とりあえず校長先生の優しさに甘えて小学生からの教科書を全ていただいた。
どっちゃりと散乱した9年分の教科書を見て少し、いやかなりげんなりする。
消太さんが帰るまでの間、応接室で勉強してていいというありがたい許可とノートとペンをいただいたのでひとつのびをしてソファに座る。
中学生以降の勉強に関しては参考書も買うべきかな?と考えつつ、小学校一年生の教科書からぱらぱらと捲る。
もらったノートに忘れていたり知らなかったりする知識を書いていこうと思ったけど特にまだ出てこない。
美味しいから食べなさい。と置いていってくれた籠からチョコレートを取り出して包み紙を剥がして口に放り込む。
「ん、美味しいこれ。」
あとでお礼言おう。本当に美味しい。
昨日から美味しい美味しいってばかり言ってるような気がする。この世界の食の水準は高いのかもしれない。
美味しすぎてすぐに続きの包み紙を解く。美味し…
小学校四年生まで目を通して、やっぱり社会だけは少し私の記憶と違うな。とメモを取る。
カリカリとペンを紙に擦り付ける音だけが部屋に響く。
がちゃりと応接室の扉が開いた音がした。
「ハロー弓月ちゃーーーーん!昼飯食おーーーぜ!」
「…おう。」
扉の方を向くとプレゼントマイクさんと消太さんが立っていた。
二人ともトレイを片手に、というより消太さんはトレイを二つ持っている。
そのバランス感覚あればすぐにでもウエイターさんになれそうだなぁと消太さんを見て思う。
黒のカッターシャツに黒のスキニー、腰元にカフェエプロンを巻く消太さんは、想像の中でもすごく猫背で仏頂面だった。
「わりーんだけど何が好きなのかわかんなかったからさ!適当にランチラッシュのおすすめ買ってきちまったぜ!」
と話すプレゼントマイクさんの横で消太さんがトレイの片方を私の前に置く。
カツ丼?
カツ丼といえば取り調べでは…?あ、でもあれってお金請求されるんだったっけ?
「受験勉強してるって話したら、じゃあカツ丼だ!ってランチラッシュが張り切ってな。」
ランチラッシュさん可愛い人だな。
サンドイッチとカツ丼のお礼はいつか必ず…!と心に誓った。
消太さんがちらりと教科書の山を見遣った。
「どうだ、勉強。」
「社会だけはどうしてもやり直しって感じになっちゃいそうですね。」
残念ながら、楽はできなそうです。って少し笑いながら言うと、甘かねえよな、受験は。と返ってきた。
「そうだよなーーー個性なんてないところから来たんだろ?そりゃー社会科系は色々と変わってくるわな!」
「そうなんですよねぇ。まだあんまり馴染みがなくって…」
「社会科だけならたまに授業してもいいぜ!」
「…お前で教えられるのか?」
笑い飛ばすようなプレゼントマイクさんの言葉をからかいで返している消太さんはきっと仲良しなのだろう。
微笑ましく思えて喉が鳴る。
「仲良さそうでいいですね。」
リアクションは綺麗に二分した。
「わはー、弓月ちゃんも俺と仲良くなりてえ??」
「仲良くはない。」
プレゼントマイクさんいい人だなぁ。仲良くなりたい。
消太さんは少しだけ恥ずかしそうにぽそぽそと否定した。
「私も仲良くしてもらえちゃうんですか?」
つい破顔して聞いてしまう。
「やめておけ。」
消太さんが不貞腐れたような顔のまま呟く。
「もちのろんだぜーーーー?俺のことはマイクくんでいいからな?」
「マイクさん!」
オーーーノーーー距離感じちゃうぜーー!と叫ぶマイクさんにマイク
年上目上格上にくんは無理です。
「まーたしかに?弓月ちゃんからしたらお義父さんの同級生だもんなぁ。そうだよなぁ。」
と、少しトーンダウンして衝撃の事実を伝えられる。
同級生だったら仲がいいのも頷けちゃう。
え!知りたいな、消太さんの青春!
「今度
マイクさんは目をパチクリさせてからもちろんだぜ!と返事をしてくれた。
…やっぱりお義父さんって呼ぶべきなのかな。
少しだけ燻る悩みの種に目を向けているとチャイムが鳴り響いた。
「うぉ、やっべー昼休み終わっちまうから俺たち退散するな!勉強頑張れよーーー!」
とマイクさんが食べ終わりのトレイと消太さんを引きずって部屋から出て行こうとした。
「無理だけはするな。ちゃんと水分取れ。」
扉が閉まる瞬間に耳に飛び込んだ低い声に少しだけ安心したことは、しばらく内緒にしておこうかな。
マイクさんって思ったよりもいい人そうだったなぁと少しの時間だけ二人の出ていった扉を見つめて、私は午後の勉強に戻った。
でもマイクさん、朝の時は私のこと嫌いそうだったけどなぁ。
─sideプレゼントマイク
結局昨日の会議はずいぶん遅くまでやっていて、正直のところ全員が納得する結果に着地できたとはお世辞にも言えなかった。
ミッドナイトが強硬にあの少女を庇うのだ。
合格できなくても、女の子を放り出すなんてしちゃいけないです!と机を両手で叩くミッドナイトの姿に全員が困惑した。
言ってることはわかるし、多分校長も受験に落ちても面倒は見るつもりだろうけれど、あの子はきっと悪い子じゃない。怪しくないと言葉を繰り出し続ける彼女には何が見えていたのだろうか?
正直、俺にはわからねえ。
突然会議室に出現して、ぶっ倒れて雄英高校教職員一同の昨日丸一日の予定を全て突き崩した少女を思い出す。
どうやら彼女は魔法使いらしい。という校長の言葉に、魔法ォ?と全員が疑問符を漏らしたことも記憶に新しい。
ぶっちゃけ新手の詐欺師だと思っている。
個性の話をしても心当たりがなさそうな素振りだったらしい。
あまりにもこちら側の常識とは異なる話ぶりを鑑みて、個性の代わりに魔法というものがある世界から来たのではないか?という突拍子もない結論に達したと校長が言った。
少し浮世離れしているだけだろ。子供ならそういう時期、あるだろうよ。と疲れた頭で考えていたところで、
「あの子!家族も友達も、それはおろか自分が自分だって証明すらできないってわかっても!何も文句を言わないの!」
そんなことってないでしょう。とミッドナイトが震えた声を発した。
あぁ、危険だ。と目を眇めた。
ミッドナイトは感情移入しすぎている。
教師としては無しじゃないんだろうが、俺たちは同時にプロヒーローだ。
「なぁ、その弓月ちゃん?って子明日も来るんだよな?」
親友の義理の娘になる少女に挨拶くらいしてえなぁと両腕を広げた、
かくして、一晩経った本日早朝。応接室には校長、ミッドナイト、俺の三人が揃い踏みしたわけだ。
応接室に少女を置いて行ったイレイザーを横目に
「よぉよぉ!お嬢ちゃん!俺はプレゼントマイクだ!
義理の父親がイレイザーみたいな陰気なやつでよかったのかぁ??」
そういえば名乗ってなかった気がすると思い、自己紹介をする。
「おはようございます。昨日はびっくりしましたが、想像していたよりも優しい方で結果的には良かったと思っています。」
少女は微笑んだ。
あぁ、これか。彼女、不満を言わないの。と声を発したミッドナイトの表情を思い出す。
16歳と言っていたか?それにしては人として出来すぎている。と思った。
笑みを作って、ならよかったぜ!と発する。
俺とミッドナイトは退室した。
「…どういうつもり?」
ミッドナイトからのジトッとした目が痛い。
痛すぎて黙殺した。
昼休みにランチラッシュに昼飯を作ってもらってイレイザーと共に応接室へ赴く。
想定外の教科書の量に少しだけ驚いた。
昼飯だったり、勉強の話をしたりしていたら突如少女が笑った。
「仲良さそうでいいですね。」
少しだけ痛みに耐えるような笑顔に引っかかった。
俺とも仲良くしてくれねぇ?と社交辞令で言ってみると、
「私も仲良くしてもらえちゃうんですか?」
と笑みを浮かべる。
イレイザーと同級生であることを伝えてみると、
「今度
と嬉しそうに言う。
消太、さん?
想定外の呼び名に瞠目する。
昼休みが終わるチャイムがなったので、イレイザーを連れて外へ出る。
「おい、どう言うつもりだ。」
イレイザーの言葉に朝のデジャブを感じた。
「お前、消太さんって呼ばれてんの?」
流石に気になりすぎて黙殺はできなかった。
「昨日会ったばっかりだしな。お互いに親子って感じはしない。」
「あーーーーー。まあそりゃあそうだよなぁ。」
頑張ってくれよ。新人お父さん。とイレイザーの肩に腕を置いたら、振り払われた。
ちょーーーーっと俺も絆されちまったかなぁ。と、少女の朝の笑顔を思い返した。
私の中でプレゼントマイク先生って明るい人間不信のイメージが強くて、疑り役に任命してしまいました…
今のところは、弓月ちゃんが悪いことをしたら牢屋にぶち込むのは相澤先生でもミッドナイト先生でもなくてプレゼントマイク先生です。
あくまでも今のところはです。