴まれた腕を振り払う。
そのやりとりはずっと続いていた。
「んじゃ、
左腕をゆらりと前へ差し向けた。
瞳を細めて照準を合わせる。
そのまま左の手のひらを真下へ押し付けて、周りの地雷を避けて走った。
「…は?」
「はァ?!」
轟くんと爆豪くんの真正面の地雷が突如、爆ぜた。
「私のことは蚊帳の外ですか?轟くん、爆豪くん。」
構ってくださいよ、と私はふたりに追いつくべく走りながら笑った。
初夏の太陽が私に突き刺さって、首元を汗が一筋、通っていった。
深い意味のないただのちょっかいです。
別に1位になりたいわけでもなく、ほんとうにただのちょっかいです。
本人は茶目っ気のつもりです。