ぱしんとミッドナイトさんが鞭を振るう音が響いた。
「さあて、第2種目よ。私はもう知ってるけど。」
電光掲示板のルーレットがくるくると回り始める。
「何かしら?何かしらねえ?」
心なしか楽しそうに聞こえるその声はまさか私たちが緊張しているのを見て楽しんでるってわけじゃないですよね?
妖しく笑みを浮かべる彼女を見て不安を覚えた。
「言ってる側から…これよ!」
眼鏡のブリッジを上げ直して、そのまま腕を振るうミッドナイトさんに合わせるように電光掲示板の表示が定まった。
「騎馬戦…俺だめなやつだ。」
上鳴くんが眉を寄せて呟いた。
なんだかもうハンドボール投げから恒例になってしまっているけど、騎馬戦、やったことがない。
話には聞き及んでいるから想像はつくけど…。
「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら。」
口元に指先を置いてぼやく梅雨ちゃんに返すように、ミッドナイトさんは電光掲示板を振り返る。
「説明するわ。参加者は2人から4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。」
電光掲示板には、13号先生とマイクさんが作った騎馬の上に乗るオールマイト先生の画像が表示された。
どういうバランスなんだこれは。
この感じなら絶対オールマイト先生が上じゃないでしょうに。
「基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、ひとつ違うのが、先ほどの結果に従い各自にポイントが振り当てられること。」
「入試みてえなポイント稼ぎ方式か…。わかりやすいぜ。」
「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると。」
「ああー!」
ミッドナイトさんの言葉に応じるように砂藤くんと麗日ちゃんが呟く。
それに納得したように三奈ちゃんが声を上げた。
「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!」
ミッドナイトさんの鞭が高台の床を叩いた。
「ええそうよ。そして与えられるポイントはしたから5ずつ。42位が5ポイント、41位が10ポイントと言った具合よ。」
ふう、と深呼吸をしたミッドナイトさんは気を取り直したように続けた。
「そして1位に与えられるポイントは、1000万!」
いっ、せんまん?
それは、荷が勝ちすぎるのではないか。
心配になって緑谷くんを振り返る。
真っ青になっていた。
うわ傍目に見ても明らかに厳しそうな顔をしている。
というより冷や汗がすごい。大丈夫だろうか緑谷くん。
というより、周りのみんなから緑谷くんへ向ける視線がえげつない。
すごい。爛々と輝いてる。
「そう、上位のやつほど狙われちゃう。下剋上のサバイバルよ!」
緑谷くんは真っ青を通り越して真っ白になった。
…本当に大丈夫だろうか。
個人的には
あわよくば手に入れたとしてその後の逃げ切りは厳しいと思うし、そもそも多数の騎馬がひしめく1000万争奪戦に参加するだけでリスクが大きい。
「それじゃあ、騎馬戦のルールを説明するわ。」
びしっとミッドナイトさんは鞭を振るって機動修正を試みる。
「制限時間は15分。振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示された鉢巻を装着。終了までに鉢巻を奪い合い、保持ポイントを競うのよ。」
15分、短いようで長い。
騎馬になった場合、最悪15分間人ひとりの体重を支えなければならない。
「取った鉢巻は首から上に巻くこと。取りまくれば取りまくるほど管理が大変になるわよ。」
鉢巻はマジックテープ式になっているようだった。
電光掲示板のオールマイト先生が鉢巻に埋まっていく。
もはやトレードマークの2本の触角しか見えなくなってしまった。
あの触覚、何かの意味があってのヘアスタイルなのだろうか?
立てるのむずかしそうだなぁと思考を飛ばす。
「そして重要なのは、鉢巻を取られても、また騎馬が崩れてもアウトにらならないってところ。」
「ということは…」
「42名からなる騎馬10から12組がずっとフィールドにいるわけか。」
ミッドナイト先生の言葉を聞いたヤオモモちゃんの言葉を砂藤くんが継いだ。
騎馬が減らないと言うのはなかなか難しいかもしれない。
全騎馬潰してひとり勝ちというわけにもいかないのか。
「一旦ポイント取られて身軽になっちゃうのもありだね。」
「それは全体のポイントの分かれ方を見ないと判断しかねるわ、三奈ちゃん。」
三奈ちゃんの言葉に梅雨ちゃんが突っ込みを入れる。
「まあできるだけ自分のポイントは持っておきたいですよね。あとから回収するのもしんどそうですし。」
あーね。と三奈ちゃんが頷く。
「競技中は個性発動ありの残虐ファイト。でもあくまで騎馬戦よ。悪質な崩し目的での攻撃などはレッドカード。一発退場とします。」
「チッ!」
誰だ今舌打ちした人。
というより爆豪くんでしょ絶対。
崩し目的だと言う判断をどう言う基準でするのだろうか。
私のように目に見えないタイプの力を持っている人がいる場合、私が狙って崩したのに判定されない場合や、私自身は何もしていないのにも関わらず誤審に巻き込まれてしまう場合がありそうで、少し気になった。
電光掲示板に時間のカウントダウンが表示された。
「それじゃこれより15分。チーム決めの交渉スタートよ!」
ミッドナイトさんの声でみんながざわめき始める。
「15分?!」
「おい、俺と組もうぜ!」
などと声が聞こえてくる。
緑谷くんは何か考え込んでいるようだった。
私も誰と組むべきか考えなくちゃ。
──Side 休憩所
雄英体育祭の中継も備え付けられているテレビで見ることができるスタッフ専用休憩所の中、今年最注目の1年生の部の中継を特等席で見る3人のプロヒーローがいた。
筋骨隆々の身を若干丸くしてタバコに火をつけている男が、デスデゴロ。
現在人気急上昇中でありながら、顔を木製のマスクで覆い隠した細身の男、シンリンカムイ。
そして、金色の長髪を背に垂らしたハロウィンのようなカラーリングの女性は、Mt.レディだ。
「この雄英体育祭ってヒーローとしての気構え云々より、ヒーロー社会に出てからの生存競争をシミュレーションしているな。」
煙草片手にデスデゴロは呟いた。
「ん?どういうことです?」
「ヒーロー事務所がひしめく中でおまんま食っていくためには時に他を蹴落としてでも活躍見せなきゃなんねえってのが予選の障害物競走だろ。」
Mt.レディの間の抜けた質問に対して、デスデゴロは煙草の煙を吐き出して答える。
「あれ、心苦しいですよねえ。」
「貴様、嬉々としてやっていたではないか!」
煙草の煙を吸わないようにぱたぱたと眼前で煙を払うMt.レディに対して、シンリンカムイは苛立ちを滲ませた声を上げる。
ふぅと再度煙草の煙を吐き出したデスデゴロは続けた。
「その一方で商売敵といえど、協力してかなきゃなんねえ事案も腐るほどある。」
「あぁ、騎馬戦がそうですね。まさに。自分の勝利がチームメイトの勝利になっちゃうもん。相性やら個性やら持ちつ持たれつ…。」
「
Mt.レディの言葉を引き継ぎつつ、ペットボトルの蓋を開けて飲もうとしたシンリンカムイは、自らのマスクによって給水を邪魔された。
「プロになれば当たり前の生きる術を子どもが今からやってんだなぁ。」
「大変ですねぇ。」
デスデゴロとMt.レディはしみじみと呟いた。
画面には青春と汗と涙の色が映っている。
プロヒーローから見る体育祭ってきっとおもうところも多いんだろうなと思います。