私が轟くんと爆豪くんに
「邪魔すんじゃねえ!クソアマ!」
「そのクソアマっていうの、辞めてもらえたら考えます。」
爆豪くんの苛立った罵声をさらりと流す。
「先頭の爆豪、轟に妨害が入ったーー!これは、相澤か?」
「あぁ、先頭で2人が独走するタイミングを狙ってやがったな。」
さすが消太さん。
伊達に長い時を共にしていないなぁなんて思いながら地雷原の中でも地雷のない地面を爪先で踏んで前へと進む。
先頭のあの2人なら多少のちょっかい、どうせ無傷ですり抜けると思っていた。
ただ一度追いつくための時間稼ぎのためだけに彼らの目前に置かれた地雷を爆破した。
「今のって、選手宣誓してたやつだよな?」
「狙ったポイントの地雷を爆破できるってことなん?!」
おそらく、B組の…名前はわからない。
鉢巻を巻いた少年と骸骨のような口元の少年の会話が聞こえてくる。
ふ、と目があってにこりと笑う。
「できますよ。」
安全のために彼らの1メートル先の地雷を圧す。
彼らふたりはうわ!と声を漏らす。
「そもそもさっき浮いてたろあんた!どんな個性だっつうの!欲張りセットかよ!」
鉢巻の彼の毒づきに微笑みだけを返す。
欲張りセットってなんだこちとら制限付きでやってるんだぞう。と誰に言うこともない愚痴を心に漏らす。
テレビで放送されるこの体育祭でこの力の詳細を知られるわけにはいかない。
魔法だとバレることはないと思うけど、そこも対策できるのならしないとなぁと考える。
その間にも、轟くんと爆豪くんのそばの地雷は踊る私の指先と連動してランダムに爆発する。
「…っ、ぁぁあ!阿呆らしいわ!」
爆豪くんは手のひらから爆破を繰り出して飛ぼうとする。
一瞬屈んだ隙に私自身の体を前へと進める。
「ようやく追いつきました。」
「クソアマ!調子こいてんじゃねえぞ!」
宙を跳ねて爆豪くんの肩に手のひらで着地する。
まるで猫だなんてどうでもいいことを考えた。
私が乗ることによって追加された重みで爆豪くんは飛び上がることに失敗する。
彼は直情的に見えて思いの外個性の操作においては繊細で、空中機動においては自分にとってちょうどいい量の爆破を繰り出している。
だからこそ、突然増えた重みに彼の飛び上がりは中断される。
そして落ちる彼の足元には地雷がある。
彼を地面に落とすように、ぐっと指先に力を込めて自分の体を前の方へ回転させる。
「…っ、クソ!」
たん、と音を立てて爆豪くんの爪先が地雷が埋まった地面に当たる
爆豪くんが落ちた先の地雷は、不発だった。
というかこれさっき爆破させちゃったやつだな?
その刹那。
後続の、というより最終関門の入り口あたりで鮮烈な光を見た。
「…っ」
反射的に右目を閉じて、左目だけで後ろを見る。
「あは、さすが緑谷くん。」
その爆風から飛び出したのは、何かの鉄板に乗り上げた緑谷くんだった。
必死の形相の彼は、きっと逆転の一手を狙っていたのだろう。
「A組緑谷、爆風で猛追!つうか、抜いた!!!」
私たち3人の頭上をその勢いのまま抜けていったことをマイク先生はアナウンスで告げる。
ところで、あれ、どうやって着地するんだろう?
「デク、俺の前を行くんじゃねえ!!!」
困惑気味の私を一瞬で置き去って爆豪くんはかっ飛んでいった。
「後続に道つくっちまうが、後ろ気にしてる場合じゃねえ!」
轟くんもひとつ足を踏んで、氷の道を作り出す。
「元先頭の2人、足の引っ張り合いを辞め、緑谷を追う!」
マイクさんはどことなく嬉しそうに実況している。
「共通の敵が現れれば人は争いを止める!争いは無くならないがな!」
「何言ってんだお前。」
私の父、マイクさんに冷たすぎない?
そんなこんなで眺めていたら、緑谷くんが勢いを失い始めた。
いやもうここまでひとっ飛びに縦断してきたのは随分な威力だなと思う。
素直にすごい。
でも問題はこの次かなぁ。
頑張れ、緑谷くん。
何かを決意したように緑谷くんは装甲につながる紐を両手で握る。
そして、それを地雷原に叩きつけた。
ぶん殴られた地雷たちは本来の役割に目覚めて装甲を使い捨てた緑谷くんを前に押し出す。
地雷原から抜けた先の地面にゴロゴロと転がる彼を見る。
「緑谷ぁ!間髪入れずに後続妨害!なんと地雷原即クリア!」
マイクさんの声で轟くんと爆豪くんが置いて行かれたことを悟る。
「イレイザーヘッド、お前のクラスすげえな!どういう教育してんだ?!」
「俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火、付け合ってんだろ。」
なんだろう私だけついてねえなみたいな感じ。
やだなぁ。寂しい。
「相澤、1位を狙っていたわけではないのか?」
「いやいやとんでもないです。周りの方の個性も見たかったですしね。さっきのはただのちょっかいです。」
常闇くんが走りながら声をかけてくるのでそれに手を振って答える。
「雄英体育祭1年ステージ序盤の展開からこの結末を誰が予想できた??今、1番にスタジアムへ帰ってきたその男…緑谷出久の存在を!」
マイクさんのアナウンスを聞いて、1位が確定したことを理解する。
そうなれば、2位3位は轟くんと爆豪くんのどちらかだ。
「あんまり負け込むのも好きじゃないんですけどね。」
ううん、だからと言ってあまり初っ端から走りたくない。
まあ一応爆豪くんと轟くんを相手取って競り合ってもみたし、適度につよそうな感じでテレビに映っているはずだろう。
「あれ、弓月ちゃん。走らないのかしら?」
「いやぁ、さっき轟くんたちに追いついたときにちょっと疲れちゃいまして。」
えへへと笑って梅雨ちゃんに追い越される。
「さぁ!続々とゴールインだ!順位などは後でまとめるからとりあえず、お疲れ!」
マイクさんの言葉とほぼ同時に止めていた歩みを再開した。
「こ、こんなはずじゃ…。」
「一石二鳥よ!おいら天才!」
「さいっていですわ!」
峰田くんがヤオモモちゃんの背中に張り付いている。
二鳥のふたつめは聞かない方がいい気がした。
のんびりとゴールゲートをくぐる。
「まさか俺の方が相澤より先にゴールしちゃうなんてな。」
「いやあもう、爆豪くんたちだったりB組の方にちょっかいかけた時点で疲れちゃいました。」
なんか前より燃費悪くなってねえ?と上鳴くんが心配そうな顔をして私の顔を覗き込む。
「実はまだ体調悪ぃ?」
「いーえ、怪我の完全治癒が出場の条件だったんですよ?大丈夫に決まってるじゃないですか。」
笑みを浮かべて見せる私に上鳴くんは心配そうな目を向け続ける。
「弓月ー!お疲れお疲れ!」
「お、っとと。お疲れ様です、三奈ちゃん。」
後ろから衝突してきた三奈ちゃんの体重を足を踏ん張って支え切る。
「案外いい順位で駆け抜けたと思うんだよねえ!弓月は?どうだった?」
「順位で言えば上鳴くんの一個下になると思いますよ。想像通りであればですけどおそらく通過ですね。」
三奈ちゃんが私より遥かに早くゴールゲートをくぐったことは
「1年ステージ、第1種目もようやく終わりね。それじゃあ結果をご覧なさい!」
その言葉で空中に電光掲示板が浮かんで、順位が表示される。
ひとり、探さねばならない相手がいる。
おそらく私より前にはいなかったはずだけど…。
一番後ろから目線を上げて、28位に心操くんの名前を見た。
そっか、残ったのか。
そのまま視線を上にスライドさせる。
25位かぁ。可もなく不可もなく、というよりも普通だなぁ。
その掲示板に、腹痛に喘ぐ青山くんの文字はなかった。
「予選通過は上位42名。残念ながら落ちちゃった人も安心なさい。まだ見せ場は用意されてるわ。」
そう言ってミッドナイトさんは唇に舌を這わせた。
どうして彼女はこういう艶やかな仕草が似合ってしまうのだろうか。
「そして次からはいよいよ本戦よ。ここからは取材陣も白熱してくるよ。気張りなさい!」
その言葉に爆豪くんは噛み付かんばかりに歯を擦り合わせた。
年末年始毎日あげられるか微妙な気がしてまいりました。